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2-11.終わりの時、わからない現象はわからない
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傷を治すという単語から、ミラは魔人に関する情報を改めて思い起こした。
ミラが文献で知っている魔人の知識はごくわずかだ。
昔、禁断の術で生み出され、聖女によって一部の魔人は封印、残りは滅ぼされた。そのとき、使われたのが聖魔法である。
聖魔法は、神聖な治癒魔法の一種で、傷を回復させる効力を持っている、とのこと。
ミラは傷を治す聖女の魔法と、現代は薬師の上位職として聖女職がある。
(傷を治すのだから、もしかして、聖魔法と回復ポーションには共通した何かがある?)
ミラは、現代聖女と、文献の古の聖女についての知識を重ね合わせて、ある推測をした。
(あの魔人には回復ポーションや薬草が攻撃手段として効くのかしら? だとしたら、あの異常な身体の修復力にも対抗できるかもしれない。わからないけど、確かめてみるしか無いわ)
ミラは懐からいつもの薬草を取り出して、それを溶液で少し溶かし、気弾の魔法で制御し圧縮する。そのまま剣先にその液を垂らして塗りつけた。
魔人はその様子を見て首を傾げた。
「何をするつもりですか?」
安易に飛びかかってこないのは、ミラの剣技が魔人に少しの恐怖を植え付けたからだ。不用意に飛びかかることができない。
「試すんです。いまから」
ミラは地面を蹴って、魔人のすぐ真下にたどり着くと、跳躍して真上に飛び上がった。
左手を地面に向けて気弾を放つ。
その推進力で魔人の目の前まで空を舞う。
振り払おうとした魔人の腕を払って、空中を移動しながら、ミラはもう一度背中を斬りつける。
魔人の背中にはまたしても傷ができて、血が溢れ出した。
「いままで使えなかった魔法の移動手段を、こうもあっさり使いこなすとは、さすが……けど無駄ですよ? あなたの攻撃などすぐ治って……ん、なんですか、これ?」
魔人の背中は傷が修復することなく、血を流し続けていた。
突然、表情が苦痛に歪んだ。
「成功したわね」
ミラは地面に着地して、安堵する。
「これは……何をしたっ!」
魔人は少し焦り気味で叫んでいた。
「魔人は『古の聖女様の聖魔法と相性が悪い』という事が文献に書かれていたんです。もしかしたら、薬草の効果も同じじゃないかと思って。それをいま試しただけです」
そのまま、ミラは瓶を魔人に投げつける。
魔人は、それを腕を振って破壊した。だが、魔人に瓶の中身の溶液がかかる。
すると、溶液の触れた場所から皮膚がただれていく。
「ぐ、ぐああああああああ!」
焼けるような痛みに耐えかねて、魔人は地面に着地するとしゃがみこんだ。
顔がどろどろになっていく。
「いまのは私が作った回復ポーションの最高品質だったものです」
ポーションの効き目があったことも確認ができた。
間違いない、とミラは確信した。回復ポーションは、聖魔法と密接な関係があるのだ。 地面にうずくまった魔人は苦痛で身動きが取れなくなる。
「くそ……この、くそ女がぁ!」
魔人は、ただれた皮膚のまま立ち上がり、両手を掲げて、黒い光を放つ。
だが、ミラはすぐさま空間を制御して、目の前に空気圧縮の場を作り出し、謎の光を生み出した。
攻撃のほとんどはミラから外れる。
だが、3つほどミラのところに光が到達した。
その直前に、空間に入ると黒い光は消滅したのだ。
「なぜだ! なぜだ、なぜだぁあああ!」
それを見て、魔人は叫ぶ。
いよいよ意識が朦朧としているのか、攻撃はミラのいる場所に向かわず、周囲の木や地面を抉った。
そんな隙だらけの魔人の様子を、ミラは見逃さない。
ミラは黒い光線を上手くかいくぐって近づく。
目の前に到達すると、正面から堂々と、魔人の胸に剣を突き刺した。
