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第1章 ココどこですか?

後回しのツケは大きかったーー。

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正直、収納庫に出し入れするのは骨が折れる。位置決め、数量の調整など気を使う事も多い。

前にあの草原での出し入れで大失敗したのだ。土の山の位置決めを間違って目の前に出現した土壁が一気に崩れてきたのだ。

あの時、横の空洞に逃げ込んだから良かったものの空洞がなければ。
冷や汗ものである。

その後慎重になった俺は、細かく計算を重ねて出入庫をしている。

だから、疲れる。

無論、言い訳だ。
広大な農地に気持ちも良くなり、夕暮れが迫っていたので明日に日延べしたのだ。

後回しである。

そして…それが痛恨のミスとなった。

カンカンカン!!!

村に響き渡る何かを叩く大きな音に飛び起きたのは、まだ夜明け前だった。

廊下に出ると子供たちと奥さんが小さな荷物を持って地下室へと急ぐ所だった。

一体何が…。

『矢作さん、良かった。今から呼びに行くところでした。村の人達も今、来ますので地下室へ急いで下さい。』

異常事態だと理解はした。
でも、何が起きたのかその時点では全く分からなかった。

『おじさん!!村に野獣が大量に押し寄せて来たんだよ。まだ、門は守られているけれど村の中に入ってくるからもしれないんだ!!』

大量の野獣?!

その時、あの長閑な風景が脳裏を横切った。
もしかして…。

花の種?!

いや、違う!!

柵だ。
今日、農地の周りに土壁を作る予定だった。

危険な場所だと聞いていたから、安心して農作業出来る場所を確保するには柵が不可欠だと村長に聞いていたのだ。

。。。
一瞬の逡巡も、決断までは早かった。
行くしかない!!

戦闘能力はなくても、俺には収納庫があるのだから。

『奥さん、俺は少し用事があります。皆さんは早く地下室へ。』
『何をしようと言うの!!鍛えているベンですら、危ういと言うのに。』

俺の腕を掴む奥さんの力強さは、恐れと心配の現れだ。微かに震える腕が食い込む爪が教えてくれた。
安心させるように、真っ直ぐ目を見てゆっくり力強く言った。

『俺には特別な技があります。安全を確保しますから、行かせて下さい。』
言い切って、勢い良く頭を下げながらも、心は門へと逸る気持ちでいっぱいだった。
早く…早く。

門が破られたら、、恐ろしい想像に胸がいっぱいになる。そしてその想像は全て俺の責任だ。
あの時、後回しにさえしなければ…。

『矢作さん。貴方は野獣の恐ろしさを知らない。だから、どのくらいが危険か理解していない。
でも…
でも、特別な人だから。もしかしたらと、期待を掛けてしまう愚かな私もいるの。
だから、これを持っていって。』

奥さんが俺に首飾りを掛けてくれた。

『【森の護り】という護符よ。1度だけピンチから貴方を救ってくれるはず。
必ず、自分を守ってね。
そして…ベンを村をお願いします。』

深々と頭を下げる奥さんの肩に手を置いて
『全力を尽くします。』と告げその場を駆け出した。

家の入り口へ向かうと、次々と村の女性と子供たちが入ってきて大混雑していたが『門を守ってきます。どうか先に行かせて下さい。』と大声を出すと、一斉に全員が左右に別れて道が出来た。

