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第1話 出立
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雑用係の野営の朝は早い。
スープは昨夜作っておいた大きな鍋を空間収納から取り出して火にかける。
この空間収納なら熱いまま保存することも可能だけど、いったん冷ますことで具材に味がよく染み込む気がするので、いつもわざとそうしている。
パンも昨夜のうちに仕込んでおいた生地を厚手の金属で出来た蓋つき鍋で焼く。
この鍋は他のいろんな料理にも使えて本当に便利だ。
朝の飲み物は聖女様と賢者様は紅茶、他はコーヒーを好むのでその準備も忘れない。
食器の準備も整えて声をかける。
「皆さん、おはようございます!朝食の支度ができましたよ」
私は冒険者ギルドから魔王討伐パーティの活動を支援するための雑用係として派遣された。
正式には後方支援役という名称らしいが、一般的に雑用係の方がすっかり馴染んでいる。
実は募集に対して手を挙げる者が誰もおらず、顔なじみのギルドマスターから直接頼み込まれて引き受けた。
ベテランの有能な雑用係は各冒険者パーティが囲い込んでいて専属扱いになっているし、私のようにその都度雇われる者もそれなりにいるけれど、高報酬でも拘束される期間が長いことがネックになったようだ。
魔王討伐の出陣式は王宮で開かれ、王都では華やかな壮行パレードも行われた。
裏方である私はひたすら準備で走りまわっていたので、まったく見ていないけれど。
冒険者ギルドは独自のつながりを持っているので、私に役目を押し付けたギルドマスターに頼んで各地の冒険者ギルドに協力を依頼してある。
野営は数え切れないほど経験しているから慣れているし、生活魔法もそれなりに使えるから普段とやることは変わらないけれど、問題は魔王討伐パーティの面々とうまくやれるかどうかだった。
魔王討伐が必要になった時、女神様に選ばれた人達の身体に紋章が現れる。
当代の魔王討伐パーティは4人。
勇者様は上級冒険者として活動していたけれど実は伯爵家の三男。
聖女様は大聖堂に仕えているけれど侯爵家のご令嬢。
魔術師様は魔法庁長官である公爵様の次男。
賢者様にいたっては国王陛下の一番下の弟君ときたもんだ。
平民より貴族の方が魔力が多いため、歴代の魔王討伐パーティもほとんどが貴族だったと聞いている。
孤児院育ちのしがない冒険者の私が、はたして貴族様ばかりの中でやっていけるのか?
何か無礼があったらどうしよう?
というか、何がよくて何が悪いのかさえさっぱりわからないんだけど。
そんな不安は最初の顔合わせで解消された。
「俺はずっと冒険者としてやってきたから気を遣わなくていい。そしてお前も含めてこのパーティでは本来の身分は関係なしで対等な関係でいく、ということで全員の了承を得ている。だからお前も言いたいことがあれば遠慮とかするなよな」
上級冒険者として多くの冒険者達の憧れや尊敬の対象である勇者様がそう言ってくださった。
私に出来ることを全力で取り組もう。
そう思った。
壮行パレードは派手だったらしいが、魔王討伐パーティは地味な馬車でひっそりと王都を出立した。
地味なのは見かけだけで、仕様は最高級なんだけどね。
2頭立ての馬車で、どちらもとてもいい馬だ。
勇者様は自分の馬に乗って移動するので、馬車に乗っているのは魔術師様と聖女様と賢者様の3人。
そして私の定位置は御者台。
馬車の扱いも慣れているから何の問題ない。
「おい、問題ないか?」
時々勇者様が声をかけてくれる。
「はい。こんなにいい馬車を扱うのは初めてで、ちょっと緊張してますけど大丈夫です」
「そうか。無理すんなよ」
スープは昨夜作っておいた大きな鍋を空間収納から取り出して火にかける。
この空間収納なら熱いまま保存することも可能だけど、いったん冷ますことで具材に味がよく染み込む気がするので、いつもわざとそうしている。
パンも昨夜のうちに仕込んでおいた生地を厚手の金属で出来た蓋つき鍋で焼く。
この鍋は他のいろんな料理にも使えて本当に便利だ。
朝の飲み物は聖女様と賢者様は紅茶、他はコーヒーを好むのでその準備も忘れない。
食器の準備も整えて声をかける。
「皆さん、おはようございます!朝食の支度ができましたよ」
私は冒険者ギルドから魔王討伐パーティの活動を支援するための雑用係として派遣された。
正式には後方支援役という名称らしいが、一般的に雑用係の方がすっかり馴染んでいる。
実は募集に対して手を挙げる者が誰もおらず、顔なじみのギルドマスターから直接頼み込まれて引き受けた。
ベテランの有能な雑用係は各冒険者パーティが囲い込んでいて専属扱いになっているし、私のようにその都度雇われる者もそれなりにいるけれど、高報酬でも拘束される期間が長いことがネックになったようだ。
魔王討伐の出陣式は王宮で開かれ、王都では華やかな壮行パレードも行われた。
裏方である私はひたすら準備で走りまわっていたので、まったく見ていないけれど。
冒険者ギルドは独自のつながりを持っているので、私に役目を押し付けたギルドマスターに頼んで各地の冒険者ギルドに協力を依頼してある。
野営は数え切れないほど経験しているから慣れているし、生活魔法もそれなりに使えるから普段とやることは変わらないけれど、問題は魔王討伐パーティの面々とうまくやれるかどうかだった。
魔王討伐が必要になった時、女神様に選ばれた人達の身体に紋章が現れる。
当代の魔王討伐パーティは4人。
勇者様は上級冒険者として活動していたけれど実は伯爵家の三男。
聖女様は大聖堂に仕えているけれど侯爵家のご令嬢。
魔術師様は魔法庁長官である公爵様の次男。
賢者様にいたっては国王陛下の一番下の弟君ときたもんだ。
平民より貴族の方が魔力が多いため、歴代の魔王討伐パーティもほとんどが貴族だったと聞いている。
孤児院育ちのしがない冒険者の私が、はたして貴族様ばかりの中でやっていけるのか?
何か無礼があったらどうしよう?
というか、何がよくて何が悪いのかさえさっぱりわからないんだけど。
そんな不安は最初の顔合わせで解消された。
「俺はずっと冒険者としてやってきたから気を遣わなくていい。そしてお前も含めてこのパーティでは本来の身分は関係なしで対等な関係でいく、ということで全員の了承を得ている。だからお前も言いたいことがあれば遠慮とかするなよな」
上級冒険者として多くの冒険者達の憧れや尊敬の対象である勇者様がそう言ってくださった。
私に出来ることを全力で取り組もう。
そう思った。
壮行パレードは派手だったらしいが、魔王討伐パーティは地味な馬車でひっそりと王都を出立した。
地味なのは見かけだけで、仕様は最高級なんだけどね。
2頭立ての馬車で、どちらもとてもいい馬だ。
勇者様は自分の馬に乗って移動するので、馬車に乗っているのは魔術師様と聖女様と賢者様の3人。
そして私の定位置は御者台。
馬車の扱いも慣れているから何の問題ない。
「おい、問題ないか?」
時々勇者様が声をかけてくれる。
「はい。こんなにいい馬車を扱うのは初めてで、ちょっと緊張してますけど大丈夫です」
「そうか。無理すんなよ」
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