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2章 あなたと共に過ごす日々
01 彼女たちの恋・1
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新学期に入って早々、土日の2日間を駆使して引っ越すことになった。
千夏と涼子には雅とのルームシェアに至るまでの経緯を話した。
死ぬかもしれなかったこと。
最後を思った時に雅に会いたかったこと。
雅が私の傍にいると言ってくれたこと。
お金が足りなくて一緒に住むことになったこと……。
事件については大学でも注意が促されていたけど、まさか被害者が私だとは思わなかったらしい。
どれもこれも驚かれる話ばかりだったと思うけど、ふたりとも何があっても応援すると言ってくれた。
引っ越し当日には、千夏と涼子が彼氏同伴で手伝いに来てくれた。
二人から彼氏の惚気話は聞いていたものの、実際にお目にかかるのはこれが初めてだったりする。
今さら恥じらったって仕方ないけど、会ったのが最初で最後のボロアパートで、なんて……ありがたいけど複雑……。
千夏の彼氏はインテリ系。
名前は開原博人さんだと紹介を受けた。
別の大学の人で、サークルの友達経由で知り合ったとか。
千夏が漫画大好きインドア少女なので、彼氏も物静かなタイプだろうとは思っていたけど……。
開原さんは可愛い千夏と並んでも絵になるような、お洒落メガネさんだった。
中性的で綺麗な男の子だけど、前髪を少しだけワックスで立ちあげて眉間に流し、表情を引き締めている。
黒ぶちメガネと黒と白のストライプのシャツが細身のシルエットによく似合っていて……。
うん。思わずマジマジと見てしまう。
どこをどう見ても今日は千夏とデートするつもりだった格好だ。
場違いすぎるこの人に、野暮ったい私の引っ越しの手伝いなんかさせてもいいものかとちょっと悩んでしまう。
涼子の彼氏は千夏とは対照的な絵に描いたような体育会系。
名前は角田太一さんで、涼子は始終「太ちゃーん」と甘えた声で彼を呼んでいる。
角田さんはもう社会人で、涼子のお兄さんの大学時代の友達だったそう。
『兄貴お墨付きの良い人なんだよー』って惚気られた。
家族ぐるみで仲よしだなんて、なんかいいよね。
この人もやっぱりメンクイの涼子お眼鏡に適ったイケメンで。
褐色の肌、彫の深い顔に、サイドを刈り上げたベリーショートの明るい髪がよく似合っている。
「美亜ちゃん、重いのはこれだけ?」
角田さんは借りてきた軽トラに、軽々と私の机とベッドを乗せる。
私は「はい」と返事を返して、その作業風景を背後からぼーっと眺めていた。
まだ肌寒く感じられる季節だけど、角田さんの格好は薄い綿シャツ一枚で、腕から背中にかけての引き締まった筋肉が美術品みたいに綺麗だった。
「この洗濯機は? ずいぶん古いけど持って行くん?」
「リサイクルショップから安くもらってきたんですけど……脱水してる時いつも暴れて床をぶち抜きそうだったんで、今日でお別れです」
「あっはっは! 元気よすぎ!」
角田さんは豪快に笑って、私の肩をバシバシ叩く。
普段から涼子はこの人に私の話でもしているのかもしれない。
初対面でも、まるで気にせず昔からの友達のように接してくれる。
「俺運ぶから。重いものは無理して持つなよ」
段ボールを2段に積み重ねて持ち上げようとしている私を制して、テキパキと荷積みしてくれる角田さんに、思わず「ほぅ」と溜息が漏れる。
ありがたい。本日の功労賞はこの人に決定しそうだ。
よく気がまわるし優しいし。これじゃあ、涼子は角田さんに甘えまくりな訳だ。
普段の二人を想像して、思わず口元が緩む。
がらんとした部屋を見渡す。
元々たいしたものを置いてなかったけど、机とベッドが無くなったら本当に生活感が消えた。
