実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

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2-17.試験結果と相談

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 その日、薬師の試験合格発表が行われた。

 発表までの間、スフィアはとても忙しそうだった。
 職員総出で手伝っていたのだという。
 
 ミラは、受付のスフィアから合否判定通知を受け取った。
 そこには、ミラが合格していたことが書かれていた。

「合格……したのね」

 そこで、スフィアがパチパチパチと手を叩いた。

「見事合格です。点数内訳ですが、筆記100点、調合100点、面接90点で合格でした」

「え? 両方100点だったんですか?」

「はい、これは過去最高記録ですね。面接については全員が85~90点を取れるようになっていて、原則100点はありませんから、実質的に満点合格でした」

 スフィアは、ただし、と付け加えて「1人だけ面接で10点を取った人もいますけど、これは例外ですね」と小声でいった。

 ミラの直感が、きっとリリカのことだと告げていた。
 そこで、ミラは疑問に思っていたことを聞いた。

「でも……筆記にあった最後の問題は、私の回答で本当に正解だったんですか?」

「あ~あれですね。あの答案見せてもらいましたよ。私に専門的な知識はないので詳しくは答えられませんけど、薬師の方が残した説明書きによると、あれでほぼ正解だったそうです。本当はもう少し記述が必要だったんですけど、正解にかなり近い回答をしたということで、おまけの正解にしたそうです」

 ミラは安堵した。
 やはり、ミラが自力で出したあの回答が、完全な正解というわけではなかった。

 最後の問題の詳しい対処法の答えについては、後でメリエラに教えられていないことを含めて聞くことにする。
 ついでに、ミラは2人の師匠にお礼を伝えに後で工房を訪れることにした。
 ギルドを出てそのまま師匠の工房に向かった。


***


 扉を叩くとルーベックが出てきた。
 合格したことのお礼を伝えて、今度は、メリエラにも同様にお礼を伝えた。
 結果は知っているはずなので、2人とも顔を見せたときに、合格をねぎらってくれた。

 そして、メリエラの工房内で、一息ついていた。

「あの、最後の問題なんですけど……」

 ミラの質問に、メリエラが待っていましたとばかりに答える。

「あれ、私が考えたのよ?」
「そうなんですか?」
「ええ、だってあの問題、まだあなたに教えていないことをわざと出題したんだもの」
「え、私基準で作ったんですか?」

 最後の問題だけ、ミラを試す問題になっていたらしい。
 確かに、他の受験生は解こうともしなかったようだから、ミラだけの問題といえるけど、それはそれで大胆だ。

「だって知識問題は本を記憶できるんだから、あなたには意味ないでしょ? 資料に記載のある内容も問題にはならないし」
「それは確かに……思いましたけど」
「そこで『資料に具体的な対処方法がなくて、経験もなくて、私がまだ教えていないこと』を問題にしたら、あの出題内容になったのよ」

 ミラはなるほどと顎に人差し指を添える。

「それで、私がちょうど知らないことだったんですね……。でも、おまけの正解にしてくれたのは?」
「だって、知識がなくて、教えてもいないことを出したのよ? あそこまで書ければ十分よ」
「じゃあ本当の正解って、何だったのでしょうか?」
「う~ん、あの問題に完全な1つの正解はないのよ……」
「え? それじゃあ……」
「問題を理解して答えられれば、それがどんな答えでもぎりぎり正解になるわ。もし、問題の本質を見極めて、答えが1つにならないことまで記述できていたら、文句なく正解ね」
「……なるほど、治療の対処方法に正解があるんじゃなくて、最後は答え方で正解かどうか決まるんですね」
「そういうことよ。もちろん、薬師としての治療アプローチは必要だけど」

 試されていたのは、具体的な治療方法の知識ではなく、薬師として患者を迎える姿勢や考える力の方だった。
 メリエラは、ミラが他の問題を容易に解いてしまうと考えて、最後にこの思考問題を作ったのだろう。他の問題を難しくすると、ミラ以外の受験者が落ちてしまうからだ。

