運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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2 暗黒騎士と鍵穴編

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 私は開口一番、この言葉を吐き出した。

「気分が悪い」

「同感だなぁ」

 ヴァンフェルム団長も同じ意見のようだ。エクィウス団長は自分の拳で頭を叩いている。

 クラヴィスの告白で、隊長やクラウドはようやく今回の事件の話を消化できたようだ。

「酷い魔導師だな。杖精を自分の目的のために作り上げたくせに、上手くいかなければ封印するとは。無責任過ぎないか?」

「まったくだ。いったい誰なんだ? そいつが諸悪の根元だろう。さっさとあの杖精を吐かせて捕まえないと!」

 隊長二人は元気に息巻いている。

 ヤレヤレという表情で二人を見るエクィウス団長は、何も語らなかった。

「えーっと、隊長たちは分からないんですね」

「ルベラス魔術師殿は、あれだけで誰が白髪を作ったのかが分かるのか?」

「本当か、エルシア? いったい、どいつだ?」

 隊長二人が元気に食いついてくる。

 ヤレヤレという表情で二人を見るヴァンフェルム団長は、ボソッとつぶやいた。

「聞かない方がいいと思うなぁ」

「なんでですか、ヴァンフェルム団長! ここは第二と第三が協力して、なんとしてでも捕まえないと!」

「そうですよ、団長!」

「三年前と今回の犯人が分かって捕まえられた、これで良いんじゃないかなぁ」

 ヴァンフェルム団長ののんびりとしたつぶやきを、エクィウス団長だけが「だな」と肯定する。

 その四人の様相を見て、クラウドもつぶやいた。

「なぁ、エルシアはどう思う?」

「気分が悪い話には変わりがないんじゃない?」

「まぁ、そうだよな」

 黒幕探しに消極的な団長たちと積極的な隊長たちの対立は、この後、しばらく続くのだった。




 対立の発端はもちろん、クラヴィスの告白で、

「三年前にあったことを含めて、順を追って説明する」

 と言って、裏事情やら裏情報やらいろいろなものを暴露しまくった。

「地盤の魔力を吸い上げる魔導具を利用して、鍵穴の円陣を作る。
 これはその魔導師が考え出した。それまでの転送魔法陣では、転送できる量に限りがあるし、固定した二ヶ所を行ったり来たりするだけだったから」

 その魔導師にとって、魔導オーブン第一号は調理具ではなく魔導具だった、ということがこの話でよく分かる。

 最初は調理具だったんだろうけど、魔力菓子を捧げる人がいなくなり、目的を失ったんだ。きっと。

「魔力菓子は、この白髪の杖精の魔力の供給源だ。魔力菓子を食べて魔力を補給し鍵穴を作る。これを繰り返す」

 タルト消失事件と、タルト消失現場での小さい穴の話が、これでしっかりと繋がった。
 穴が開いたところでタルトがなくなったわけではなく、タルトを食べて穴を開けてたと。

 フルヌビの初代が亡くなった話とはどう繋がるのかが、ちょっと分からない。

「今回の転送陣は、一つの入り口から、自由に好きな場所に行けるという画期的なものだという話で。
 入り口を開く準備の最中、魔法陣の術式が書き換わっていることに気がついたんだよ。空間ではなく時間を標的にした魔法陣だったんだ」

 うん、上手い話には裏がある。

 クラヴィスが考えなしだったわけじゃなく、相手が常識なしだった。これに尽きると思う。しかも、天才的にクズな常識なしだ。

 クラヴィスも話に熱が入ってくる。

「魔導師がやろうとしていたのは、過去の人や物を今に持ってくること。そんなことをしたら、時間の均衡が崩れてしまう。だから僕は止めようとしたんだ」

 魔導師が天才的なクズであるなら、過去から持ってきたいものは一つ。

 それに思い至って私は呆れた。呆れた以上に頭が痛くなってきた。吐き気もする。気分が悪いなんてものじゃなかった。

 そりゃあ、私だって願わなくはなかったけど。やっていいことと、やってはいけないことがある。

「ちょうどそのとき」

 ここで、クラヴィスの口調が非難するものから、悲しみに満ちたものに変わる。

「この白髪の杖精が、魔力菓子と間違え、魔力菓子の製作者の腕を食べてしまって。
 人間を食べる魔導具だということで、魔導師は計画を諦めて、この杖精を封印したんだよ」

 え?!