それと同時に生体器官も砕いた。
パキン。
硬質なものが砕ける音が響く。
「さようなら、元人間の……魔人。私は実家に帰らないと、あの世で父に伝えてください」
魔人の遺体は生体器官が破壊されると、空気に溶け始めた。そして、魔人の遺体含めて、その場には何も残らなかった。
それは不思議な光景だった。
魔物でもなにか体の破片が残るはず。だが、魔人だけは体が霧散した。
***
ミラは剣を鞘に戻すと、散り散りに逃げたメンバーを探して森の中を歩き回った。
全員が合流したのは日がだいぶ傾きかけた頃だ。
ミラは魔人の弱点を見つけて倒したことをメンバーに伝える。そして、ギルドにいますぐ帰ることを提案した。
メイは走り回って疲れたのか疲労が顔に見えた。他のメンバーも同じようなものだった。
アリスはミラに近づくと、体のあちこちを見回した。
「ケガはなさそうね。それにしてもあの訳のわからない化け物を倒しちゃうなんて驚いたわ」
「実は私にもよくわからないんです。勝てたのは古の聖女の文献知識があったからですけど、あの黒い光線を止められた理由はいまでも不明で……」
アリスは目を見開いて大きな声で言った。
「あ、それ私見たわ! 何だったのかしらあれ……」
「勝てたのは偶然ではないんですけど、負けなかったのは偶然なんです」
(もし、あの黒い光を止める術がなければ、いま頃は体の大半が消し飛んで……想像しただけでも嫌な光景ね)
おそらく、魔人の男は、ミラの体のほとんどを消し飛ばして、生命維持だけの状態で上半身だけ実家に持ち運ぶ予定だったのだろう。
ミラは魔人が消えた場所を遠くからもう一度振り返った。
光を消滅させる現象なんて、どんな本にも載ってなかった。ミラは自分の両手をまじまじと見た。あれは空気を極限まで圧縮したことで得られた現象。空気の中には、ミラがまだ知らない知識がある。
あと、教団とか生贄とか、わけのわからない新情報まで得てしまった。ミラは、これらの情報をどうすべきか悩みどころだった。
そんな事を考えながらミラはギルドまでの帰路を進んだ。
ミラが文献で知っている魔人の知識はごくわずかだ。
昔、禁断の術で生み出され、聖女によって一部の魔人は封印、残りは滅ぼされた。そのとき、使われたのが聖魔法である。
聖魔法は、神聖な治癒魔法の一種で、傷を回復させる効力を持っている、とのこと。
ミラは傷を治す聖女の魔法と、現代は薬師の上位職として聖女職がある。
(傷を治すのだから、もしかして、聖魔法と回復ポーションには共通した何かがある?)
ミラは、現代聖女と、文献の古の聖女についての知識を重ね合わせて、ある推測をした。
(あの魔人には回復ポーションや薬草が攻撃手段として効くのかしら? だとしたら、あの異常な身体の修復力にも対抗できるかもしれない。わからないけど、確かめてみるしか無いわ)
ミラは懐からいつもの薬草を取り出して、それを溶液で少し溶かし、気弾の魔法で制御し圧縮する。そのまま剣先にその液を垂らして塗りつけた。
魔人はその様子を見て首を傾げた。
「何をするつもりですか?」
安易に飛びかかってこないのは、ミラの剣技が魔人に少しの恐怖を植え付けたからだ。不用意に飛びかかることができない。
「試すんです。いまから」
ミラは地面を蹴って、魔人のすぐ真下にたどり着くと、跳躍して真上に飛び上がった。
左手を地面に向けて気弾を放つ。
その推進力で魔人の目の前まで空を舞う。
振り払おうとした魔人の腕を払って、空中を移動しながら、ミラはもう一度背中を斬りつける。
魔人の背中にはまたしても傷ができて、血が溢れ出した。
「いままで使えなかった魔法の移動手段を、こうもあっさり使いこなすとは、さすが……けど無駄ですよ? あなたの攻撃などすぐ治って……ん、なんですか、これ?」
魔人の背中は傷が修復することなく、血を流し続けていた。
