精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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7 帝国動乱編

3-2

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「竜種の伴侶の契約について、最初っから説明して」

「それも、いまさらだろ」

 イリニの突っ込みが耳を打つ。

 だとはいえ、やはり、聞いておかないことには気持ちが収まらない。

「だいたい、こんなタイミングで聞くことか?」

 イリニのもっともすぎる突っ込みに、私は正論で返した。

「気になることはちゃんと話し合って解決すべき。愛し合う夫婦なんだから」

「そうだな! 俺たちは愛し合う夫婦だよな、フィア」

 よしっ、ラウが食いついた。

 ラウの大好きワード『愛し合う夫婦』の威力は絶大だ。

 けっきょく、竜種と新婚終了後の伴侶にしか教えられない内容だからという理由で、私たちは別室に移動した。

 残念がるイリニを置いて。嬉しがる他の竜種四人とも引き連れて。

 面倒なことになって、神官長には申し訳ないけど、今、聞いておかないと二度と教えてもらえないかもしれない。




 別室として通されたのは、控え室のような作りの隣室だった。

 いちおう、全員分の席も揃っている。

 山盛りのサンドイッチとカットフルーツもお茶といっしょに提供されていた。

 うん、至れり尽くせり。

 サンドイッチを囲みながら、ラウは話を始めた。

「一段階目が伴侶の仮契約だ。相手の同意を得ることなく、自分の魔力を勝手に相手に与えることで完了する」

 ラウの話を他の竜種たちが解説するのはいいんだけど。

「素肌同士が接していればいいから、握手するだけでいいんだよ」

「仮契約を行うことで、他の竜種に対して俺の物アピールできるし、絶対に逃げられないよう縛り付けることができるんだ」

「どう考えても、ヤバい人かクズの考え方だとしか思えないけど」

 何度聞いても、この結論にしか至らない。

「社会的に囲い込んで、物理的に捕まえて、身体の距離を縮めてから、最後に心の距離を縮めるのが竜種の基本だからな」

「竜種ってのは、基本、こっちが一方的に惚れちゃうんだよ。
 見た目が厳ついか怖いかヤバいか威圧感ハンパないか、そんな悲しい理由で逃げられちゃうなんてやりきれないだろ?」

 ラウと銀竜さんからしてこんな感じだ。

 ここに金竜さんが合流してなくて良かった。本当に良かった。金竜さんがいたら、もっと凄いことを言い出しそう。

「二段階目が伴侶の本契約だ。相手の同意のもと、自分の魔力を相手に流し込み、相手の魔力を自分に引き入れる」

「場所はどこでもいいんだけど、相手の身体に契約の印を残すんだよ」

 私の場合はうなじにあるので、自分で自分の印が見えない。

 ラウの話では偶然ここになったそうなんだけど、そんな偶然あるわけがないので、意図的に見えない場所につけたんだと思っている。

「その同意ってうっかり頷いても同意になるんだったよね」

「同意は同意だよな」

 うっかり頷いたら同意とは言えないような気がする。

 まぁ、竜種にとって大事なのは『同意を取った』という事実であって『同意』そのものはどうでもいいようだ。

「三段階目が伴侶の最終契約だ。相手の同意のもと、同化に必要な最後の魔力を相手に流し込み、相手の魔力を自分に引き入れる」

 うんうんと聞いているうちに、ラウがさらっと最後の契約の話を済ませた。

 聞き逃そうとして、同化という言葉に記憶の引っかかりを感じる。

「同化?」

「あぁ」

「同化、同化って、よく聞くけど。同化って?」

「相手と自分が同じになることだな」

「はぁ?」

「夫にしてみれば、二人で一人のようなものになるので、生きているだけで幸せだよな」

 そう言って幸せそうな顔をする上位竜種たち。

 ピクピク。

 今、そういう反応、要らないんだけどな。

 デルストームさんが私のこめかみの痙攣を見て、慌てて言葉を追加し始めた。

「上位竜種は竜種としての力が強くて、ひとりでは制御しきれない。それを伴侶を得ることで二人で制御するようになる。
 だから、力と精神が安定して、さらに上位竜種は強くなるんですよ」

「それは竜種の側のメリットだよね。奥さんにメリットあるの?」

 私は冷静に突っ込む。

「伴侶は同化することで、竜種と同じような頑強さとか寿命とかを得られるようになるんです」

「普通の伴侶は普通種だから、伴侶は竜種の夫より脆弱だ。夫にとっては弱点にもなりうる。伴侶を強くするため、同化するという理由ももちろんある」

 金竜さんの奥さん、確かもの凄く元気だったよね。金竜さんを跳ね飛ばしたり、締め上げたり。ああいうことか。

 私はラウを見上げて、話しかけた。

「私、普通種じゃないけど」

「そうだな」

 ラウは事も無げに答える。何を言ってるんだと言わんばかりの表情。

「伴侶が破壊の赤種ってのは前例がないからな」

「気にはならないの?」

「奥さんと一体になれるのに、何を気にする必要があるんだ?」

 きょとんとした顔で私を見るラウ。

 あぁ、そうだ。別にラウは私が破壊の赤種じゃなくても、そういうのはどうでも良かったんだった。

 強くてかわいい奥さんが欲しいという願望はあったようだけど、細かいところはどうでもよかったんだっけ。

「そうだった。そういうのが竜種だった」

 改めて、ラウを見た。

 ちょっと不安そうに緊張した様子なのは、私に嫌がられるのを心配しているからだろう。

 ともかく。ラウの話では同化は終わったようだ。そして最終契約も。

 終わったことにホッとすべきなのか、気持ちの持ちようが分からないまま、疑問を口にする。

「で、同化って具体的に何をしてたの?」

「互いの魔力を交換し合うだけだ」

「してたっけ?」

 それこそ初耳なんだけど!

「舐めたり、キスしたり、子作りしたり、魔力を菓子に入れて食べさせたり」

「あぁぁ、ラウのアレって、こういうことだったんだ」

 ラウのアレ。私の食べるお菓子や料理にだけ入れてたってやつだ。

 これで合点が言った。

 ラウがせっせとお菓子を作って食べさせていたのは、このためもあったのか。

「ところで。なんで、同化が終わるまでナイショにするの?」

「「気持ち悪いと思われるから」」

 竜種たちの声が揃う。

「いちおう、自覚はあったんだ」

 少なくとも自覚はあることが分かっただけでも、よしとしておこう。
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