実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

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2-16.試験の終了と約束

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 リリカの調合が終わり、本来ならそのまま面接の待合室に向かう。
 だが、慌てて器具だけ返しに来たリリカがミラの目の前にいた。
 手渡すときにお礼だけ言って、去っていった。

 結局、ミラの器具が使えたのかどうかはわからなかった。

 しばらく待っていると、ミラの番が来た。

 調合コーナーに案内されると、基本的な調合道具が一式あり、試験官の3人が立っていた。2人はすでに顔なじみの師匠だ。
 1人は初めて見る薬師だ。
 ミラは予想を立てた。おそらくだが、別の街の薬師が応援に来ているのだろうと。
 ただ気になったのは、調合の監督官が3人ともここにいることだ。普通は、手分けして監督官をするはずだ。なぜ集合しているのか、ミラにはわからなかった。


 目の前にいるのは本来1人で監督を務めるはずのメリエラだ。
 用紙を持ったメリエラは、試験監督役らしくミラに指示を出した。

「それでは、この器具と手持ちの器具を使って、今から指示するポーションを調合するように。時間はこの水晶のカウントが0になり、鈴の音が鳴るまでとする。ただし、仕上げの保管時間は省くものとする。作るのは、毒消しポーション。基準は高品質以上。では始め」

 3人の試験官のうち、知らない顔の1人が、「高品質以上」の部分を聞いて、目を見開いて驚いた顔をした。毒消しポーションは、低級ポーションと違い、品質を上げるのが難しい。中程度で合格のはずだった。
 試験官の男の1人が、「本当に良いのか?」とメリエラのほうをきょろきょろと見ていた。
 調合試験の場合、合格基準は試験官が決められる。見習いの経験・実績を踏まえて、最適な課題を設定するためだ。


 男の様子に、ミラは少しだけ疑問を浮かべた後、作業に入った。

 ミラは毒消しポーションの品質について頭の中で情報をまとめる。
 毒消しポーションは中級ポーションで、これが品質中程度で作れるのなら最低限、薬師と名乗ることができる。製作難易度も高く、それが高品質であった場合は、優秀だと言えた。結構、ハードルの高い基準設定を課してきたことを理解した。

 ミラはいつもどおりに、材料を選び、器具を配置して、最初は魔法の調合から入る。仕上げの前段階で、手作業により不純物を取り除くのだった。それには専用の特殊器具も使う。
 そこに、師匠様の残していた時間を短縮するための材料もついでに持ち込んで入れる。 しばらくして、仕上げ作業が終わった。

「できました」

 他の受験生ではありえない時間で、調合を終えることになった。

 ミラの知らない男の監督官だけが、驚いた表情をした。

「な……、早すぎる! 工程を見ていたはずなのに……何が起こった? それに、魔法と手作業の精度もおかしかった……。本当に見習いなのかね、君は?」

 男は口をぱくぱくさせて、ミラとメリエラを交互に見る。

「はい……」

 ミラは肯定して返す。

「いや、王都認定の薬師だったとしてもできるかどうか……」

 だが、メリエラは反応を予想していたのか男の疑問に答えない。
 取り決め通りの言葉を口にする。

「では後日、仕上げの保管が完了の後、鑑定を行う。この基準が高品質以上であった場合は、調合試験を合格とする。次の面接に移りなさい」

 むしろ、ただの見学者を五月蝿いと思っているような、どうでも良さそうな表情をしていた。

 ミラはメリエラをちらっと見て安堵した。
 先生モードになるときちんと仕事をこなす姿が見られる。普段とのギャップが大きい人だ。
それでも、感情は外に出ていてわかりやすい。

