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がつ子、曲がるつもりのない曲がり角を曲がる
6.
しおりを挟む「今夜はお酒、たくさん飲みましたし、こういうことってその――」
「中折れ」
「ええ、それです。なか、折れってその、珍しいことじゃありませんし」
抱き合い頬をすりつけ合っている、つまり目が合わず表情が読まれないのをいいことに樹子は言い切った。
珍しいことではない。そうかもしれないが実際中折れ現象に遭遇したのは初めてだ。
経験は元カレひとりのみ。当時十九歳の元カレのブツはいつもつんつんしていた。持続時間が取り立てて長い印象でもなかったが復活までの時間も短い。若かったからといってしまえばそれまでだが。男性の局部はいざとなれば臨戦態勢になっているものだった。それが当たり前だと思っていた。
なかなかに切ないものだ。自分の色気の欠如をブツの勢いで評価されることになるとは。
「すみません。私が至らないばかりに……」
「違う! そうじゃない。きみは悪くない。仕事熱心で覚えもいい」
「はあ」
全裸で抱き合いながら未遂で終わったセックスと関係ない仕事の評価をされるとは思わなかった。その話、今しなきゃいけないんだろうか。
「それに美人できりっとしてかっこよくて、優しくて、声が少し低めなところも、すごくいいなって。きみには好きな人がいるから、諦めないとって思ってたけど、いつもはクールなのに俺の上で腰を振って、もうたまらなくて――――好きなんだ、きみのことが。でもさっきみたいに元カノのときも、中折れしてしまって、それで駄目になってしまって――実は俺」
広居主任の声が震えた。耳をくすぐる吐息が曇る。
「去年までその、未経験で」
なるほど。――なるほど? ちょっと前まで童貞だったってこと?
ほうぼうで女をあんあんいわせてきた猛者のごとき面構えをしていながらつい数ヶ月前まで清らかだったというのか。にわかには信じられない。
聞けば今年三十歳になる広居主任は中学高校大学と恋人がいたことはいたが手繋ぎハグキス止まりでなんと童貞のままだったという。
そうは見えない。が、樹子の知る広居主任は非童貞以降であって童貞のころの主任を知らない。でもあまり変わらないんじゃないかと思う。
「驚く、よな」
女は性に疎いのがよいとされ、男はその道に通じていて当たり前。そんな風潮が横行していた時代があったという。今はそうでないかというと変化しているとも言い難い。機会がないからと童貞のままでいれば気後れが募り年々ハードルは上がっていく。広居主任は恋愛やらセックスやらに不慣れに見えないだけにお相手の期待値も高かったのだろう。
「だいじょうぶ」
樹子は思わず、自分に覆い被さる巨体を抱き締めた。掌で背中を撫でる。
「だいじょうぶですよ、主任」
「ん……」
頬ずりし、ついばむように繰り返し唇を重ねた。
――だいじょうぶって、何がどうだいじょうぶなんだか。
自分でいっておきながら首を傾げたくなる。
おだやかなキスは快かった。欲情を煽るより親しみ、慈しみあうために唇を重ねるうちに樹子は逞しい腕の中で眠りに落ちた。
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