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2-10.死の黒光、逆境
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ミラは目の前に迫りくる黒い光線。それを前に、死を予感した。
そのせいか、感覚が鋭敏になり、早くて深い思考をミラは始める。
(色は黒いけど、光であることは間違いないはず。だったら光を止める方法を探すしか無い。けど、もうそんな時間もないわ……)
ミラは、深海クラゲのときに光や電磁波についてはある程度文献を読み漁った。そのときに得た知識だけで対処するしか無い。
光というのはこの世界で降り注ぐものだ。人が目で物を知覚できるのも光があるから。 そして、ミラの知識では、光は天に近づくほど熱く、威力は強いらしいとのこと。
(光を弱めるのは空気……かしら? でも、私達の周囲にも空気はあるはず。それでもあの黒い光の光線はこちらに減衰せず直進しているわよね。何か別の物体で光を防いでしまえばよいのかしら? でも……)
ミラはどれだけ考えても光を止める冴えた方法が思い浮かばなかった。
あの黒い光は、物を盾にした程度では防げない。そう直感した。
普通の光とは何かが違うのだ。
(時間がないわ! とにかく、もうこれしか……)
ミラは剣を片手に持ったまま、探知魔法を使用する。空気の動きを掌握して、それを魔法でミラの目の前にある空間に凝縮を始めた。
凝縮された空気は、一箇所に集まって、さらに気体の空間圧縮の度合いを高めていく。 膨大な気体が目の前で圧縮されたことで空間が光を放ち始めた。
「これは一体……」
ミラは目の前にたくさんの空気を集める目的で空間圧縮をしたのだが、予想とは異なる現象を起こし始めた。
だが、その方法は光を防ぐという意味で間違いではなかった。
ミラに向かってきた黒い光線は、その空間に入って消えた。
「黒い光が消えたのかしら?」
他の黒い光線は周囲にそれて、木々に当たる。光に触れた瞬間、木々がまるごと消滅した。
ミラは振り返ると、直感が正しかったことを悟った。
木々が、普通ではない消え方をしたのだ。
もし、物を置いて光を遮るだけだったら、ミラも一緒に消えていた。あの黒い光に飲み込まれて。それもこれも、目の前にある謎の発光現象のおかげだった。
男は腑に落ちない様子でミラが起こす現象を見ていた。
「なんですか、それ?」
ミラは気体の圧縮をやめると、男に言い返す。
「特殊な防御魔法です。あなたの攻撃はこれでもう通じないはずだわ」
ミラは、焦りを抑えて、堂々と嘘を口にした。
正直なところ、ミラ自身でも何が起きたのかよくわかっていなかった。だが、これで無敵くさい攻撃の頻度が減るはずだ。
「まあいいでしょう。攻撃手段がこれだけだと思われるのも心外ですからね。あの術は近距離であなたの手足を消滅させるのに使いますか。それで胴体だけ持ち帰らせてもらいます。ならば今度は、物理的にあなたをねじ伏せて差し上げましょう」
魔人は空に浮かんで滑空し、ミラに近づく。
そして、次の瞬間、姿が消えた。
ミラは彼の動きを目で追いきれなかった。だが、体がとっさに剣で何かを弾く。
そのまま後方に飛ばされたミラは、地面に何度かバウンドして、地面を転がり、うつ伏せに倒れ込んだ。
「うぅ……何が?」
何が起こったのかほとんどわからなかった。
魔人の蹴りを剣でとっさにガードしたことは確からしい。
無意識に反応していなければ、ミラの体は弾けて四散していた。
「手が痛いわ……」
剣を持つミラの手には青あざができており、指先も痺れていた。
Sランク冒険者の剣戟ですら、魔法で強化はしていなかったとはいえ、ここまでの威力はなかった。それほど、単純な力として強い蹴りだった。