突然、表情が苦痛に歪んだ。
「成功したわね」
ミラは地面に着地して、安堵する。
「これは……何をしたっ!」
魔人は少し焦り気味で叫んでいた。
「魔人は『古の聖女様の聖魔法と相性が悪い』という事が文献に書かれていたんです。もしかしたら、薬草の効果も同じじゃないかと思って。それをいま試しただけです」
そのまま、ミラは瓶を魔人に投げつける。
魔人は、それを腕を振って破壊した。だが、魔人に瓶の中身の溶液がかかる。
すると、溶液の触れた場所から皮膚がただれていく。
「ぐ、ぐああああああああ!」
焼けるような痛みに耐えかねて、魔人は地面に着地するとしゃがみこんだ。
顔がどろどろになっていく。
「いまのは私が作った回復ポーションの最高品質だったものです」
ポーションの効き目があったことも確認ができた。
間違いない、とミラは確信した。回復ポーションは、聖魔法と密接な関係があるのだ。 地面にうずくまった魔人は苦痛で身動きが取れなくなる。
「くそ……この、くそ女がぁ!」
魔人は、ただれた皮膚のまま立ち上がり、両手を掲げて、黒い光を放つ。
だが、ミラはすぐさま空間を制御して、目の前に空気圧縮の場を作り出し、謎の光を生み出した。
攻撃のほとんどはミラから外れる。
だが、3つほどミラのところに光が到達した。
その直前に、空間に入ると黒い光は消滅したのだ。
「なぜだ! なぜだ、なぜだぁあああ!」
それを見て、魔人は叫ぶ。
いよいよ意識が朦朧としているのか、攻撃はミラのいる場所に向かわず、周囲の木や地面を抉った。
そんな隙だらけの魔人の様子を、ミラは見逃さない。
ミラは黒い光線を上手くかいくぐって近づく。
目の前に到達すると、正面から堂々と、魔人の胸に剣を突き刺した。
それと同時に生体器官も砕いた。
パキン。
硬質なものが砕ける音が響く。
「さようなら、元人間の……魔人。私は実家に帰らないと、あの世で父に伝えてください」
魔人の遺体は生体器官が破壊されると、空気に溶け始めた。そして、魔人の遺体含めて、その場には何も残らなかった。
それは不思議な光景だった。
魔物でもなにか体の破片が残るはず。だが、魔人だけは体が霧散した。
***
ミラは剣を鞘に戻すと、散り散りに逃げたメンバーを探して森の中を歩き回った。
全員が合流したのは日がだいぶ傾きかけた頃だ。
ミラは魔人の弱点を見つけて倒したことをメンバーに伝える。そして、ギルドにいますぐ帰ることを提案した。
メイは走り回って疲れたのか疲労が顔に見えた。他のメンバーも同じようなものだった。
アリスはミラに近づくと、体のあちこちを見回した。
「ケガはなさそうね。それにしてもあの訳のわからない化け物を倒しちゃうなんて驚いたわ」
「実は私にもよくわからないんです。勝てたのは古の聖女の文献知識があったからですけど、あの黒い光線を止められた理由はいまでも不明で……」
アリスは目を見開いて大きな声で言った。
「あ、それ私見たわ! 何だったのかしらあれ……」
「勝てたのは偶然ではないんですけど、負けなかったのは偶然なんです」
(もし、あの黒い光を止める術がなければ、いま頃は体の大半が消し飛んで……想像しただけでも嫌な光景ね)
おそらく、魔人の男は、ミラの体のほとんどを消し飛ばして、生命維持だけの状態で上半身だけ実家に持ち運ぶ予定だったのだろう。
ミラは魔人が消えた場所を遠くからもう一度振り返った。
光を消滅させる現象なんて、どんな本にも載ってなかった。ミラは自分の両手をまじまじと見た。あれは空気を極限まで圧縮したことで得られた現象。空気の中には、ミラがまだ知らない知識がある。
あと、教団とか生贄とか、わけのわからない新情報まで得てしまった。ミラは、これらの情報をどうすべきか悩みどころだった。
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