十年愛 〜私が愛した人はズルイ人でした。それでも愛するのを止められないのは私の罪ですか?〜

朔良

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忘却の楔32

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雅也をホテルに送り、一旦自分の家に帰るとスーツに着替える。
襟元に社章を付けると心が引き締まった。

「よしっ!!」

一人掛け声をかける。
朝の8時前、出勤すると既に鍵が開いていた。

「・・・・、おはようございます。」

「あ、おはよう。」

事務所に入ると、相変わらず久堂がデスクワークをしていた。
美咲は自分の席に荷物を置くと何時もの朝のルーティンを始めようとした。

「如月さん?」

久堂が給湯室にいた美咲に声を掛けた。

「はい?どうしましたか?」

「・・・・、如月さんこそ何かあった?顔色、良くないよ?」

久堂が心配そうに顔を近付けた。

「な、何言ってるんですか?全然大丈夫ですよ〰。」

「俺にはわかるよ?無理・・してるでしょ?」

「・・・・。」

それ以上言われると何も言い返せなかった。ただ、視線を彷徨わせ俯いた。

「ごめん。責めてる訳じゃないんだ。俺は、如月さんの事が心配で・・。」

「久堂さん?私は本当に大丈夫ですから。」

笑顔を浮かべると久堂の横をすり抜けようとした。その時、久堂に肩を掴まれあっという間に抱き締められた。

「如月さん?俺の前で無理しないで?もっと、頼ってほしいな?」

「久堂さん、、、ここ会社・・。」

「大丈夫だよ。まだ皆来ない。」

「・・・・。」

「俺じゃ頼りにならない?」

「そ、そんな事・・ないです。でも・・。」

「でも?」

「私のプライベートな事です。会社や久堂さんに迷惑を掛けるのは違うと思います。」

「如月さん・・。そんなこと言わないで?」

久堂の顔を見上げると視線が絡んだ。久堂に縋れればどんなに楽か。でも、そんな事出来ない。

「久堂さんは心配性ですね?私は大丈夫ですよ。」

笑って久堂の腕の中からスルリと抜け出した。
それ以上、久堂は何も言わなかった。
朝礼が終わり各自朝にするべき事をこなす。美咲は早々に営業に出て行った。




「こちらで少しお待ち下さい。」

「ありがとうございます。」

顔見知りの職員に案内される。何時もの、結城の執務室だ。
朝から来客中ということで、執務室で待つことにした。もうすっかり事務所の人達とは顔見知りになっていた。

(来客中・・か。おじさん、忙しいんだな相変わらず・・。)

結城を待つ間に手帳を出して今後の予定を確認した。
小一時間過ぎたあたりに結城が部屋へ戻って来た。

「美咲?ごめん、待たせたね?」

「ううん。突然来たのは私だから・・。」

「・・・・、何かあった?」

「ははっ、おじさんには隠せないな・・。実は、雅也さんの記憶が戻ったんです。」

「記憶が?戻った?」

「はい。それで、ご相談なんですけど暫く身を隠したいんです。」

「えっ!?」

美咲のまさかの提案に結城は驚いた。
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