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始まりの街
しおりを挟む目が覚めると、先程と同じ草原が広がっていた。
「夢じゃない…か」
自嘲気味にポツリと呟くと、俺はサッと立ち上がった。
今はもう、この世界に慣れることからだ。
俺はまだこの世界のことを何も知らないから、だから少しずつ情報を集めていこうと思う。
ひいては、この新しい世界でめいいっぱい楽しもうと思う。
そうと決まれば、まずは、このだだっ広い草原を抜けることからだ。
俺は、どうせ異世界だしアイテムボックスとかがあるんだろ?と思いながら「アイテムボックス」と唱えてみると案の定出てきたので、そこに先程どこかから出現した剣をしまった。(念じたらできた)
そして、何処まで続くか分からない草原を歩き出した。
行けども行けども草ばかり、本当に抜けられるのか、些か不安になってきた。
それからまた1時間程歩きに歩きながら、ようやく町らしき場所へと辿り着くことができた。環濠集落のような何本もの丸太の柵が周りを取り囲んでいるのが、遠くからでも確認できる。
丸太で囲われた柵へと近づくと2人の男性がいて、その後ろには頑丈そうな壁がそびえ立っていた。
正門らしき場所まで行くと、看板に『始まりの街』と書いてあった。
取り敢えず、近くにいた男に声をかけてみる。
「あの…」
「うん?…見ない顔だな…それに服装も変わってる、おいお前どこから来たんだ?」
軽く2mはありそうな筋骨隆々のおじさんが、声をかけてきた。
「あ、えっと…」
日本なんて言って果たして通じるんだろうか?
ん?と訝しむように俺を見るおじさんに俺は「日本から、きました」と言うと、案の定おじさんは「ニホン~?そんなとこ聞いたことないな…」と首をひねられた。
だが深く掘り下げられても困るため、俺は話題をそらし、おじさんを急かした。
「あの、この門、通ってもいいですか?」
「あ、あぁいいぞ、カード見せな」
へ、カード?…もしかして異世界定番の通行許可書みたいなものだろうか?
あー、やば、それ持ってないよおじさん、どうしようか。新しく作ってもらえるんだろうか、まぁとりあえず聞いてみるか。
「あの、旅の途中で無くしてしまったのですが、再発行は可能でしょうか」
少し眉を下げ、如何にも困った風を装い言ってみた。
「あー、悪いが再発行はここじゃ出来ねぇよ、仮発行はできるけどな、だからこの先にあるギルドに行って作ってもらうといい」
おぉ!ギルド!益々異世界っぽいぞ!
「いえ、大丈夫です、仮発行はどうすればいいですか?」
「この紙に触れてくれ、それだけでいい」
そう言って、おじさんは懐から1枚の白い紙を取りだした。
「それは?」
「これか?…これはな、触れるだけで犯罪を冒したかそうでないかが分かる特殊な魔法紙だ」
へー、そんな便利なものが、またまた異世界っぽい。その紙くれないかな?と思ったが…やっぱりいらないかと考えを改めた。
俺はちょんっと人差し指をおじさんが持つ魔法紙とやらに持っていき、触れた。
しかし、色が変色することも、ましてや破けることもなく、紙は元のままだった。
「おし、大丈夫だな…それじゃあこれを持って行け」
おじさんは先程の紙をしまい、今度は和紙で出来たような粗めの茶色っぽい紙を渡された。
「これが仮登録証だ、この先にあるギルドで発行してもらうといい」
「分かりました、どうもありがとうございます」
「いやいや、いいってことよ、お前さんみたいなべっぴんさんと話せて俺も楽しかったからよ」
「…ん?」
そう言っておじさんは反対側にいるこれまた2m越えのおじさんに目で合図を出し、門を開けた。
「それじゃ嬢ちゃん」
「はいまた……って、え?」
は?…嬢ちゃん…嬢ちゃんだって!?誰が!?
「あの!…俺男ですよ?」
「はぁ!?そんな馬鹿な!!何かの冗談だろ?」
「いやいや、れっきとした男ですって、なんなら脱ぎましょうか?」
「あぁ!?お、おいやめろ!?只でさえ緊張してるのに、おじさん鼻血吹いてぶっ倒れるぞ?いいのか?」
「はぁ??」
さっきから言っている意味が分からない、百歩譲って女顔なら分かるが、俺は別に女顔じゃない。
身長だって190近くはあるから、とてもじゃないが女性には見えないだろう。
「いいか、もし、億が一、お前さんが男だとしたら気をつけるんだぞ、絶対だからな!」
「は、はぁ…」
この人さっきからなんなんだろ。
「おい、今呆れただろ…いいか、お前さんみたいな田舎から来た奴は分からないかもしれないが、ここからは勝手が違う、貞操を奪われたくなければ顔を隠すことだ」
「は、はい」
おじさんの余りの迫力に、条件反射気味に返事をしてしまった。というか田舎者って、ニホンは田舎じゃないぞ、それとも俺が来たあの草原は田舎なのか…。まぁ確かに民家のひとつもなかったが。
ていうかLv50もある高ランクエリアだったんだから、討伐とか行ったりしないの?それともドラゴンなんて伝説上の生き物で誰も信じてないとか、それか倒せる力がそもそもこの世界の人間には無いのか…まぁ今考えても仕方ないし、切り替えよう。
俺が眉を寄せながら一人悶々と考えていると、おじさんが再び話しかけてきた。
「ほら、この外套やるから着て行くといい」
「へ?…あ、ありがとうございます」
何やら知らない間に話が進み、プチトリップから帰ってきてみれば、外套を差し出された。
仕方ないのでおじさんから外套を受け取りお礼を言うと、今度こそ門を通してくれた。
門を通り抜けると、そこには別世界が広がっていた。
煉瓦造りの建物、賑わう露店、行き交う多種多様な衣服を身に付けた人々。
その全てが俺にとっては別世界で、あまりの光景に息を飲んだ。
一歩、足を踏み出す。
2歩、3歩、4歩と、足元も見ずに視界をめぐらせながらおどろおどろに歩いた。
まるでおのぼりさんだ。
自分でもそう思う。
でもこの興奮をどう表現していいか分からなかったんだ。
人々の声が聞こえる。
とても、とても、楽しそうだ。
「これが…異世界…」
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