11 / 13
11 悪魔との対決
しおりを挟む
とっぷりと日も暮れて、空がわずかなオレンジ色から闇色へと変わる中、私と王太子は離れがたく、王宮の階段にいた。
「シンシア」
「殿下」
手を握りあい、熱く見つめ合う私たち。
恋人みたい。
元々婚約者なんだから、いいよね?
でも。
こんなに幸せでいいのかな?
私は急接近する王太子との仲に急に不安を感じ始めた。
そうよ、忘れてはいけない。
あの邪悪なケリーがこのまま大人しくしているはずがない。
その私の勘は不幸にも的中した。
どおおおん!!
突如、空から巨大な黒い塊が落ちて来た。
轟音とともにもうもうと土煙が立つ。
「えっ!何!?」
「あれは何だ!?」
王太子が指差す方向に、暗い空を背にぬうっと立ち上がる大きな獣のような体が見えた。
頭にヤギのように巻いた大きな角。
赤く光るよどんだ目。
獰猛な牙。
「悪魔だああ!!!!」
周囲から誰かの悲鳴が次々と聞こえてくる。
「シ ン シ ア ド コ ニ イ ル」
ビリビリと耳をつんざく不快な声。
私を探してる──!?
「デ テ コ イ」
悪魔は口から魔光線を吐いた。
ドガン!
一拍おいて塔が一つ消し飛んだ。
「きゃああああ!」
「うわあああ!!!」
火の海だ。
空が赤く侵食され、阿鼻叫喚が辺りに満ちる。
「みんな逃げろ!!衛兵は王陛下を守って避難させよ!!」
王太子が皆に命令する。
「さあ、私たちも早く行こう!」
王太子が私の手を引こうとする。
『今逃げれば、殿下と一緒にいられる』
一瞬、そんな考えが私をとらえた。
でも──
悪魔によって次々と王宮が破壊されている。このまま悪魔を野放しにすれば、王国は滅びてしまうだろう。
王太子のまっすぐな青い目を見返し私は覚悟を決めた。
「殿下、先に逃げてください」
「何を馬鹿なことを言っている!?」
王太子は仰天して私を見る。
あの悪魔は私を探している。声が聞こえた。たぶん私だけに。
その証拠に、私の耳からつーっと血が滴った。
ぐるりと周りを見回していた悪魔の目がついに私をとらえた。
すぐさまこちらに向かって魔光線が放たれる。
ドガガガ!!
とっさに王太子が私をかばって覆い被さった。
すぐそばの城の壁が消し飛んだ。
「うあ!」
運悪く、壁の煉瓦が王太子の右足を直撃した。
「殿下!大丈夫ですか!!」
右足を抑える殿下の手の隙間から血が滲み始める。
「大変!!」
「大丈夫だ…」
蒼白な顔で殿下は痛む足を無理やり引き起こし、私の手をつかんだ。
「早く逃げよう!」
殿下はそう言ってくれるけど、私と一緒にいたら殿下に命の保証はない。
だから。
だからごめんなさい。
私は王太子の手を振り解き、駆けつけて来た衛兵の方向へ王太子を突き飛ばした。
「衛兵のみなさん!殿下を安全な場所へ!!!」
私の号令で衛兵たちが王太子を取り囲む。
「どけ!!待ってくれシンシア!!」
衛兵を押しのけて私の方に来ようとする王太子を衛兵たちが羽交い締めにして止める。
「いけません殿下!危険です!!殿下はこの国に必要なお方、何が何でも生き延びるのです!!」
衛兵が怒鳴るように王太子を説得する。
「違う!それはシンシアの方だ!深い慈愛の心を持つシンシアこそ、この国に必要なのだ!!!」
私は王太子の叫びにたまらなくなって引き返し、その胸に飛び込んだ。
「戻って来てくれたのか…?」
王太子が涙声で言う。
「殿下…私を好きになってくれて、本当にありがとう」
「シンシア…」
短い間だったけど、愛される喜びを知ることができた。
だからこそ、この人を守りたい。
想いを込めて私は王太子を抱きしめた。
これが私から王太子への最後の抱擁だった。
私は王太子を羽交い締めにしている衛兵に「殿下を頼みます」と耳打ちし、さっと王太子に背を向けた。
「嫌だ、シンシア行かないでくれ!!!!」
