42 / 131
四十二話「このままでもいいかな……②」*
しおりを挟む考え事をしていたらのぼせてしまった。
「すみません、先にお風呂いただきました」
備え付けの白いガウンを羽織り、脱衣所をあとにする。
宿代はノヴァさんが出しているのだから、ノヴァさんが先に入るべきだった。
四回も連続で中に出されて、ちょっとだけイライラしていたとはいえ、失礼なことをしてしまった。
「いや、構わない」
部屋に戻ると食事の用意が出来ていた。テーブルに豪華な料理が並んでいる。
「ルームサービスを頼んだ、一緒に食べよう」
ノヴァさんが椅子を引いてくれる。ノヴァさんはこういう所作がスマートだ。
「ありがとうございます」
俺が席に付くと、ノヴァさんが隣の席に座った。
「ラック・ヴィルは湖の街だから、魚が美味しい」
目の前には魚の姿焼きが乗った皿が。
「すみません俺、肉とか魚とか食べられなくて」
ザフィーアはエルガー王子の好みに合わせて、肉と魚を食べない生活をしていた。そのせいかこの体は肉と魚を受けつけない。
初日に食べた干し肉も、なかなか消化しなくて難儀した。
「すまない、気が付かなかった」
「すみません、俺も伝えていればよかったんですが」
「すぐに別のものを用意させる」
「野菜と果物は食べられるので大丈夫です」
野菜と果物、パンぐらいは食べられる。
「シエルの食べられないものを並べ、ガッカリさせてしまった」
ノヴァさんがしょんぼりする。
宿代も食事もノヴァさんが出してくれてるんだがら、凹まなくてもいいのに。
「うわぁ、このレタス美味しいです! こっちのりんごもシャキシャキしてて新鮮ですね!」
大げさに喜んで食べると、ノヴァさんが復活した。
「そうか! シエルの口に合ったのなら嬉しい!」
チョロいなこの人、変な女に騙されないといいけど。
「ノヴァさん、俺の分の魚も食べてください。はい、あ~ん」
魚を一口サイズにほぐし、フォークに刺しノヴァさんの口元に運ぶ。
ノヴァさんが頬を赤く染める。
「あ~ん」
ノヴァさんが眉根を下げ口を開ける。ノヴァさんはフォークを持った俺の手を掴み、フォークを口に入れた。
なんか手ごと食われそうで怖い、ちょっと引いた。
「美味しいですか?」
「今まで食べた中で最高の味だ!」
ノヴァさんが満面の笑みを浮かべる。
良かった、スポンサーのノヴァさんにも喜んでもらえて。
「もう一口食べますか?」
「できれば口移しがいい、魚でなくても構わないから」
口移しという言葉に俺の顔が朱色に染まる。
「だめか?」
ノヴァさんが俺の顔を覗き込む。
ノヴァさんに捨てられたくない、遊びでもいいし、セフレでも構わない。
ならこのくらいの望みは叶えてあげないと。
「だめ……じゃないです」
果物の盛られた皿からいちごを一つ取り、「口を開けてください」口に含む。
「シエル……!」
頬を赤く染めたノヴァさんの顔が近づいてきて、唇が重なる。
ノヴァさんの舌が俺の口内を貪るように動き、舌でいちごを絡めとる。
唇を離すと、欲を含んだノヴァさんの瞳と目が合った。
「シエルの全身にハチミツをかけて、なめ回したい」
…………変態だこの人。
ノヴァさんのこの発言にときめいている俺も、相当おかしい。
「今日は星を見に連れて行ってくれる約束ですよね?」
可愛らしく小首をかしげる。短時間に五回以上やるのは流石に辛い。
「星なら明日でも……!」
「明日晴れるか分かりませんし……」
ノヴァさんがハチミツの入った容器と俺を交互に見ている。このままでは全身ハチミツまみれにされて、尻を掘られてしまう。
ノヴァさんの願いはできるだけ叶えてあげたいが限度がある。
「ノヴァさんと一緒に星が見たいな」
ノヴァさんの手を掴み、うるうるとした瞳で見上げる。周りにハートをいっぱい浮かべ、キラキラ光線を送る。
「分かった、星を見に行こう」
ノヴァさんが折れた。
やっぱ美少年って得だな、可愛らしくおねだりするとたいがいのことはなんとかなる。いけない、自分がどんどん性悪になってる気がする。
上手くいって嬉しいはずなのに、自己嫌悪に押し潰されそうになる。
◇◇◇◇◇
394
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される
水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。
絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。
長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる