BL「幼なじみに婚約破棄された僕が、隣国の皇子に求婚されるまで」第9回BL小説大賞、奨励賞受賞作品

まほりろ

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十話「リーヴ村①」

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「着いたぞ、リーヴ村だ」

ノヴァさんに言われ顔を上げる。

村の真ん中に広場がありそれを取り囲むように民家が並んでいる、木造の建物が多い。小さいが穏やかそうな村だ。

ゲームなどで主人公が最初に立ち寄る村、もしくは冒頭主人公が住んでいるのどかな村のイメージ。

日はだいぶ西に傾いていた。広場で遊んでいた子供たちを親が迎えに来ていた。

ティミディテの森を抜けるのに半日かかってしまった。

森の中で解毒治療してたのと、俺が歩けなかったせいだ。

「ノヴァさん、この村に冒険者ギルドってありますか?」

「あるが、どうしてそんなことを聞く?」

「俺、冒険者になりたいんです」

今の俺は保証人もいない、家もない、身分証もない、手っ取り早く稼ぐとしたら冒険者だろう。

ノヴァさんが眉をひそめる。

「その細腕で冒険者になるつもりか?」

普通はそう返されるよな。

「俺はこう見えても男ですよ、ちょっとですが魔法も使えます」

ザフィーアは公爵家で英才教育を受けていた。

護身術として剣術も習っていたし、回復魔法との攻撃魔法が使える。

「最初はFクラスのクエストだからお金にならないでしょうけど、根気よく数をこなしていけばランクも上がるでしょうし」

ノヴァさんが眉間のシワを深くした。もしかして機嫌が悪いのかな?

「冒険者はダンジョンに入らなくてはいけない、ランクが上がればその回数も増える、一人では危険だ」

「大丈夫ですよ、酒場とかで適当な仲間を見つけますから」

回復魔法が使えるから、仲間に入れてもらえるはず。

「だから心配は……ひっ」

俺は息を飲んだ。ノヴァさんが般若のような顔で俺を見ていたからだ。

「適当な相手と仲間を組むだと……そなたは見知らぬ男に命を預けるというのか!」

なんで男限定? できれば綺麗なお姉さんか可愛い女の子とパーティを組みたいんだけど。

でもノヴァさんより綺麗な人はそうそういないだろうな……。

「えっと、ちゃんと観察して親切そうな人を選びますから……」

冒険者ギルドに優良冒険者を尋ねるのも手だ。

「だめだ、シエルは私のものだ」

ノヴァさんがボソリとつぶやく。

「はっ?」

今なんて言いました?

「いやなんでもない、とにかく今日はもう日が暮れる。宿に行くぞ」

「あっでも、俺お金が……」

野宿かな……パンツ履いてないのに、つうか靴もないのに。

昨日はノヴァさんが毛布になってくれたから暖かかったけど、今日は一人だから寒いだろうな。

「心配ない、金なら私が出す」

「そういうわけには……」

川で溺れたところを助けてもらって、野宿するとき毛布になってもらって、傷を治してもらって、お姫さま抱っこをして森を抜けてもらって、はじらい死草の解毒をしてもらって、マントを貸してもらった、これ以上迷惑をかけられない。

「兄ちゃんたち、痴話喧嘩かい? うおっ! すげーべっぴんさんだな! そんな女みたいな顔の男やめてオレにしなよ!」

村の入口でもたもたしていたら酔っ払いに絡まれた。声をかけてきたのは遊び人風のやさ男だっだ。どうでもいいけど酒臭い。

女みたいな顔の男って俺のことかな? ノヴァさんは男にも人気なんだな。村に入って数分でナンパされた。

「ノヴァさん、俺は別にかまいませんが……」

邪魔にならない方がいいだろうな。 寂しいがノヴァさんとはここでお別れしよう。

「うせろ!」

ノヴァさんがギロリと睨むと、酔っ払いは悲鳴を上げながら逃げて行った。

ノヴァさんの好みじゃなかったのかな?

「誰にでもほいほいついていこうとするな!」

ノヴァさんはどうして怒ってるのかな?

「そなたの体をこんなにしたのは私だ!  責任は私が取る!」

「はぁ……?」

確かにノヴァさんとセック……いや解毒治療したせいで、腰も尻も痛いけど。

あれは俺がお願いしてやってもらったことだし、ノヴァさんに治療してもらわなかったら死んでた。ノヴァさんが気にすることじゃないし、ましてや責任なんて取らなくていいんだけどな。

俺が口を開くすきもなく、ノヴァさんはズンズンと宿屋へ向かって歩いていく。




◇◇◇◇◇
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