10 / 131
十話「リーヴ村①」
しおりを挟む「着いたぞ、リーヴ村だ」
ノヴァさんに言われ顔を上げる。
村の真ん中に広場がありそれを取り囲むように民家が並んでいる、木造の建物が多い。小さいが穏やかそうな村だ。
ゲームなどで主人公が最初に立ち寄る村、もしくは冒頭主人公が住んでいるのどかな村のイメージ。
日はだいぶ西に傾いていた。広場で遊んでいた子供たちを親が迎えに来ていた。
ティミディテの森を抜けるのに半日かかってしまった。
森の中で解毒治療してたのと、俺が歩けなかったせいだ。
「ノヴァさん、この村に冒険者ギルドってありますか?」
「あるが、どうしてそんなことを聞く?」
「俺、冒険者になりたいんです」
今の俺は保証人もいない、家もない、身分証もない、手っ取り早く稼ぐとしたら冒険者だろう。
ノヴァさんが眉をひそめる。
「その細腕で冒険者になるつもりか?」
普通はそう返されるよな。
「俺はこう見えても男ですよ、ちょっとですが魔法も使えます」
ザフィーアは公爵家で英才教育を受けていた。
護身術として剣術も習っていたし、回復魔法と多少の攻撃魔法が使える。
「最初はFクラスのクエストだからお金にならないでしょうけど、根気よく数をこなしていけばランクも上がるでしょうし」
ノヴァさんが眉間のシワを深くした。もしかして機嫌が悪いのかな?
「冒険者はダンジョンに入らなくてはいけない、ランクが上がればその回数も増える、一人では危険だ」
「大丈夫ですよ、酒場とかで適当な仲間を見つけますから」
回復魔法が使えるから、仲間に入れてもらえるはず。
「だから心配は……ひっ」
俺は息を飲んだ。ノヴァさんが般若のような顔で俺を見ていたからだ。
「適当な相手と仲間を組むだと……そなたは見知らぬ男に命を預けるというのか!」
なんで男限定? できれば綺麗なお姉さんか可愛い女の子とパーティを組みたいんだけど。
でもノヴァさんより綺麗な人はそうそういないだろうな……。
「えっと、ちゃんと観察して親切そうな人を選びますから……」
冒険者ギルドに優良冒険者を尋ねるのも手だ。
「だめだ、シエルは私のものだ」
ノヴァさんがボソリとつぶやく。
「はっ?」
今なんて言いました?
「いやなんでもない、とにかく今日はもう日が暮れる。宿に行くぞ」
「あっでも、俺お金が……」
野宿かな……パンツ履いてないのに、つうか靴もないのに。
昨日はノヴァさんが毛布になってくれたから暖かかったけど、今日は一人だから寒いだろうな。
「心配ない、金なら私が出す」
「そういうわけには……」
川で溺れたところを助けてもらって、野宿するとき毛布になってもらって、傷を治してもらって、お姫さま抱っこをして森を抜けてもらって、はじらい死草の解毒をしてもらって、マントを貸してもらった、これ以上迷惑をかけられない。
「兄ちゃんたち、痴話喧嘩かい? うおっ! すげーべっぴんさんだな! そんな女みたいな顔の男やめてオレにしなよ!」
村の入口でもたもたしていたら酔っ払いに絡まれた。声をかけてきたのは遊び人風のやさ男だっだ。どうでもいいけど酒臭い。
女みたいな顔の男って俺のことかな? ノヴァさんは男にも人気なんだな。村に入って数分でナンパされた。
「ノヴァさん、俺は別にかまいませんが……」
邪魔にならない方がいいだろうな。 寂しいがノヴァさんとはここでお別れしよう。
「うせろ!」
ノヴァさんがギロリと睨むと、酔っ払いは悲鳴を上げながら逃げて行った。
ノヴァさんの好みじゃなかったのかな?
「誰にでもほいほいついていこうとするな!」
ノヴァさんはどうして怒ってるのかな?
「そなたの体をこんなにしたのは私だ! 責任は私が取る!」
「はぁ……?」
確かにノヴァさんとセック……いや解毒治療したせいで、腰も尻も痛いけど。
あれは俺がお願いしてやってもらったことだし、ノヴァさんに治療してもらわなかったら死んでた。ノヴァさんが気にすることじゃないし、ましてや責任なんて取らなくていいんだけどな。
俺が口を開くすきもなく、ノヴァさんはズンズンと宿屋へ向かって歩いていく。
◇◇◇◇◇
600
お気に入りに追加
4,304
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
【完】ラスボス(予定)に転生しましたが、家を出て幸せになります
ナナメ
BL
8歳の頃ここが『光の勇者と救世の御子』の小説、もしくはそれに類似した世界であるという記憶が甦ったウル。
家族に疎まれながら育った自分は囮で偽物の王太子の婚約者である事、同い年の義弟ハガルが本物の婚約者である事、真実を告げられた日に全てを失い絶望して魔王になってしまう事ーーそれを、思い出した。
思い出したからには思いどおりになるものか、そして小説のちょい役である推しの元で幸せになってみせる!と10年かけて下地を築いた卒業パーティーの日ーー
ーーさあ、早く来い!僕の10年の努力の成果よ今ここに!
魔王になりたくないラスボス(予定)と、本来超脇役のおっさんとの物語。
※体調次第で書いておりますのでかなりの鈍足更新になっております。ご了承頂ければ幸いです。
※表紙はAI作成です
逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~
結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】
愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。
──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──
長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。
番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。
どんな美人になっているんだろう。
だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。
──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。
──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!
──ごめんみんな、俺逃げる!
逃げる銀狐の行く末は……。
そして逃げる銀狐に竜は……。
白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる