実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice

文字の大きさ
36 / 69

2-11.終わりの時、わからない現象はわからない

しおりを挟む
 傷を治すという単語から、ミラは魔人に関する情報を改めて思い起こした。
 ミラが文献で知っている魔人の知識はごくわずかだ。

 昔、禁断の術で生み出され、聖女によって一部の魔人は封印、残りは滅ぼされた。そのとき、使われたのが聖魔法である。
 聖魔法は、神聖な治癒魔法の一種で、傷を回復させる効力を持っている、とのこと。
 ミラは傷を治す聖女の魔法と、現代は薬師の上位職として聖女職がある。
 
(傷を治すのだから、もしかして、聖魔法と回復ポーションには共通した何かがある?)

 ミラは、現代聖女と、文献の古の聖女についての知識を重ね合わせて、ある推測をした。

(あの魔人には回復ポーションや薬草が攻撃手段として効くのかしら? だとしたら、あの異常な身体の修復力にも対抗できるかもしれない。わからないけど、確かめてみるしか無いわ)

 ミラは懐からいつもの薬草を取り出して、それを溶液で少し溶かし、気弾の魔法で制御し圧縮する。そのまま剣先にその液を垂らして塗りつけた。

 魔人はその様子を見て首を傾げた。

「何をするつもりですか?」

 安易に飛びかかってこないのは、ミラの剣技が魔人に少しの恐怖を植え付けたからだ。不用意に飛びかかることができない。

「試すんです。いまから」

 ミラは地面を蹴って、魔人のすぐ真下にたどり着くと、跳躍して真上に飛び上がった。
 左手を地面に向けて気弾を放つ。

 その推進力で魔人の目の前まで空を舞う。
 振り払おうとした魔人の腕を払って、空中を移動しながら、ミラはもう一度背中を斬りつける。

 魔人の背中にはまたしても傷ができて、血があふれ出した。

「いままで使えなかった魔法の移動手段を、こうもあっさり使いこなすとは、さすが……けど無駄ですよ? あなたの攻撃などすぐ治って……ん、なんですか、これ?」

 魔人の背中は傷が修復することなく、血を流し続けていた。
 突然、表情が苦痛に歪んだ。

「成功したわね」

 ミラは地面に着地して、安堵する。

「これは……何をしたっ!」

 魔人は少し焦り気味で叫んでいた。

「魔人は『古の聖女様の聖魔法と相性が悪い』という事が文献に書かれていたんです。もしかしたら、薬草の効果も同じじゃないかと思って。それをいま試しただけです」

 そのまま、ミラは瓶を魔人に投げつける。
 魔人は、それを腕を振って破壊した。だが、魔人に瓶の中身の溶液がかかる。
 すると、溶液の触れた場所から皮膚がただれていく。

「ぐ、ぐああああああああ!」

 焼けるような痛みに耐えかねて、魔人は地面に着地するとしゃがみこんだ。
 顔がどろどろになっていく。

「いまのは私が作った回復ポーションの最高品質だったものです」

 ポーションの効き目があったことも確認ができた。
 間違いない、とミラは確信した。回復ポーションは、聖魔法と密接な関係があるのだ。 地面にうずくまった魔人は苦痛で身動きが取れなくなる。

「くそ……この、くそ女がぁ!」

 魔人は、ただれた皮膚のまま立ち上がり、両手を掲げて、黒い光を放つ。
 だが、ミラはすぐさま空間を制御して、目の前に空気圧縮の場を作り出し、謎の光を生み出した。

 攻撃のほとんどはミラから外れる。

 だが、3つほどミラのところに光が到達した。
 その直前に、空間に入ると黒い光は消滅したのだ。

「なぜだ! なぜだ、なぜだぁあああ!」

 それを見て、魔人は叫ぶ。
 いよいよ意識が朦朧としているのか、攻撃はミラのいる場所に向かわず、周囲の木や地面を抉った。

 そんな隙だらけの魔人の様子を、ミラは見逃さない。
 
 ミラは黒い光線を上手くかいくぐって近づく。
 目の前に到達すると、正面から堂々と、魔人の胸に剣を突き刺した。

 それと同時に生体器官も砕いた。

 パキン。
 硬質なものが砕ける音が響く。

「さようなら、元人間の……魔人。私は実家に帰らないと、あの世で父に伝えてください」

 魔人の遺体は生体器官が破壊されると、空気に溶け始めた。そして、魔人の遺体含めて、その場には何も残らなかった。

 それは不思議な光景だった。
 魔物でもなにか体の破片が残るはず。だが、魔人だけは体が霧散した。


***


 ミラは剣を鞘に戻すと、散り散りに逃げたメンバーを探して森の中を歩き回った。
 全員が合流したのは日がだいぶ傾きかけた頃だ。
 ミラは魔人の弱点を見つけて倒したことをメンバーに伝える。そして、ギルドにいますぐ帰ることを提案した。

 メイは走り回って疲れたのか疲労が顔に見えた。他のメンバーも同じようなものだった。
 アリスはミラに近づくと、体のあちこちを見回した。

「ケガはなさそうね。それにしてもあの訳のわからない化け物を倒しちゃうなんて驚いたわ」
「実は私にもよくわからないんです。勝てたのは古の聖女の文献知識があったからですけど、あの黒い光線を止められた理由はいまでも不明で……」

 アリスは目を見開いて大きな声で言った。

「あ、それ私見たわ! 何だったのかしらあれ……」
「勝てたのは偶然ではないんですけど、負けなかったのは偶然なんです」

(もし、あの黒い光を止める術がなければ、いま頃は体の大半が消し飛んで……想像しただけでも嫌な光景ね)

 おそらく、魔人の男は、ミラの体のほとんどを消し飛ばして、生命維持だけの状態で上半身だけ実家に持ち運ぶ予定だったのだろう。

 ミラは魔人が消えた場所を遠くからもう一度振り返った。

 光を消滅させる現象なんて、どんな本にも載ってなかった。ミラは自分の両手をまじまじと見た。あれは空気を極限まで圧縮したことで得られた現象。空気の中には、ミラがまだ知らない知識がある。

 あと、教団とか生贄とか、わけのわからない新情報まで得てしまった。ミラは、これらの情報をどうすべきか悩みどころだった。

 そんな事を考えながらミラはギルドまでの帰路を進んだ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。 2025/9/29 追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

夏灯みかん
ファンタジー
生まれながらに強大な魔力を持ち、聖女として大神殿に閉じ込められてきたレイラ。 けれど王太子に「身元不明だから」と婚約を破棄され、あっさり国外追放されてしまう。 「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」 追放の道中出会った剣士ステファンと狼男ライガに拾われ、冒険者デビュー。おいしいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 一方、魔物が出るようになった王国では大司教がレイラの回収を画策。レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。 【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...