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113話「⑥」
しおりを挟む――ヴェルテュ・サイド――
『何をしている! 民を捕えろ! 悪竜オードラッへの生贄にささげるのだ!!』
『民を守れ!! 民を安全なところに避難さるのだ! 誰一人死なせてはならない!!』
とある建物の中、ヴェルテュは水晶玉に映し出された光景を見てほくそ笑んだ。
「国王とアインス公爵でこうまで言うことが違うとはね、面白いからみ~~んなに見せてあげよう、面白いものはみ~~んなで共有しないとね」
レーゲンケーニクライヒ国の各都市の空に巨大なスクリーンが現れ、アインス公爵やシエルたちが城に乱入してからのやり取りが、一部始終が映し出されていた。
人々は水竜メルクーアの正体が悪竜オードラッへという腐った体を持つ化け物であることと、国王はその化け物に民を生贄に捧げようとしていることを知り、今までの価値観が大きく崩れ、動揺していた。
民の心が国王から離れるのに時間はかからなかった。
そしてアインス公爵とその第一子ザフィーアが国民の新たな希望になりつつあった。
なぜヴェルテュにこのような高度な魔法が使えたのかというと、彼が普段使用している水晶玉もまた、他のアイテムと同様ヌーヴェル・リュンヌが与えたものだったからだ。
千里眼、神が作りしこのアイテムは遠くの景色を映し出すことができる。また、水晶玉に映し出された映像を他の場所に音声付きで流すこともできた。
「さてと僕も見物の時間を終わりにしないと、そろそろ彼がここに来る頃だ、丁重にお出迎えしてあげないとね」
ヴェルテュ闇の球と闇の手錠手に黒い笑みを浮かべた。
☆☆☆☆☆
――エルガー・レーゲンケーニクライヒ・サイド――
「救世主! ザフィーア様ーー!」「勇者! カルム皇子殿下ーー!!」
光の盾でシエルとノヴァが悪竜オードラッへの攻撃を防ぐたび、民衆から歓声が上がる。
「ザフィーア……なのか?」
王太子エドガーは王宮のバルコニーからその様子を呆けた様子で眺めていた。
崖から落ちて死んだと聞かさていた幼馴染が生きて目の前に現れた。
かつて自分の婚約者であったときの控えめで清楚であった元婚約者の面影はなく、腰まであった髪を肩の辺りで切りそろえたシエルの姿はエルガーの目にとても魅力的に映った。
「ザフィーア……あんなに輝いていたのか……」
白いローブを纏い、風に金の髪をなびかせ、敵の攻撃から民を守るシエルの姿は、聖女そのものであった。
「ザフィーアのやつ、俺に婚約破棄されて、直ぐに新しい男を見つけたのか……?」
エルガーの目にシエルの隣にいるノヴァが映る、ノヴァはシエルの腰に手を回し、シエルと共にエメラルドの杖を握っていた。二人は時折アイコンタクトを取りながら呪文を唱えていた、二人がかなり深い仲なのがエルガーにも伝わってきた。
「ザフィーアは俺のものだったのに……! あいつはずっと俺だけを見てきたのに……!」失ったものへの執着心が、エルガーの心をかき乱した。
「民を捕まえろ! オードラッへに民を食わせ怒りを鎮めるのだ!!」
王太子の横では国王が怒号を飛ばしていた、もはや国王の命令を聞くものはいない、使用人は庭に避難し、衛兵は民を守るため街に向かった。
「アオイ……? アオイはどこに行った?」
エルガーは式典の開始時にバルコニーにいた立花葵が、いなくなっていることに気づいた。
「アオイ……置いていかないでくれ……! アオイまで俺の側からいなくならないでくれ……!」
エルガーは立花葵を探しに城の中に入って行った。
バルコニーに残った国王と、恋人を探しに城内に戻ったエルガー、二人の運命はここで分かれることになる。
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