隣国は魔法世界

各務みづほ

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冒険編

第十一章 東聖の役割-2

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「ざまあないな。魔法使いに利用されるなんざ、随分落ちぶれたなーー宮廷博士殿」
「や……っ!」

 背後から聞こえた声に、ライサは反射的に振り向いた。
 ここは、死の軍の基地の最深部なのだ。何もおかしくはない。
 しかしダガーの発言に、彼女の背筋が瞬時に凍りつく。

「宮廷博士ライサ・ユースティン」
「や、やめて! やめてやめてっ!」
「これは貴様の荷物だろう」

 ダガーはライサの制止など気にも止めず、彼女の捜していた鞄を放り投げた。
 ライサは即座に反応する。
 しかし、あまりにあっさりと鞄を返され、逆に拾うのを躊躇した。動かない彼女に再びダガーが声をかけてくる。

「いい加減、目を覚ましたらどうだ? 博士殿」

 ライサは虚な目をしつつダガーを見上げた。
 荷物を漁られたことは覚悟している。
 だが、ライサのパソコンはプロテクトが厳重だった。無理に見ようとしてもデータがとぶだけだ。その点はあまり心配していないし、他の荷物も科学世界ではありふれた道具ばかりである。

「興味深い文書が入っていたんでな」

 続いたダガーの言葉に、ライサはサーッと血の気がひいていくのを感じた。
 王女の書状はロック付きの強化プラスチックケースに入れており、簡単に壊すことも開けることも出来ないようにしてある。
 ライサはバッと荷物をつかみとり、中のものを確かめた。
 外装のロックキーが外されている。流石は軍といった所か。
 書状はあったが封は開いており、読まれてしまったのは疑いようがない。

「その画像を国王陛下の元に送信させてもらった」
「!!」

 今度こそライサは世界が黒くなるのを感じた。
 中身は不明だが、恋文かもしれない、敵国の王子宛の内密の文書である。
 王女と王子のことを、科学世界の国王は知ってしまったーーそしてその事実に、都合のいいことなど一つもありはしない。
 可能性の高い最悪の事態を次々と想定して、果てしない絶望が押し寄せる。

「それと、ヒスター王子からは早く戻すよう仰せつかった。貴様、婚約をすっぽかして来たんだとな?」

 ギクリと全身が硬直する。ディルクが驚いて彼女を見つめた。
 ライサは力なく項垂れて観念した。

「……わかりました。私を連れて行きなさ……!?」

 それは一瞬の出来事だった。ライサが言い終わらないうちに、傍らにいたディルクが、突然ダガーに襲いかかったのだ。
 キンッと金属音が響く。
 不意打ちを喰らったダガーだが反応は速く、ディルクの短剣の攻撃をサーベルで受け止め、はね返していた。
 ディルクはサッと受け身をとりつつライサの前で再び戦闘態勢をとる。

「ディルク!」
「ライサ、俺の後ろにいろ。離れるなよ」
「え?」

 あまりにも変わらない彼の態度にライサは唖然とする。ダガーの言葉が聞こえなかったのだろうか。

「待って! 貴方は誰を何から守ろうとしているの!? 違うでしょう? だって私は……」
「宮廷博士だからって?」

 ダガーから視線を外さずに、静かに呟くディルクの声。

「悪いけど、それも知ってた。てか予想ついた……お前の科学知識ハンパないし」
「だ、だったら……!」

 その時、ビービービーと激しい警告音が鳴り響いた。以前も聞いたことがある、侵入者の知らせだ。
 屈強な軍人が一人、ダガーに向かって声を張り上げる。

「ボス、兵隊です、数は二百!」

 そういえば、南聖が兵を手配したと言っていたのを思いだす。遠くで戦闘の音が聞こえる。
 先にディルクとライサが施設の罠などをかなり無効化していたためか、ここまで兵士が来るのは早かった。

「そこか! 我々に恐怖を運ぶ、科学世界の元凶よ!」

 数人の兵士とともに、将軍と思われる二人がやって来て吼えた。
 ダガーがそちらに銃を向けると、ディルクが即座にその隙をつき腕をねじり上げ、短剣を首に突きつける。
 そのまま二人に向かって叫んだ。

空子くうし嵐子らんし、手を出すな! 兵を率いて基地を包囲しろ! 一人も逃がすな!」

 二人の将軍はダガーの不測な動きに構えたが、ディルクの姿を見て、すぐさま敬礼をとる。

「東聖様! はっ、了解しました、行くぞ」

 それだけ言うと数人の兵と共に戻っていく。

「ほぅ、的確な判断だな。貴様が東聖とは! 恐れ入ったぞ」
「あの時とどめを刺すべきだったと後悔してるぜ」

 言葉と同時にダガーが靴に仕込んだ短剣で蹴り上げ、ディルクの拘束を外す。瞬時にサーベルを構え、一気に攻勢へと転じた。
 ダガーのサーベルが目にも留まらぬ勢いで襲ってくる。
 ディルクはそれを全て見切って避けるが、反撃の隙もない。激しい攻防が続く。

 ライサは初めて目の当たりにした、東聖としての彼の姿に一瞬放心しかけたが、我に返りキョロキョロと辺りを見回すと、鞄を掴み戦う二人の脇を走り抜けた。建物を出た先にジープが見える。
 外は乱戦状態だった。魔法使いの兵士二百に対し、死の軍は五十といったところか。
 精鋭部隊だが、数的には圧倒的に不利である。

 ライサはジープに飛び乗り、元からささっていた鍵を回しエンジンをかけ、すぐさまアクセルを踏み込んだ。

「ライサ!」

 戦いながら建物から出てきたディルクが、彼女の名を呼ぶ。しかしダガーの攻撃が激しく追うことができない。
 ライサはちらりと目をやったが、何も答えず前に向き直ると、乱闘を横目に基地の門に向かってスピードをあげた。

 すると突然、ライサは視界を遮られた。何者かが彼女の背後から腕をまわし、目を塞ぎ、動きを封じたのだ。
 ジープは操作を失い、基地の外壁に激突する。
 その直前、彼女はフワリと場所が変わったように感じた。これは転移魔法の感覚だ。

 ライサを拘束した男は、ジープがぶつかる寸前に、転移して飛び退いていた。
 そして二人は、ディルクとダガーの近くに現れる。

「ボルス!」

 ディルクが男の姿を見て叫んだ。相変わらずダガーからは目を離せない。

「ライサを頼んだ、行け!」
「了解した、マスター」

 そう言うと抵抗するライサを連れ、ボルスと呼ばれた男は森の奥へと消えて行った。
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