洗濯機をはじめ、我が家の電化製品はリサイクルショップからやってきたもので相当古い。
引っ越し先に置く家電は、雅に調達の当てがあると聞いたし、私の愛用品達はそろそろ引退。業者に引き取ってもらう。
処分にも結構お金がかかって、伝票を書きながら、思わずむーん……と低く唸ってしまう。
「雅くんは今日いないの?」
千夏がやってきて、私の隣に腰を下ろす。
私は「あぁ」と相槌を打った。
「雅は雅で引っ越しの準備をしてる筈だよ。全部業者に任せるみたいだけど。他にも色々手続きがあるみたい」
伝票を書ききって、ペンのインクを乾かすためにピラピラと横に振る。
千夏は「ふーん」と一旦言葉を切って、「そういえば」と続けた。
「一緒に暮らすことになってさ、美亜は雅くんの家族に挨拶したの?」
そう言われて、思わず固まってしまう。
私は一応、一応だけど……雅を母に会わせられたし、了承を得られた……と思う。
「そーゆーのって……どうなの?」
でも雅はどうなんだろう。
「世間一般的には、男女が一緒に暮らし始める場合は挨拶みたいなことをするものなの? でもちょっと同棲とは違うし……ルームシェアで友達と暮らすのに親に会うのも……なんだか大げさなのかなぁとも思ったんだけど……」
遠まわしに「していない」ことを伝えつつ、千夏の反応を伺ってしまう。
「うーん……? でも美亜と雅くんは恋人同士だからね。友達同士のルームシェアとは状況が違う気もするよね」
微妙な反応をする千夏に、複雑な気持ちになる。
バイトのお迎えをしてもらったり、夜中に呼び出したり、家族には困った彼女だと思われているに違いない。
今回のアパートを借りる件では、契約でお世話になっているし……。
「折を見て、雅に話してみる」
一度、ちゃんと会って挨拶しておくのが筋かもしれない。
雅の家族も家族で、なんだか複雑そうなので深入りしづらい所ではあるんだけど……。
「うん、それがいいよ。案外気に入られちゃってさ。『お嫁においで♪』とか言われちゃうかもよ」
「いやー……」
私が親なら、こんな仏頂面で愛想のない嫁は嫌だ。
千夏と涼子には雅とのルームシェアに至るまでの経緯を話した。
死ぬかもしれなかったこと。
最後を思った時に雅に会いたかったこと。
雅が私の傍にいると言ってくれたこと。
お金が足りなくて一緒に住むことになったこと……。
事件については大学でも注意が促されていたけど、まさか被害者が私だとは思わなかったらしい。
どれもこれも驚かれる話ばかりだったと思うけど、ふたりとも何があっても応援すると言ってくれた。
引っ越し当日には、千夏と涼子が彼氏同伴で手伝いに来てくれた。
二人から彼氏の惚気話は聞いていたものの、実際にお目にかかるのはこれが初めてだったりする。
今さら恥じらったって仕方ないけど、会ったのが最初で最後のボロアパートで、なんて……ありがたいけど複雑……。
千夏の彼氏はインテリ系。
名前は開原博人さんだと紹介を受けた。
別の大学の人で、サークルの友達経由で知り合ったとか。
千夏が漫画大好きインドア少女なので、彼氏も物静かなタイプだろうとは思っていたけど……。
開原さんは可愛い千夏と並んでも絵になるような、お洒落メガネさんだった。
中性的で綺麗な男の子だけど、前髪を少しだけワックスで立ちあげて眉間に流し、表情を引き締めている。
黒ぶちメガネと黒と白のストライプのシャツが細身のシルエットによく似合っていて……。
うん。思わずマジマジと見てしまう。
どこをどう見ても今日は千夏とデートするつもりだった格好だ。
場違いすぎるこの人に、野暮ったい私の引っ越しの手伝いなんかさせてもいいものかとちょっと悩んでしまう。
涼子の彼氏は千夏とは対照的な絵に描いたような体育会系。
名前は角田太一さんで、涼子は始終「太ちゃーん」と甘えた声で彼を呼んでいる。
角田さんはもう社会人で、涼子のお兄さんの大学時代の友達だったそう。