異常個体を作ったアイテムを人が飲んで魔人になるとは、そういう異次元の強さにたどり着くことだったのだろう。
あの盗賊頭目の徒手格闘などとは、まったくレベルが違った。
純粋に、早くて強い。
「フレアボアと出会って以来だわ、こんな気分は……」
ミラは地面に手をついて起き上がると、魔人を凝視した。
片手で瓶を取り出してその回復ポーションをミラは飲む。
魔人は少し驚いた表情をする。そして、ポツリと言った。
「あれ? おかしいですね。いまの蹴りを受け止めて体が無事とは……聞いていた話とは、少し違うようです。その強靭さ、どこかで肉体の改造手術でも受けましたか?」
彼はミラが想定したよりも強靭な体を持っていることに違和感を覚えたようだった。
命は取らないが、それ以外の体はズタボロで、内臓もむき出しになる攻撃の予定だったのだ。
あの威力の蹴りは、受け止めた人間のほうが壊れてしまうもの。剣術でどうにかなるレベルではない。
しかし、ミラの体は壊れていない。
強靭な理由は、魔人の男が知らないのも無理はなかった。ミラが森のサバイバルでなにをしてきたのか、男は知らない。すでに、ミラは想像がつかないほどの強化を遂げている。
それに付け加えるなら、ミラの剣術は受け流すのが本来は得意だ。これまでは相手が弱すぎて剣術の本来の戦い方さえしていなかった。ミラにとって、相手の方が「力が強い」というのは、むしろ当たり前のことだったからだ。
「そう……力押しでくると言うなら何とかなるかも知れないわ。これなら、全力で剣を振り回しても大丈夫そう」
ミラはこのピンチにむしろ笑みを浮かべた。
もともと兄の剣術を超えたとき、いま身についている強い腕力や膂力はなかった。
あの森のサバイバルで食べた薬草と過酷な旅路の最中に、手に入れたものだからである。
つまり、ミラにとって戦う相手のほうが力が上で、それを逆に剣術の技で圧倒するのが本来のミラのスタイルである。
思わず笑ったのは、兄に稽古と言われて最初、ボコボコにされた時と状況が似ていたからだ。
剣術を何も知らないミラに、容赦なく木剣でボコボコに殴り倒された記憶が脳裏をよぎる。
ミラの力を超えた存在が目の前にいて、剣を構えているのなら、ミラはまだ戦えると奮起した。
「何を笑っているのです?」
「そうですか……。いま私は笑っているのですね」
ミラは赤い瞳の色が、澄んだ青い色に変化する。
まるで水面に浮かんでいるかのようなすべての情景が目に入り、ゆっくり周囲が動く。
動きの速かった魔人がこちらに飛んでくるのも見えた。
次は正拳突きを放つらしい。
物理攻撃に変えたのならミラにとっては好都合だ。力押しの相手とは、これまで何度も戦ったことがある。それが自称・手加減をしていたという兄のことだった。
ミラは剣先を水平より下に構えて、その動きに合わせて構える。
タイミングを図っているのだ。
そのまま剣に力を乗せ、魔人の拳に添えるように、剣の刃をそっと触れさせた。
刃は折れることなく、斜め上に魔人の腕の向きを変える。
衝撃波がミラの斜め後方に抜けていく。
そのままミラは体を回転させ、ターンと同時に魔人の懐に入り込んだ。
そして、無防備な背中側を切りつけた。
魔人は背中から青い血を撒き散らすと、振り返って後方に距離をとった。
ミラの動きを途中で見失ったのだ。
「馬鹿な!」
一瞬のことだったが、完全に魔人の動きを上回った。
力で負けていたミラが、当時、兄を超えたのは、力が強かったのではない。剣術で上回ったからだ。
剣戟の威力はミラが生み出したものではなく、遠心力に加えて、拳の威力をそのまま剣に上乗せしたものだ。
格闘技能や剣術には、さまざまなスタイルがあるが、中でも相手の力を利用する方法を『カウンタースタイル』と呼ぶ。
カウンターは達人の域に達すると、相手の力をも自分の力として戦闘に組み込むことができる。ミラはその極地にいた。
相手の腕力が強いほど数倍返しを食らう羽目になる。
