174 / 284
September
9月10日(火) 私と先輩と部活
しおりを挟む
福岡の中でも北に位置するここ――北九州。
他県からは『修羅の国』と揶揄されることで有名な場所であるけれど、同県の別地域からも同じように『修羅の国』と蔑まれているのが、このウチの地元である。
そんな中に位置するウチらの学校は、しがない県立高校。
クリーム色のボロボロな校舎。生徒数は四百五十人ほどでたいして大きくもなく、制服も在り来りなデザインだ。
変わった点といえば、体育科と言われる学科がこの
学区内で唯一存在することくらい。
でもだからこそ、その受験倍率は毎年高く、国公立故の授業料免除とも相まって人気の高い学校だ。
ウチの一つ上の先輩――亮吾くんもまた例に漏れず受験した者の一人である。
しかし運がいいのか、能力が高かったのか、何ともまぁ無事に合格してしまったせいで、ウチもここへ来なければいけなくなったわけだけど……。
とはいえ、ウチは普通科。
元々の学年差に加えて、カリキュラムの違いから接する機会は殆どない。
なので学校行事もしくは、今のようにこうして部活動の時間に会うほか方法はないのであった。
というわけで、今日もマネージャーとして頑張るっス!
♦ ♦ ♦
「――なぁ、琴葉。君もマネージャーなんだから、もう少し何かしても良いんじゃないか?」
体育館の壇上、そのヘリに座って練習を眺めていたウチに亮吾くんは呆れ顔で話しかけてきた。
「……って言われても、他の子はお爺ちゃんが見てるし、亮吾くんは言われた自主練メニューをやってるしで、特にやることがないんスよ」
「いや……なら、部室の掃除とかさ……」
「そんなことしたら、練習姿が見られないじゃないっスか!」
理不尽な先輩の要求に、私は憤慨してみせる。
なんて酷いことを言うんだ、この人は。ウチの入部動機を知っての発言かー!
まぁ、そもそもが話してないし、鈍感な亮吾くんに気付けるわけもないけど……。
「じゃあ……ドリンクを持ってくるとかはどうだ? ほかの部活ではよくやってると聞くけど」
「残念な話、ウチの部活にそんな予算はないっス。弱小っスからね」
「さいですか…………」
沈鬱な雰囲気で辺りは沈む。
悲しいかな。体育科という学科は存在しながらもせいぜいが一クラス――三十人ほどであるため、全ての運動系の部活が強いわけではないのだ。
ウチの部も亮吾くんを除けば全員が普通科の学生で、かつ殆どが授業経験だけの初心者。
むしろ、亮吾くんが入ってくれているだけこの部活はマシというレベルなのである。
テニス部なんて、先生も含めてが素人の集まりでしかない。
男子に人気のサッカー部や野球部、女子のバレー部といった強豪チームとは扱いが雲泥の差だ。
「でもじゃあ、琴葉には何が出来るんだよ……」
「……………………応援っスね」
しばらく考え、ウチは何とか解答を捻り出した。
「……もう解雇でいいんじゃないかなぁ」
「いやいや、よく考えてみてくださいよ。私みたいなそこそこ可愛い子をマネージャーにしてるだけで、割とアドっスよ? 応援の時、力出ますよ? 亮吾くんのライバル視してる和白高校なんか特にそうっスよね!」
「いや、俺は特に――」
「亮吾くんの話なんか誰もしてないっス!」
なおも口答えをする先輩を差し置いて、ウチは一喝。
その後ろで会話を盗み聞きしていた他の部員へと目を向け、意見を求めた。
「確かに、和白の子らはみんな可愛かったよなぁ……」
「正直、あれだけ応援されて羨ましかった」
「ぼ、僕……無口そうな顔の子が良いなって思――」
「俺は断然、一年生っぽいちっちゃい子だな。いただろ?」
「少なくとも、妬みはするよね」
ほれ見たことか。
やはり、可愛いは正義なのであるのだよ……亮吾くん。
「……けど、強豪だから集まるのかな?」
「いや、それよりも立派な理由があるだろ」
「それな」
「あ、あの無表情さは……僕の心にビビっと刺――」
「まぁ、それしかないよな」
『結局、畔上翔真が目当てなんだろうなー……』
しかし、話題を振ったはいいものの、彼らの興に乗せ過ぎたようで無意味な考察までし始めていた。
しかも、その結論として挙げられた単語が、またある者の火を付け――。
「畔上翔真……! 十一月の新人戦では、絶対に負けない」
話そっちのけで一人自主練へと戻ってしまう。
「ほっほっほ、元気がいいな」
「あっ、お爺ちゃん」
そんな様子を眺めていると、部活の顧問と体育教師とを兼任しているウチのお爺ちゃんが笑いながら入ってくる。
「そんなに元気なら、もっと練習を増やしても大丈夫みたいだの。なーに、君たちはまだ若い。死にゃせん」
そうして告げられる、鬼の宣告。
『そんなぁー!』
悲嘆する部員。
「…………………………………………」
黙々と練習に励む先輩。
ウチの部活は今日騒がしくて、楽しくて、居心地が良い。
他県からは『修羅の国』と揶揄されることで有名な場所であるけれど、同県の別地域からも同じように『修羅の国』と蔑まれているのが、このウチの地元である。
そんな中に位置するウチらの学校は、しがない県立高校。
クリーム色のボロボロな校舎。生徒数は四百五十人ほどでたいして大きくもなく、制服も在り来りなデザインだ。
変わった点といえば、体育科と言われる学科がこの
学区内で唯一存在することくらい。
でもだからこそ、その受験倍率は毎年高く、国公立故の授業料免除とも相まって人気の高い学校だ。
ウチの一つ上の先輩――亮吾くんもまた例に漏れず受験した者の一人である。
しかし運がいいのか、能力が高かったのか、何ともまぁ無事に合格してしまったせいで、ウチもここへ来なければいけなくなったわけだけど……。
とはいえ、ウチは普通科。
元々の学年差に加えて、カリキュラムの違いから接する機会は殆どない。
なので学校行事もしくは、今のようにこうして部活動の時間に会うほか方法はないのであった。
というわけで、今日もマネージャーとして頑張るっス!
