精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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7 帝国動乱編

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 私たちが別室から、エルメンティアの控え室に戻ると、赤種二人と王族二人が深刻な顔で話し込んでいた。

 テラと二番目は、イリニたち、ザイオンを迎えに行って、それからメイ群島国も迎えに行っていたので、疲れているかと思ったら、そうでもなさそうな雰囲気だ。

 それより、皆の表情が揃って暗い。

「塔長、暗い顔してどうしたの?」

「クロエル補佐官は、言葉使いに遠慮がなくなったよな」

「だって、赤種だし」

「まったく。新人の頃が懐かしいよ」

 上司扱いしてないのが気に入らないのか、明後日の方を向く塔長。

 うん、面倒くさい。

 まぁ、最初の新人の頃は、視線が合っただけでラウがムチャクチャ殺気を振り撒いていたから。

 誰かと、とくに男性と、視線を合わせたくても合わせられなかったな。

「面倒くさい塔長より、面倒くさくないテラに話を聞くからいいよ」

 私はラウの手を握って、ラウを移動させると、テラの横に陣取る。

 他の竜種たちは少し離れたところに席を取り、テラが口を開くのを待っていた。

 テラが皆の視線を受けて、席を立つ。

 席を立っても見た目は十歳児、ちんまりした身長なので目立たない。
 なのに、テラは上位竜種と変わらないくらいの存在感を放っていた。

 部屋をぐるっと見回してから、テラはおもむろに口を開く。

「式典の会場、別の場所へ変更になったそうだ」

 式典会場は皇城で行うとの話で、今回、スヴェート開催となった。話が違う。

「先ほど、急使がやってきて連絡が入った。新会場は混沌の樹林近くの遺跡だとさ。手違いで連絡がうまく伝わっていなかったと言っているけど。嘘くさいよな」

「式典会場を事前にチェックされないよう、隠してたみたいだわねー」

 とエルヴェスさん。

「チョット、確認してくるわー」

「おい待て。お前が行くのか?」

 ラウがエルヴェスさんに声をかけると、

「移動までには戻ってくるわよー お人形ちゃんを借りるわねー」

 そう言い残して、メモリアと二人、部屋を出て行った。

「情報収集は専門に任せるとして、僕らは対策を見直すようだな」

 テラは偉そうに言った後、

「舎弟、後は任せた」

 塔長に丸投げをする。塔長は塔長でテラの反応を予想していたのか、予定通りの行動だったのか、静かに頷いた。




「皇配と皇太子は式典参加なので予定通りだ。式典の流れにそって、まずは師匠が二人を鑑定する」

 塔長が式典会場の図を見せながら、説明を始めた。

「あの図もどれだけ合ってるか分からないけどね」

「そう皮肉るな。儀式なんだから、いちおう式典会場の配置は決まっている。大きな違いは認められない」

「ならいいけど」

 テラとコソコソ話している間に、塔長の話も進む。

「皇配か皇太子が感情の神なら、封印を強める儀の時に、封印して終わり。もし違ったら、封印を強める儀だけして終わり」

 これは赤種の三人が担当する。

 私はテラ、二番目と目を合わせ頷きあった。

「皇太子が三番目なら、三番目も確保して大神殿に一時封印だな」

「感情の神を封印した後だよね。邪魔してきたら?」

「その時は俺たちに任せろ。黒猫の一匹や二匹、大した相手ではない」

 ラウが私の心配を吹き飛ばすように軽く笑った。

 でも、さすがに今日は猫の姿をしてないと思うけどね。

「皇帝はおそらく皇城から動けない。こっちはとりあえず後回しだ。エルヴェスたちが別な情報を仕入れてくるかもしれないしな」

 塔長が忘れかけていた皇帝の話に、意識を向けさせてくれた。

 エルヴェスさんとメモリア、二人揃ってどこに行ったのかは分からない。情報収集と言ってるところから見ると、皇城だろうか。

「動きが一番読めないのは開発者かな。式典参加なら、こっそり捕まえる。参加していなければ後回しにする」

 塔長の話に皆が黙って聞き入る。

 これで、おおよその流れと動きは問題ないだろう。

「感情の神と三番目は赤種、余計な露払いは竜種と魔種、王族の守りは護衛、開発者はエルヴェスにでも任せるか」

 それから私たちは、残りの時間を静かに過ごした。

 ザイオンやメイ群島国の人たちにも、これまでの話と今日の行動を伝えなくていいのかと思ったときには、すでに伝達済みだとのこと。
 後はこれから起きることを見定めて、きっちり対処していけばいい、とテラから軽く言われただけ。

 テラはと言えば、二番目とどこかに行ってしまった。

 ここにいるのは、エルメンティアの面々のみ。

 塔長は自分の兄の第八師団長と同席してはいるが、嫌そうな顔だ。表情を取り繕わない塔長を見るのも珍しい。

 第八師団長も同じように、嫌そうな顔。うん、そっくり過ぎて笑いがこみ上げてくる。

「楽しそうだな」

 私にべったりくっついているラウが、私の耳元で声を出した。
 なぜか、拗ねたような甘えるような言い方。

「塔長と第八師団長が、同じような顔をしてるのがおもしろくて」

 正直に答えると、ラウは「なるほどな」とつぶやいて、苦笑いを浮かべていた。

 時間は刻一刻と過ぎていくのに、エルヴェスさんもメモリアも帰ってこない。

「そろそろ、式典会場に移動いたします。皆様、移動の準備をお願いします」

 案内係の神官が移動の準備を知らせ、私はピクリと身体を堅くする。

 エルヴェスさんとメモリアに何かあったんじゃないか。そんな心配が頭をよぎる。

「大丈夫だ、フィア。あいつらだってプロだからな」

 ラウの自信満々な顔。
 私は自分を安心させるように、小さく頷くとラウの手を取った。

 エルヴェスさんとメモリアの心配をしている場合でもない。
 これから私は、私を待ち構える感情の神と対決する。

 私こそ気合いを入れていかないと。

 気持ちを入れ替えるように、大きく息を吸って吐く。

 そして、ゆっくりと案内係の神官の後を追って、式典会場へと向かうのだった。
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