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四十二話「このままでもいいかな……②」*

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考え事をしていたらのぼせてしまった。

「すみません、先にお風呂いただきました」

備え付けの白いガウンを羽織り、脱衣所をあとにする。

宿代はノヴァさんが出しているのだから、ノヴァさんが先に入るべきだった。

四回も連続で中に出されて、ちょっとだけイライラしていたとはいえ、失礼なことをしてしまった。

「いや、構わない」

部屋に戻ると食事の用意が出来ていた。テーブルに豪華な料理が並んでいる。

「ルームサービスを頼んだ、一緒に食べよう」

ノヴァさんが椅子を引いてくれる。ノヴァさんはこういう所作がスマートだ。

「ありがとうございます」

俺が席に付くと、ノヴァさんが隣の席に座った。

「ラック・ヴィルは湖の街だから、魚が美味しい」

目の前には魚の姿焼きが乗った皿が。

「すみません俺、肉とか魚とか食べられなくて」

ザフィーアはエルガー王子の好みに合わせて、肉と魚を食べない生活をしていた。そのせいかこの体は肉と魚を受けつけない。

初日に食べた干し肉も、なかなか消化しなくて難儀した。

「すまない、気が付かなかった」

「すみません、俺も伝えていればよかったんですが」

「すぐに別のものを用意させる」

「野菜と果物は食べられるので大丈夫です」

野菜と果物、パンぐらいは食べられる。

「シエルの食べられないものを並べ、ガッカリさせてしまった」

ノヴァさんがしょんぼりする。

宿代も食事もノヴァさんが出してくれてるんだがら、凹まなくてもいいのに。

「うわぁ、このレタス美味しいです! こっちのりんごもシャキシャキしてて新鮮ですね!」

大げさに喜んで食べると、ノヴァさんが復活した。

「そうか! シエルの口に合ったのなら嬉しい!」

チョロいなこの人、変な女に騙されないといいけど。

「ノヴァさん、俺の分の魚も食べてください。はい、あ~ん」

魚を一口サイズにほぐし、フォークに刺しノヴァさんの口元に運ぶ。

ノヴァさんが頬を赤く染める。

「あ~ん」

ノヴァさんが眉根を下げ口を開ける。ノヴァさんはフォークを持った俺の手を掴み、フォークを口に入れた。

なんか手ごと食われそうで怖い、ちょっと引いた。

「美味しいですか?」

「今まで食べた中で最高の味だ!」

ノヴァさんが満面の笑みを浮かべる。

良かった、スポンサーのノヴァさんにも喜んでもらえて。

「もう一口食べますか?」

「できれば口移しがいい、魚でなくても構わないから」

口移しという言葉に俺の顔が朱色に染まる。

「だめか?」

ノヴァさんが俺の顔を覗き込む。

ノヴァさんに捨てられたくない、遊びでもいいし、セフレでも構わない。

ならこのくらいの望みは叶えてあげないと。

「だめ……じゃないです」

果物の盛られた皿からいちごを一つ取り、「口を開けてください」口に含む。

「シエル……!」

頬を赤く染めたノヴァさんの顔が近づいてきて、唇が重なる。

ノヴァさんの舌が俺の口内を貪るように動き、舌でいちごを絡めとる。

唇を離すと、欲を含んだノヴァさんの瞳と目が合った。

「シエルの全身にハチミツをかけて、なめ回したい」

…………変態だこの人。

ノヴァさんのこの発言にときめいている俺も、相当おかしい。

「今日は星を見に連れて行ってくれる約束ですよね?」

可愛らしく小首をかしげる。短時間に五回以上やるのは流石に辛い。

「星なら明日でも……!」

「明日晴れるか分かりませんし……」

ノヴァさんがハチミツの入った容器と俺を交互に見ている。このままでは全身ハチミツまみれにされて、尻を掘られてしまう。

ノヴァさんの願いはできるだけ叶えてあげたいが限度がある。

「ノヴァさんと一緒に星が見たいな」

ノヴァさんの手を掴み、うるうるとした瞳で見上げる。周りにハートをいっぱい浮かべ、キラキラ光線を送る。

「分かった、星を見に行こう」

ノヴァさんが折れた。

やっぱ美少年って得だな、可愛らしくおねだりするとたいがいのことはなんとかなる。いけない、自分がどんどん性悪になってる気がする。

上手くいって嬉しいはずなのに、自己嫌悪に押し潰されそうになる。


◇◇◇◇◇
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