優しい彼の裏の顔は、、、。

夏目萌

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STORY3

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「詩歌ちゃん、何かあったの?」

 希咲から少し遅れて店内へ戻って来た詩歌を心配した郁斗がそれとなく声を掛けるも、

「いえ、何でもありません。ずっと緊張していたので、少しだけ外の空気を吸っていたんです」

 何でもないと笑顔で答える詩歌に、それ以上何も聞けなくなってしまう。

「そっか。それで、初めての接客はどうだった?  見た感じ順調そうだったみたいだけど」
「あ、はい!  慣れてきたらお話も出来るようになって、楽しかったです。それに……」

 言いながら詩歌は先程大和に貰った名刺を郁斗に見せ、

「見てください!  先程のお客様から名刺を頂いたんです!  次は指名してくださるとも言っていました」

 無邪気な笑顔を浮かべていた。

 初めての接客で気に入って貰えた事が余程嬉しかったのだろう。大和の事を話す詩歌は終始楽しそうだ。

 しかし、初めこそ良かったと言いながら聞いていた郁斗の表情は次第に曇っていき、

「まあでも、さっきの男が本当に次も来てくれるかなんて分からないよ?  社交辞令って事もあるからね。さ、そろそろ戻って、次のヘルプが来るの待たないと」

 最後は素っ気なくそう言い放つと、郁斗は太陽の元へ戻って行ってしまった。

「……郁斗さん?」

 何故急に郁斗が素っ気なくなったのか理由が分からなかった詩歌の彼を呼ぶ声は賑やかな店内の音にかき消されていった。

 そして、待機部屋に戻ってから暫く、詩歌には新たな問題が生じていた。

「おい太陽、あれから詩歌をヘルプには付けたのか?」

 再び仕事の電話で外に出ていた郁斗が戻ってくると、相変わらず暇そうに待機している詩歌を見てすぐに太陽に確認をとる。

「それが……みんなヘルプに付けたがらないんです……」
「はあ?」
「まあ恐らく、先程希咲のヘルプに着いた時に周りの席の客をも魅了した彼女を自分の席に着かせると指名替えをされるかもしれないというリスクを恐れている……のかもしれないですね」
「……はあ。そんな事くらいで指名替えなんてそうそうねぇっつーの。あるとすれば、そいつに魅力が無いだけ。構わねぇで太陽の方からヘルプ付かせろよ」
「……いや、それはちょっと……」

 勿論店長権限で強制的にヘルプに付かせる事も出来なくはないものの、気の強いキャストたちの機嫌を損ねると後が大変になる事を恐れている太陽は郁斗の命令を渋っていた。

「……はあ。もういい。それじゃあ俺が席に着くから、詩歌を俺の席に寄越せ。詩歌にはきちんと接客するよう言って連れて来いよ」
「わ、分かりました」

 このままでは埒が明かないと溜め息を吐いた郁斗は、自身が客として席に着くから詩歌を付けろと言って、空いている席に腰を降ろした。
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