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しおりを挟む俺は何とか仕事モードへと移行する。イジられるのは好きじゃないのだ。
「エレナさん、まずは貴女のテイムした従魔と合わせていただけますか?」
そう声をかけると慌ててソファーの上に置いていたバスケットを持ち上げる。植物で編んだ物だ。なかなか綺麗にできている。
しかし、動くたびにお胸が揺れるので危険極まりない。血液がある一部に集中してしまいそうだ。今夜あたり娼館に行かなきゃやばいかも。
そんな事を考えているとエレナがバスケットの蓋を開けた。そこには手乗りサイズの可愛らしい一角ウサギがチョコンと座っていた。不安気に鼻をヒクヒク動かしている。
「こんにちは。あなたのお名前を教えてもらえますか?」
俺はウォルターと話す時のように念話で話しかけてみる。一角ウサギの赤ちゃんはピクリと耳を立てて俺を見た。
「だれ?だれ?どうしておはなしできるの?おはなしできるのはエレナだけじゃないの?」
とても驚いている。どうやら自分と話せるのはエレナだけだと思っていたようだ。
「僕はタカって言うんだ。エレナのお友達だよ。だからエレナと同じようにお話しできるんだ。大きなお友達もいるよ。紹介したいから、お名前を教えてくれるかな?」
優しく話しかけると安心したようだ。
「あのね、あのね、あたしのなまえはリリーっていうの。エレナがつけてくれたのよ。いつもかわいいっていってくれるんだよ。いいなまえでしょ?」
一角ウサギはリリーと名乗った。可愛らしい名前だ。
「君はリリーって言うんだね。とても可愛らしい名前だ。君にピッタリだと思うよ。
じゃあ大きなお友達を紹介するね。ウォルターって言うんだ。格好良い名前でしょ?
ウォルター、こっちに来てご挨拶して。」
ウォルターに念話を飛ばすとトコトコと歩いてきた。
「はじめましてお嬢さん。私はウォルターと言います。貴女と同じ従魔です。主に従属しています。よろしくお願いします。」
ウォルターが念話で話しかける。
「うわぁ、おっきいねぇ!あのね、あのね、わたしはリリーっていうの。エレナのじゅうま?なんだって。いつもエレナといっしょなんだよ!よろしくねウォルター!」
リリーが挨拶を返してくれた。エレナは固唾を飲んで佇んでいる。
「まずは座らせてもらいましょう。エレナさんも、一度かけてください。ウォルターは後ろで待っててね。」
そう話しかけてエレナに座るよう促し、俺も隣に座った。緊張でガチガチだ。バスケットを抱え込んでいる。
そんなエレナを心配するようにリリーが体を伸ばして前脚をバスケットの縁にかける。伸び上がってエレナを見つめるリリーをエレナは優しく撫でた。
「エレナさん、正直にお答えください。貴女はリリーとお話しできますか?」
俺がそう切り出すとエレナは驚いた顔をした。
「ど、どうしてリリーの名前を知ってるんですか?、まだ教えてないのに。」
驚きすぎてアタフタしている。まあそうなるよね。
「私はウォルターと会話ができます。人間と同じように。なので試しにリリーとお話しさせてもらいました。何の問題もなくお話しできました。
おそらくこれはモンスターテイマーの固有の能力だと思うんです。全てのモンスターが対象なのか、従属しているモンスターだけが対象なのかは分かりませんが、モンスターと会話が可能なようです。
改めてお聞きします。エレナさん、貴女はリリーとお話しできますか?」
俺の言葉を聞いてエレナはボロボロと泣き出した。えーえーえー、おれ、何も悪いこと言ってないよ⁉︎
「う、うぐっ、ふうっ、わ、私、ちいさ、いこ、ろから、ど、うぶつと、おはなしで、きて、でも、だれも、しんじ、てくれなくて、ずっと、ずっと、ばかにさ、れてっ!だから、だから、今回も、きっと、しんじてもら、えないだろうって!そう思って!イヤだったの!来るの、イヤだったの!でも、タカとあ、えて、分かってくれて、よがっだあ!うあああああああん!」
エレナは泣きながら抱きついてきた。両手でぎゅっと抱きつき、おれの胸に顔を埋めて泣きじゃくる。