「魔力菓子と人間の腕は似ても似つかないんだが」

 エクィウス団長の唖然としたような突っ込みに、クラヴィスは静かに答えた。

「魔力菓子製作者の腕から、おそらく魔力菓子の匂いでもしたんだろうな」

 ええ?! 理由があまりにも、って感じで言葉が出ない。

「だからって腕と菓子を間違えるか?」

「最初に言っただろう。無理やり短期間で作りあげた杖精だから、いろいろなものがおかしく出来上がったって」

 あぁ。

 私は絶句した。いやいや、元々、何も余計なことは喋らず静かにやりとりを聞いてただけではあるけど。

 フルヌビの初代が亡くなった原因が、常識を教えられずに育った杖精の仕業だったなんて。

 この場にいる全員が悲痛な表情を浮かべた。

 それでも、ようやく犯人が分かってちょっとすっきりする。

「魔導師にとって重要なのは杖精の能力であって、杖精の一般常識や倫理観はどうでも良かったんだよ」

 クラヴィスは悲しそうな、やるせなさそうな表情を浮かべていた。

「そしてついこの前。この杖精が封印されていた建物が倒壊して封印が解けた」


 ビクッ


 私は団長たちや隊長たちの顔を見た。

 団長たちも隊長たちも私の顔を見てる。クラウドまで見てた。無言で。

 うん、言葉にしなくても言いたいことは分かってる。

 王宮魔術管理部の建物だ。

 あれが倒壊した日からタルト消失事件が再開した。うん、あそこに白髪の杖精は封印されてたのか、納得納得。

 て。

 みんなして、お前が壊したせいか!みたいな顔するの、止めてくれないかな?!

 あれ、私のせいだけじゃないよね!

「そして、封印が解けた杖精は途中になっていた計画を再開させた。それしか教えられなかったから、唯一、覚えていたことを遂行しようとしたんだろうな。
 だから、僕は今度こそ止めようと動いたんだ」

 最後のクラヴィスの言葉は、心の悲鳴のような叫びとなった。




 それから杖精二人は王宮魔術管理部の保管庫に、とりあえず、入れられた。

 人型では怪しまれるので、元の姿に戻ってもらって箱にしまう。

 白髪の名無しの杖精の方は、普通の会話も出来ないし、こちらの意図も伝わらない状態だったので、セラフィアスを使って強制的に魔導具に戻した。

 強制的に杖に戻す方法はナイショ。

「ルベラス魔術師殿がムチャクチャなのは分かっていたが、だからって、元の姿に戻るまで、杖で杖精を殴ってもいいのか?」

 リンクス隊長に少しだけ怯えられてしまったような気がする。

 とはいえ、無事に二人とも魔導具に戻ったので、箱にしまい魔術処理を施してから保管庫に持っていったのだ。

 名目上は、第二騎士団と第三騎士団の共有物。
 こうすれば、持ち出し手続きで複数のサインが必要となるので、簡単に誰かが持ち去ることが出来なくなる。

 それでも、内部の人間が杖精を利用する線は捨てきれない。杖精と契約したがる魔術師はたくさんいるから。

《みんながみんな、清く正しい魔術師なら良いんだけどな》

 セラフィアスのつぶやきに、私は無言で同意した。

「団長、王宮魔術管理部に持っていって大丈夫なんですよね?」

「ルール上、あそこに持っていくのが正解なんだよねぇ。ちょっと気乗りしないけどねぇ」

「大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃないかなぁ? 一度、封印しているわけだしなぁ」

 まぁ、持ち去っても、私の封印がしてあるので、解除できる人間は限られてくるんだけどね。

「それより、団長。諸悪の根元を」

「その話は今度にしような」

 クストス隊長は諦めきれないようで、ヴァンフェルム団長に最後までしつこく、まとわりついていたのだった。
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