2 / 9
第2話 食事
しおりを挟む
初日はあらかじめ手配しておいた宿に泊まる。
魔王討伐パーティの面々は旅の途中ということで地味な服装にしているとはいえ、にじみ出る気品はやはり注目を浴びてしまう。
「おい、お前もこっちに来て一緒に食えよ」
隅の方のテーブルでひっそり食べようと思っていたのに、勇者様に声をかけられた。
「え、でも」
躊躇していると勇者様に手をひっぱられて座らされる。
「お前だって一緒に旅する仲間なんだから遠慮なんかすんなって」
「そうですわ。ほら、食事はみんなで楽しく食べた方が美味しいでしょう?」
聖女様の微笑みがまぶしい。
「そうそう、これから長い旅をともにするのだから、気を遣う必要などありませんよ」
みんなより年上の賢者様が穏やかに言う。
「…みんなの言うとおりだ」
魔術師様がぼそっと言った。
「わかりました。ご一緒させていただきます」
面倒なのでさっさとあきらめることにした。
ただ、宿自慢の食事はとても美味しかったけど、私以外の食事の所作があまりに見事で、つい音を立ててしまう自分がだんだん恥ずかしくなってきた。
やっぱり次からは別のテーブルにしてもらおうかな。
「どうした?元気がないな。何か食べられないものでもあったか?」
勇者様に声をかけられる。
「あ、あの、料理はとても美味しいです。ただ、私の食事の所作がひどいなって思って、ちょっと落ち込んだだけなので…」
正直に白状してうつむく。
「気にすることはありませんよ。我々は幼い頃から叩き込まれていますから所作がなかなか抜けませんが、こういう場ではもっと雑でもよいのかもしれませんね」
賢者様がそう言ってくださった。
「そうですわね。旅が進めば野営も増えてくることでしょうから、所作など気にしなくてもよいと思うのですが、もしどうしても気になるというのなら、これから気をつければよいだけのこと。私でよろしければお教えいたしますわ」
微笑む聖女様。
魔術師様は無言でただうなずいている。
「ほら、そういうことだから遠慮せずしっかり食べろ。たくさん食べないと大きくなれないぞ」
「失礼な!これでも成人してますっ!!」
よく子供と間違えられるくらい小柄なのを気にしてるのに頭にくるなぁ。
勇者様に反論してから口の中に肉を放り込んだ。
旅は順調に進んでいる。
冒険者ギルドの協力で宿の確保も問題なくできているし、今後の野営に向けての食材調達も順調だ。
まぁ、野営になれば狩りや採取で現地調達するけどね。
このパーティには聖女様と魔術師様がいるけれど、いざという時のためのポーション類も確保してある。
そしてもちろんしっかり帳簿もつけている。
遠征費用は王宮もちだけど、出所は税金なんだから無駄遣いはしたくない。
そのことは魔王討伐パーティの面々にも理解してもらっている。
もちろん私的な買い物で私費を使うのは干渉しないけどね。
ちなみに野生の動物や魔獣を退治することもあるので、不定期ではあるが収入もある。
冒険者ギルドが通達してくれたおかげで、割高で買取りしてもらえるのはありがたい。
魔王討伐パーティの面々はみんないい人で、貴族でありながら偉そうにすることもなく、ただの雑用係の私にも親切にしてくれる。
移動や休憩時にはいろんな雑談もするようになった。
賢者様はこの中で唯一の既婚者だが、政略結婚のため互いに関わることも少ないそうで、長期の不在を告げてもあっさりとしたものだったらしい。
これから関わる魔族や魔王領についてだけでなく、歴史や天文などいろんなことを教えてくれる。
「知識はいくらあっても邪魔にはなりませんからね。それにこうして誰かに話すのも楽しいのです」
賢者様はまるで歩く図書館だと思う。
王都で生まれ育って大聖堂での生活が長かった聖女様は、初めて見る田舎の景色がめずらしいらしく、移動中は終始興奮気味だ。
そしてちょっと困ったこともある。
「私、ずっと妹が欲しかったのですわ」
男の兄弟しかいなかったそうで、やたらと私をかまいたがるのだ。
私にはない柔らかくてとても大きな胸は、ぎゅっと抱きしめられると息が苦しくなるので、できればほどほどにしてほしい。
魔術師様は基本的に無口だけど、たまに魔法の使い方の助言をしてくれる。
「…魔力量があったらもっと教えてやれるのだが」
そう言いつつもより効率のよい使い方を教えてくれる。
私ももっと習得したいとは思うけど、一般的に貴族に比べて平民は魔力量が少ないからこればかりはしかたない。
魔王討伐パーティの面々は旅の途中ということで地味な服装にしているとはいえ、にじみ出る気品はやはり注目を浴びてしまう。
「おい、お前もこっちに来て一緒に食えよ」
隅の方のテーブルでひっそり食べようと思っていたのに、勇者様に声をかけられた。
「え、でも」
躊躇していると勇者様に手をひっぱられて座らされる。
「お前だって一緒に旅する仲間なんだから遠慮なんかすんなって」
「そうですわ。ほら、食事はみんなで楽しく食べた方が美味しいでしょう?」
聖女様の微笑みがまぶしい。
「そうそう、これから長い旅をともにするのだから、気を遣う必要などありませんよ」
みんなより年上の賢者様が穏やかに言う。
「…みんなの言うとおりだ」
魔術師様がぼそっと言った。