♦ ♦ ♦
「――なぁ、琴葉。君もマネージャーなんだから、もう少し何かしても良いんじゃないか?」
体育館の壇上、そのヘリに座って練習を眺めていたウチに亮吾くんは呆れ顔で話しかけてきた。
「……って言われても、他の子はお爺ちゃんが見てるし、亮吾くんは言われた自主練メニューをやってるしで、特にやることがないんスよ」
「いや……なら、部室の掃除とかさ……」
「そんなことしたら、練習姿が見られないじゃないっスか!」
理不尽な先輩の要求に、私は憤慨してみせる。
なんて酷いことを言うんだ、この人は。ウチの入部動機を知っての発言かー!
まぁ、そもそもが話してないし、鈍感な亮吾くんに気付けるわけもないけど……。
「じゃあ……ドリンクを持ってくるとかはどうだ? ほかの部活ではよくやってると聞くけど」
「残念な話、ウチの部活にそんな予算はないっス。弱小っスからね」
「さいですか…………」
沈鬱な雰囲気で辺りは沈む。
悲しいかな。体育科という学科は存在しながらもせいぜいが一クラス――三十人ほどであるため、全ての運動系の部活が強いわけではないのだ。
ウチの部も亮吾くんを除けば全員が普通科の学生で、かつ殆どが授業経験だけの初心者。
むしろ、亮吾くんが入ってくれているだけこの部活はマシというレベルなのである。
テニス部なんて、先生も含めてが素人の集まりでしかない。
男子に人気のサッカー部や野球部、女子のバレー部といった強豪チームとは扱いが雲泥の差だ。
「でもじゃあ、琴葉には何が出来るんだよ……」
「……………………応援っスね」
しばらく考え、ウチは何とか解答を捻り出した。
「……もう解雇でいいんじゃないかなぁ」
「いやいや、よく考えてみてくださいよ。私みたいなそこそこ可愛い子をマネージャーにしてるだけで、割とアドっスよ? 応援の時、力出ますよ? 亮吾くんのライバル視してる和白高校なんか特にそうっスよね!」
「いや、俺は特に――」
「亮吾くんの話なんか誰もしてないっス!」
なおも口答えをする先輩を差し置いて、ウチは一喝。
その後ろで会話を盗み聞きしていた他の部員へと目を向け、意見を求めた。
「確かに、和白の子らはみんな可愛かったよなぁ……」
「正直、あれだけ応援されて羨ましかった」
「ぼ、僕……無口そうな顔の子が良いなって思――」
「俺は断然、一年生っぽいちっちゃい子だな。いただろ?」
「少なくとも、妬みはするよね」
ほれ見たことか。
やはり、可愛いは正義なのであるのだよ……亮吾くん。
「……けど、強豪だから集まるのかな?」
「いや、それよりも立派な理由があるだろ」
「それな」
「あ、あの無表情さは……僕の心にビビっと刺――」
「まぁ、それしかないよな」
『結局、畔上翔真が目当てなんだろうなー……』
しかし、話題を振ったはいいものの、彼らの興に乗せ過ぎたようで無意味な考察までし始めていた。
しかも、その結論として挙げられた単語が、またある者の火を付け――。
「畔上翔真……! 十一月の新人戦では、絶対に負けない」
話そっちのけで一人自主練へと戻ってしまう。
「ほっほっほ、元気がいいな」
「あっ、お爺ちゃん」
そんな様子を眺めていると、部活の顧問と体育教師とを兼任しているウチのお爺ちゃんが笑いながら入ってくる。
「そんなに元気なら、もっと練習を増やしても大丈夫みたいだの。なーに、君たちはまだ若い。死にゃせん」
そうして告げられる、鬼の宣告。
『そんなぁー!』
悲嘆する部員。
「…………………………………………」
黙々と練習に励む先輩。
ウチの部活は今日騒がしくて、楽しくて、居心地が良い。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる