亡命聖女─アンデッドを祓える力は内緒だけど、隣の大陸の王陛下が溺愛してくる

nanahi

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33 異国の使者

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夜会のアンデッド騒動以来、王都はローザリアの噂でもちきりだった。


「わしが料理を運ぼうとホールに入った時、死んだはずの女官がむくっと起き上がってな」


ある酒場で、年老いた王宮の召使いが体験談を得意げに披露している。


「なんと恐ろしい!」

「じーさん、それで、それで?」


客たちは召使いの話に興味津々で先を促す。


「あわや陛下がやられそうになった時、聖女様がばっと陛下をかばって女官のアンデッドを倒したんじゃ!何か手の先から魔法を出して女官の胸に大穴を空けて!!」


「すげえ!」

「剣でも倒せなかったんでしょう?信じられない!」


客たちは興奮の最高潮にいた。


「しかもじゃ…」


自分の話に皆が夢中になっているのが嬉しくて、召使いはさらに声を張り上げた。


「アンデッドの爪で切られた聖女様の傷がみるみる治癒したんじゃ!!!」

「ええええ!!」


客全員が驚嘆の声を出す。


「奇跡を起こせるなんて、本当に聖女様なのね!」

「そんな強い力の聖女様がこの国にいてくれて本当によかったなあ!」


浮かれたように騒いでいる客たちに紛れ、一番隅のテーブルに座っていた男がそっと席を立った。


「情報を入手しました」


男は上司の男に耳打ちする。


「よし。バルクレー陛下に急ぎ報告だ」


男たちが乗った船が密かに港を発ち、ジェム大陸に向かった。




--------------------




それから数日経った頃、王宮に思わぬ来訪者が現れた。


「陛下、聞いたことのない国から使者が参りました。陛下とローザリア様に御目通り願いたいと」


書斎で陳情書に目を通していたユークリッドに宰相ネイブが報告に来た。


「ローザリアにも会いたいと?」


これで何件目か。


周辺国から聖女の情報を探りにすでに幾人かの使者が王宮を訪れていた。スフェーン大陸でも稀に聖女が生まれることはあったが、ここ数年は聖女の存在をとんと聞いたことがない。聖女には何かしら役に立つ能力が備わっているので、どの国も聖女を欲していた。


皆、ローザリアを欲しがっている。慎重に対応しなければ。


使者にはユークリッドとネイブが応対し、ローザリアは離れに隠したままにしていた。


「遠国の使者か。通せ」




王の間の玉座に座って待っていると、重い扉が開き、使者二人が入場してきた。大人と子どものようだった。


扉の両脇で控えている兵士に促されると、使者たちは腰にさしてある細長い剣を兵士に預けた。


「見たことのない装束だな」


ユークリッドは彼らの姿に興味を引かれた。

前の襟が交差し、長く幅のある袖。腰から足首まで届くスカートのようなズボン。黒曜石のように黒い髪と眼。その髪は頭の後ろで一つに結われている。

そばに控えているネイブやレオも興味深げに「珍しい民族だ」と呟いている。


「御目通り叶い、感謝」


無駄のない厳格な立ち居振る舞いで、大人の使者がユークリッドに一礼をした。子どもの使者も呼応したように礼をする。


「どこの国から来られた?」


ネイブが質問する。


和音国わおんこく。ずっとずっと東」


彼らは言葉がまだ片言のようだ。


「私、通称大臣。将軍様の命受け、貿易ルート拡大のため、旅、している」


大人の使者は「十条宗太郎」と名乗った。もう一人は「十条一之進」、十条大臣の息子でまだ12歳だという。


「聖女様、会いたい」


一之進が透き通ったまっすぐな黒眼をユークリッドに向けた。ユークリッドの心は揺れた。


困ったな…こんな子どもが頼んでくるなんて。でもダメだ。ローザリアの安全のためにも無闇に人前にさらせない。


「すまないが、ローザリアには会わせられない」

「僕、助けられた、聖女様に。船に、アンデッド、出た」

「何だって?」


ローザリアはこの者たちの船に乗っていたのか?


ユークリッドはローザリアをおもんばかってこれまで過去のことを詮索してこなかったので、彼女の素性をよく知らないままだった。

同じくネイブも、意外な話に驚いている。


ローザリアは先王の知人の娘であるとレオから聞いている。 
おそらく金持ちか高貴な出だろうに、初めて聞く国の船に乗っていたと?


「お礼、言いたい。それと、大事な話、ある」

「大事な話とは?」


ユークリッドもネイブも身を乗り出すように一之進の話に聞き入っている。


「陛下、この辺でいいのではないですか?他の使者の時のように、そろそろ帰っていただきましょう」


ユークリッドの側で控えていたレオが痺れを切らし、声をかけた。


陛下はローザリアのことになると目の色が変わる。これ以上の情報は毒だ。


「会って、言いたい」


一之進はローザリアが来ない限り、これ以上話しそうになかった。


「いいだろう。特別にローザリアに会う許可を出そう」

「陛下…」


謁見を許したユークリッドにレオは失念の声をもらした。レオは早くこの場から使者たちを追い払いたかった。しかし、そんなレオの思いとは裏腹に、ユークリッドは自らローザリアを呼びに行ってしまった。





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