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暴かれた嘘

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司はなかなか寝付けずにいた。
夜風に当たろうとリビングへ行くとまだ灯りがついていた。
葵がウッドデッキの手すりに寄りかかって外を眺めている。
引き寄せられるように近付いた。

「桜葉さん?どうしたの?眠れない?」

「ああ、何か目が冴えちゃって・・・。」

「そうなんだ。」

葵は一瞬司を見たがまた湖の方に視線を移した。

「葵も眠れないの?」

「・・・うん。そうだね。」

夜の月明かりに照らされた葵は一層美しく見えた。

「・・・昼間煙草を吸いに行ったんじゃないよね?」

「どうして?」

葵は視線を移さずに聞いた。

「戻って来た葵からは煙草の残り香がしなかった。」

「・・・ふふっ。さすがは警察庁のキャリア官僚だね。」

「何をしてたの?」

「・・・。」

司の疑問に葵は答える事はなかった。
ただ、寂しそうな瞳で湖を見つめていた。

「葵?」

葵は司を見つめた。
葵の深い瑠璃色の瞳から目が放せなくなる。

その時、一台の車が別荘に入ってきた。
車から降りたのは樹だ。葵と司の姿を見ると表情が険しくなる。

樹はリビングへ入ってくると葵に拳銃を向けた。

「司。彼女から離れろ。」

「お前、何してるんだ!?」

司は状況が理解出来なかった、葵は一瞬鋭い目で樹を見てフッと表情を和らげた。

「橘さん?何の冗談です?」

「貴女は、レオン王子の日本の友人ではないですよね?」

「何故そう思うんですか?」

「・・・貴女は二ヶ月前にアメリカから来日したばかりだ。入管に確認したので間違えないはずです。」

「でも、レオンの友人に変わりないですよ?」

「すくなくとも日本の友人には当てはまらない。貴女は何者なんです?」

「・・・何者でもないですよ。ただのレオンの友人です。」

拳銃を向けられているにも関わらず穏やかな顔をして葵は言った。

「お前もう辞めろ!葵に失礼だろ!」

司は樹に近付くと拳銃を下ろさせた。

「葵?・・お前俺の忠告ちゃんと聞いたのか!?これ以上彼女に深入りするな!!」

樹は司に詰め寄った時、リビングにレオンが入ってきた。

「もう辞めてください橘さん。俺が嘘を言ったんです。アオイが日本の友人だと。だからこれ以上アオイを責めないで下さい。」

「レオン王子!どうしてそんな事を?彼女は一体何者なんですかっ?」

レオンは葵を見つめた。

「はぁ。意外とバレるのが早かったですね。流石です。私はレオンからボディーガードを依頼されたんですよ。」

「貴女が?」

「ええ。でも、レオンの友人であることは変わりません。」

葵は真っ直ぐに樹を見て言いきった。

「何故我々に嘘をつく必要があったんですか?」

「それは、俺のボディーガードだと知られたらアオイが動きづらくなると思って咄嗟に友人だと言ったんです。あなた方は民間人のボディーガードに良い印象がないようでしたから。」

「当たり前でしょう!所詮は民間人なんです。出来る事だって限られます。」

「葵がレオン王子のボディーガード?」

未だに状況が追い付かない司に葵は申し訳なさそうに言った。

「ごめんなさい、桜葉さん。騙すつもりはなかったんです。ただ、あなた方には知られなくなかった・・。」

葵は目を伏せて言った。

「レオン王子、状況を説明して頂けますか?一体どういう事なんです?話して頂けないと我々も動けません。」

「・・・。」

レオンは辛そうな顔をして黙り込んでしまう。

「橘さん、理由が解らなければ動けませんか?助けを求める人を理由を聞いてからでないと助けませんか?レオンは私に助けを求めた、私にとってはそれだけで十分な理由になります。人の心の中に土足で入るような事はしないわ。」

「それは、貴女が何の責任も負わない民間人だからだ。レオン王子に何かあったら責任を負うのは我々警察なんですよ?」

「責任?そんな些末な事に捕らわれてるんですか?私は命を懸けてでもレオンを守ります。どんな事があっても。それが私の覚悟です。」

「軽々しく命を懸けるなんて言わないで頂きたい。所詮貴女は何処かの警備会社の人間でしょう?貴女に出来る事なんてたかが知れてるんですよ!」

「樹!お前言いすぎだぞ!どうしたんだ?」

「司、お前こそ何故わからない?どうかしてるのはお前の方だ!」

司と樹の間に険悪な雰囲気が漂う。

「とにかく、私はレオンのボディーガードを降りる気はありません。依頼を受けたからだけではありません。たった数日でもレオンの友人としてです。」

葵は別荘から出ていってしまう。

「アオイ・・。俺はアオイにボディーガードを続けてもらいますよ。貴方達に何と言われても。」




「葵!探したよ。」

息を切らせながら司が後を追ってきた。

「ごめん。葵に失礼な事言って。あいついつもは凄く冷静なのに。」

「桜葉さんが謝ることないですよ。橘さんの言う事も解らない訳じゃないんです。あなた方の立場もありますからね。私も冷静さを失ってしまいました。こんな事ではまだまだ駄目ですね・・。」

湖を眺めながら葵はポツリと言った。
まるで泣いている様に見えた。葵の姿が見ていられなくて司は思わず葵を抱き締めた。

「桜葉さん?」

「俺は葵を信じるよ。あいつが何て言おうと。」

「ふふっ。橘さんにまた怒られるよ?私に深入りするなって。」

「樹は関係ない。俺が葵を信じたいんだ。」

身体をはなし葵の目を見つめた。
視線が絡み合う。司は葵の頬に手を伸ばした。
二人の間を春風がサアッと吹き抜けた。葵から甘い香りがする。

「・・・。」

司の顔が近付いて唇が触れそうになった瞬間葵に胸を押し返された。

「・・・ダメだよ。橘さんじゃないけど、私に深入りしない方が貴方の為だよ?」

司の腕の中からスルリと葵は離れてしまう。

「っつ・・。」

司は葵の温もりの残る手を握りしめた。
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