兄は負けまいと力を開放し、剣を強く振るほど、ミラに勝てなくなっていったことは彼本人でさえ知らない。
「これが私の剣術……と呼べるかもわからない、ただ剣を振り回しているだけ。ですけれど、あなたになら通用するようです」
男はそれを挑発に受け取った。
「なんだと?」
全能感を得ていたはずの魔人には、余裕がなくなっていた。口調も素に戻っていた。
この辺は、盗賊よりも格下なことを伺わせる。薬をキメていた男でもミラの挑発に乗らなかったが、ただの教団員では戦闘経験もなく、このへんが限界だったのだろう。
もちろん、ミラに余裕があるわけではない。一歩間違えれば攻撃を受けて全身バラバラになってもおかしくない。
だが、しばらく魔法の補助で戦ったおかげで、ミラはコツを掴んだ。
剣を気弾魔法制御による圧力で強化して、深海クラゲのときのように刃が砕けないようにしている。
そして、微細なコントロールでミラの身体能力も微妙に上がっていた。調合魔法の訓練と実戦経験の副産物である。
すなわち、ミラが兄を超えたあの時よりも、さらに高次元の剣術になっていた。
ミラは油断することなく、魔人を注視する。
すると、だんだん傷がふさがっていくのが見えた。
「傷が消えた? そんな!」
魔人の体は傷が自動的に治ったのである。
「これは……、ふはははは、見たか! お前の攻撃は全て無意味だったようだな?」
彼もこの能力を知らなかったのか、驚いていた。
そして、魔人は少し余裕を取り戻す。
ミラはその様子を正確に視覚として脳に記憶している。そこで、違和感に気づいた。
それは回復ポーションや薬草で回復するのとは違って、肉体が修復されたのではなく、体が変形して、無理矢理に傷をなくしたのである。
(治ったのではなく、傷がないように見せているだけ? じゃあ、ダメージは蓄積していると見て良いのかしら?)
ミラは依然として勝ち筋の見えない戦いに、なんとか突破口を探す。
だが、無限の回復にあの黒い光の攻撃など、明らかにミラのほうが分が悪い。
「どうすれば……」
そのせいか、感覚が鋭敏になり、早くて深い思考をミラは始める。
(色は黒いけど、光であることは間違いないはず。だったら光を止める方法を探すしか無い。けど、もうそんな時間もないわ……)
ミラは、深海クラゲのときに光や電磁波についてはある程度文献を読み漁った。そのときに得た知識だけで対処するしか無い。
光というのはこの世界で降り注ぐものだ。人が目で物を知覚できるのも光があるから。 そして、ミラの知識では、光は天に近づくほど熱く、威力は強いらしいとのこと。
(光を弱めるのは空気……かしら? でも、私達の周囲にも空気はあるはず。それでもあの黒い光の光線はこちらに減衰せず直進しているわよね。何か別の物体で光を防いでしまえばよいのかしら? でも……)
ミラはどれだけ考えても光を止める冴えた方法が思い浮かばなかった。
あの黒い光は、物を盾にした程度では防げない。そう直感した。
普通の光とは何かが違うのだ。
(時間がないわ! とにかく、もうこれしか……)
ミラは剣を片手に持ったまま、探知魔法を使用する。空気の動きを掌握して、それを魔法でミラの目の前にある空間に凝縮を始めた。
凝縮された空気は、一箇所に集まって、さらに気体の空間圧縮の度合いを高めていく。 膨大な気体が目の前で圧縮されたことで空間が光を放ち始めた。
「これは一体……」
ミラは目の前にたくさんの空気を集める目的で空間圧縮をしたのだが、予想とは異なる現象を起こし始めた。
だが、その方法は光を防ぐという意味で間違いではなかった。
ミラに向かってきた黒い光線は、その空間に入って消えた。
「黒い光が消えたのかしら?」
他の黒い光線は周囲にそれて、木々に当たる。光に触れた瞬間、木々がまるごと消滅した。
ミラは振り返ると、直感が正しかったことを悟った。