 ミラは調合試験のコーナーを退出する。

 すでに品質のみで合否判定が出るということは、作業工程に問題がなかったことも意味している。
 後は、品質のみで判断ということだ。
 

***


 ミラはその足で面接に向かった。
 面接は合否に直接関係がないという話だったので、気楽なものだ。

 実際に、面接は質問に答えていくだけだった。
 簡単に職業倫理や動機を問う質疑応答で、後は自由発言で「これについてはどうか?」など口頭での会話や説明をさせられた。


 面接まで全部終わったところで、リリカが大丈夫だったか気になった。

 器具も使えたかわからないし、どうだったか本人に聞くしかないだろう。
 面接は形式だけという話だったが、あまりにもひどければ落とされるかも知れない。あの子にとっては一番難しい試験になるかもしれない。


 元の控室に戻ると、リリカがいた。
 声をかけようとして、思わずミラの足が止まる。

 どんよりとした空気が流れ込んできたのだ。
 少し落ち込んでいる様子である。
 顔は青白いままだ。

「あの、試験……どうでしたか?」

 その様子からだいたいは察せられないこともないが、一応聞いておいた。

「全然、ダメだった……」

「器具はどうでした? 使えましたか?」

「器具は前半だけ使えた、ありがとう。けど、後半の仕上げがね。仕上げの工程に使える器具がなくて、あなたの器具で手作業することになって、多分だけど、合格基準には届かないかな」

 ミラと話している間は、少しだけリリカの顔色が戻った。声が聞き取りやすい。

「面接は?」

「とりあえず、全部『はい』と答えておいたけど、実技が失敗した不安で、面接官の質問内容はまったくわからなかった……」

 緊張で面接官の言葉が耳に入ってこなかったらしい。

 ミラは、全部『はい』と答えたと聞いて、それはまずいかもしれないと思った。
 面接内容は、受験者に具体的なことを答えさせていた。「はい」と回答できる質問がなかったのだ。

「……」

「あの、なにか言って……」

 正面からすがりつくリリカは、両手でミラの上着を引っ張った。
 その後、そのまますべり落ちるように地面の床に座り込んだ。
 リリカは思ったように腕に力が入らず、ミラも身体を支えるか迷ったためだ。

「まずは、その症状を治すのは……?」

「無理……」

「どうしてですか?」

「王都でも治せる人がいなかった」

 リリカはおそらく、似たようなことを他の誰かにも言われてきたのだろう。
 ちょっとあきらめ気味の声色をしていた。

「じゃあ、治るように私もお手伝いしますから、元気を出してください」

 その言葉を聞いてリリカは立ち上がった。
 体調最悪のはずだが、キビキビとした動きだった。
 ミラの肩を掴んで、揺らす。
 
「ほんと!?」

 慰めた言葉の何にそこまで嬉しがっているのか、よくわからないミラだった。
 勢いに押されて後ずさる。

「はい……」

「最後まで?」

 目が血走っているのは少し怖いが、ミラは頷いた。

「治るまで、きちんとお手伝いします。ですから、あの肩をそんなに強く掴まなくても……。本当にお手伝いしますから」

 するとリリカは、体調不良が消えたのか、晴れやかな笑顔になる。

「ありがとう!」

 リリカはミラの両手を握り直して、ブンブンと上下に振った。

 ミラは試験を通じて友達を得られた。

 だが、リリカからは別の熱というか圧を感じたのである。
 とりあえず、気分の乱高下が異常に激しいことが何か症状の原因になっているのかも知れず、ミラは本当に治せるのか不安になってくる。

 うかつな約束を交わしてしまったかも知れない。そう思うミラだった。


***


 試験会場を出たミラは、今後のことを相談することにした。

「あの……ちょうど王都に行く用事もありますし、その際に、リリカさんと王都に一緒に行くのはどうでしょうか? 行ったり来たりするのも大変なので」

 リリカは少し考える素振りを見せてから答えた。

「それもそっか。泊まる場所が決まっていないなら、王都にある私の家に招待するよ?」
「え、いいんですか? ありがたいです。宿泊のこととかまだ決まっていなかったので。着いたら泊まる場所を探すつもりで」

