運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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2 暗黒騎士と鍵穴編

5-0 エルシア、再び面倒な事件に遭遇する

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 プラエテリタの森での騒動は、あっという間に収束した。穴が消えた後、杖精の二人はとくに抵抗することもなかったから。
 片方は元々、止めるために動いていたようだし、片方は穴がなくなって放心状態。

 穴から出てきた魔物の処理や、プラエテリタの森の整備は、暗黒隊を中心にしてさくっと終わる。
 念のため、二日間は森を封鎖して、暗黒隊が監視にあたるということになった。




 そして今はどういう状況かというと、第二騎士団の本部に杖精二人を連行して、経緯を聞き出そうとしているところだった。

 第二騎士団の騎士団長室に、関係者が勢ぞろいしている。

 第二騎士団の騎士団長室は、基本的に第三騎士団の団長室と変わらない作り。尋問なら本来は聴取室や取調室で行うところを、ここで行っているのにはちょっとした理由があったのだけれど。

「それで、こいつらは何なんだ?」

 最初に口を開いたのは、第二騎士団のエクィウス団長。真っ赤に燃えるような髪と瞳、右目の端に刀傷らしき痕がある。見るからに豪快そうな雰囲気の人だ。

 平民で騎士団長までになるのだから、実力も実績も、そして人望も相当なものなんだろう。

 エクィウス団長の質問に対して、直接、本人から返事をさせるべく、私は杖精の頭をつついた。

 もちろん、手にした黄色い旗付きの杖で。

「杖精。ほら、自己紹介して」

 つつき方が強くて痛かったのか、頭に手を当てている。ジロッと私を睨むと名前を名乗った。

「鍵穴のクラヴィスだ」

 セラフィアスの前情報では、鍵穴のクラヴィスは転移魔法が扱える。私が尋問をここ、騎士団長室にした主たる理由がこれだった。

「そんなことより、お前こそ何者だ? 魔力もぜんぜん感じないのに魔導師なのか? 『世界の穴』をあんなに簡単に潰す魔導師なんて初めて見た。人間のくせに杖精より術式展開が速いなんて、いったい、どうやったらそんな、」


