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【本編続き】
3-16.思わぬ遭遇と衝突
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建物の裏から救出に突入した領主の息子・レモンドは、音を立てないように階段を登った。
途中、見張りはいないのか、交戦することもなく、2階に到達した。
「彼女の情報によれば、2階に捉えられているはず」
レモンドはリリカとの会話を思い出す。離れる際に「気をつけて」と言われたが、何をどう気をつけるのか言葉の真意はわからない。
結局、問題なく2階の扉の前にたどり着いてしまった。
ゆっくりドアノブを握って、回す。
そして、手前に引く。
き~、という音がして、古びた扉が開け放たれると、そこは簡素な物置になっていた。
目の前には、痩せこけた男が1人と隅で寝かされている女性、第一王女姫殿下のエリスの姿があった。
布で猿ぐつわと手かせ足かせがされているようだ。
扉を開けたことで男が異変に気づいたのか、手元の武器を抜いて、レモンドに向けた。
「何者だ!」
痩せこけた男は怒声を上げた。
少し演技くさいのは気のせいかと流し、痩せこけた男をじっくり見る。
「エリス王女様を返してもらおう!」
レモンドも腰から剣を抜くと、構えた。
「俺はここを支配している……え~と。あ、そうだあれだ、ボスで」
たどたどしい自己紹介だった。
まるで台本のセリフ合わせでもしているようだった。
そこで痩せこけた男は目を細めてレモンドを見た。
見事な二度見である。
「……いや、本当にお前は誰だ!」
男は驚いた表情で叫んだ。
なぜか同じセリフを繰り返す。
痩せこけた男は「あれ~?」という疑問の顔をして、戦うべきか迷っている様子だった。
それにレモンドが首を傾げた。
「ん?」
(この男は、何を?)
男は何度も首を振ると、やはり戦うことにしたのか、武器を握り直した。
レモンドはちらっとエリスの方を見る。
「ふんふ、ふうふんふぉふ」
何かを言っているようだが、言葉がくぐもってよく聞こえない。
「いま助けます。もう少しお待ち下さい」
レモンドは前に飛び出した。
戦闘がどの程度の練度かは知らないが、ただの鉄の棒を持っているだけ。
いまのレモンドならそのへんのごろつきには負けないはずだ。たとえ棒術の達人だとしても、ここまで来て引き下がれない。
ただ、ここのボスでエリスを奪うために護衛を正面突破したという割に、彼はあまり強そうに見えなかった。
(でも、見た目ではわからないのは、師匠で思い知っていることだ)
男は打ち込む。武器を振る男の動きが遅すぎて、レモンドには当たらない。
そのまま横にずらして、背中の上辺りを剣の背で叩いた。
すると衝撃で男は倒れ込んだ。
「やはり、弱すぎる……なにがどうなって。あ、その前に」
レモンドは急いでエリスのもとに駆け寄った。
猿ぐつわを外し、手枷と足かせも解く。
目は少し涙目になっていた。
「大丈夫ですか?」
レモンドが手を取って立ち上がらせると、少しふらついたエリス。
その体を反対の手で支えた。
じっと両者が見つめ合う。
そのなんとも言えぬ雰囲気をぶち壊すように、バンっと勢いよく古びた扉が開かれる。
「エリス王女様! ご無事ですか!?」
男が足を踏み入れてきた。
そこで、抱き合うような形になっているレモンドは、この場にふさわしくない黒いスーツと花束を持参した男を見つめた。
互いの目を数秒睨み合った後、男は目が点になって、沸騰するやかんのように、目の周囲が赤くなった。
男はあまりの怒りで言葉を失ったのだ。
レモンドは問う。
「……君は誰だい?」
服装からここのごろつきでないことは分かる。だが、この場にその格好がもうおかしいのだ。
「いや、お前こそ誰だ! なぜエリスと抱き合っている!」
似合わない黒いスーツを着た男は、王女に敬称をつけることも忘れて、レモンドに怒鳴り散らした。
レモンドは落ち着いて言葉を返す。
「私はサンポード地方の領主の息子で、名をレモンドという。君の名前は?」
そのゆっくりしたのレモンドの声に、男は我に返り、エリスが見ていることを思い出した。そして、黒いスーツの男は襟を正し、名乗ることにしたようだ。
しかも、エリスに向けて自分をピールするように。
「俺はバイレンス家の長男で、現当主のシーラスだ。エリス王女を助けに参上した!」
自分こそが助けに来たのだと、手を広げて強調した。
「そうかい」
レモンドは頷いた。これが、バイレンス家で生まれたミラの兄なのだと。
「ところで、レモンドと言ったか。エリス王女に抱きついて襲おうとしていたようだが、悪漢は俺が成敗する。抵抗は無駄だ。黙ってやられろ、俺は強いからな」
「え?」
レモンドは純粋な疑問から、思わず間抜けな声が出た。
「抱き合っている」から「抱きついた」ことに、いつの間にかされていた。
「とぼけるな! いま、エリス王女の貞操を奪おうとしていただろう」
「いや、これは」
そう言ってレモンドは手からエリスの体を離し、少し距離をとった。
その間、ずっと抱きしめていたらしい。
なぜかエリスの顔は真っ赤になっており、離れた瞬間、羞恥を隠すように自分の体を抱きしめるように自分の両腕を固く閉じるエリス。そのまま隅まで走って下がる。
レモンドは少し焦る。
誤解だと彼女の自分の口から言ってくれない様子だ。この状況だと、レモンドがまるで悪漢だ。
「ふん、やはりな」
レモンドは、シーラスのその演技くさい言い方が鼻につく。
わざと、シーラスがレモンドを成敗して倒す状況に持ち込みたいようだった。
しかし、冤罪ではあるが、助けに来たというのなら本来は問題はないはずだ。
なのにレモンドは、彼にエリスを渡してはいけないような気がした。
「違う。私はここには助けに来ただけだよ」
「どうせ、エリス王女の美しさに見とれて欲情したんだろう。悪漢の下衆は俺が撃退してやる。安心してくれエリス王女。いま目の前の虫を始末するからな」
シーラスは手持ちのポーションを口に含んで、前に突っ込んできた。
決して速くはないが、剣の握り具合から、かなりの力を入れて振っていることがレモンドにはわかった。
剣を横にずらしてそれを受け流すが、力を相殺しきれない。レモンドはそのまま横に足を滑らせた。
腕力だけでレモンドの体を横に吹き飛ばしたようなものだ。
「なんだ、この馬鹿げた力は……」
レモンドは、手に感じた衝撃に驚いて、思わず両手を見つめた。
「どうやら、悪漢の貴様はただの蛮勇だったようだな。だが、もう遅い」
シーラスはレモンドを睨んで言う。
レモンドは首を振った。
「それでも師匠と比べると技術は天地の差だ。ここでは負けられない。それに後ろには……」
レモンドは後ろのエリスをちらっと見た。
なにか言いたそうにして、口を閉じるだけのエリスから視線を戻す。
それをシーラスは馬鹿にしたように言う。
「下衆が、姫を守る騎士の真似事か?」
レモンドはその言葉を無視して、手に力を入れ直した。
(そう、思い出すんだ。ミラ師匠は力を力では返していない。そういうものだと教わったのに、まだどこかで力押しする自分がいたんだ)
そのまま前へと走り、剣の先を少し下げる。
正面からぶつけ合うのではなく、剣をいなすように捌き、力を後ろに逃がす。
衝撃で手がしびれないように、正面から受け止めるのではなく、相手の劣る技術で肉薄する。
数合打ち合って、シーラスがさらに目を細めた。
「おい、何だその剣術は……いや、まさか」
シーラスは打ち合っている最中に集中を切らしたように後方へと一旦下がる。
力を無力化するような剣の動きに、昔相手をしていた小さいミラの影を重ねていた。
