最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル

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第140話

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「いつもより早いですけど大丈夫ですか?」
「私は事前に言ってもらえたらいつでも大丈夫だ」
「ぼくは寝てたら絶対に起きれなかったね」
「僕も起きるのは得意じゃないので、この時間は難しかったかもしれないです」

 アウロサリバから家に帰ってくるともう朝の6時前で、7時半から訓練を始めるため今からご飯を食べる。
 昨日は夜がない日だったので全員この時間に集まることが出来たが、もし夜がある日なら本人も言ってたけど絶対に起きていないだろう。

「俺は最近キプロが朝ご飯を食べに来てくれて嬉しいよ」
「あ、ありがとうございます」
「最初は先に家で朝ごはんを食べてから来てたが、あれは何だったんだ?」
「もし僕の分がなかったら、そのまま訓練に参加できるように食べてから来てたんです」
「なるほど、キプロはユーマが言っていた通りしっかりしているな」
「ぼくだったら寝坊しても遅れて朝ごはんだけ食べさせてもらいに来るけどね」
「この家に住んでいる間はしっかりと私がモルガを起こそう」
「ま、間に合った!」
「あ、ハティおかえり」
「ただいまです! キプロさん、これ少ないですけどあとで使ってください」

 俺達が話していると、遅れて家に帰ってきたハティが鉄鉱石と銅鉱石をキプロへ渡す。

「え、良いんですか?」
「自分が無理を言ってこの前探索についてきてもらったので、そのお返しです!」
「ありがとうございます」
「よし、今からご飯だから鉱石はしまっておこう」
「そうですね、ハティさん。本当にありがとうございます!」
「はい!」

 キプロとハティのやり取りを見ても、最初の頃より仲が深まっているのが感じられて良かったし、雰囲気を悪くせず言うべきことは言うモニカさんなんて、もう立派なこの家の大黒柱だ。

「お、今日はいちごミルクか。もう次のイチゴがこんなに育ったの?」
「ゴゴゴ」
「あ、隣の畑でとれたやつ?」
「ゴゴ!」

 いちごミルクはイチゴの消費量が多いため、ある時からあんまり作らないようになっていたが、いっぱい隣の畑で植えたから使えるようになったのだろう。

「ゴーさんに任せるけど、ベラさんとこに納品する分もしっかり残しててね」
「ゴゴ!」

 この様子を見るに、すごい量の果物があの畑には追加で植えられているんだろう。
 隣の畑はたまに遠くから色々育ってるのをちらっと見るだけで、本当にゴーさんへ任せっきりだから今どんな状況なのか全く分からない。

「ユーマ、この場に新しい魔獣が増えているのだが、そろそろ紹介してくれないか?」
「それでいうとゴーレムのグーさんも、ちゃんとは紹介してもらってないかも?」
「あ、それは確かに」

 もう俺の方で当たり前になってる事が多すぎて、この家の皆に紹介するのを忘れてしまってる。

「もうこの際だし魔獣とゴーレムの全員を軽く紹介しようかな。まずはウル!」
「クゥ!」
「俺の最初の魔獣で、今はもう皆のお兄さん。で、次がルリ!」
「アウ!」
「2人目の魔獣で、ルリはまだまだ甘えん坊かな? 次がエメラ!」
「……!」
「3人目の魔獣で、ちょっと恥ずかしがり屋のしっかり者だけど、最近は堂々としてることも多くなったね。で、次がシロ!」
「コン!」
「4人目の魔獣で、最初からしっかりしてるし皆とすぐ仲良くなったから、結構最近仲間になったのに前から居た感じがするね。しっかり者だけど皆に構ってもらえると嬉しそうだから、意外と甘えん坊なのかも? で、次はキノさん!」
「キノッ!」
「5人目の魔獣で、キノさんは俺が初めてテイムした魔獣。敵だった頃から戦うのが苦手っぽくて、たぶんずっと家でいることになると思う。まぁ本人がやりたいことを見つけたら応援するけど、しばらくは畑のお世話とか手伝ってもらうことになるかも? で、次はゴーさん!」
「ゴゴ!」
「もう今は我が家に居ないのは考えられない、説明不要の一家に1台ゴーさん。……ちょっと働き過ぎだけど。で、次がグーさん!」
「ググ!」
「グーさんもほぼゴーさんと同じかな。料理と1人で行動することが出来ないのはゴーさんと違うけど、その代わりにパーティーを組んで採掘とか行けるしね。グーさんも働き過ぎだけど、ゴーさんよりはちょっとだけ常識人よりかも? まぁそれでもゴーレムの2人でこの家が回ってるのは、間違いないね」

 一気に皆のことを話したが、あんまり能力の話はしなかった。たぶん皆としてはどんな性格か知りたかっただろうし。
 そしてもう皆が知ってるエメラあたりまでは説明をあんまりせずに、新入り達の説明を長めにとった。