『兄貴お墨付きの良い人なんだよー』って惚気られた。
家族ぐるみで仲よしだなんて、なんかいいよね。
この人もやっぱりメンクイの涼子お眼鏡に適ったイケメンで。
褐色の肌、彫の深い顔に、サイドを刈り上げたベリーショートの明るい髪がよく似合っている。
「美亜ちゃん、重いのはこれだけ?」
角田さんは借りてきた軽トラに、軽々と私の机とベッドを乗せる。
私は「はい」と返事を返して、その作業風景を背後からぼーっと眺めていた。
まだ肌寒く感じられる季節だけど、角田さんの格好は薄い綿シャツ一枚で、腕から背中にかけての引き締まった筋肉が美術品みたいに綺麗だった。
「この洗濯機は? ずいぶん古いけど持って行くん?」
「リサイクルショップから安くもらってきたんですけど……脱水してる時いつも暴れて床をぶち抜きそうだったんで、今日でお別れです」
「あっはっは! 元気よすぎ!」
角田さんは豪快に笑って、私の肩をバシバシ叩く。
普段から涼子はこの人に私の話でもしているのかもしれない。
初対面でも、まるで気にせず昔からの友達のように接してくれる。
「俺運ぶから。重いものは無理して持つなよ」
段ボールを2段に積み重ねて持ち上げようとしている私を制して、テキパキと荷積みしてくれる角田さんに、思わず「ほぅ」と溜息が漏れる。
ありがたい。本日の功労賞はこの人に決定しそうだ。
よく気がまわるし優しいし。これじゃあ、涼子は角田さんに甘えまくりな訳だ。
普段の二人を想像して、思わず口元が緩む。
がらんとした部屋を見渡す。
元々たいしたものを置いてなかったけど、机とベッドが無くなったら本当に生活感が消えた。
洗濯機をはじめ、我が家の電化製品はリサイクルショップからやってきたもので相当古い。
引っ越し先に置く家電は、雅に調達の当てがあると聞いたし、私の愛用品達はそろそろ引退。業者に引き取ってもらう。
処分にも結構お金がかかって、伝票を書きながら、思わずむーん……と低く唸ってしまう。
「雅くんは今日いないの?」
千夏がやってきて、私の隣に腰を下ろす。
私は「あぁ」と相槌を打った。
「雅は雅で引っ越しの準備をしてる筈だよ。全部業者に任せるみたいだけど。他にも色々手続きがあるみたい」
伝票を書ききって、ペンのインクを乾かすためにピラピラと横に振る。
千夏は「ふーん」と一旦言葉を切って、「そういえば」と続けた。
「一緒に暮らすことになってさ、美亜は雅くんの家族に挨拶したの?」
そう言われて、思わず固まってしまう。
私は一応、一応だけど……雅を母に会わせられたし、了承を得られた……と思う。
「そーゆーのって……どうなの?」
でも雅はどうなんだろう。
「世間一般的には、男女が一緒に暮らし始める場合は挨拶みたいなことをするものなの? でもちょっと同棲とは違うし……ルームシェアで友達と暮らすのに親に会うのも……なんだか大げさなのかなぁとも思ったんだけど……」
遠まわしに「していない」ことを伝えつつ、千夏の反応を伺ってしまう。
「うーん……? でも美亜と雅くんは恋人同士だからね。友達同士のルームシェアとは状況が違う気もするよね」
微妙な反応をする千夏に、複雑な気持ちになる。
バイトのお迎えをしてもらったり、夜中に呼び出したり、家族には困った彼女だと思われているに違いない。
今回のアパートを借りる件では、契約でお世話になっているし……。
「折を見て、雅に話してみる」
一度、ちゃんと会って挨拶しておくのが筋かもしれない。
雅の家族も家族で、なんだか複雑そうなので深入りしづらい所ではあるんだけど……。
「うん、それがいいよ。案外気に入られちゃってさ。『お嫁においで♪』とか言われちゃうかもよ」
「いやー……」
私が親なら、こんな仏頂面で愛想のない嫁は嫌だ。
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