「待て! いや、そんな馬鹿なことあるはずがない」
だが、レモンドはその声を待たなかった。
前に突撃し、一瞬でシーラスの持つ利き手の剣とは逆から、すぐそばを駆け抜けた。
「勝負に待ったはない!」
レモンドは、脇下を切りつけた。
切った感触がなく、そのまま心臓のあたりを柄の先端で殴る。
剣でも切れず、どんなに頑丈な人間でも、直接、心臓に受けるダメージは耐えられるものではない。
「これは師匠の教えではないんだけれど、我が領地に伝承され、私の友人が得意とする技だ。本当は手で打つんだけどね」
その声はもう聞こえていない。シーラスは意識を失った。
ただ殴ったのではなく、内部に衝撃がぶつかるように殴ったからだ。
領地に受け継がれ続けている技を応用した『浸透剣打勁』だった。
ミラのメニューで体を強くしてもらったからこそ使える技。自分への反動も強いが、いまの強度なら問題ないと判断した。
「それにしても、なんて体の硬さだ……」
シーラスはただの雑魚ではなかった。
剛の剣術を使いこなし、強力な膂力と体の力に、頑丈な筋肉と外皮。
もし、ミラの訓練を受けて弟子入りしなければ、最初の一撃で骨が砕けて負けていた。
床には花束が転がっている。
シーラスが持ってきたものだ。
「彼はそもそも、なぜここに? 変な格好で、花まで持って……」
何故か予定外の相手と戦うことになったレモンドはため息を付いた。
(そういえば、まだ問題が残っていたんだ。エリス王女様は、お見合いを断り続けているともっぱらの噂だ。それに男があまりお好きではなかったはず)
レモンドはゆっくりエリスのそばによって、声をかけた。
「大丈夫でしたか?」
体もか細くて弱々しい。相手がごろつきでも戦いに巻き込まれていたらケガをしていたはずだ。
「……先ほどは、ごめんなさい」
なぜか謝るエリスに、レモンドは意味がわからずとりあえず頷いた。
「高貴なご身分の方をこの場に留めるのは、はばかられます。さあ、外へ」
レモンドは手を出すが、男が手をにぎるのはダメかもしれないと慌てて引っ込めようとする。
その手をエリスが手を伸ばして掴んだ。
「はい……」
レモンドは彼女の握る手を見て、男とつないで大丈夫なのかと不思議に思いながら、その手を引いて外に連れ出すのだった。
途中、見張りはいないのか、交戦することもなく、2階に到達した。
「彼女の情報によれば、2階に捉えられているはず」
レモンドはリリカとの会話を思い出す。離れる際に「気をつけて」と言われたが、何をどう気をつけるのか言葉の真意はわからない。
結局、問題なく2階の扉の前にたどり着いてしまった。
ゆっくりドアノブを握って、回す。
そして、手前に引く。
き~、という音がして、古びた扉が開け放たれると、そこは簡素な物置になっていた。
目の前には、痩せこけた男が1人と隅で寝かされている女性、第一王女姫殿下のエリスの姿があった。
布で猿ぐつわと手かせ足かせがされているようだ。
扉を開けたことで男が異変に気づいたのか、手元の武器を抜いて、レモンドに向けた。
「何者だ!」
痩せこけた男は怒声を上げた。
少し演技くさいのは気のせいかと流し、痩せこけた男をじっくり見る。
「エリス王女様を返してもらおう!」
レモンドも腰から剣を抜くと、構えた。
「俺はここを支配している……え~と。あ、そうだあれだ、ボスで」
たどたどしい自己紹介だった。
まるで台本のセリフ合わせでもしているようだった。
そこで痩せこけた男は目を細めてレモンドを見た。
見事な二度見である。
「……いや、本当にお前は誰だ!」
男は驚いた表情で叫んだ。
なぜか同じセリフを繰り返す。
痩せこけた男は「あれ~?」という疑問の顔をして、戦うべきか迷っている様子だった。
それにレモンドが首を傾げた。
「ん?」
(この男は、何を?)
