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第5章 星空満点空中ツアー

【040】初めての休暇と星空満点空中ツアー2

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妲己姉さんを抱えたまま、人化を解除し、物の怪の吸血鬼への姿へと戻る。背中に生えた翼をつかい、ゆっくりと羽ばたいて上昇していく。

もう夜も遅く、空を見上げる人もいないだろう。ちなみに、僕も服装は変えていた。夜の物の怪の吸血鬼らしく、黒のパンツと黒のYシャツだ。一応闇に紛れて見えない恰好にするのが吸血鬼の嗜み(たしなみ)と教えられているので。

といっても、羽を出すときに、服が破れるので、Yシャツは脱いで、羽根を出し入れできるタイプの専用のTシャツを着ている。

予備のオンブ紐もちゃんとあるし、さっくり回って帰ってこよう。そういえばどこを飛ぶのかコースを聞いてなかったな。

「妲己姉さん、ところで、この金沢の周りをぐるっと一周ほどすればいいんですか?」

「あらん、そういえば、言ってなかったわねん。白山にある獅子吼高原までよん。」

「えっ、近くを星空の下ぐるーっと一時間ほど、飛んで終わりかと思ってましたよ。ちょっとそこはいくらなんで遠いのでは。車でも1時間くらいかかりますよ。」

「ふふふっ、大丈夫よん。空なら、渋滞はないわん。それに、ウィーンさんなら、車以上のスピードで飛ぶことが出来るでしょん。オアシスでの、急上昇のスピードはわらわは痺れたわん。。」 

と言って、肩においてあった手を、僕の顔のあごの部分にあて撫でてくる。

あっちゃ~、まさかこんなとこで、あの時のことが裏目に出るとはな。。。。ま~僕が本気だしたら、時速100kmくらいは、軽く出せるのである。

僕一人だけなら。。。。。妲己姉さんと一緒だと、70kmくらいかな。

「う~~、わかりましたよ。わかりましたから、僕の顔を触るのを止めて下さい。その代わり、そこまで行ったら、少し休憩して、そのまま帰ってきますよ。

しかも、ゆったり飛ぶのは時間かかりすぎるので、飛ばしていきますから、夜景を眺めながらってのは難しいですよ。」


「ええ、いいわよん。元々そのつもりよん。」

「なら、しっかり捕まってて下さいね。」

「ええ、わかったわん」

と言って、妲己姉さんが手を僕の肩の上に戻し、振り落とされないようにしっかりと密着しホールドしてくる。色々と柔らかいものがあたったり、妲己姉さんの匂いが強くなるけど、吸血鬼化した僕なら色々と耐性や免疫が上がっているので問題はない。

空中でゆっっくりと飛行していたのをやめ、もう少し高度を上げて、高速で飛行を開始した。獅子吼高原って、いっても夜だと場所がわかりづらいので、スマホの位置情報検索を使ってナビをしている。

もっとも、音声が追い付いてない上に、空を飛んでいるので、人の道の案内をされても仕方がないのだが。

「う~~~ん、いい眺めねん。それと、いい風だわん。暑い夏の夜もこうやって、夜の星空を飛んでいると涼しくていい感じねん」

びゅ~~~~~っ、風を切る音がすごいがちゃんと話声は聞こえる。

「ええ、僕もこちらに来て、町の空を飛ぶのは初めてですが、星も綺麗に見えるし、ここは空気が澄んでいていいですね。ひどいとこだと、空を見上げても星の一つも見えないらしいですよ。

その代わり下の町のビルの灯りや、ネオン灯が様々な色で輝いているので、下の景色を見ると、地表に星があるようでそれはそれで神秘的な感じですがね。」


「あらん、それはロマンチックじゃないわねん。ふふっ、でも眼下の後継もなかなか綺麗よねん。人の営みがポツポツと点燈し、また消え、様々な情景が描かれているわん」

「ところで、妲己姉さん。なんでまた獅子吼高原に行くんですか?こうやって、僕も一緒に行くんですから、教えてくれてもいでしょう?

景色を見たいだけでいくとこではありませんよね。」


「あらん、敏いわねん。ウィーンさんは。ふふっ、景色が見たいのは理由の一つだわん。もちろん、それだけじゃないわん。二つ目は、霊峰白山の近くにいることで、霊気を吸収できるからよん。 

上質な霊気はとっても美味しいわよん。3つ目は、そうねん。着いてからのお楽しみよん。ここで話ちゃうとつまらないわん」


「へ~~、妲己姉さんて、霊気を吸収できる人なんですね。あと、3つめが楽しくないって、それってものすごくやな予感がするんですが。。。。」

「そんなことないわよん。きっと楽しいわん(わらわが)。それに、きっとウィーンさんにとっては必要なことよん」

「ま~~行くと決まっているわけですから、覚悟していくしかないんでしょう。」

「おっと、話している間に着きましたよ。あそこの丘に降りますよ。」

「ウィーンさん、違うわん。あそこの森の中よん。早くいってねん」

「わかりました。」

といって、森の中にゆっくりと下降して、着陸した。

「ふ~~っ到着しましたよ。妲己姉さん。一旦紐は外しますね」

といって、固定していた、おんぶ紐をほどいていく。

「で、ここで何があるっていうんですか?わざわざ指定するくらいですから、なにかあるんでしょう?」

「ウィーンさんなら、ここからなら、耳を澄ませれば、わかるはずだわん。わらわはちょっと霊気を補充しにいってくるわねん。10分経ったら、先程ウィーンさんが言ってた高原に集合よん。」

といって、スタスタと歩いて行ってしまった。僕も妲己姉さんも夜間でも夜目が聞くとはいえ、森の中には野生の動物もいるのだが、そんなことまったく気にしていないみたいだ。

ま~そもそも妲己姉さんの相手になる動物なんてこの世に存在はしないだろう。熊だって、きっと赤子をひねるくらいのものだ。

それにしても、耳を澄ませれば、微かにだが女の子の叫び声が聞こえてくる。

「助けて、もう動けない。死にたくない。誰か助けて。」

段々と静かになっていく声、どうやら、危険な状態にあるみたいだ。妲己姉さんは、この声が空の上から聞こえていたのか?

いや違う、いくら姉さんでも金沢上空ですでに3つめのことを話していたんだ。あんな場所から、こんな小さい声がいくらなんでも聞こえるわけはない。

って、考えている場合か、助けに行かないと。ひとまず相手がだれかわからないし、僕の正体を知られるわけにもいかない。吸血鬼化をやめて、人化する。どちらにしろこの森の中では空を飛ぶよりも走った方が早いからね。

僕は急いで、声がする方に向けて走って行った。夜の静かな森に、微かな叫び声と、草花を踏む音が木霊する。
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