木々が、普通ではない消え方をしたのだ。
もし、物を置いて光を遮るだけだったら、ミラも一緒に消えていた。あの黒い光に飲み込まれて。それもこれも、目の前にある謎の発光現象のおかげだった。
男は腑に落ちない様子でミラが起こす現象を見ていた。
「なんですか、それ?」
ミラは気体の圧縮をやめると、男に言い返す。
「特殊な防御魔法です。あなたの攻撃はこれでもう通じないはずだわ」
ミラは、焦りを抑えて、堂々と嘘を口にした。
正直なところ、ミラ自身でも何が起きたのかよくわかっていなかった。だが、これで無敵くさい攻撃の頻度が減るはずだ。
「まあいいでしょう。攻撃手段がこれだけだと思われるのも心外ですからね。あの術は近距離であなたの手足を消滅させるのに使いますか。それで胴体だけ持ち帰らせてもらいます。ならば今度は、物理的にあなたをねじ伏せて差し上げましょう」
魔人は空に浮かんで滑空し、ミラに近づく。
そして、次の瞬間、姿が消えた。
ミラは彼の動きを目で追いきれなかった。だが、体がとっさに剣で何かを弾く。
そのまま後方に飛ばされたミラは、地面に何度かバウンドして、地面を転がり、うつ伏せに倒れ込んだ。
「うぅ……何が?」
何が起こったのかほとんどわからなかった。
魔人の蹴りを剣でとっさにガードしたことは確からしい。
無意識に反応していなければ、ミラの体は弾けて四散していた。
「手が痛いわ……」
剣を持つミラの手には青あざができており、指先も痺れていた。
Sランク冒険者の剣戟ですら、魔法で強化はしていなかったとはいえ、ここまでの威力はなかった。それほど、単純な力として強い蹴りだった。
異常個体を作ったアイテムを人が飲んで魔人になるとは、そういう異次元の強さにたどり着くことだったのだろう。
あの盗賊頭目の徒手格闘などとは、まったくレベルが違った。
純粋に、早くて強い。
「フレアボアと出会って以来だわ、こんな気分は……」
ミラは地面に手をついて起き上がると、魔人を凝視した。
片手で瓶を取り出してその回復ポーションをミラは飲む。
魔人は少し驚いた表情をする。そして、ポツリと言った。
「あれ? おかしいですね。いまの蹴りを受け止めて体が無事とは……聞いていた話とは、少し違うようです。その強靭さ、どこかで肉体の改造手術でも受けましたか?」
彼はミラが想定したよりも強靭な体を持っていることに違和感を覚えたようだった。
命は取らないが、それ以外の体はズタボロで、内臓もむき出しになる攻撃の予定だったのだ。
あの威力の蹴りは、受け止めた人間のほうが壊れてしまうもの。剣術でどうにかなるレベルではない。
しかし、ミラの体は壊れていない。
強靭な理由は、魔人の男が知らないのも無理はなかった。ミラが森のサバイバルでなにをしてきたのか、男は知らない。すでに、ミラは想像がつかないほどの強化を遂げている。
それに付け加えるなら、ミラの剣術は受け流すのが本来は得意だ。これまでは相手が弱すぎて剣術の本来の戦い方さえしていなかった。ミラにとって、相手の方が「力が強い」というのは、むしろ当たり前のことだったからだ。
「そう……力押しでくると言うなら何とかなるかも知れないわ。これなら、全力で剣を振り回しても大丈夫そう」
ミラはこのピンチにむしろ笑みを浮かべた。
もともと兄の剣術を超えたとき、いま身についている強い腕力や膂力はなかった。
あの森のサバイバルで食べた薬草と過酷な旅路の最中に、手に入れたものだからである。
つまり、ミラにとって戦う相手のほうが力が上で、それを逆に剣術の技で圧倒するのが本来のミラのスタイルである。
思わず笑ったのは、兄に稽古と言われて最初、ボコボコにされた時と状況が似ていたからだ。
剣術を何も知らないミラに、容赦なく木剣でボコボコに殴り倒された記憶が脳裏をよぎる。
ミラの力を超えた存在が目の前にいて、剣を構えているのなら、ミラはまだ戦えると奮起した。