王太子の悲痛な声を涙を飲んで振り切り、私はある方向へと走り出した。
「シンシア」
「殿下」
手を握りあい、熱く見つめ合う私たち。
恋人みたい。
元々婚約者なんだから、いいよね?
でも。
こんなに幸せでいいのかな?
私は急接近する王太子との仲に急に不安を感じ始めた。
そうよ、忘れてはいけない。
あの邪悪なケリーがこのまま大人しくしているはずがない。
その私の勘は不幸にも的中した。
どおおおん!!
突如、空から巨大な黒い塊が落ちて来た。
轟音とともにもうもうと土煙が立つ。
「えっ!何!?」
「あれは何だ!?」
王太子が指差す方向に、暗い空を背にぬうっと立ち上がる大きな獣のような体が見えた。
頭にヤギのように巻いた大きな角。
赤く光るよどんだ目。
獰猛な牙。
「悪魔だああ!!!!」
周囲から誰かの悲鳴が次々と聞こえてくる。
「シ ン シ ア ド コ ニ イ ル」
ビリビリと耳をつんざく不快な声。
私を探してる──!?
「デ テ コ イ」
悪魔は口から魔光線を吐いた。
ドガン!
一拍おいて塔が一つ消し飛んだ。
「きゃああああ!」
「うわあああ!!!」
火の海だ。
空が赤く侵食され、阿鼻叫喚が辺りに満ちる。
「みんな逃げろ!!衛兵は王陛下を守って避難させよ!!」
王太子が皆に命令する。
「さあ、私たちも早く行こう!」
王太子が私の手を引こうとする。
『今逃げれば、殿下と一緒にいられる』
一瞬、そんな考えが私をとらえた。
でも──
悪魔によって次々と王宮が破壊されている。このまま悪魔を野放しにすれば、王国は滅びてしまうだろう。
王太子のまっすぐな青い目を見返し私は覚悟を決めた。
「殿下、先に逃げてください」
「何を馬鹿なことを言っている!?」
王太子は仰天して私を見る。
あの悪魔は私を探している。声が聞こえた。たぶん私だけに。
その証拠に、私の耳からつーっと血が滴った。
ぐるりと周りを見回していた悪魔の目がついに私をとらえた。
すぐさまこちらに向かって魔光線が放たれる。
ドガガガ!!
とっさに王太子が私をかばって覆い被さった。
すぐそばの城の壁が消し飛んだ。
「うあ!」
運悪く、壁の煉瓦が王太子の右足を直撃した。
「殿下!大丈夫ですか!!」
右足を抑える殿下の手の隙間から血が滲み始める。
「大変!!」
「大丈夫だ…」
蒼白な顔で殿下は痛む足を無理やり引き起こし、私の手をつかんだ。
「早く逃げよう!」
殿下はそう言ってくれるけど、私と一緒にいたら殿下に命の保証はない。
だから。
だからごめんなさい。
私は王太子の手を振り解き、駆けつけて来た衛兵の方向へ王太子を突き飛ばした。
「衛兵のみなさん!殿下を安全な場所へ!!!」
私の号令で衛兵たちが王太子を取り囲む。
「どけ!!待ってくれシンシア!!」
衛兵を押しのけて私の方に来ようとする王太子を衛兵たちが羽交い締めにして止める。
「いけません殿下!危険です!!殿下はこの国に必要なお方、何が何でも生き延びるのです!!」
衛兵が怒鳴るように王太子を説得する。
「違う!それはシンシアの方だ!深い慈愛の心を持つシンシアこそ、この国に必要なのだ!!!」
私は王太子の叫びにたまらなくなって引き返し、その胸に飛び込んだ。
「戻って来てくれたのか…?」
王太子が涙声で言う。
「殿下…私を好きになってくれて、本当にありがとう」
「シンシア…」
短い間だったけど、愛される喜びを知ることができた。
だからこそ、この人を守りたい。
想いを込めて私は王太子を抱きしめた。
これが私から王太子への最後の抱擁だった。
私は王太子を羽交い締めにしている衛兵に「殿下を頼みます」と耳打ちし、さっと王太子に背を向けた。
「嫌だ、シンシア行かないでくれ!!!!」
王太子の悲痛な声を涙を飲んで振り切り、私はある方向へと走り出した。
339
お気に入りに追加
389
あなたにおすすめの小説

【完結】真実の愛のキスで呪い解いたの私ですけど、婚約破棄の上断罪されて処刑されました。時間が戻ったので全力で逃げます。
かのん
恋愛
真実の愛のキスで、婚約者の王子の呪いを解いたエレナ。
けれど、何故か王子は別の女性が呪いを解いたと勘違い。そしてあれよあれよという間にエレナは見知らぬ罪を着せられて処刑されてしまう。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」 これは。処刑台にて首チョンパされた瞬間、王子にキスした時間が巻き戻った少女が、全力で王子から逃げた物語。
ゆるふわ設定です。ご容赦ください。全16話。本日より毎日更新です。短めのお話ですので、気楽に頭ふわっと読んでもらえると嬉しいです。※王子とは結ばれません。 作者かのん
.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.ホットランキング8位→3位にあがりました!ひゃっほーー!!!ありがとうございます!

捨てられた騎士団長と相思相愛です
京月
恋愛
3年前、当時帝国騎士団で最強の呼び声が上がっていた「帝国の美剣」ことマクトリーラ伯爵家令息サラド・マクトリーラ様に私ルルロ侯爵令嬢ミルネ・ルルロは恋をした。しかし、サラド様には婚約者がおり、私の恋は叶うことは無いと知る。ある日、とある戦場でサラド様は全身を火傷する大怪我を負ってしまった。命に別状はないもののその火傷が残る顔を見て誰もが彼を割け、婚約者は彼を化け物と呼んで人里離れた山で療養と言う名の隔離、そのまま婚約を破棄した。そのチャンスを私は逃さなかった。「サラド様!私と婚約しましょう!!火傷?心配いりません!私回復魔法の博士号を取得してますから!!」

無能だと捨てられた王子を押し付けられた結果、溺愛されてます
佐崎咲
恋愛
「殿下にはもっとふさわしい人がいると思うんです。私は殿下の婚約者を辞退させていただきますわ」
いきなりそんなことを言い出したのは、私の姉ジュリエンヌ。
第二王子ウォルス殿下と私の婚約話が持ち上がったとき、お姉様は王家に嫁ぐのに相応しいのは自分だと父にねだりその座を勝ち取ったのに。
ウォルス殿下は穏やかで王位継承権を争うことを望んでいないと知り、他国の王太子に鞍替えしたのだ。
だが当人であるウォルス殿下は、淡々と受け入れてしまう。
それどころか、お姉様の代わりに婚約者となった私には、これまでとは打って変わって毎日花束を届けてくれ、ドレスをプレゼントしてくれる。
私は姉のやらかしにひたすら申し訳ないと思うばかりなのに、何やら殿下は生き生きとして見えて――
=========
お姉様のスピンオフ始めました。
「国を追い出された悪女は、隣国を立て直す」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/465693299/193448482
※無断転載・複写はお断りいたします。

私の以外の誰かを愛してしまった、って本当ですか?
樋口紗夕
恋愛
「すまない、エリザベス。どうか俺との婚約を解消して欲しい」
エリザベスは婚約者であるギルベルトから別れを切り出された。
他に好きな女ができた、と彼は言う。
でも、それって本当ですか?
エリザベス一筋なはずのギルベルトが愛した女性とは、いったい何者なのか?

私の婚約者を狙ってる令嬢から男をとっかえひっかえしてる売女と罵られました
ゆの
恋愛
「ユーリ様!!そこの女は色んな男をとっかえひっかえしてる売女ですのよ!!騙されないでくださいましっ!!」
国王の誕生日を祝う盛大なパーティの最中に、私の婚約者を狙ってる令嬢に思いっきり罵られました。
なにやら証拠があるようで…?
※投稿前に何度か読み直し、確認してはいるのですが誤字脱字がある場合がございます。その時は優しく教えて頂けると助かります(´˘`*)
※勢いで書き始めましたが。完結まで書き終えてあります。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

知らない男に婚約破棄を言い渡された私~マジで誰だよ!?~
京月
恋愛
それは突然だった。ルーゼス学園の卒業式でいきなり目の前に現れた一人の学生。隣には派手な格好をした女性を侍らしている。「マリー・アーカルテ、君とは婚約破棄だ」→「マジで誰!?」

ざまぁを回避したい王子は婚約者を溺愛しています
宇水涼麻
恋愛
春の学生食堂で、可愛らしい女の子とその取り巻きたちは、一つのテーブルに向かった。
そこには、ファリアリス公爵令嬢がいた。
「ファリアリス様、ディック様との婚約を破棄してください!」
いきなりの横暴な要求に、ファリアリスは訝しみながらも、淑女として、可憐に凛々しく対応していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる