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その後のおはなし
それから・7
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電車とタクシーを使って、職場からかなり離れた場所へと移動した。
ラブホテルというのは、サーチライトが空高く伸びて、赤とか紫のいかがわしい明かりでライトアップされたファンタジーなお城のイメージがあったのだけれど。
お洒落なリゾートホテルと何ら変わらない外観で拍子抜けした。
横切っても、休憩や宿泊の看板が目に入らなかったら私はラブホテルだと気づけないかもしれない。
ドキドキしながら入店すると、フロントに人がいて思わず顔を背けた。
「どの部屋にする?」と雅に振られて、部屋の写真が延々と並んだパネルから部屋を選ぶ。
週末ということもあって部屋はほとんど埋まっていたから選びようもなかったけど、どこを選んでもハズレは無さそうだった。
雅にフロントで鍵を受け取ってもらい、私は雅の靴の踵を見ながら、黙々と通路を歩いた。
すれ違うカップルに興味があったけど、ほとんど俯いて歩いていたので客層はよくわからない。
気恥ずかしさと背徳感が、好奇心よりも勝っていたのだと思う。
あぁ、ここにいる人達はこれからそうゆうことするつもりで、私も例外ではないのであって……。
そんなことをぐるぐると考えているうちに辿り着いたらしい。
「この部屋みたいだよ」という雅の声にビクリと肩を震わせて、私はようやく顔を上げた。
内装も普通にお洒落な……って、広っ。
アジアンテイストの落ち着いた内装。真っ先に目に入った、たじろぐような巨大なベッドは天蓋付きで、パネルを見ていた時には気が付けなかったけど、ベッド脇の壁は大きな鏡になっている。
鏡効果で部屋が尚のこと広く感じるのかもしれない。
ローテーブルと、四人くらいが悠々と座れそうな大きなソファ。
その横にはマッサージチェアまで鎮座している。
映画観賞用なのかテレビの上からはスクリーンも引き出せるようになっているし、床にはゲーム機らしきものまであるしで、至れり尽くせりだった。
これが……ラブホなのか……。
「シャワー使うよね。お先にどうぞ」
雅に言われて「あ、あぁ。うん、そ、そうだよね」とぎこちなく返す。
部屋とお風呂を隔てる壁は全面ガラス張りで、何をやっているのか全部丸見えな仕様になっている。
脱衣する場所もなくて、うっと言葉に詰まった。
当たり前か、当たり前だよな。
ラグジュアリーな雰囲気に圧倒されていたけど、本来ここは、これからいやらしいことをする恋人が利用する場所だもんな。
いやらしいことしたい宣言をした私が、誰から何を隠す必要があると言うのか。
よし、脱ぐ。脱ぐぞ……。
スーツの上着を脱いでソファの背もたれにかける。
ブラウスのボタンを外す指が震え、もたもたしていると、パチンと背後で割り箸が割れる音がした。
振り向くと、雅が私に背を向けてお弁当を食べ始めていた。
全面ガラス張りだから、シャワーを浴びながらでも部屋の様子は何となくわかる。
雅はテレビでニュースを見ながらご飯を食べている。
多分、私のことは見ていない。
あぁ、あぁ、そう。そうだよね、お腹すいてるよね……。
でも、おかずにしてるのは私じゃなくて、テレビ……なんだよね……。
気が抜けて思考がおかしくなる。
まぁ、しょっぱなから積極的にこられてもパニックになりそうだけど。
シャワーの音を聞きながら、一緒に暮らしていた頃を思い出した。
同じベッドで眠っても、想いを通わせてからも、ずっとプラトニックな関係を貫いてきた。
雅が私を大切にしてくれていたのはわかるけど、自分に自信が持てないから、私にそういう気が起きないんじゃないか……という不安も拭えない。
いや、でも。
誘ったら、まんざらじゃない反応してくれたし?
孝幸さんのことを気にしつつもここまで付き合ってくれたんだから、卑屈な考えは捨てて、私がもっと積極的になれば雅は応えてくれるんだろう。
「…………」
そう思うのに、大胆に行こうと思えば思うほど、体はすくみ動かなくなる。
昔は雅の前で裸同然で歩いても何とも思わなかったのに、今は雅の目に私がどう映るのか、どう思われるのかを考えるだけで怖くてたまらない。
少しでもよく見られたい。
失望されたくない。
好きだと自覚した途端、臆病になって、心臓は痛いくらい緊張するのだと初めて知った。
ラブホテルというのは、サーチライトが空高く伸びて、赤とか紫のいかがわしい明かりでライトアップされたファンタジーなお城のイメージがあったのだけれど。
お洒落なリゾートホテルと何ら変わらない外観で拍子抜けした。
横切っても、休憩や宿泊の看板が目に入らなかったら私はラブホテルだと気づけないかもしれない。
ドキドキしながら入店すると、フロントに人がいて思わず顔を背けた。
「どの部屋にする?」と雅に振られて、部屋の写真が延々と並んだパネルから部屋を選ぶ。
週末ということもあって部屋はほとんど埋まっていたから選びようもなかったけど、どこを選んでもハズレは無さそうだった。
雅にフロントで鍵を受け取ってもらい、私は雅の靴の踵を見ながら、黙々と通路を歩いた。
すれ違うカップルに興味があったけど、ほとんど俯いて歩いていたので客層はよくわからない。
気恥ずかしさと背徳感が、好奇心よりも勝っていたのだと思う。
あぁ、ここにいる人達はこれからそうゆうことするつもりで、私も例外ではないのであって……。
そんなことをぐるぐると考えているうちに辿り着いたらしい。
「この部屋みたいだよ」という雅の声にビクリと肩を震わせて、私はようやく顔を上げた。
内装も普通にお洒落な……って、広っ。
アジアンテイストの落ち着いた内装。真っ先に目に入った、たじろぐような巨大なベッドは天蓋付きで、パネルを見ていた時には気が付けなかったけど、ベッド脇の壁は大きな鏡になっている。
鏡効果で部屋が尚のこと広く感じるのかもしれない。
ローテーブルと、四人くらいが悠々と座れそうな大きなソファ。
その横にはマッサージチェアまで鎮座している。
映画観賞用なのかテレビの上からはスクリーンも引き出せるようになっているし、床にはゲーム機らしきものまであるしで、至れり尽くせりだった。
これが……ラブホなのか……。
「シャワー使うよね。お先にどうぞ」
雅に言われて「あ、あぁ。うん、そ、そうだよね」とぎこちなく返す。
部屋とお風呂を隔てる壁は全面ガラス張りで、何をやっているのか全部丸見えな仕様になっている。
脱衣する場所もなくて、うっと言葉に詰まった。
当たり前か、当たり前だよな。
ラグジュアリーな雰囲気に圧倒されていたけど、本来ここは、これからいやらしいことをする恋人が利用する場所だもんな。
いやらしいことしたい宣言をした私が、誰から何を隠す必要があると言うのか。
よし、脱ぐ。脱ぐぞ……。
スーツの上着を脱いでソファの背もたれにかける。
ブラウスのボタンを外す指が震え、もたもたしていると、パチンと背後で割り箸が割れる音がした。
振り向くと、雅が私に背を向けてお弁当を食べ始めていた。
全面ガラス張りだから、シャワーを浴びながらでも部屋の様子は何となくわかる。
雅はテレビでニュースを見ながらご飯を食べている。
多分、私のことは見ていない。
あぁ、あぁ、そう。そうだよね、お腹すいてるよね……。
でも、おかずにしてるのは私じゃなくて、テレビ……なんだよね……。
気が抜けて思考がおかしくなる。
まぁ、しょっぱなから積極的にこられてもパニックになりそうだけど。
シャワーの音を聞きながら、一緒に暮らしていた頃を思い出した。
同じベッドで眠っても、想いを通わせてからも、ずっとプラトニックな関係を貫いてきた。
雅が私を大切にしてくれていたのはわかるけど、自分に自信が持てないから、私にそういう気が起きないんじゃないか……という不安も拭えない。
いや、でも。
誘ったら、まんざらじゃない反応してくれたし?
孝幸さんのことを気にしつつもここまで付き合ってくれたんだから、卑屈な考えは捨てて、私がもっと積極的になれば雅は応えてくれるんだろう。
「…………」
そう思うのに、大胆に行こうと思えば思うほど、体はすくみ動かなくなる。
昔は雅の前で裸同然で歩いても何とも思わなかったのに、今は雅の目に私がどう映るのか、どう思われるのかを考えるだけで怖くてたまらない。
少しでもよく見られたい。
失望されたくない。
好きだと自覚した途端、臆病になって、心臓は痛いくらい緊張するのだと初めて知った。
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