「わかりました。ご一緒させていただきます」
面倒なのでさっさとあきらめることにした。
ただ、宿自慢の食事はとても美味しかったけど、私以外の食事の所作があまりに見事で、つい音を立ててしまう自分がだんだん恥ずかしくなってきた。
やっぱり次からは別のテーブルにしてもらおうかな。
「どうした?元気がないな。何か食べられないものでもあったか?」
勇者様に声をかけられる。
「あ、あの、料理はとても美味しいです。ただ、私の食事の所作がひどいなって思って、ちょっと落ち込んだだけなので…」
正直に白状してうつむく。
「気にすることはありませんよ。我々は幼い頃から叩き込まれていますから所作がなかなか抜けませんが、こういう場ではもっと雑でもよいのかもしれませんね」
賢者様がそう言ってくださった。
「そうですわね。旅が進めば野営も増えてくることでしょうから、所作など気にしなくてもよいと思うのですが、もしどうしても気になるというのなら、これから気をつければよいだけのこと。私でよろしければお教えいたしますわ」
微笑む聖女様。
魔術師様は無言でただうなずいている。
「ほら、そういうことだから遠慮せずしっかり食べろ。たくさん食べないと大きくなれないぞ」
「失礼な!これでも成人してますっ!!」
よく子供と間違えられるくらい小柄なのを気にしてるのに頭にくるなぁ。
勇者様に反論してから口の中に肉を放り込んだ。
旅は順調に進んでいる。
冒険者ギルドの協力で宿の確保も問題なくできているし、今後の野営に向けての食材調達も順調だ。
まぁ、野営になれば狩りや採取で現地調達するけどね。
このパーティには聖女様と魔術師様がいるけれど、いざという時のためのポーション類も確保してある。
そしてもちろんしっかり帳簿もつけている。
遠征費用は王宮もちだけど、出所は税金なんだから無駄遣いはしたくない。
そのことは魔王討伐パーティの面々にも理解してもらっている。
もちろん私的な買い物で私費を使うのは干渉しないけどね。
ちなみに野生の動物や魔獣を退治することもあるので、不定期ではあるが収入もある。
冒険者ギルドが通達してくれたおかげで、割高で買取りしてもらえるのはありがたい。
魔王討伐パーティの面々はみんないい人で、貴族でありながら偉そうにすることもなく、ただの雑用係の私にも親切にしてくれる。
移動や休憩時にはいろんな雑談もするようになった。
賢者様はこの中で唯一の既婚者だが、政略結婚のため互いに関わることも少ないそうで、長期の不在を告げてもあっさりとしたものだったらしい。
これから関わる魔族や魔王領についてだけでなく、歴史や天文などいろんなことを教えてくれる。
「知識はいくらあっても邪魔にはなりませんからね。それにこうして誰かに話すのも楽しいのです」
賢者様はまるで歩く図書館だと思う。
王都で生まれ育って大聖堂での生活が長かった聖女様は、初めて見る田舎の景色がめずらしいらしく、移動中は終始興奮気味だ。
そしてちょっと困ったこともある。
「私、ずっと妹が欲しかったのですわ」
男の兄弟しかいなかったそうで、やたらと私をかまいたがるのだ。
私にはない柔らかくてとても大きな胸は、ぎゅっと抱きしめられると息が苦しくなるので、できればほどほどにしてほしい。
魔術師様は基本的に無口だけど、たまに魔法の使い方の助言をしてくれる。
「…魔力量があったらもっと教えてやれるのだが」
そう言いつつもより効率のよい使い方を教えてくれる。
私ももっと習得したいとは思うけど、一般的に貴族に比べて平民は魔力量が少ないからこればかりはしかたない。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!
甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・
悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます
下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。
悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。
悪役令嬢は諦めも早かった。
ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。
ご都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?
石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。
彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。
夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。
一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。
愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる