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2章
11話
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バダムと名乗った美青年は、ゲームでは一切出ていなかった。
ネーゼより少し弱い魔力だけど……今まで会ってきた人の中ではずば抜けている魔力を、私は感じ取っている。
アスファはゲームの時点で名前があるけど、攻略キャラではなかった。
主に聖堂内を紹介する人で、一つ年下ということもあって、確かカレンを慕っていたはず。
ゲームのことを思い返していると、バダムが私を見て。
「さて、リリアン様。貴方の実力が見たいのですが……よろしいでしょうか?」
「えっ?」
いきなりバダムがそんなことを言いながら少し離れて、右腕を私に向かって伸ばす。
「私の聖魔力による光の閃光を、聖魔力で防いでください。当たったとしても少し痛い程度、万一のことがあってもゲオルグ様の回復魔法で治せます」
「……バダムとか言ったな。なぜそんなことをしなければならない?」
レックス殿下が私の前に立ち、苛立ちながら尋ねる。
これに関しては私も理解できず困惑していたけど、バダムは表情を変えずに話す。
「リリアン様の力を見たいからですよ……それに、ゲオルグ様の話が信じられません。それほどまで聖魔力が凄いのなら、私が繰り出す聖魔力を打ち消すことは余裕のはずです」
どうやらバダムは、昨日ゲオルグに披露した聖魔力が信じられない様子だ。
周囲の人の視線も、興味深そうにしている様子で……私としても、聖魔力の攻撃を防いでみたいと思っている。
皮膚が切れるのは嫌だけど、それは魔法の模擬戦をしていた授業でも同じぐらい危険だった。
バダムはそこまでおかしなことは言っていないから、私は頷く。
「……わかりました」
今まで聖魔力を巧く扱える人は、家庭教師をしていたネーゼと素質のあるカレンしか居なかった。
ネーゼとカレンは私に対して聖魔力で攻撃をしたことがないから、聖魔力を聖魔力で防ぐ魔法を試したことがない。
聖魔力の魔力場でもある聖堂内だからこそ、私はバダムの攻撃を防ぎたくなっている。
「それでは……始めます!」
そして――バダムは服の袖に仕込んでいた杖を取り出して、白い光を私に向かって放つ。
私に迫る途中で三方向に分離して、私の体を掠めようとしている。
杖を出した私は同じように白い光の閃光を聖魔力で発生させて、聖魔力の閃光が衝突した。
それ以上に――私は打ち消しながら、バダムに迫るよう意識して閃光を放っている。
閃光はバダムの皮膚を掠めて消滅し……バダムは全身を震わせていた。
周囲の魔法士や騎士達から歓声の声があがったのは、バダムが明らかに加減をしていなかったからでしょう。
とてつもない速度で、攻撃が来ると先に言われていなければ、打ち消すだけで精一杯だった。
「リリアンの実力なら当然だが、こいつは正気か?」
レックス殿下は、客人の私に対して本気で魔法による攻撃を行ったことに、かなり引いている様子だ。
そして――驚きながら感動していたバダムは、私に対して笑顔を浮かべる。
「これはゲオルグ様、そしてネーゼの言っていた通り! 素晴らしい魔力です!!」
その叫び声を聞いて……私と、私の昔話を聞いていたカレンは納得する。
どうやらこの人は、ネーゼの関係者らしい。
ゲームでは一切説明がなかったネーゼは、アークス国でもトップクラスの魔法士だと聞いている。
そしてネーゼは私の魔力と魔法を知っているから、知り合いに私のことを話してもおかしくない。
その知り合いが隣の大陸に居たバダムで……知ったからこそ聖堂にやって来て、試してみたくなったのでしょう。
私が以前やらかしたせいで、ゲームと違う出来事が起きてしまった。
「リリアン様とレックス様、そしてロイ様……貴方達のことは、ネーゼから聞いています」
「お前、ネーゼの知り合いか?」
レックス殿下が尋ねると、バダムは優美な一礼を見せて。
「その通りです。僅か十代であのネーゼと互角の魔力を宿していると聞いた時は半信半疑でして……どうしても試してみたくなってしまい、失礼致しました」