 ミラは少しだけ寒気がしたが、気のせいと首を振る。
 ついでに、シルクのことも伝えておくことにする。

「あ、それから犬のシルクも一緒に連れていきたいんですけど、犬は大丈夫ですか?」

「もちろん、大丈夫だけど……王都にわざわざ飼い犬を連れて行くの?」

 リリカは不思議そうな顔でミラに聞いた。

「犬を連れて行くことって、王都では何か変なことなのでしょうか?」

 純粋に疑問に思ったことを聞き返す。

「いや、そういうわけじゃないけど、ミラが1人で王都に行っていたら、その犬の命が危険だったかも知れないね」

「え……?」

 ミラは本気でなぜかわからないという顔をした。

「犬や動物って基本的に宿に一緒には泊まれないんだ。だから犬は馬小屋生活になるけど、そこで通行人に駆除されるかな。王都だと野獣の駆除が認められているから。『飼い主が目を離して気付いたら処理されていた』なんて話はよく聞くから。野良動物の繁殖対策なんだろうけど」

「そんなことが……」

 今度はミラの顔が青ざめる。
 リリカは「大丈夫?」と声をかける。

「私の家まで馬車で行けば大丈夫。襲われる心配はない。自宅だから、家の中に動物を入れられるし、安心でしょ?」

 リリカは、安心させるように両手を握って優しくさすった。

「そうね……、なら安心だわ」

 ミラは安堵したように息を吐いた。

「そう」

 リリカの両手を見て、ミラはじっとその様子を見た。

「あの……手を離してくれますか? 歩けません」

「そうだった」

 その確信犯のような顔を見て、ミラは首をかしげた。

(う~ん、友達は普通、これくらいの距離感なのかしら? 手を握るのが普通とか?)

 家族間では当然、そんなスキンシップなど存在しなかった。
 だからなのか、他人に必要以上に近づかれたり、触られたりすると、心が落ち着かなくなる。距離を取りたいと思ってしまうのだ。

 この街で仲良くなったスフィアは、いつもカウンター越しで仕事の話をしているから身体的なスキンシップはない。
 メリエラもスキンシップを取らない人だ。
 フローラは王族だから気軽な接触はしてこなかった。

 冒険者は男が多いし、女の友達同士の様子をあまり見かけない。

(でも前同行したメンバーは女友達同士でも手を握ることはしてなかった気がするけれど、故郷の村から来たと言っていたし、常識にまだ疎いのかも知れないわ)



 王都出発の日をいつにするか決めて約束し、その日はリリカとその場で別れることにした。
 その直前に、リリカはお別れのハグをする。

「あの……」

「なに?」

 不思議そうな表情をするリリカの顔が、すぐ目の前に見える。

「いえ……こうするのって普通なんですか?」

「そうだけど?」

 リリカは首を傾げて、あっけらかんと言った。

「そうですか……」

(これくらいは友達同士で普通なのね……)

 ミラは『友達の距離感』という常識を新たに身に着けた。



 プライベートで会ったときは、スフィアにもすべきかと真剣に悩むミラ。

 スフィアにだけしないと、「あなたは友達ではない」みたいな扱いになるからだ。
 出会い頭や帰り際にハグして、手をつなぐ、くらいが友達なのだ。
 ミラはそう心のなかでうなずく。


 帰る途中、ミラはその場に何度も立ち止まった。


「でもスフィアと私って、友達よね? 友達ってどこまでの人のことを言うのかしら……」

 いまさら、友達についてそんなことを考える。

「本人に友達の確認をとったわけでもないし、ちょっとわからないわ。う~ん……それでもスフィアとは仲良く話せるし、友達のはずよ!」

 スフィアは仕事仲間だけど、同時に「友達」という結論を出すミラだった。
 自信はあまりなく、眉を寄せた顔になる。

 ミラにとっては、「あなた友達ですか?」と聞いて、「違います」といわれるのも少し怖かったのだ。
 フローラのように正面から友達になることをお願いされる方が、わかりやすくてミラにはちょうど良かった。


 ――そんなこんなで長い一日が終わり、工房にようやく帰るのだった。
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