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STORY3
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「……おい、そんな葬式みたいな面してたら酒が不味くなるだろ? もっと客を楽しませろよ」
「す、すみません……」
何故か冷たい郁斗に萎縮してしまった詩歌は、話をしようにも何を話せばいいのか分からなくなり黙り込んでしまう。
「そんなんじゃ、客はすぐボーイを呼んでチェンジを要求する。お前はそれでいいのか?」
「……こ、困ります……」
「それなら、自分で何とかしてみせろ。さっき副島の息子たちの時は楽しそうにしてただろう? それとも、俺相手じゃ楽しく過ごすのは無理なのか?」
「……そ、そんな事、ないです。すみません、ちょっと、気持ちを切り替えます」
そう口にした詩歌は一旦俯き小さく深呼吸をすると再び顔を上げ、
「――失礼致しました。えっと、郁斗さんはどうして私を指名してくださったんですか?」
先程までの暗い表情から一変、笑顔を向けて話を始める詩歌。
「……そうだな、一つはお前の力量を見る為だ」
「一つは? それじゃあ、もう一つは……?」
「もう一つは…………客としてお前に楽しませて欲しいと思ったからだ」
郁斗のその言葉に詩歌は驚き、思わず目を見開いた。
依然として表情や態度は変わらないものの、先程までのトゲのある言葉とは違って優しさが感じられ、詩歌は徐々に自信を取り戻していく。
そうなれば酒を作る時のミスも減り、郁斗が煙草を吸おうとすれば、すかさずライターを手に取って火を点けるという気配りが出来るくらいの余裕が生まれていく。
そんな中、郁斗はスマホをポケットから取り出すと着信が来ているのか画面を見た瞬間溜め息を吐いて電話に出た。
「何だ?」
詩歌と話をしていて郁斗の表情がいくらか和らいでいたのに、電話に出た瞬間から一気に表情が険しくなる。
そして、
「……あのな、何でテメェらはそんな簡単な事も満足に出来ねぇんだよ? それは俺がいちいち出ていく案件か? ちっとはテメェらで考えて行動しろ」
相手からの内容に納得がいかないのか、多少声のボリュームを抑えてはいるものの、店内では郁斗の声が目立っている。
それを心配そうに見つめる詩歌に気付いた郁斗は、
「――分かった。これからそっちに向かうから待っとけ」
それだけ言って電話を切った。
「あの、大丈夫ですか?」
「ああ。ただ悪いがこれから行く所が出来た。帰りも遅くなると思う。仕事が終わったら太陽に送らせるから、家に着いたら勝手に寝てて構わない」
「分かりました」
本当は詩歌との時間をもう少し楽しみたかった郁斗は重い腰をあげるとボーイを呼んで会計を済ませ、太陽に一言二言話すと早々に店を出て行ってしまう。
そんな彼の姿を、詩歌は少し淋しそうな表情を浮かべて静かに見送った。
「す、すみません……」
何故か冷たい郁斗に萎縮してしまった詩歌は、話をしようにも何を話せばいいのか分からなくなり黙り込んでしまう。
「そんなんじゃ、客はすぐボーイを呼んでチェンジを要求する。お前はそれでいいのか?」
「……こ、困ります……」
「それなら、自分で何とかしてみせろ。さっき副島の息子たちの時は楽しそうにしてただろう? それとも、俺相手じゃ楽しく過ごすのは無理なのか?」
「……そ、そんな事、ないです。すみません、ちょっと、気持ちを切り替えます」
そう口にした詩歌は一旦俯き小さく深呼吸をすると再び顔を上げ、
「――失礼致しました。えっと、郁斗さんはどうして私を指名してくださったんですか?」
先程までの暗い表情から一変、笑顔を向けて話を始める詩歌。
「……そうだな、一つはお前の力量を見る為だ」
「一つは? それじゃあ、もう一つは……?」
「もう一つは…………客としてお前に楽しませて欲しいと思ったからだ」
郁斗のその言葉に詩歌は驚き、思わず目を見開いた。
依然として表情や態度は変わらないものの、先程までのトゲのある言葉とは違って優しさが感じられ、詩歌は徐々に自信を取り戻していく。
そうなれば酒を作る時のミスも減り、郁斗が煙草を吸おうとすれば、すかさずライターを手に取って火を点けるという気配りが出来るくらいの余裕が生まれていく。
そんな中、郁斗はスマホをポケットから取り出すと着信が来ているのか画面を見た瞬間溜め息を吐いて電話に出た。
「何だ?」
詩歌と話をしていて郁斗の表情がいくらか和らいでいたのに、電話に出た瞬間から一気に表情が険しくなる。
そして、
「……あのな、何でテメェらはそんな簡単な事も満足に出来ねぇんだよ? それは俺がいちいち出ていく案件か? ちっとはテメェらで考えて行動しろ」
相手からの内容に納得がいかないのか、多少声のボリュームを抑えてはいるものの、店内では郁斗の声が目立っている。
それを心配そうに見つめる詩歌に気付いた郁斗は、
「――分かった。これからそっちに向かうから待っとけ」
それだけ言って電話を切った。
「あの、大丈夫ですか?」
「ああ。ただ悪いがこれから行く所が出来た。帰りも遅くなると思う。仕事が終わったら太陽に送らせるから、家に着いたら勝手に寝てて構わない」
「分かりました」
本当は詩歌との時間をもう少し楽しみたかった郁斗は重い腰をあげるとボーイを呼んで会計を済ませ、太陽に一言二言話すと早々に店を出て行ってしまう。
そんな彼の姿を、詩歌は少し淋しそうな表情を浮かべて静かに見送った。
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