男は何度も首を振ると、やはり戦うことにしたのか、武器を握り直した。
レモンドはちらっとエリスの方を見る。
「ふんふ、ふうふんふぉふ」
何かを言っているようだが、言葉がくぐもってよく聞こえない。
「いま助けます。もう少しお待ち下さい」
レモンドは前に飛び出した。
戦闘がどの程度の練度かは知らないが、ただの鉄の棒を持っているだけ。
いまのレモンドならそのへんのごろつきには負けないはずだ。たとえ棒術の達人だとしても、ここまで来て引き下がれない。
ただ、ここのボスでエリスを奪うために護衛を正面突破したという割に、彼はあまり強そうに見えなかった。
(でも、見た目ではわからないのは、師匠で思い知っていることだ)
男は打ち込む。武器を振る男の動きが遅すぎて、レモンドには当たらない。
そのまま横にずらして、背中の上辺りを剣の背で叩いた。
すると衝撃で男は倒れ込んだ。
「やはり、弱すぎる……なにがどうなって。あ、その前に」
レモンドは急いでエリスのもとに駆け寄った。
猿ぐつわを外し、手枷と足かせも解く。
目は少し涙目になっていた。
「大丈夫ですか?」
レモンドが手を取って立ち上がらせると、少しふらついたエリス。
その体を反対の手で支えた。
じっと両者が見つめ合う。
そのなんとも言えぬ雰囲気をぶち壊すように、バンっと勢いよく古びた扉が開かれる。
「エリス王女様! ご無事ですか!?」
男が足を踏み入れてきた。
そこで、抱き合うような形になっているレモンドは、この場にふさわしくない黒いスーツと花束を持参した男を見つめた。
互いの目を数秒睨み合った後、男は目が点になって、沸騰するやかんのように、目の周囲が赤くなった。
男はあまりの怒りで言葉を失ったのだ。
レモンドは問う。
「……君は誰だい?」
服装からここのごろつきでないことは分かる。だが、この場にその格好がもうおかしいのだ。
「いや、お前こそ誰だ! なぜエリスと抱き合っている!」
似合わない黒いスーツを着た男は、王女に敬称をつけることも忘れて、レモンドに怒鳴り散らした。
レモンドは落ち着いて言葉を返す。
「私はサンポード地方の領主の息子で、名をレモンドという。君の名前は?」
そのゆっくりしたのレモンドの声に、男は我に返り、エリスが見ていることを思い出した。そして、黒いスーツの男は襟を正し、名乗ることにしたようだ。
しかも、エリスに向けて自分をピールするように。
「俺はバイレンス家の長男で、現当主のシーラスだ。エリス王女を助けに参上した!」
自分こそが助けに来たのだと、手を広げて強調した。
「そうかい」
レモンドは頷いた。これが、バイレンス家で生まれたミラの兄なのだと。
「ところで、レモンドと言ったか。エリス王女に抱きついて襲おうとしていたようだが、悪漢は俺が成敗する。抵抗は無駄だ。黙ってやられろ、俺は強いからな」
「え?」
レモンドは純粋な疑問から、思わず間抜けな声が出た。
「抱き合っている」から「抱きついた」ことに、いつの間にかされていた。
「とぼけるな! いま、エリス王女の貞操を奪おうとしていただろう」
「いや、これは」
そう言ってレモンドは手からエリスの体を離し、少し距離をとった。
その間、ずっと抱きしめていたらしい。
なぜかエリスの顔は真っ赤になっており、離れた瞬間、羞恥を隠すように自分の体を抱きしめるように自分の両腕を固く閉じるエリス。そのまま隅まで走って下がる。
レモンドは少し焦る。
誤解だと彼女の自分の口から言ってくれない様子だ。この状況だと、レモンドがまるで悪漢だ。
「ふん、やはりな」
レモンドは、シーラスのその演技くさい言い方が鼻につく。
わざと、シーラスがレモンドを成敗して倒す状況に持ち込みたいようだった。
しかし、冤罪ではあるが、助けに来たというのなら本来は問題はないはずだ。
なのにレモンドは、彼にエリスを渡してはいけないような気がした。
「違う。私はここには助けに来ただけだよ」
「どうせ、エリス王女の美しさに見とれて欲情したんだろう。悪漢の下衆は俺が撃退してやる。安心してくれエリス王女。いま目の前の虫を始末するからな」
