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107話「シエルの中に眠っているもの」***

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皇太子と話をしていたら日が傾いてきた。皇太子に日が落ちる前にお風呂で身を清めるように言われた。

話の続きは月の女神を迎える儀式のあとされることになった。

皇太子は皇太子専用のお風呂に一人で入り、俺とノヴァさんは同じお風呂に一緒に入ってる。

「兄弟水入らずでお風呂に入ろうか?」という皇太子の申し出はノヴァさんに冷たく却下された。

それにしても皇太子殿下怖かったなぁ……皇太子殿下に睨まれたのを思い出し背筋がブルリと震える。ノヴァさんへの執着度合いから考えて、あの人絶対ブラコンだよ。

すべてが片付いたらあの人と同じ城に住むことになるのかな~~? それはそれで気が重いな……。

でもノヴァさんとは絶対に結婚したいし、ずっとずっと一緒にいたい! そのためならどんな障害でも簡単に乗り越えてやる!


◇◇◇◇◇


「あっ、あっ…ふぁっ……! ん……もっ、らめっ……ノヴァさん……っ!!」

「くっ、もう限界だ……! 出すぞ……!」

「はぁぁぁ……ん!」

ノヴァさんが俺の中で達し、俺も同じタイミングでイった。

ノヴァさんのエッチな液が俺の中に広がる。

「ノヴァさんの……液、あったかい」

ノヴァさんの肩に腕を回し、ノヴァさんの肩に顔を埋める。対面座位は初めてだけど、お互いの顔を見ながらエッチ出来るのがいい、またしたいなぁ。

「ノヴァさん、もうちょっとこのままでいてもいい?」

「ああ、もちろんだ」

ノヴァさんが俺の背に腕を回し、強く抱きしめてくれた。

皇太子殿下から王太子エルガーとザフィーアの婚約がまだ続いてると告げられてから、ずっと心臓の辺りがざわざわして気持ち悪かった。

ノヴァさんとハグしたり、キスしたりすると一時的に気分がよくなるんだけど、少し経つと胸の辺りがざわざわしてくるんだ。

ノヴァさんと繋がって、ノヴァさんの精液を中に注いでもらったらその気持ち悪さがなくなった。

お風呂に入ったのは月の女神に会う前に身を清めるため。そのお風呂で性行為をしているのは不謹慎なんだけど、もう少しだけこうしていたい。

ノヴァさんの暖かさを直に感じていたい。

「シエル、先ほどはすまなかった。兄上がシエルに酷い言葉を……」

玉座の間で皇太子からザフィーア・アインスの生い立ちと素行についてあれこれ言われたことを思い出す。

ノヴァさんの顔を見る眉を下げ悲しそうな顔をしていた。ノヴァさんはお兄さんの言動はノヴァさんのお兄さんの責任で、ノヴァさんが謝ることではないのに。

「ノヴァさん、そのことなら気にしないで下さい」

「しかし兄上の言葉でシエルが傷ついたのは事実だ」

確かにちょっと意地悪な言い方されて、ショックを受けたけど。

「皇太子殿下はそんなに悪い人じゃないと思うんです。多分あれは試されたんだと思います」

皇太子殿下はおそらくザフィーア・アインスの身に起こったことを全部を知っている。ザフィーアが崖から身を投げたときザフィーアの心が死んで、前世の人格が出てきたことも、俺とノヴァさんが旅の間何をしていたかも。

「試された……とは?」

「皇太子殿下は俺の身に起きたことを全部知っていて、わざとノヴァさんが誤解するような言い方をした」

皇太子殿下の素の性格の悪さを感じる。あの人絶対いじめっ子だ。

「ノヴァさんが皇太子殿下の言葉より俺の言葉を信じるか、俺の全てを知ってもノヴァさんが俺を愛せるか試したんじゃないのかな?」

例えるなら見知らぬ男がいきなり家を訪ねてきて「お嬢さんを僕に下さい!」と言われたとき、「大事な娘をお前にのような男にやれるか!!」ちゃぶ台をひっくり返す頑固親父のような……。

「兄上ならやりかねないな」

ノヴァさんが顔を引きつらせる。

ノヴァさんは皇太子殿下に溺愛されてる。だけど皇太子殿下はあまの邪気だがら愛情表現が歪んでる。ノヴァさんはそれで苦労してきたのかな?

ノヴァさんと結婚したらあの人が小姑になるのか……想像したらちょっとだけ憂鬱になった。でもノヴァさんは何があっても諦めない! 絶対に手放さない! 小姑のいびりぐらい耐えてみせる!!

