114 / 131
114話「⑦」
しおりを挟む――立花葵・サイド――
復活祭、それは水の神子に一番注目が集まる日。
人々は輿に乗るボクに羨望の眼差しを向け「美しい!」「神々しい!」「国が栄えるのは水の神子様のおかげです!」口々にボクを褒め称える。
一年で一番ボクが輝いて、最高に楽しくて、心躍る日、それが本来の復活祭。
なのに、それなのに……! なんだよこの騒ぎは!
アインス公爵が私兵と生贄を連れて庭園になだれ込んできてから、復活祭はめちゃくちゃになった。
一時は国王が悪竜オードラッへを必要悪と認めさせ、平穏を取り戻したかのように見えたが。
悪竜オードラッへがゾンビのようなグロテスクな姿で現れて、流れはまたアインス公爵に戻った。
「民を生贄にしろーー!!」と喚くだけの国王、「どうしよう……どうしよう……」と言っておどおどしているエルガー。
本当に使えない、こんな奴らにかまっていられるか!
ボクは悪竜オードラッへが現れた時点で、国王側の敗北を悟り、バルコニーを後にした。
「神子様これからどうしましょう?」「アオイ様、我々はどうすれば?」
オロオロしながらボクの後をついてくる取り巻きたちがうっとうしい。
廊下を歩きながら周りを見ると壁や床に亀裂が入っていた。悪竜オードラッへの攻撃の効果がここまで及んでいるようだ、この城も長くは持たないだろう。
「逃げるに決まってるだろ、取り敢えずボクは一度部屋に戻るよ。あそこには王太子から貰った宝石やアクセサリーがあるからね」
いや待てよ……城はもぬけの殻だ、もっと金品を集められるかも。
「いままで黙っていたけど実はボクは水竜メルクーアの加護を受け、転移の魔法を使えるんだ」
取り巻き達がざわめく「さすが水の神子様」とボクをもてはやす。
剣と魔法のファンタジー世界といえど、転位の魔法を使える者は、神とごく限られたものだけだからね。
「各自城にある金目の物をかき集めてくるんだ、逃げるには資金が必要だからね、一通り金目のものが集まったら僕の部屋に集合、転移の魔法で逃げるよ」
ボクの言葉を聞いた取り巻き達は、金目の物がありそうな場所に走っていった。
「単純だね」
ボクはそんな彼らを見てくすりと笑った。
ボクは自室に戻り、王太子からもらった宝石やアクセサリーをかき集め、アイテムボックスへと放り込んだ。
「あいつエッチは下手だったけど、金払いだけは良かったな」
本当は今日の復活祭で、王太子エルガーとの婚約を発表するはずだった。
国王はボクも王太子との婚約を嫌がっていたが、国民の前で発表してしまえばこっちのものだ。
後は順風満帆な人生が僕を待っていたはずだった……。
「くそっ、もう少しだったのに……!」
怒りに任せ拳で壁を叩いた、ボクの右手に血がにじむ。
その時外にいた民衆から歓声が上がり、ボクの部屋にまで聞こえてきた。
何事かと思い窓から外を見ると、白いローブを纏った魔法使いらしき二人が、悪竜オードラッへの攻撃を光のバリアみたいなもので防いでいた。
「ザフィーア様!」「カルム皇子!」「我らが救世主!」「聖女様! 英雄様!」民衆が魔法使いを褒め称えている。
「ザフィーアだって……?」
民衆から聞こえてきた名前に、ボクの血が沸騰しそうになった。
「どうしてザフィーアが生きてるんだ? その隣にいるのがカルム皇子だって? カルム皇子と言ったら隣国の第二皇子じゃないかな! ボワアンピール帝国の第二皇子がなんでザフィーアなんかと一緒にいるんだよ!」
死んだはずのザフィーアが生きていて、隣国の皇子と共に戻ってきただと……?
それだけでも衝撃なのにザフィーアは光のバリアみたいな魔法を使い、国民の心を得ていた。
しかもカルム皇子は遠目で見てもわかるぐらいかっこいい! 銀色のサラサラの髪の長身の二枚目! 王太子エルガーなんて彼の足元にも及ばない! 月とすっぽん! ダイヤモンドと石ころだ!
「今日民衆の心を掴み人々から称賛されるのはボクだったのに……! なんで死んだはずのザフィーアが戻ってきて英雄扱いされてるんだよ! しかもボクが掴まえた男より遥かにレベルの高い男と一緒にいるなんて!」
悔しい、憎らしい、腹が立つ! 腸が煮えくり返りそうだ……!!
「アオイ様、城にあった金目の物をかき集めて参りました」
その時ボクの取り巻きたちが部屋に入ってきた。
「煩い!」
ボクは思わず本音を漏らしてしまった。取り巻きたちが驚いた顔でボクを見ている。
「すまない……外が騒がしくて気が立っていたんだ。ありがとう、それだけあれば当分暮らしに困らなさそうだ」
ボクはなんとか取り繕い、取り繕きに向かってほほ笑んだ。
「さぁ集めた物をボクのアイテムボックスに入れて、ボクの転移の魔法にも限界がある、一度に運べる重さには限界があるんだよ、その点アイテムボックスには生き物以外の物をしまえるから便利だよね」
説明をすると取り巻きはあっさり信じアイテムボックスに金目の物を入れはじめた、本当に馬鹿な奴らだ。
「これで全部かな?」
「はい、神子様」
取り巻きの一人が答える。
「そうかありがとう君たちの働きは忘れないよ、さようなら……転移」
ボクは取り巻きから距離を置き転移の呪文を唱えた。
最後に見た取り巻きの顔は、鳩が豆鉄砲を食らったみたいにキョトンとしていた。
お・バ・カ・さ・ん、お前達なんて用済みなんだよ、連れてくわけないだろ。
☆☆☆☆☆
216
お気に入りに追加
4,304
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】嬉しいと花を咲かせちゃう俺は、モブになりたい
古井重箱
BL
【あらすじ】三塚伊織は高校一年生。嬉しいと周囲に花を咲かせてしまう特異体質の持ち主だ。伊織は感情がダダ漏れな自分が嫌でモブになりたいと願っている。そんな時、イケメンサッカー部員の鈴木綺羅斗と仲良くなって──【注記】陽キャDK×陰キャDK

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる