婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi

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11 悪魔との対決

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とっぷりと日も暮れて、空がわずかなオレンジ色から闇色へと変わる中、私と王太子は離れがたく、王宮の階段にいた。


「シンシア」

「殿下」


手を握りあい、熱く見つめ合う私たち。


恋人みたい。
元々婚約者なんだから、いいよね?

でも。
こんなに幸せでいいのかな?


私は急接近する王太子との仲に急に不安を感じ始めた。


そうよ、忘れてはいけない。
あの邪悪なケリーがこのまま大人しくしているはずがない。


その私の勘は不幸にも的中した。






どおおおん!!


突如、空から巨大な黒い塊が落ちて来た。
轟音とともにもうもうと土煙が立つ。


「えっ!何!?」

「あれは何だ!?」


王太子が指差す方向に、暗い空を背にぬうっと立ち上がる大きな獣のような体が見えた。



頭にヤギのように巻いた大きな角。
赤く光るよどんだ目。
獰猛な牙。


「悪魔だああ!!!!」


周囲から誰かの悲鳴が次々と聞こえてくる。


「シ ン シ ア  ド コ ニ イ ル」


ビリビリと耳をつんざく不快な声。


私を探してる──!?


「デ テ コ イ」


悪魔は口から魔光線を吐いた。


ドガン!


一拍おいて塔が一つ消し飛んだ。


「きゃああああ!」

「うわあああ!!!」


火の海だ。
空が赤く侵食され、阿鼻叫喚が辺りに満ちる。


「みんな逃げろ!!衛兵は王陛下を守って避難させよ!!」


王太子が皆に命令する。


「さあ、私たちも早く行こう!」


王太子が私の手を引こうとする。


『今逃げれば、殿下と一緒にいられる』


一瞬、そんな考えが私をとらえた。


でも──


悪魔によって次々と王宮が破壊されている。このまま悪魔を野放しにすれば、王国は滅びてしまうだろう。


王太子のまっすぐな青い目を見返し私は覚悟を決めた。


「殿下、先に逃げてください」

「何を馬鹿なことを言っている!?」


王太子は仰天して私を見る。


あの悪魔は私を探している。声が聞こえた。たぶんに。


その証拠に、私の耳からつーっと血が滴った。


ぐるりと周りを見回していた悪魔の目がついに私をとらえた。
すぐさまこちらに向かって魔光線が放たれる。


ドガガガ!!


とっさに王太子が私をかばって覆い被さった。
すぐそばの城の壁が消し飛んだ。


「うあ!」


運悪く、壁の煉瓦が王太子の右足を直撃した。


「殿下!大丈夫ですか!!」


右足を抑える殿下の手の隙間から血が滲み始める。


「大変!!」

「大丈夫だ…」


蒼白な顔で殿下は痛む足を無理やり引き起こし、私の手をつかんだ。


「早く逃げよう!」


殿下はそう言ってくれるけど、私と一緒にいたら殿下に命の保証はない。

だから。

だからごめんなさい。


私は王太子の手を振り解き、駆けつけて来た衛兵の方向へ王太子を突き飛ばした。


「衛兵のみなさん!殿下を安全な場所へ!!!」


私の号令で衛兵たちが王太子を取り囲む。


「どけ!!待ってくれシンシア!!」


衛兵を押しのけて私の方に来ようとする王太子を衛兵たちが羽交い締めにして止める。


「いけません殿下!危険です!!殿下はこの国に必要なお方、何が何でも生き延びるのです!!」


衛兵が怒鳴るように王太子を説得する。


「違う!それはシンシアの方だ!深い慈愛の心を持つシンシアこそ、この国に必要なのだ!!!」


私は王太子の叫びにたまらなくなって引き返し、その胸に飛び込んだ。


「戻って来てくれたのか…?」


王太子が涙声で言う。


「殿下…私を好きになってくれて、本当にありがとう」

「シンシア…」


短い間だったけど、愛される喜びを知ることができた。
だからこそ、この人を守りたい。


想いを込めて私は王太子を抱きしめた。


これが私から王太子への最後の抱擁だった。


私は王太子を羽交い締めにしている衛兵に「殿下を頼みます」と耳打ちし、さっと王太子に背を向けた。


「嫌だ、シンシア行かないでくれ!!!!」


王太子の悲痛な声を涙を飲んで振り切り、私はある方向へと走り出した。





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