 バコン


 私の質問に質問しかえして、とめどもなく喋り続けるクラヴィスの頭を、遠慮なく殴る。

「イテテテテ」

 想像以上に大きな音がしてちょっと焦る。でもまぁ、杖精だからコブが出来たりはしないよね。

「エルシア、また殴ってる」

「けっこう乱暴だな」

「ふつー、魔術師は武器なんて使わないよな」

「まぁ、そこはルベラス君だからねぇ」

 私以外、全員がうるさい。

「いちいちウルサいし。質問してるのはこっちだから」

 私はちょっとだけ、自分の《魔力隠蔽》を解除した。ほんのちょっとだけ。


 ビクッ


 ほんのちょっと魔力を漏らしただけなのに、クラヴィスが派手に反応した。

 あまり知られてない話だけど、三聖の主は魔力量が多すぎるので、ふだんから《魔力隠蔽》を行っている。

 私の場合は魔力感知されないレベルまで、自分の魔力を隠蔽できる。そのせいか、時として格下の杖精や魔術師に舐められる。相手にしてたらキリがないので、普段は無視。

 しかし、今は舐められている場合じゃない。

 ほんのちょっと漏れた魔力で、クラヴィスを締め上げた。

「じ、自己紹介はした。いえ、しました」

 顔色を悪くして、クラヴィスは言い直す。うん、いいね、敬語。

「名前、名乗っただけでしょ」

「名乗れば分かると思いまして」

「私に口答えするつもり?」

「いや、それはその。すみませんでした」

 締め上げられて平謝りのクラヴィス。これで上下関係がよく分かっただろう。ふん。

「それで、そいつは何? いったい二人で何をしてたの?」

「せ、説明するから締め上げないでください。かなり苦しいので」

 クラヴィスが青い顔で懇願するので、私は少しだけ魔力を緩めた。

「はぁ。僕は『鍵穴のクラヴィス』。杖精だ。能力は世界の鍵穴を開けて移動すること」

 私は団長たちに視線を向けて、クラヴィスの話を分かりやすく伝える。

「簡単に言うと、転移魔法が使えるってこと」

「つまり、連行して監視してても転移魔法で逃げられるってことになるのか」

 苦々しい顔で呻くエクィウス団長に、私は頭を左右に振って応じた。

「だから、尋問場所にここを選んだんですよ。団長室なら誰かが魔法を使っていたとしても、勝手に乗り込めないし、手は出せないでしょ?」

 そう言って、私は指を鳴らす。

 パチンという音に合わせて、床一面に広がって展開している魔法陣が可視化した。

 全員が息を飲む。

「この魔法陣があるのでクラヴィスは逃げられないし、外からもここに干渉できないようにしているので、問題ありません」

 クラヴィスの能力は使い勝手がいい。

 誰かに目を付けられて、連れていかれては面倒なことになるので、手の出せない場所=団長室を尋問場所にしたわけだ。

 クラヴィスは魔法陣を見て、安堵と諦めの顔を同時に浮かべ、それからいろいろと話し出した。

 クラヴィス自身、自分の能力が悪用される恐れがあることを分かっていて、だからこそ、主も持たず、ひっそりと行動していたという。

 一斉に腑に落ちない顔をする団長に隊長たち。

「今の言葉と今回の騒動。矛盾してるよなぁ?」

 みんなの疑問を代弁して、ヴァンフェルム団長が質問をした。

 すると、クラヴィスはヴァンフェルム団長の質問には答えず、隣に座る白髪の杖精の紹介をし始める。

「そいつも杖精だ。名前はない」

 ポツリポツリと、声をこぼすように。

「分かっていると思うが、本来、杖精は杖の魔導具が時間をかけて意思を持ち、擬人化するんだ」

 セラフィアスもクラヴィスも長い年月を経て、杖精となったのだろう。

 が、クラヴィスの話を聞きながら、この場の全員がどうしてそんなことを説明するのか、という顔をし始めた。

 なんだか、続きを聞くのが怖い。

「ところが。そいつは」

 いったん言葉を止めて、白髪の杖精を見るクラヴィス。表情が苦い。

「ある魔導師が、僕の力を複製して、無理やり短期間で作りあげた杖精なんだ。
 だから、いろいろなものがおかしく出来上がった」

 室内が静まり返った。

 白髪の杖精は自分のことを話されているというのに、何の反応もない。

 そもそも、プラエテリタの森で『世界の穴』を消したときから、白髪の杖精は何の反応もしなくなっていた。

 立ったり座ったり歩いたりはするけど、無言で無表情、ぼーっと宙を見ている。

 クラヴィスはそんな杖精を、悲しそうに見つめる。

「最初は僕の能力を研究したいって話だったんだよ。人々の生活を便利にするための魔導具の研究だと言って。
 だから僕も、そういう話なら、と思って協力したんだ」

 クラヴィスが両手を拳の形にして、ギュッと握りしめた。

「それが、蓋を開けてみたら、僕の能力を拡大した粗悪な複製で」

 クラヴィスの拳がフルフルと震える。

 その結果、出来上がったのがこの白髪の杖精だということが、全員に伝わった。

 自分の能力を悪用されないようにとひっそり行動していたクラヴィス。
 人々の役に立つと聞いて、話に乗ったら、とんでもない詐欺だったというわけか。

 それはガッカリだよね。クラヴィスを利用しようとした魔導師のことも、利用されてしまった自分のことも。

 それより、その魔導師だ。なんだか嫌な予感がする。

 無理やりでも杖精を作れるほどの、知識と腕を持つ魔導師。思い浮かぶのが一人しかいない。 

「で、あちこち小さい穴を開けて、最後にドカンと『世界の穴』を開けようと計画したのは、その魔導師なんだな。目的は?」

 エクィウス団長の質問にクラヴィスは真顔で答える。

「世界に『穴』を開けて過去と繋ぐこと」

 全員が固まった。

 待って待って待って、過去?!

「はぁあ?」

「そんなこと、出来るのかい?」

 想像のはるか斜め上を行く回答に、私を含めて全員が唖然となる。

 が、クラヴィスは落ち着いていた。そして私の杖精も落ち着いている。杖精からすると実現可能な話なようだ。

 その証拠にクラヴィスは説明しだした。

「リテラ王国の魔術、今ではリテラの古代魔術と呼ばれているものを使えば、空間や時間に穴を開けられる。
 でも、すでに失われた魔術になるし、それに僕の能力の範疇じゃない」

「出来るのか。さすが古代王国だなぁ」

「それで、過去と繋いでどうするんだ?」

 リンクス隊長もクストス隊長ももちろんクラウドも黙ったまま。話についていけてない。

 団長二人が次々と質問をしていく。

「過去を取り戻すために、あるものを過去から取り寄せるって話だったけど」

「三年前に一度、白髪の杖精は活動を停止してるよな? 今回、活動を再開させた理由はなんなんだ?」

「それは……………………」

 そういえば、白髪の杖精が活動を再開させたのって、王宮魔術管理部の建物が倒壊した後だったっけ。

 あれ?

 てことは?
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