「何かあったとしても私が治すつもりだったが、何もなくてなによりだ! これで皆もリリアンさんの凄さを理解できたようだしな!」
そう言って――ゲオルグから、バダムとアスファの説明を聞く。
どうやらアスファは私の護衛をしてくれるようで、行動を同じにするロイとカレンの護衛をしている人がやって来る。
ゲオルグの説明によると……ロイとカレンの護衛に関しては、余裕のある騎士の人が行うらしい。
「魔法の書庫には、一部の者しか入れない場所があるが、リリアンさんはそこで学ぶべきだと判断して皆の許可は私が出しておいた。それでも、恐らくリリアンさんしか理解できない内容だろう」
どうやらそれが、私にだけアスファを護衛にする理由らしい。
カレンとロイは普通に魔法を覚えるべきだからこそ、別の人が護衛をするようだ。
そしてバダムは、私を眺めながら話す。
「明日から私が、リリアン様に様々な聖魔力による魔法を教えようと考えています」
「バダムは聖堂でも特に優秀な魔法士だ。私は試練があるからあまり関われないが、バダムに任せようと考えている」
どうやら私の魔法の素質を見て、ゲオルグもバダムも色々と教えたくなった様子だ。
私としても、大賢者ゲオルグが認めているバダムから襲われるのなら、ありがたい機会だと思うしかない。
「ゲオルグ様、バダム様……ありがとうございます」
私がゲオルグとバダムにお礼を言うと、ゲオルグはアスファの肩を叩く。
「このアスファは、十五歳で騎士となった優秀な護衛で、騎士だが誰にも仕えていない」
騎士になると、誰かに仕えることになるはずだけど、アスファは例外だったわね。
そう考えていると、ゲオルグが理由を話してくれる。
「アスファは若いからな。より強くなってから、相応しい者に仕えてもらおうと考えている」
「リリアン様、よろしくお願いいたします」
「はい。よろしくお願いします」
「……俺より一つ年下で、騎士になるほどの実力者か」
アスファの挨拶を聞くと、レックス殿下は対抗心を燃やしている。
そして――聖堂での生活が、始まろうとしていた。
ネーゼより少し弱い魔力だけど……今まで会ってきた人の中ではずば抜けている魔力を、私は感じ取っている。
アスファはゲームの時点で名前があるけど、攻略キャラではなかった。
主に聖堂内を紹介する人で、一つ年下ということもあって、確かカレンを慕っていたはず。
ゲームのことを思い返していると、バダムが私を見て。
「さて、リリアン様。貴方の実力が見たいのですが……よろしいでしょうか?」
「えっ?」
いきなりバダムがそんなことを言いながら少し離れて、右腕を私に向かって伸ばす。
「私の聖魔力による光の閃光を、聖魔力で防いでください。当たったとしても少し痛い程度、万一のことがあってもゲオルグ様の回復魔法で治せます」
「……バダムとか言ったな。なぜそんなことをしなければならない?」
レックス殿下が私の前に立ち、苛立ちながら尋ねる。
これに関しては私も理解できず困惑していたけど、バダムは表情を変えずに話す。
「リリアン様の力を見たいからですよ……それに、ゲオルグ様の話が信じられません。それほどまで聖魔力が凄いのなら、私が繰り出す聖魔力を打ち消すことは余裕のはずです」
どうやらバダムは、昨日ゲオルグに披露した聖魔力が信じられない様子だ。
周囲の人の視線も、興味深そうにしている様子で……私としても、聖魔力の攻撃を防いでみたいと思っている。
皮膚が切れるのは嫌だけど、それは魔法の模擬戦をしていた授業でも同じぐらい危険だった。
バダムはそこまでおかしなことは言っていないから、私は頷く。
「……わかりました」
今まで聖魔力を巧く扱える人は、家庭教師をしていたネーゼと素質のあるカレンしか居なかった。
ネーゼとカレンは私に対して聖魔力で攻撃をしたことがないから、聖魔力を聖魔力で防ぐ魔法を試したことがない。
聖魔力の魔力場でもある聖堂内だからこそ、私はバダムの攻撃を防ぎたくなっている。
「それでは……始めます!」