「皆仲良くしてあげてね」
「当たり前だ」
「わかった」
「勿論です!」
「はい!」

 サイさんも無言で頷いてるし、これで皆の紹介は終わりでいいだろう。



「ゴーさんご馳走様、今日も美味しかったよ」
「ゴゴ」

 俺はゴーさん達に後片付けを任せ、いつもの訓練場所へ行く。

「あ、良かった。エマちゃんごめんね」
「いえ、全然大丈夫です」

 エマちゃんも今日はいつもより時間が早くなったのに来てくれて良かった。

「じゃあ早速始めよっか」

 俺は今日皆に体術を教えると言ったものの、この世界に体術があるのなら全くの別物だと言うことを皆へ先に言っておく。

「とりあえず皆は片足立ちで今から聞いてくれる?」
「分かりました」
「はい!」
「分かりました!」
「ぼくもやろっ」

 皆少しふらついたり、足を地面につけてやり直したりしている。

「俺の感覚だと体術って自分の身体を思い通りに動かせる技術って感じで思ってて、もしこの世界に他の意味での体術があるならそれと同じとは思わないでね」

 皆頑張って片足で耐えながら俺の話を聞いている。たぶん俺の話が右から左に抜けてる人も何人か居るだろう。

「だから、例えば素手でモンスターに攻撃をしたいなら、それは体術よりも格闘術の方のイメージが近いかな。でも、俺の思う体術は格闘術にも使われてて、なんなら他のすべての動作に体術は繋がるから、早めにやっておきたかったんだよね」
「ユーマはどうやって身につけたんだ?」
「もうがむしゃらにやって、気付いたらって感じですかね? この技術が必要だから身についただけで、体術単体で分けて考えたことはないです」

 体術を覚えたくて覚えたわけじゃない。知らない間に身に付いていたし、俺からすると本当にただ身体を思い通りに動かすってだけなんだよな。
 分かりやすくというか、ちょっとカッコつけて体術って名前を付けて言ってるだけで、たぶんプレイヤーが聞いたらただのゲーム廃人の技術だって言われる気がする。

「じゃあ次は手を前に出して」
「ふ、ふらつきます」
「難しいです」
「僕は意外といけるかも」
「ぼくは、ぼく、はっ」

 キプロは良い感じで、それ以外の3人は何度もやり直している。

「要は敵と戦ってる時に、その体勢を取りたいなと思ってすぐ出来るのと、そうでないのは全然違うって話かな。どんなポーズでもいいから自分の想像した体勢に挑戦してみて」

 俺はハティ達にこんなことを言ってるが、現実の俺の身体ではほぼ動かない。
 ただ不思議なもので、今想像通りに身体が動いていないなという感覚は少しあるのだ。
 
 俺はゲーム世界なら片足立ちはいくらでも続けられる自信があるし、感覚を研ぎ澄ませば数cm、数mm単位で身体を動かせる自信もある。
 これほどのことが出来ないと倒せない敵と戦って来たし、それだけ精神力を鍛えてきた。
 そして俺みたいなプレイヤーは、おそらく一握りしか居ない。

「なんとなくイメージ通りに身体が動くようになってきたら、その速度を上げる。速度が上がってきたら、次は力を入れられるのか、パワーを出せるのかを試す。それを試してある程度出来るようになってきたら、日々の動作一つ一つにも何か意識するように心掛ける。そしたらたぶんまた課題が出てきて、これまで出来てたことが出来なくなったりして、それでもやり続けたら成長していくよ。これは色んなことに言えるけどね」

 俺はこうやって強くなった。
 ゲーム世界だと怪我の心配は無いし、比較的早い段階で身体が思い通りに動いてくれたため、途中からはほとんど速さとの、反射神経や反応速度との勝負だった。
 だがハティ達はそうではない。怪我のリスクもあるし、やり直しは出来ない。なのでそこはモニカさんに見てもらう。

「俺が目の前の敵を蹴るならこうかな」
「はい!」
「ハティ、全然ユーマと重心の位置が違う」
「こう!」
「モルガはユーマの真似をしたんだろうが、そもそも足が逆だ」

 モニカさんは親からの訓練や、騎士としての訓練を受けてきたため、俺なんかよりもキプロ達に、安全に上達するためのアドバイスが出来るだろう。

「皆には申し訳ないけど、なんとなくこうすれば良いんじゃないかな? って言うことしか俺は出来ないから、もしもっと詳しく聞きたいならモニカさんにお願いね」
「ぼくも自分自身は出来ないけど、言うだけならやるよ」
「エマ、それはバランスを取っているだけだ。戦いの中で自らそのような体勢になることはない」
「はい」

 少々モニカさんがスパルタ気味なのは、俺がモニカさんに皆へのアドバイスはよろしくお願いしますと言ったからだろうか。

「キプロはたぶん動ける身体が出来上がってるのかもね。逆にハティとエマちゃんは最低限の筋力とかが少し足りてないのかも。それならそれで力を使わないような動きを極めていけば良いと思う」
「分かりました」
「はい!」

 今回の訓練である程度俺の考えていることは伝えられたから、あとは各々の使う武器が決まったら、それに合わせて訓練してもらおう。

「体育で柔道やってた時なんかは、ハティ達みたいなモチベーションじゃなかったなぁ」

 おそらくゲーム内で俺が身につけたこの技術よりも、現実で身につけた柔道の技術の方がハティ達の今の状況には近いだろう。
 受け身を取る時の掌は痛いし、人を投げるのも上手くやらないと力がいるし、勝負するとなったらお互いに道着をただ掴み合ってるだけで、体力が一瞬でなくなった記憶がある。

「皆は凄いよ」

 俺はキプロにアドバイスをくださいと声をかけられるまで、皆が頑張って訓練している姿を片足立ちで眺めていたのだった。


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