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十話「リーヴ村①」
しおりを挟む「着いたぞ、リーヴ村だ」
ノヴァさんに言われ顔を上げる。
村の真ん中に広場がありそれを取り囲むように民家が並んでいる、木造の建物が多い。小さいが穏やかそうな村だ。
ゲームなどで主人公が最初に立ち寄る村、もしくは冒頭主人公が住んでいるのどかな村のイメージ。
日はだいぶ西に傾いていた。広場で遊んでいた子供たちを親が迎えに来ていた。
ティミディテの森を抜けるのに半日かかってしまった。
森の中で解毒治療してたのと、俺が歩けなかったせいだ。
「ノヴァさん、この村に冒険者ギルドってありますか?」
「あるが、どうしてそんなことを聞く?」
「俺、冒険者になりたいんです」
今の俺は保証人もいない、家もない、身分証もない、手っ取り早く稼ぐとしたら冒険者だろう。
ノヴァさんが眉をひそめる。
「その細腕で冒険者になるつもりか?」
普通はそう返されるよな。
「俺はこう見えても男ですよ、ちょっとですが魔法も使えます」
ザフィーアは公爵家で英才教育を受けていた。
護身術として剣術も習っていたし、回復魔法と多少の攻撃魔法が使える。
「最初はFクラスのクエストだからお金にならないでしょうけど、根気よく数をこなしていけばランクも上がるでしょうし」
ノヴァさんが眉間のシワを深くした。もしかして機嫌が悪いのかな?
「冒険者はダンジョンに入らなくてはいけない、ランクが上がればその回数も増える、一人では危険だ」
「大丈夫ですよ、酒場とかで適当な仲間を見つけますから」
回復魔法が使えるから、仲間に入れてもらえるはず。
「だから心配は……ひっ」
俺は息を飲んだ。ノヴァさんが般若のような顔で俺を見ていたからだ。
「適当な相手と仲間を組むだと……そなたは見知らぬ男に命を預けるというのか!」
なんで男限定? できれば綺麗なお姉さんか可愛い女の子とパーティを組みたいんだけど。
でもノヴァさんより綺麗な人はそうそういないだろうな……。
「えっと、ちゃんと観察して親切そうな人を選びますから……」
冒険者ギルドに優良冒険者を尋ねるのも手だ。
「だめだ、シエルは私のものだ」
ノヴァさんがボソリとつぶやく。
「はっ?」
今なんて言いました?
「いやなんでもない、とにかく今日はもう日が暮れる。宿に行くぞ」
「あっでも、俺お金が……」
野宿かな……パンツ履いてないのに、つうか靴もないのに。
昨日はノヴァさんが毛布になってくれたから暖かかったけど、今日は一人だから寒いだろうな。
「心配ない、金なら私が出す」
「そういうわけには……」
川で溺れたところを助けてもらって、野宿するとき毛布になってもらって、傷を治してもらって、お姫さま抱っこをして森を抜けてもらって、はじらい死草の解毒をしてもらって、マントを貸してもらった、これ以上迷惑をかけられない。
「兄ちゃんたち、痴話喧嘩かい? うおっ! すげーべっぴんさんだな! そんな女みたいな顔の男やめてオレにしなよ!」
村の入口でもたもたしていたら酔っ払いに絡まれた。声をかけてきたのは遊び人風のやさ男だっだ。どうでもいいけど酒臭い。
女みたいな顔の男って俺のことかな? ノヴァさんは男にも人気なんだな。村に入って数分でナンパされた。
「ノヴァさん、俺は別にかまいませんが……」
邪魔にならない方がいいだろうな。 寂しいがノヴァさんとはここでお別れしよう。
「うせろ!」
ノヴァさんがギロリと睨むと、酔っ払いは悲鳴を上げながら逃げて行った。
ノヴァさんの好みじゃなかったのかな?
「誰にでもほいほいついていこうとするな!」
ノヴァさんはどうして怒ってるのかな?
「そなたの体をこんなにしたのは私だ! 責任は私が取る!」
「はぁ……?」
確かにノヴァさんとセック……いや解毒治療したせいで、腰も尻も痛いけど。
あれは俺がお願いしてやってもらったことだし、ノヴァさんに治療してもらわなかったら死んでた。ノヴァさんが気にすることじゃないし、ましてや責任なんて取らなくていいんだけどな。
俺が口を開くすきもなく、ノヴァさんはズンズンと宿屋へ向かって歩いていく。
◇◇◇◇◇
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