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第2話 志茂平兵衛

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「シモヘイヘ」

三成は視線をシモヘイヘから逸らさずに真っ直ぐ見つめる。

「……」

互いに睨み合いに近い状態ではあるが、同じことを思っていた。

ーー此奴、只者ではない。

空気を読んだ正澄がシモヘイヘに礼を述べる。

「志茂平兵衛殿、此度は大義であった。褒美は太閤殿下との謁見が終わった後に与えよう……」

三成は正澄の言葉を遮るように馬上から降りて、頭を下げる。

「平兵衛殿、此度は感謝申し上げる。其方さえよければ、私の臣下になりませぬか?」

三成は冷静沈着で仕事は熟るタイプの人間ではあるが、根の部分は少年のような純粋さがある。
平兵衛はすぐにそれを見抜いた。

ーー行く当てはないし、たまにこのような男の下で働くのもいいだろう。


「いいだろう」

平兵衛は三成の配下になることを了承した。

正澄は三成に耳打ちをする。

「三成、我々にはこんな素性のわからない男を雇う余裕はないぞ」

「いや、兄上も見たでしょう。かの者の短筒の腕前や危機を感じる能力。放っておくのは勿体無い」

「……だが」

正澄は納得しないまま、

「平兵衛とやら、謁見が終わり次第……」

という言葉を発しようとして、三成がまた遮る。

「平兵衛殿、お主も太閤殿下に会ってくれぬか?」

正澄は焦りながら、三成の言葉をかき消そうと言う。

「す、酔狂なことを! 太閤殿下の怒りを買うぞ!」

三成は冷静に答える。

「この者は私たちが見えなかった刺客を目に捉えていた。何かの役に立つ。私はそう思うのです」

正澄はため息混じりで答える。

「勝手にせい」

正澄は政治家とは有能であり、秀吉からも認められた存在である。
しかし、三成は五奉行として活躍しており、権力は兄である正澄よりも上であり、正澄は彼の言葉には逆らえない。

誰かのクゥーという腹の音が聞こえてくる。

「腹が減った……」

平兵衛がそう呟くと、三成は笑いながら言う。
「よいだろう! 昼にするか?」

寡黙な平兵衛は頷いた。

河原で数人の武士たちと味噌汁と玄米を食す平兵衛。

ーー美味いな。

最初、平兵衛に対して否定的であった正澄ともすっかり仲良くなっていた。
と言っても、正澄がひたすら喋っているだけなのだが。

ーー兄弟揃って垢抜けないな。仕方ない。助けてやるか。

平兵衛は嵐がきそうな空を見ながら、決意を固めるのであった。
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