実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice

文字の大きさ
上 下
52 / 69

3-9.掃討作戦と大きな脅威(前編)

しおりを挟む
 部屋の中で再び話し合いが行われ、そこには王家と護衛、ミラの面々がいた。
 横になっている護衛たちは、毒の耐性や体力のある者から起き上がり、話に加わっている。
 彼らが新興の武家の家の者であるというのも大きいかも知れない。魔物との戦闘経験が豊富で、麻痺もすでに受けたことがあった。

 仕切るのは王妃のマーガレットである。

「さて、現状は把握できたのですから、残りの襲撃者を撃破して、安全を確保することが必要よ」

 それにフローラが聞き返した。

「お母様、聞き出した情報の中に居場所はありませんでした。もしかしてミラさんに?」
「そのとおりよ。ミラさんなら探すことが可能みたいだから、索敵を任せることにして、動けるもので残存勢力を排除しましょう。ミラさんはそれでいい?」

「はい、問題ありません」

 フラーラは再びマーガレットに問いかける。

「ではどのような組分けで? それとも全員でまとめて一箇所ずつ潰すのですか?」

 それにはレオが答えた。

「いや、護衛の手が空いたのなら、俺と彼女とそれ以外でわけて、3戦力がいいだろう」

 ミラは少し驚いた。自分の方を向いていたレオが示す意味に。
 それだと、ミラが1人で戦うということだ。

「あの……私がですか?」

「不満か?」

「いえ」

 フローラはその勘違いにまみれた会話に、フォローした。

「レオお兄様、それだと王家が権力の傘を来て突撃命令を出しているみたいです。そうではなくて、ミラさんなら大丈夫だと言ってあげればいいんです」

「そうか、そういうことだ。君なら大丈夫そうだから、任せる」

「……わかりました」

(確かに魔人を撃破したことはあるけれど、あの防御っていまだに理由がよくわからないのよね……)

 ミラは魔神に対して有効な防御をしたが、理由も理屈もわからない方法だった。
 もし、変身した魔人に遭遇した時、あの防御を敗れる魔人だったら、ミラは負けてしまう。薬草も残りがない。
 いかにも強そうな護衛の人たちも一緒に来てほしかったが、分散する敵を同時に叩かないといけない。


 ミラは、その潜伏地を知るために、広範囲索敵を行うため、内面に意識を集中した。
 すると、4箇所に怪しい人たちがいて、2~3人で固まっていた。
 倒した黒フードたちの残りだろう。
 この王城には一部隊が潜入しているらしく、あくまで先遣隊だ。おそらくバイレンス家の王都別邸にはそれ以上の戦力が大規模に用意されている。

 場所を把握したら、戦闘に参加し動ける者をこの王城(の安全地帯だけ)からかき集めた。


***


 合図を確認して、ミラも他の部隊と一緒に分散し、一斉に拠点へと攻撃を仕掛けた。
 拠点といっても隠れるために偽装した場所というだけだ。

「誰だお前、ぐはっ……」
「なにが、ぐあっ!」

 ミラは全力で走り抜け、抵抗を許さない形で全員の背中を斬り伏せた。

 
 次に向かうのは、応援として護衛隊の一部をさらに2箇所に分散したところにだ。
 敵人数が3人ずつで、一番の戦力と思われる。
 そのどちらかに親玉もいるのだろう。
 戦力的に不安という話でなぜかミラもそこに加わるように言われたため、急いで駆けつけた。


 1つの目的地に到着すると、敵を倒し終えていた。
 合流したまま、護衛騎士たちの数人と残りの場所へと向かうことになった。

「それにしても本当に一人で倒してこられたんですね?」

 1人の男性がミラに話しかけてきた。

「え? ええ……不意をつけたのでなんとか」

「そうなんですか? 正直、この黒いフードをかぶった敵は結構強かったですよ?」

「そのようです。あの、その中に異形の魔人はいませんでしたか?」

「いなかったですけど……」

「そうですか」

 とすると、もう1箇所はここよりも危険かもしれない。
 ミラは覚悟して次の場所に向かった。


***


 ミラたちが到着すると、敵の3人のうち、2人がすでに倒されていた。
 しかし、護衛も数人が倒されている。
 レオも加わっているが、残りの1人にかなり苦戦しているらしい。

 ミラはその姿を見て少しホッとした。
 魔人ではない。
 しかし、変身していなくてもあの人数差で戦線を圧倒している。
 以前、魔人に変身した男は、自分の戦力が弱いことを自覚していたのか、爆発物を使い、その後すぐに変身してきた。
 つまり、あの男は素でかなりの強さでありながら、魔人に変身する可能性がある。
 この部隊の親玉ということになる。

「気をつけて下さい。その人、まだ手加減しています! 全力ではない弱いままの動きに見えます」

 ミラはそう叫んだ。
 兄の様子と重ねて、手加減していると言っていたときの表情とほぼ同じだった。
 苦痛に耐えるふりをして、機を狙っているのだろうと。

「わかった」

 レオが叫び返す。

 だが、男はミラを見て、怒りに打ち震えていた。

「手加減だと……。これがお前には手加減して弱く見えるのか……」

 ミラはぼそぼそいっている黒フードの男の声を聞き取ろうとして失敗した。

「あの人、なにか言っているのでしょうか?」

 とりあえず、剣と魔法での戦いということもあり、戦線に加わるタイミングを図ってミラたちはその周囲に待機した。


 一瞬、魔法が尽きて、レオが連続戦闘で疲弊し、剣と足を止めたところで、ミラがその間に駆け出した。
 突然のことに、護衛たちも止める隙はない。

「厄介なのが来たか……仕方ない」

 黒フードの男はアイテムを飲み込んだ。

 それを見たミラは、レオのところに進行方向を変える。彼の身体を引っ張るように後ろに下げた。
 ミラがその正面に立ち、あの攻撃が来るようなら、防がなければいけない。

 それができなければ全員死ぬのだ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。 しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。 自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。 そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。 一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。 ※カクヨムさまにも掲載しています。

公爵令嬢のRe.START

鮨海
ファンタジー
絶大な権力を持ち社交界を牛耳ってきたアドネス公爵家。その一人娘であるフェリシア公爵令嬢は第二王子であるライオルと婚約を結んでいたが、あるとき異世界からの聖女の登場により、フェリシアの生活は一変してしまう。 自分より聖女を優先する家族に婚約者、フェリシアは聖女に嫉妬し傷つきながらも懸命にどうにかこの状況を打破しようとするが、あるとき王子の婚約破棄を聞き、フェリシアは公爵家を出ることを決意した。 捕まってしまわないようにするため、途中王城の宝物庫に入ったフェリシアは運命を変える出会いをする。 契約を交わしたフェリシアによる第二の人生が幕を開ける。 ※ファンタジーがメインの作品です

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...