俺はエレナを左手で抱きしめながら、右手で優しく頭を撫でてやった。
「辛かったね。大変だったね。でも、もう大丈夫だよ。モンスターテイムという技能とモンスターテイマーという職業が冒険者ギルドで正式に登録されれば、誰も馬鹿にしたりからかったり出来なくなるから。そうなるように、2人で頑張ろうね?」
そう言って優しく宥めてやる。俺の身体に大きくて柔らかい物がふよんふよんと押し付けられているが、意識を強引にシャットダウンする。油断したら勃ってしまいそうだ。
エレナは10分近く泣き続けた。徐々に泣き声が治まってきたので頭を抱え込むように抱きしめて頭頂部にキスしてやる。あ、良い匂い。
エレナは慌てたように俺の手を振りはなって離れた。残念、もう少し密着していたかった(笑)。
「ご、ごめんなさい!私、嬉しくて、訳が分からなくなって、すいませんでした!」
エレナは深々と頭を下げる。また谷間が丸見えになる。ご馳走様です。(笑)。
「エレナさん、どうぞお気になさらずに。2人で協力して、モンスターテイマーという職業をシッカリと登録してもらいましょう。そして、エレナさんのような辛い思い、悲しい思いをする人を1人でも減らしましょう。」
そう言うと、エレナはまだ涙が流れるのも気にせずに綺麗な笑顔でニッコリと笑った。
「はい、これからもよろしくお願いします。」
ああ、なんて可愛いんだろう。思わず抱きしめたくなるが必死に自制した。
「あのね、あのね、リリーもエレナのためにがんばるの!だからタカとウォルターもいっしょにがんばろうね!」
リリーからエールが届いた。うん良い子だな。
「ありがとうリリー。一緒に頑張ろうね。」
エレナはそう言うとリリーをバスケットから出し、キュッと抱きしめた。うん、尊い(笑)。
「あー、おほん。すまんが我々も混ぜてもらって良いだろうか?」
ギルドマスターが遠慮がちに言う。エレナは真っ赤になってペコペコとお辞儀する。
「す、すいませんギルドマスター!あ、あの、さっきの来たくなかったって言うのは、その・・・。」
エレナが慌てている。
「何、構わんさ。人ってのは自分が理解出来ない事については、考える事をやめて、馬鹿にしたり排除しようとしたりするもんだ。特殊な技能や職業なら尚更だ。だからこそ冒険者ギルドがあるんだ。
普通の生活には不要な力でも、冒険者として活動する事によって誰かの役に立ったり、誰かを助けたり出来る。それが冒険者なんだよ。
エレナ、お前の力は皆んなに誇って良い物だ。それは俺、グランビア王国冒険者ギルド、ヴァレンティナ本部ギルドマスター、ローガンが保証する。だからもう泣かなくて良い。胸を張れ。俺たち冒険者ギルドが、お前達を認めてやるから。」
おおう、ギルドマスターが熱い事を言い出したぞ。目が燃えている。あ、カタリナさんもだ。そんなに美少女の涙は効きましたかそうですか。俺の時は面白がってただけだったのに(笑)。これって逆セクハラだよね(笑)。
「タカさんはあまりにも特殊な案件で正直対応に困っていましたが、エレナさんが来てくれた事によって状況が改善されました。エレナさん、ご協力お願いしますね。」
カタリナさんがエレナの両手を自分の両手で包み込むようにする。エレナは頬を紅く染めてポーッとしている。カタリナさん、エルフの美貌を利用して魅了するのは反則です(笑)。
「 タカはあまりにも規格外だからな。正直冒険者ギルドでは持て余しかねないくらいの人材だ。でも、本人の希望で冒険者になり、仮登録だけでなく本登録まで済ませたんだ。悪いが貢献してもらうぜ。」
ギルドマスターが悪い笑顔をしながらウインクした。ちきしょう、似合ってる。こういうのはやはり燻し銀の中年じゃないと似合わないな。前世の俺なら絵になったかもしれないのに!まあ、無い物ねだりはやめておこう。
エレナがすっかり落ち着いたところでお茶を淹れ直し、改めて技能と職業について、色々と話し合った。
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