シーラスは手持ちのポーションを口に含んで、前に突っ込んできた。
決して速くはないが、剣の握り具合から、かなりの力を入れて振っていることがレモンドにはわかった。
剣を横にずらしてそれを受け流すが、力を相殺しきれない。レモンドはそのまま横に足を滑らせた。
腕力だけでレモンドの体を横に吹き飛ばしたようなものだ。
「なんだ、この馬鹿げた力は……」
レモンドは、手に感じた衝撃に驚いて、思わず両手を見つめた。
「どうやら、悪漢の貴様はただの蛮勇だったようだな。だが、もう遅い」
シーラスはレモンドを睨んで言う。
レモンドは首を振った。
「それでも師匠と比べると技術は天地の差だ。ここでは負けられない。それに後ろには……」
レモンドは後ろのエリスをちらっと見た。
なにか言いたそうにして、口を閉じるだけのエリスから視線を戻す。
それをシーラスは馬鹿にしたように言う。
「下衆が、姫を守る騎士の真似事か?」
レモンドはその言葉を無視して、手に力を入れ直した。
(そう、思い出すんだ。ミラ師匠は力を力では返していない。そういうものだと教わったのに、まだどこかで力押しする自分がいたんだ)
そのまま前へと走り、剣の先を少し下げる。
正面からぶつけ合うのではなく、剣をいなすように捌き、力を後ろに逃がす。
衝撃で手がしびれないように、正面から受け止めるのではなく、相手の劣る技術で肉薄する。
数合打ち合って、シーラスがさらに目を細めた。
「おい、何だその剣術は……いや、まさか」
シーラスは打ち合っている最中に集中を切らしたように後方へと一旦下がる。
力を無力化するような剣の動きに、昔相手をしていた小さいミラの影を重ねていた。
「待て! いや、そんな馬鹿なことあるはずがない」
だが、レモンドはその声を待たなかった。
前に突撃し、一瞬でシーラスの持つ利き手の剣とは逆から、すぐそばを駆け抜けた。
「勝負に待ったはない!」
レモンドは、脇下を切りつけた。
切った感触がなく、そのまま心臓のあたりを柄の先端で殴る。
剣でも切れず、どんなに頑丈な人間でも、直接、心臓に受けるダメージは耐えられるものではない。
「これは師匠の教えではないんだけれど、我が領地に伝承され、私の友人が得意とする技だ。本当は手で打つんだけどね」
その声はもう聞こえていない。シーラスは意識を失った。
ただ殴ったのではなく、内部に衝撃がぶつかるように殴ったからだ。
領地に受け継がれ続けている技を応用した『浸透剣打勁』だった。
ミラのメニューで体を強くしてもらったからこそ使える技。自分への反動も強いが、いまの強度なら問題ないと判断した。
「それにしても、なんて体の硬さだ……」
シーラスはただの雑魚ではなかった。
剛の剣術を使いこなし、強力な膂力と体の力に、頑丈な筋肉と外皮。
もし、ミラの訓練を受けて弟子入りしなければ、最初の一撃で骨が砕けて負けていた。
床には花束が転がっている。
シーラスが持ってきたものだ。
「彼はそもそも、なぜここに? 変な格好で、花まで持って……」
何故か予定外の相手と戦うことになったレモンドはため息を付いた。
(そういえば、まだ問題が残っていたんだ。エリス王女様は、お見合いを断り続けているともっぱらの噂だ。それに男があまりお好きではなかったはず)
レモンドはゆっくりエリスのそばによって、声をかけた。
「大丈夫でしたか?」
体もか細くて弱々しい。相手がごろつきでも戦いに巻き込まれていたらケガをしていたはずだ。
「……先ほどは、ごめんなさい」
なぜか謝るエリスに、レモンドは意味がわからずとりあえず頷いた。
「高貴なご身分の方をこの場に留めるのは、はばかられます。さあ、外へ」
レモンドは手を出すが、男が手をにぎるのはダメかもしれないと慌てて引っ込めようとする。
その手をエリスが手を伸ばして掴んだ。
「はい……」
レモンドは彼女の握る手を見て、男とつないで大丈夫なのかと不思議に思いながら、その手を引いて外に連れ出すのだった。
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