駆け抜ける俺に口々に『お願いします』『気をつけて』『頑張ってね』と声がかかるのに、微かに頷きつつ外へ出た。

門に近づくと、ドーン、ドーンと凄い音が響いている。

大型の野獣が扉にぶつかっている音に違いない。まだ、破られていない。

ま、間に合ったのか。


『村から半径100mの地点に苺10キロ出庫!!』
餌で釣れないか。

そう愚行しつつ叫んでみだが、門に野獣がぶつかる音は無情にも繰り返し響く。
興奮した野獣達は、餌どころじゃないのかもしれない。

では、次の手だ。

扉にぶつかる音と共に男たちの雄叫びも聞こえて来た。
『押せーー。負けるな。村に1頭たりとも入れるんじゃないぞ!!』
『おおーーー』

見えた!!
扉だ。

ゆ、、歪んでいる。

現実は更に甘くなかった。
幾つかの野獣の形に凹んだ門は、今にも開きかけていた。

大勢の男たちが門を必死に支えていた。
更にその周りには吹っ飛ばされて、頭から血を流している者や倒れたまま動かない者もいる。

でも、誰も怪我人に手を貸さない。

今しかない。
何とか耐えるしか、村を守る術がない。
覚悟を決めている男達に震え立つ。

手を強く握りしめ俺も覚悟を改めに前へ出る。

『村長ーー、外に出ている人はいますか?』
出来る限りの大声に、見た事のない険しい表情の村長がこちらをチラッと見て『居ない』と短く答えてくれた。

絶望と命懸けの横顔に胸が詰まる。
いや。
情けないと思うのは後の事だ。
この後、幾らでも。

今は。


『村の周り100キロに10tの岩を散布!!!』


ドドドドドンンンーーーーーー。

耳が悲鳴をあげる轟音が辺りに響き渡る。

暫くは誰も動かなった。

生き物が潰れる生々しい音と男たちの荒い息だけが辺りに交錯して、やがて静まり返った。

僅かに開いた隙間から、野獣の肉と血が飛び出して村長や男達の顔や身体を血塗れにしていたが皆、無事のようだ。

おぉぉぉーーん。

遥か遠くで鳴き声がした。

『村の外側に100キロに円形で高さ50m巾5mで粘土出庫。』
『村と土壁の間にある、農地に適さない全てのもの収納。』

『更に、村の外側200キロに高さ50m巾100mで岩出庫。』

村の周りを以前作っておいた粘土で、一旦土壁を作る。もうひと工夫必要だが、まずは乾燥してから。

次に、潰れた野獣の全てを収納した。腐敗すれば農地としては使用不可になってしまうと大変だからだ。

これだけでは安心出来ず、村の周りに二重に土壁を作成した。この村から近隣の村までは300キロは離れているらしく。
更にはその間を行き来する者はいないと。

(その事を聞いた時、ラッセルさんの凄さと大切さを知ったんだ。)

特殊な馬車でなければ、他の村には行けない。厳しい世界だ。

二重の壁の間に残った野獣は行き場を失い、やがて全滅するだろう。

後始末よりも、今は怪我人だ。

俺が作業している間に、村長達は既に怪我人を助け起こしていたがまだ意識も無い者もいる。

『村長!これを皆さんに飲ませて下さい。
【特万能薬】です。これなら、重傷でも助かります!!』

1口飲んだ人から、元気に立ち上がる。
やっぱり、アレは凄い薬だ。

壊れた扉の前で、皆嬉しそうに肩を叩きあっていた。

『矢作さん、本当にありがとう。誰1人、欠けることなく無事でした。全て矢作さんのおかげです。』
いつも通りの顔で村長が笑顔でそう告げる。

胸が痛い。笑顔が辛い。

へしゃげた金属製の扉は、戦いの凄まじさをまざまざと思い知らせていた。

本当に危機一髪だった。

あと少し遅かったから。
野獣達はあの扉から村になだれ込んで来て。

想像すら恐ろしい。

俯く俺の肩を好青年が叩いて優しい声で言った。

『矢作様。村が襲われるのはこの国では珍しくないのです。それで消えた村も多い。
矢作様の農地が、例え野獣を誘ったとしても、その責任は私にあります。
でも、今回は農地の責任ではないと考えています。何故ならこの辺りでは次々と村は襲われていたのです。
異常な気候、飢えが野獣を狂わせていた。
だから、次にこの村が襲われる。それは、時間の問題だったのです。』

『そうです。だから矢作さんの農地は希望の光なのです。どうかご自分を責めないで下さい。』
村長。

優しい言葉は、今はダメです。
胸が詰まるのです。

そう、言葉にしたかは、覚えてない。
何故なら…。

気がつけば、俺の周りに大勢の人達が取り囲んで、みんな嬉しそうに俺を見て笑って口々に叫んでいたからだ。

『そうですよ!!』『アンタのお陰で怪我も治ったんだ。明日からも働けるよ!!』
『農地、またやってくれ。俺も働きたいんだ。』

情けなさに後悔に苛まれるのは、1人部屋に帰ってからにしよう。

村の仲間に入れてもらった大切な日なのだからこそ。

次に出来る手は全て打つ。

油断は禁物だと、歪んだ扉の隙間から覗く黒装束の姿が教えてくれているのだし。
必ず、次こそは遅れをとらない為にも


『金属が入用ですよね。鉱石持ってます。
鉄・銅・金など色々あります。』

使って欲しい。

せっかくカッコよかった好青年が、再び固まった。。

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