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冒険編
第十一章 東聖の役割-1
しおりを挟むディルクは苦戦していた。
武器は見えても、どういう仕掛けで動いているのか、さっぱりわからない。
無人だし、コントロールしているものを何とかしなければ、とまではわかるものの、その大元を見つけることが出来ず困惑していた。
突如奥の方にある赤い光が点滅する。
ディルクは迷わずそれに攻撃を仕掛けたが的外れだった。全く攻撃はやまない。
そんなことの繰り返しだった。
と、突然背後に馴染みのある気配が感じられ、咄嗟に振り向く。思った通りの人の姿がそこに現れた。
「ライサ!」
何やってるんだと続けようとしたところで、ライサは人差し指を立て、それを制する。
「動かないで!」
しばらくして、彼女は上の方を指差した。
「あれで監視して、動くものを攻撃する仕掛けになっているの」
そこには防犯カメラのようなものが掛かっていた。上下左右にそのカメラはまわっている。
「破壊は得策じゃないわね。警報が鳴ったり暴走の可能性もある」
そう呟くと、今度はディルクが先程破壊した残骸を指差す。
「因みにそっちはただの火炎探知機よ。ばかね、こんなところに一人で来て」
少し責めるようにライサは言った。
それに対し、ディルクは反論する。何で来たんだ、一人で来た意味がないではないか、と。
それでもライサは、頑として帰ろうとはしなかった。
ディルクは仕方なく、強制的に送り返そうと転移魔法を編み始める。しかし、彼女はそれを見逃さなかった。
「言っとくけど! 送り返しても、また来るからねっ!」
くわっと噛み付くようにライサは言い切った。二人はしばし、互いに臨戦態勢になる。
しかし、相手にいろいろ言おうとしたところで、ピタッとほぼ同時に動きを止めた。
頭上では先程のカメラが、丁度彼らを視界に捉えたところである。
そして何事もなくカメラの向きが再び変わっていく。
二人はやれやれといった表情をした。
「だるまさんがころんだ……の気分ね」
ライサが言うと、ディルクはそれに答える。
「あーやったやった、ガキの頃……」
「魔法世界にもあるんだ」
「そっちこそな」
言い争う雰囲気は、どこかへ消え失せてしまった。
「……こーゆー時は、結界張って、高速で飛行するのよ」
高速飛行で攻撃を避けられるし当たっても結界があれば完璧よねーーうんうんと頷きながらライサがディルクに提案する。
「おー、なるほど!」
それに彼は手を打ちながらノってきた。早速、共に飛翔する。
「結界属性も……あーもういい、全属性で!」
ディルクはさくさくっと、以前よりも数倍強力な結界を二重三重と張り巡らせた。
「うわあぁぁ! 待ってディルク、今のもう一回見たい。出来れば呪文から! 動画撮っていい!?」
「はぁ? 見えねーし映んないだろ! 研究もいいけどなぁ」
「何言ってるのよ、魔力よ魔力! この際限ないエネルギーを是非とも解明してあちこちで利用しまくりたい」
「いや限界はあるからな!? 魔力有限だからな!? 目輝かせ過ぎだから!」
敵陣ど真ん中ということも忘れ、軽口を叩きながら飛んで行く。二人は楽しさすら感じていた。
お互いがいる安心感ーー先程までの一人の心細さが嘘のようだ。
あとからあとから襲ってくる仕掛けられた攻撃も、警備に当たっていた軍の銃撃も、高速と強力な結界のおかげで彼らに擦り傷すらつけられない。
自滅する様すら眺めながら、二人はそのまま基地の奥へ奥へと進んでいった。
やがて最奥部のようなところにたどり着くと、ゆっくりと下降する。
目の前には扉がひとつあるが、鍵がかかっているようだ。
「あー楽しかった! 仕掛けも罠も意味なかったわねー」
もうすぐダガー・ロウのところだというにも関わらず、ライサははしゃいでいた。
高速飛行のジェットコースターにでも乗ったような高揚感が抜けない。
対してディルクは、苦笑しながら扉に向かった。電子式ロックだが手ぶらの彼女に解錠できるとも思えず、破壊できるか考える。
その後ろ姿にライサは語りかけた。
「目が見えなくても、ちゃんと魔法って使えるのね」
ディルクは背を向けたまま答える。
「ああ、俺、そーゆー訓練したからな」
そんなことまでしたことがあるのか、と、ライサは感心のため息をはく。
「ディルクって……実はただ者じゃないよね? そんな、南聖様にもらった、宝石いっぱいのサークレットも平然とつけているし」
上級魔法使いであるほど、宝石の類をつけたサークレットをするのだと聞いた。
そしてーーずっとおかしいと思いながらも敢えて問いたださなかったことが、何故か今、怒涛のように溢れてくる。
「王子様も、西聖様や北聖様や南聖様ともお友達だし。……てことは、東聖様も友達なんでしょう?」
ふと、黙って聞いていたディルクの動きが止まった。ゆっくりとライサに向き直る。
彼女を真正面から見据えると、ふっと息を吐き、目を伏せ静かに答えた。
「いや……それはない」
「あれ、そうなの?」
「ああ……」
そして真っ直ぐ目を向け告げる。
「俺が……東聖だからな」
ーーーーーーーーーーへっ?
沈黙が、流れた。
「自己紹介が遅れたな。俺の名はディルシャルク・アルナ・ロードリー」
一呼吸おき、続ける。
「第九十三代目、東聖だ」
ライサの足がカタカタと震えだした。心の中で何かが壊れていく。
彼の言葉が脳内で何度も反芻された。
しかし今までのことを思い出すと、心当たりはいくつもでてくる。
魔法が素人目にもうまく、いろいろ知っていて、部下が二人もいて、王子や四聖と友達とか、何もないわけないではないか。
東聖ーー四聖の一人。王都に住み、王都を守護する宮廷魔法使い。
四人のうちでも力は強く、王宮とも最もつながりが深い。
魔法使いの中で最強といっても過言ではないほどの地位であり、敵国である以上、科学世界にとっては紛れもなく最大の敵である。
特に、科学世界最高峰、宮廷博士となれば究極の敵同士となろう。
そう、彼は敵だ、何を今更ーーーー。
(言えない……私、宮廷博士だなんて。知られたくないーー!)
ガクッと足から力が抜け、ディルクが慌ててライサを支えた。
「おい、ちょっと待て! そんなに腰抜かすほど驚かなくても」
「え、あ……ご、ごめん……なさい」
彼は何故一緒にいたーー監視と軍への対抗の為だ。北聖の屋敷で確かにそう聞いた。
二人の協力が吉だと。
科学に対抗するために。後々戦争になったときにも有利にするためにーー。
「ライサ?」
彼女の様子があまりにもおかしいので、ディルクは心配そうに声をかける。
だがライサは、彼の目を見ることが出来なかった。
いつの間にか信じて頼りにして、恋心のようなものまで抱いてしまっていたーー如何に愚かだったことか。
涙が浮かんできた。
笑いかける、優しい目が好きだった。あの瞳が、きっと絶望に、敵意に変わる。
もう、傍にいることなどできなかった。
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