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バカなオメガ
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仕事が終わった後、円は以前来た地下街の中にある居酒屋で、相手を待っていた。
この場所を待ち合わせ場所に指定され、先ほど、「そこで待っててください。ホテルに行く前に、1杯おごりますよ」と連絡を受けたばかりだった。
──食費が浮くから、ありがたいな…
相手が来るまでに、何を注文するか決めようと考えて、メニューを開いた。
その矢先のことだった。
「ブスで売れ残りのベータ女のひがみってサイアク~」
カウンター席に座って相手を待っていると、後ろから話し声が聞こえてきた。
この声には、聞き覚えがある。
軽井沢だ。
まさかこんなところで出くわすとは思わなくて、円は身構えた。
振り返ってみると、軽井沢はそばのテーブル席に女性と2人で座っていた。
彼女は恋人だろうか。
彼女に会うために、残業もしないで早くに帰るのだろうか。
「またあ?ホンット嫌われてるわねえ、よっぽどテキトーに仕事してるんでしょ?」
言いながら女性がフライドポテトをかじると、唇に塩と油がつき、それが蛍光灯の光に照らされて、テラテラ光った。
「当たり前じゃん、まじめにがんばっても意味ないし。ぼくはさっさとステキなアルファと結婚して寿退社して、楽しく優雅に暮らしたいの。残業してるヒマあるなら、花嫁修行がんばらないと。自分磨き大事!」
軽井沢は唐揚げを箸に刺して口に放り込むと、箸についた汚れを口でもぎ取った。
「ま、私らは頑張っても出世なんか見込めないしね。そういや料理教室の先生に色目使ってたけど、ねらってるカンジ?」
この口ぶりから察するに、女性は恋人ではなく友人だろう。
そして、ベータかオメガのどちらかだろう。
「まさか!あの人はイケメンだけど、ベータじゃん」
「別によくない?今どきは薬があるから、番にこだわることないじゃん」
「ぼくは薬が効きにくいんだよ。それにさ、やっぱりロマンチックじゃん?せっかくオメガに生まれたんなら、たったひとりの好きな人と身も心も結ばれてみたいもん」
軽井沢がずるちゅると音を鳴らしながら、ファジーネーブルをすすった。
「そんないいもんじゃないでしょ~。トラブルも多いって聞くし」
「そ、だから慎重にならないとね。一生付き合える人を探すの。アルファと番になれるのは、オメガだけの特権なんだよ。次の合コン、相手はどんな人?」
「A社の幹部よ。親御さんが重役なんだって。御曹司ってヤツ?」
女性はビールをあおると、ドンと音を立てて、ジョッキをテーブルに置いた。
「お、いいねえ。今度こそアタリかも!」
軽井沢が嬉しそうに笑って、箸先を女性に向けた。
「張り切るねえ」
「当然じゃん。ぼくは金持ちでイケメンなアルファと番になって幸せになりたいもん!」
「あはは!そんなアンタがロマンチックう~?やだあ、死ぬほど笑っちゃう!」
聞いて呆れた。
予想通り、軽井沢は仕事もロクにせず、「自分磨き」と称して合コンだの料理教室だのに明け暮れていたのだ。
相当酔っているらしく、さほど離れていない場所に座っている円にまるで気づかない。
──アイツ、本物のバカだ!
「お待たせしました」
しばらく経つと、今夜の相手の男が到着して、円の隣に座った。
軽井沢と女性はもういなくなったから、これで気兼ねなく食事ができると、円はホッと胸を撫で下ろした。
「ここの店のラーメン、美味しいですよ」
男がメニューを手に取り、そこに載っているラーメンの写真を指差した。
「あー…ボク、ラーメンは……」
「嫌いですか?」
「……ええ、まあ…」
ラーメン自体は嫌いではない。
しかし、アレは食べるときに顔に水滴が飛ぶ。
円は雨が降ったときや汁物を飲んだときなんかに、顔に水滴がつくのが、どうしても耐えられないのだ。
この場所を待ち合わせ場所に指定され、先ほど、「そこで待っててください。ホテルに行く前に、1杯おごりますよ」と連絡を受けたばかりだった。
──食費が浮くから、ありがたいな…
相手が来るまでに、何を注文するか決めようと考えて、メニューを開いた。
その矢先のことだった。
「ブスで売れ残りのベータ女のひがみってサイアク~」
カウンター席に座って相手を待っていると、後ろから話し声が聞こえてきた。
この声には、聞き覚えがある。
軽井沢だ。
まさかこんなところで出くわすとは思わなくて、円は身構えた。
振り返ってみると、軽井沢はそばのテーブル席に女性と2人で座っていた。
彼女は恋人だろうか。
彼女に会うために、残業もしないで早くに帰るのだろうか。
「またあ?ホンット嫌われてるわねえ、よっぽどテキトーに仕事してるんでしょ?」
言いながら女性がフライドポテトをかじると、唇に塩と油がつき、それが蛍光灯の光に照らされて、テラテラ光った。
「当たり前じゃん、まじめにがんばっても意味ないし。ぼくはさっさとステキなアルファと結婚して寿退社して、楽しく優雅に暮らしたいの。残業してるヒマあるなら、花嫁修行がんばらないと。自分磨き大事!」
軽井沢は唐揚げを箸に刺して口に放り込むと、箸についた汚れを口でもぎ取った。
「ま、私らは頑張っても出世なんか見込めないしね。そういや料理教室の先生に色目使ってたけど、ねらってるカンジ?」
この口ぶりから察するに、女性は恋人ではなく友人だろう。
そして、ベータかオメガのどちらかだろう。
「まさか!あの人はイケメンだけど、ベータじゃん」
「別によくない?今どきは薬があるから、番にこだわることないじゃん」
「ぼくは薬が効きにくいんだよ。それにさ、やっぱりロマンチックじゃん?せっかくオメガに生まれたんなら、たったひとりの好きな人と身も心も結ばれてみたいもん」
軽井沢がずるちゅると音を鳴らしながら、ファジーネーブルをすすった。
「そんないいもんじゃないでしょ~。トラブルも多いって聞くし」
「そ、だから慎重にならないとね。一生付き合える人を探すの。アルファと番になれるのは、オメガだけの特権なんだよ。次の合コン、相手はどんな人?」
「A社の幹部よ。親御さんが重役なんだって。御曹司ってヤツ?」
女性はビールをあおると、ドンと音を立てて、ジョッキをテーブルに置いた。
「お、いいねえ。今度こそアタリかも!」
軽井沢が嬉しそうに笑って、箸先を女性に向けた。
「張り切るねえ」
「当然じゃん。ぼくは金持ちでイケメンなアルファと番になって幸せになりたいもん!」
「あはは!そんなアンタがロマンチックう~?やだあ、死ぬほど笑っちゃう!」
聞いて呆れた。
予想通り、軽井沢は仕事もロクにせず、「自分磨き」と称して合コンだの料理教室だのに明け暮れていたのだ。
相当酔っているらしく、さほど離れていない場所に座っている円にまるで気づかない。
──アイツ、本物のバカだ!
「お待たせしました」
しばらく経つと、今夜の相手の男が到着して、円の隣に座った。
軽井沢と女性はもういなくなったから、これで気兼ねなく食事ができると、円はホッと胸を撫で下ろした。
「ここの店のラーメン、美味しいですよ」
男がメニューを手に取り、そこに載っているラーメンの写真を指差した。
「あー…ボク、ラーメンは……」
「嫌いですか?」
「……ええ、まあ…」
ラーメン自体は嫌いではない。
しかし、アレは食べるときに顔に水滴が飛ぶ。
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