そして――バダムは服の袖に仕込んでいた杖を取り出して、白い光を私に向かって放つ。
私に迫る途中で三方向に分離して、私の体を掠めようとしている。
杖を出した私は同じように白い光の閃光を聖魔力で発生させて、聖魔力の閃光が衝突した。
それ以上に――私は打ち消しながら、バダムに迫るよう意識して閃光を放っている。
閃光はバダムの皮膚を掠めて消滅し……バダムは全身を震わせていた。
周囲の魔法士や騎士達から歓声の声があがったのは、バダムが明らかに加減をしていなかったからでしょう。
とてつもない速度で、攻撃が来ると先に言われていなければ、打ち消すだけで精一杯だった。
「リリアンの実力なら当然だが、こいつは正気か?」
レックス殿下は、客人の私に対して本気で魔法による攻撃を行ったことに、かなり引いている様子だ。
そして――驚きながら感動していたバダムは、私に対して笑顔を浮かべる。
「これはゲオルグ様、そしてネーゼの言っていた通り! 素晴らしい魔力です!!」
その叫び声を聞いて……私と、私の昔話を聞いていたカレンは納得する。
どうやらこの人は、ネーゼの関係者らしい。
ゲームでは一切説明がなかったネーゼは、アークス国でもトップクラスの魔法士だと聞いている。
そしてネーゼは私の魔力と魔法を知っているから、知り合いに私のことを話してもおかしくない。
その知り合いが隣の大陸に居たバダムで……知ったからこそ聖堂にやって来て、試してみたくなったのでしょう。
私が以前やらかしたせいで、ゲームと違う出来事が起きてしまった。
「リリアン様とレックス様、そしてロイ様……貴方達のことは、ネーゼから聞いています」
「お前、ネーゼの知り合いか?」
レックス殿下が尋ねると、バダムは優美な一礼を見せて。
「その通りです。僅か十代であのネーゼと互角の魔力を宿していると聞いた時は半信半疑でして……どうしても試してみたくなってしまい、失礼致しました」
「何かあったとしても私が治すつもりだったが、何もなくてなによりだ! これで皆もリリアンさんの凄さを理解できたようだしな!」
そう言って――ゲオルグから、バダムとアスファの説明を聞く。
どうやらアスファは私の護衛をしてくれるようで、行動を同じにするロイとカレンの護衛をしている人がやって来る。
ゲオルグの説明によると……ロイとカレンの護衛に関しては、余裕のある騎士の人が行うらしい。
「魔法の書庫には、一部の者しか入れない場所があるが、リリアンさんはそこで学ぶべきだと判断して皆の許可は私が出しておいた。それでも、恐らくリリアンさんしか理解できない内容だろう」
どうやらそれが、私にだけアスファを護衛にする理由らしい。
カレンとロイは普通に魔法を覚えるべきだからこそ、別の人が護衛をするようだ。
そしてバダムは、私を眺めながら話す。
「明日から私が、リリアン様に様々な聖魔力による魔法を教えようと考えています」
「バダムは聖堂でも特に優秀な魔法士だ。私は試練があるからあまり関われないが、バダムに任せようと考えている」
どうやら私の魔法の素質を見て、ゲオルグもバダムも色々と教えたくなった様子だ。
私としても、大賢者ゲオルグが認めているバダムから襲われるのなら、ありがたい機会だと思うしかない。
「ゲオルグ様、バダム様……ありがとうございます」
私がゲオルグとバダムにお礼を言うと、ゲオルグはアスファの肩を叩く。
「このアスファは、十五歳で騎士となった優秀な護衛で、騎士だが誰にも仕えていない」
騎士になると、誰かに仕えることになるはずだけど、アスファは例外だったわね。
そう考えていると、ゲオルグが理由を話してくれる。
「アスファは若いからな。より強くなってから、相応しい者に仕えてもらおうと考えている」
「リリアン様、よろしくお願いいたします」
「はい。よろしくお願いします」
「……俺より一つ年下で、騎士になるほどの実力者か」
アスファの挨拶を聞くと、レックス殿下は対抗心を燃やしている。
そして――聖堂での生活が、始まろうとしていた。
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