「何を笑っているのです?」
「そうですか……。いま私は笑っているのですね」
ミラは赤い瞳の色が、澄んだ青い色に変化する。
まるで水面に浮かんでいるかのようなすべての情景が目に入り、ゆっくり周囲が動く。
動きの速かった魔人がこちらに飛んでくるのも見えた。
次は正拳突きを放つらしい。
物理攻撃に変えたのならミラにとっては好都合だ。力押しの相手とは、これまで何度も戦ったことがある。それが自称・手加減をしていたという兄のことだった。
ミラは剣先を水平より下に構えて、その動きに合わせて構える。
タイミングを図っているのだ。
そのまま剣に力を乗せ、魔人の拳に添えるように、剣の刃をそっと触れさせた。
刃は折れることなく、斜め上に魔人の腕の向きを変える。
衝撃波がミラの斜め後方に抜けていく。
そのままミラは体を回転させ、ターンと同時に魔人の懐に入り込んだ。
そして、無防備な背中側を切りつけた。
魔人は背中から青い血を撒き散らすと、振り返って後方に距離をとった。
ミラの動きを途中で見失ったのだ。
「馬鹿な!」
一瞬のことだったが、完全に魔人の動きを上回った。
力で負けていたミラが、当時、兄を超えたのは、力が強かったのではない。剣術で上回ったからだ。
剣戟の威力はミラが生み出したものではなく、遠心力に加えて、拳の威力をそのまま剣に上乗せしたものだ。
格闘技能や剣術には、さまざまなスタイルがあるが、中でも相手の力を利用する方法を『カウンタースタイル』と呼ぶ。
カウンターは達人の域に達すると、相手の力をも自分の力として戦闘に組み込むことができる。ミラはその極地にいた。
相手の腕力が強いほど数倍返しを食らう羽目になる。
兄は負けまいと力を開放し、剣を強く振るほど、ミラに勝てなくなっていったことは彼本人でさえ知らない。
「これが私の剣術……と呼べるかもわからない、ただ剣を振り回しているだけ。ですけれど、あなたになら通用するようです」
男はそれを挑発に受け取った。
「なんだと?」
全能感を得ていたはずの魔人には、余裕がなくなっていた。口調も素に戻っていた。
この辺は、盗賊よりも格下なことを伺わせる。薬をキメていた男でもミラの挑発に乗らなかったが、ただの教団員では戦闘経験もなく、このへんが限界だったのだろう。
もちろん、ミラに余裕があるわけではない。一歩間違えれば攻撃を受けて全身バラバラになってもおかしくない。
だが、しばらく魔法の補助で戦ったおかげで、ミラはコツを掴んだ。
剣を気弾魔法制御による圧力で強化して、深海クラゲのときのように刃が砕けないようにしている。
そして、微細なコントロールでミラの身体能力も微妙に上がっていた。調合魔法の訓練と実戦経験の副産物である。
すなわち、ミラが兄を超えたあの時よりも、さらに高次元の剣術になっていた。
ミラは油断することなく、魔人を注視する。
すると、だんだん傷がふさがっていくのが見えた。
「傷が消えた? そんな!」
魔人の体は傷が自動的に治ったのである。
「これは……、ふはははは、見たか! お前の攻撃は全て無意味だったようだな?」
彼もこの能力を知らなかったのか、驚いていた。
そして、魔人は少し余裕を取り戻す。
ミラはその様子を正確に視覚として脳に記憶している。そこで、違和感に気づいた。
それは回復ポーションや薬草で回復するのとは違って、肉体が修復されたのではなく、体が変形して、無理矢理に傷をなくしたのである。
(治ったのではなく、傷がないように見せているだけ? じゃあ、ダメージは蓄積していると見て良いのかしら?)
ミラは依然として勝ち筋の見えない戦いに、なんとか突破口を探す。
だが、無限の回復にあの黒い光の攻撃など、明らかにミラのほうが分が悪い。
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