十年愛 〜私が愛した人はズルイ人でした。それでも愛するのを止められないのは私の罪ですか?〜

朔良

文字の大きさ
上 下
182 / 223

忘却の楔32

しおりを挟む
雅也をホテルに送り、一旦自分の家に帰るとスーツに着替える。
襟元に社章を付けると心が引き締まった。

「よしっ!!」

一人掛け声をかける。
朝の8時前、出勤すると既に鍵が開いていた。

「・・・・、おはようございます。」

「あ、おはよう。」

事務所に入ると、相変わらず久堂がデスクワークをしていた。
美咲は自分の席に荷物を置くと何時もの朝のルーティンを始めようとした。

「如月さん?」

久堂が給湯室にいた美咲に声を掛けた。

「はい?どうしましたか?」

「・・・・、如月さんこそ何かあった?顔色、良くないよ?」

久堂が心配そうに顔を近付けた。

「な、何言ってるんですか?全然大丈夫ですよ〰。」

「俺にはわかるよ?無理・・してるでしょ?」

「・・・・。」

それ以上言われると何も言い返せなかった。ただ、視線を彷徨わせ俯いた。

「ごめん。責めてる訳じゃないんだ。俺は、如月さんの事が心配で・・。」

「久堂さん?私は本当に大丈夫ですから。」

笑顔を浮かべると久堂の横をすり抜けようとした。その時、久堂に肩を掴まれあっという間に抱き締められた。

「如月さん?俺の前で無理しないで?もっと、頼ってほしいな?」

「久堂さん、、、ここ会社・・。」

「大丈夫だよ。まだ皆来ない。」

「・・・・。」

「俺じゃ頼りにならない?」

「そ、そんな事・・ないです。でも・・。」

「でも?」

「私のプライベートな事です。会社や久堂さんに迷惑を掛けるのは違うと思います。」

「如月さん・・。そんなこと言わないで?」

久堂の顔を見上げると視線が絡んだ。久堂に縋れればどんなに楽か。でも、そんな事出来ない。

「久堂さんは心配性ですね?私は大丈夫ですよ。」

笑って久堂の腕の中からスルリと抜け出した。
それ以上、久堂は何も言わなかった。
朝礼が終わり各自朝にするべき事をこなす。美咲は早々に営業に出て行った。




「こちらで少しお待ち下さい。」

「ありがとうございます。」

顔見知りの職員に案内される。何時もの、結城の執務室だ。
朝から来客中ということで、執務室で待つことにした。もうすっかり事務所の人達とは顔見知りになっていた。

(来客中・・か。おじさん、忙しいんだな相変わらず・・。)

結城を待つ間に手帳を出して今後の予定を確認した。
小一時間過ぎたあたりに結城が部屋へ戻って来た。

「美咲?ごめん、待たせたね?」

「ううん。突然来たのは私だから・・。」

「・・・・、何かあった?」

「ははっ、おじさんには隠せないな・・。実は、雅也さんの記憶が戻ったんです。」

「記憶が?戻った?」

「はい。それで、ご相談なんですけど暫く身を隠したいんです。」

「えっ!?」

美咲のまさかの提案に結城は驚いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

処理中です...