「兄上は何も分かっていない、私がシエルの言葉を疑うはずがない! 絶対にシエルを手放さない! 私の気持ちを試すなど無駄なことをしたものだ」

ノヴァさんの言葉に胸が熱くなる。

「嬉しいです! 俺も絶対にノヴァさんを手放しません! 何があってもノヴァさんの言葉を信じます!」

ノヴァさんが俺の髪を撫で、唇にキスをした。

「約束する、この先何があっても私がシエルを守ると!」

ノヴァさんの言葉に胸がキューーンと音を立てる。

「俺もノヴァさんのことを守ります! ノヴァさんが嫌だって言ってもずっとずっとノヴァさんの側にいます!!」

「私もシエルにずっとずっと側にいて欲しい! 嫌になるはずがない!」

「ノヴァさん……!」

心臓が熱い、涙がこみ上げてくる。

「ん、ぁっ……!」

俺の中に入ってるのノヴァさんの竿の量が増した。

「シエル愛してる、もう一度したい……だめか?」

「俺も愛してる、何度でもして……!」

こうして俺たちは湯船で二回戦を始めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



一方その頃、皇太子ヴェルテュ・ボワアンピールは入浴を終え、一人月の神殿に向かっていた。

皇太子が身に纏っているのはいつもの濃紺のジュストコールではなく、白のジュストコール。

新月の夜、月の女神を迎えるための正装だ。

皇太子が月の神殿に入ると、髪の長い少女の影がゆらゆらと揺れた。

【そなたはなかなかに底意地が悪いな】

「第一声がそれですか?」

影の言葉に皇太子が肩をすくめる。

【全てを知っていて、あのように試す言い方をしたのであろう?】

影は、数時間前玉座の間で皇太子がシエルに意地の悪い言い方をしたのを咎めているようだった。

「大事にしていた弟を横から奪われるんですよ。誰だって意地悪の一つや二つや三つや四つや百や二百したくなるでしょう?」

皇太子が意地の悪い笑みを浮かべ口角を上げる。

【あの二人も気の毒に……】

影はシエルとノヴァに同情した。

「僕が何か言ったぐらいで壊れるなら、二人の愛はその程度だったということですよ」

皇太子がくすりと笑う。見る人を凍りつかせる冷たい目をしていた。

「それより予想通り……シエルくんの中で彼は生きていましたね」

皇太子の真面目な顔で影に問いかける。

【……気づいたか】

「それは気づきますよ。だがシエルくんはザフィーア・アインスが死んだと思っているようですね」

【ザフィーア・アインスはシエルの中に生きている、ずっとシエルの中で眠っていた】

「ザフィーア・アインスと王太子エルガーの婚約が続いていたという言葉を聞いて、目覚めたようだね」

【まだまどろみの中にいるようだかな、今までもザフィーア・アインスの魂は何度か目を覚ましかけていた】

「でも、目覚めなかった。それはなぜ?」

【シエルとノヴァがはじらい死ティミディテ・モー草の解毒治療をしていたことに関係がある。二人が日をあけず性行為をしているのが結果的に二人に味方した。潔癖なほど清く生きていたザフィーアは破廉恥な行いを嫌っている、カルムとシエルが毎日セックスしていたので、ザフィーアは目覚めたくても目覚められなかった】

「カルムがはじらい死ティミディテ・モー草の解毒治療が毎日必要だと勘違い……いや毎日必要だと思い込んだことが二人にとって吉と出たわけだ」

【二人は今このときも性行為に励んでいるようだな】

影の言葉にヴェルテュはやれやれという顔で肩をすくめる。

「ザフィーア・アインスが目覚め、シエルくんも違和感を覚えているようだ。カルムと性行為することで、ザフィーア・アインスの魂が完全に目覚めるのを阻んでいる」

【しかしそう長くは持たないだろう】

「ザフィーア・アインスは王太子エルガーを慕っていた。シエルくんがエルガーと会ったらどうなってしまうのかな……?」

【シエルの中のザフィーア・アインスが完全に目覚め、体の主導権を奪われるだろう】

「やはりそうなりますか……」

影の言葉にヴェルテュの顔が曇る。

【浮かぬ顔だな、そなたはシエルの人格に固執してないと思っていた】

「昨日まではそうでした。ザフィーア・アインスが誰を選んでも、中身がどっちでも、ザフィーア・アインスの肉体さえあればいいと。

ザフィーア・アインスが物語の通りに王太子エルガーを選ぶなら、エルガーを殺し、ザフィーア・アインスの手足を切り落とし、城に幽閉しカルムの玩具にすればいいと思っていた。

ザフィーア・アインスの肉体さえあればカルムは幸せになれると……」

【そなたの愛は歪んでおるな】

「でも今日シエルくんと一緒にいるカルムを見て考えが変わりました。体だけあってもだめだ、中身がシエルくんじゃないとカルムは幸せになれない」

【ではどうする?】

「決まっています、ザフィーア・アインスの心には死んでもらう。カルムにはシエルくんと末永く幸せに暮らしてもらう、僕はカルムの幸せのためならなんでもするよ」

ヴェルテュ・ボワアンピールは影に向かい真剣な顔でそう言い切った。

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