 一区切り着いたところで、ミラはこの前の出来事で気になっていたことをメリエラに聞くことにした。

「ところで、薬師とは関係ないのですが、メリエラ様に聞きたいことがあります」

「なに?」

「メリエラ様ってその友達はいますか?」

 その質問にメリエラが飲んでいたお茶を盛大に吹き出した。

「と、突然なに? なんの話?」

 メリエラは少し混乱して慌てた。

「実は試験で会った子と友達になったんですけど、友達との距離感とか、スキンシップの度合いがよくわからなくて……」

 メリエラは少し考えて、ようやく話を理解し、なるほどと相づちを打った。

「そうねぇ、師匠として答えてはあげたいけど、私も詳しくないの。だって……」

「だって?」

「友達いないもの」

「……そうだったんですね」

 ミラは、そういえばと思い返す。
 メリエラが他の女性と仲良くしている姿を見たことがなかった。

「そうな残念そうな人を見る目はやめて?」

「いえ、そういうつもりは……」

 ミラは、メリエラの様子を思い出していただけで、少しこの場から意識を離していただけだ。
 だが、エリエラには繊細な問題だったらしく、別の意味で受け取られてしまった。
 友達のいない人に、友達との接し方を聞いてしまったことに、申し訳なく思うのだ。

「それで、友達の何が聞きたかったの?」

 メリエラは、答えられるかどうかはわからないが、話を聞くことにしたようだ。

「その……友達の挨拶や普段の触れ合いについてなんですけど」

 ミラはリリカとのことを少し内容をぼかして話した。主に、手を握ったり、ハグしたりすることだ。

「そういうことね。そういう挨拶やスキンシップは、王都だと友達同士のマナーみたいなものとして若い女の子を中心に流行しているわね」

「そういうことでしたか……。じゃあ、やっぱりあれは友達同士のマナーだったわけですね」


「友達といっても誰にでもというわけではないみたい。友達と一言で言っても、ただの知り合いから親友までいろいろあるみたいだし、関係によってもスキンシップをするかどうかが変わってくるから誰とでもするわけではないみたいね。まあ、私も王都の薬師に聞いた話なんだけどね。私もあまり詳しくはないんだけど……。他の国には、友達でなくてもハグするみたいだけど、そういう国は多くはないわね」

 ミラはメリエラの話を聞いて、そういうものかと、話を聞きながら頷いた。

「この街ではあまりしないんですか?」
「そういう訳でもないみたいよ。王都の影響でこの辺でもすでにマナーとなってきているみたいね」
「じゃあ……」

 ミラは、スフィアにもすべきかと真剣に考える。

「もしかして、人と肌を触れ合わせるのが怖いの?」

 メリエラは、ミラの微妙な顔を見て問いかけた。

「いえ……そういうわけではないと思うのですが」

「人との距離感は親の愛情や生まれ育った環境にも影響を受けるから。それに、あなたを見ていて気付いたんだけど、周囲と距離を取りたがっているように見えたのよ。あまり人に近づきすぎないようにしているわよね?」

 メリエラは心の距離もだけど、物理的な距離もよ、と付け加える。

「そうかもしれません……」

 リリカのように人との距離感が近い人間に出会ったのは初めてだ。
 だからミラは気付いたことだが、ミラは他人と一定の距離をできるだけあけておきたいと無意識に感じていた。
 近づかれすぎると、嫌いな相手ではないのに不快感を感じた、あのときも。

 話す相手にも、必要以上に仲良くならないように、内面に深く踏み込まないようにしていたことに気付くミラだった。

(リリカさんとすぐに仲良く友達のようになれたのは、きっとあの子がその壁を無視してずっと接していたからかもしれないわ……)


 ミラは自分の欠点に気付くことができて、リリカに感謝する。


 しばらくして、ミラは王都に行くことを伝えてから、お土産を買ってくることをメリエラに提案して、工房の自宅に戻ることにした。

 明日には王都に立つことになる。
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