実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

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1-1.路頭に迷う、草の意外な効力

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 名家バレインス家の三女として生まれたミラは、実家の兄と姉に虐げられて生きてきた。

 バレインス家は、古くから優秀な人材を輩出はいしゅつしているため、国との結び付きが強く、格式ある家柄としても国内に知れ渡っている。地方の領地とは名ばかりで、武に優れた家が危険な土地を治められるように、この地に領地を構えていた。ずっと昔に与えられた国からの使命である。

 ミラにとって、バレインス家の生活は不自由なことも多かった。その小さな世界だけを幸せと思い込まされ続けた、小さな箱庭だったのだ。

 だが、そんな日常は突然、終わりを迎えた――。

 16歳になったその日、ミラは薬草採集に行くよう姉に命じられた。森から帰ってくると、家の扉の前で立ちふさがるように兄が立っていたのである。腕を組んで仁王立ちしており、どこの門番かと思われた。しかし、紛れもなくミラの兄である。

 ミラはその光景に違和感を感じ、周囲を見渡すと、庭先にあるものを見つけた。
 王家の紋章が施された馬車だ。
 身分の高い来客、しかも王家から使いの者が来ていた。
 兄のシーラスは立ち位置を変えて、ミラの視線をさえぎると、強い口調で言い放った。

「おい。これをくれてやるから、この家から出ていけ!」

 突然の宣告に、ミラは驚いて目を見開いた。

「なぜ、ですか?」

 ミラの顔に鈍い衝撃が走った。
 兄のシーラスはミラの頬をはたいたのだ。髪がミラの顔を覆う。
 頬は赤く腫れ上がり、それをミラは右手で押さえる。

「黙ってお前は俺の言うことを聞いていればいいんだ!」

 そのあまりの切羽詰まった様子に、ミラは口を何度か開こうとしては閉じ、言い返すのをやめた。手が少しだけ震えていたのは、家族や兄妹だと思っていたのは、自分だけだと思い知らされたからだ。

「わかりました。出ていきます」

 実家から着の身着のままで出ていくことになった。

 ここまで焦っている兄の表情は、いままで見たことがなかった。
 ただ事ではない。だが、ミラにとって、家の人間に逆らうことは許されてはいなかった。
 すでに決定事項なら、ミラにはもう戻る場所はないのだ。
 バイレンス家とはそういう家である、とミラは正しく認識していた。

 路銀の袋を受け取り、ミラは来た道をとぼとぼ引き返して、森のそばにある街道を進んだ。

(この先、どうすればいいの?)

 大して荷物があったわけではないが、実家には私物もある。着替えだって持っていない。

 そもそも田舎の領地だ。歩いて隣の街までたどり着けるような短い距離ではない。店や宿もなく、路銀は無意味だった。もしかすると、野垂れ死ぬのを望まれていたのかもしれない。

 他の人から見れば普段からひどい人たちだったのだろうが、ここまでされる理由がミラには思い浮かばなかった。



 数日が経ち、食べ物も森に生える不味い草ばかり食べて、飲み物は川の水だけ。それで生きていくには無理がある。ミラはこのサバイバルの限界を薄々感じていた。
 動物や魔物を倒して食事できる高いサバイバル能力も持っていない。

 家から自由に歩き回れるようになったのもつい最近のことだった。部屋にほぼ軟禁のような状態でいて、外で生活する知識も少なく、悪い意味での箱入り娘だ。

「ぐえっ!」

 ミイラは地面の凸凹に足を取られて、つまずいた。盛大に膝とお腹を地面に打って、変な声が出る。
 転んだのなんて、子供のとき以来だった。

 足の傷を近くの川で洗い、少し痛みの残ったお腹をさする。

 するとお腹が空いてきた。再び、森に少しだけ入って、例の草を食べた。

 今日、本当は姉に採集するように言われた草だ。その草は食べられるらしく、味は苦くて不味いが、お腹は少しだがふくれれた。
 手持ちの草は全て食べてしまったし、木に果物がなっている様子もない。それ以外の採草は知識がなく、食べられるかの判断が難しかった。
 本で知った知識だが、草には毒のあるものが混じっていて、種類を間違えると大変だという。

 むしゃむしゃむしゃ。
 そこには多めにその食べられる草が生えていた。
 食料の予備として、多めに摘んで、服のポケットの中に入れる。クリーム調の白かったワンピースドレスは、いまでは土で汚れていた。

「この傷、残るのかしら?」

 ミラは膝の傷を見てつぶやいた。

 試しに手に持っている草を塗ってみることにする。
 痛みが和らいだ気がする。

 傷を覆っていた草を外す。すると、傷が治っていた。
 
「え? あれ? ないっ!」

 こんなスピードで外傷が治るはずがない。
 不思議に思うミラ。試しに、草を観察してみるが、他の草と同じだ。

 この森にたくさん生えているような草が回復のできる薬草だったとでも言うのだろうか?
 そんな事を考えて、首を傾げた。

 姉は私に『食用野草の採集』と嘘をついていたのかもしれない。これは回復の効用がある薬草だったに違いない。
 
「本当に最低な人たちね……」

 傷を治せるような薬草ならそれなりの価値がある。
 森は魔物と遭遇する危険もあるから、本当なら冒険者のような腕の立つものが請け負うべき仕事である。
 危険な森にしかない、高価な薬草を取らせに行かせる理由。目的は、薬草採集ではなかったのだろう。

 この危険な森を薬草採集にうろつかせて、あわよくば……。

 ミラは目からこぼれてきた涙を人差し指で拭って、前を見た。

「とにかく生きて、隣の街に行かないと……」

 馬車でも一週間以上かかる道を歩き続けるのだった。
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