夜明けの丿怪物

カミーユ R-35

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第4話『届かぬ声』

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そして、そのまま車に押し込まれると車は発進してしまったのである。
「嫌だ!誰か助けて!」声を荒げ叫ぶも誰も助けてくれるはずも無く、反対に口抑えられた。
それから数時間後、ようやく目的地に到着したようだ。車から降ろされた場所は何処かの倉庫のような場所だった。中は薄暗くて良く見えないが人の気配がすることだけは分かった。
「おい、連れて来たか?」男の声が聞こえ、そちらを見やるとそこには一際他の者達とは違うオーラを放つ男が、煙草を咥えて立っていたのだ。ココにいると言うことはどうやらこの人達の仲間のようだと思った時、僕は恐怖を感じた。これから何をされるのか想像もつかない。

「ああ、言われた通り連れてきたぜ」卑猥な笑みを浮かべながら僕を男の前へと押し出した。僕は慌てて逃げようとするが大の大人の力には敵わず為す術もない。すると、今度は両手に手錠をかけられてしまい余計身動きが取れなくなってしまった。(殺される…)恐怖に目の前の男の顔も見れず、ソラはただただじっと耐える事しか出来なかった。少しの沈黙の後、あろう事か目の前の男はソラの顎を掴み無理矢理上を向かせるとジロジロと見始めた。流石に驚き目を丸く開いた時、そこで初めて男の顔が明らかになった。

「へぇー可愛い顔してるじゃないか」低くそれでいて色気を纏った声で囁かれ、全身がビクッとなった。しかし細く笑むその笑い方はまるで悪魔のようだとソラは思った。(この人と深く関わってはイケナイ…)

「家に…返して下さい」絞り出した声でそういうが、聞き入れて貰えずにより一層笑みを深める。「まぁ、お前も諦めろ」低く甘さを含んだ声音で鼓膜震わせる。
「ひっ……」怖い、怖い、怖い。恐怖で身体がガタガタ震え出すがそれでも必死に声帯を奮い立たせる。
「け、警察ッ…」精一杯の虚勢を張ってなんとか言葉を紡いだ。するとその男は一瞬驚いた顔をした後にククッと笑ったかと思うと突然ソラの頬を思い切り叩いたのだ。

「っ⁉」叩かれた頬が一瞬で熱をもつ。驚きに男を見上げるとそこには怒りに満ちた顔があった。
「お前さん、自分の状況わかって無いようだな」そう言ってまた手を振り上げた。
「やっ、やめッ!」僕は咄嗟に目を閉じたが衝撃は襲ってこない。恐る恐る目を開けると男は振り上げた手を下ろしていた。その代わりその目は鋭く光り僕を射抜くかのように鋭い視線を投げ掛けてくる。
その目は冷酷と感じるほど冷たく、寧ろ神々しい程の完璧な外見を引立てており、何も言えなくなる程迫力があったのだ。
「いいか?お前さんはもう俺のモノだ。今後お前さんがどう拒否しようが、俺から逃げられはしない」そう言うと僕の顎を掴み上を向かせるとそのまま噛み付くようにキスをしてきた。突然のことに頭が真っ白になる。

「んぅ!?」驚きに目を見開くが、男は構わず僕の口内を蹂躙する。歯列をなぞる様に舐められたかと思うと舌を吸われたり甘噛みされたりと好き勝手される。
「ふっ……んッ」息継ぎの合間に漏れる自分の声とは思えない程甘ったるい声に耳を塞ぎたくなるが、両手を拘束されている為それも叶わない。暫くしてやっと解放された時には既に抵抗する気力など残っておらずぐったりとしていた。

「はぁ……っ」肩で息をしながら男を見上げると彼は満足気に微笑んでいた。その笑顔にドキッとするが、すぐに我に帰る。心臓はバクバクと音を立てており顔は火が出そうな程熱い。きっと今鏡を見たら真っ赤になっていることだろう。そんな僕を見て男がくつくつと笑う声が聞こえたかと思うと、再び顔が近付いてくるのがわかったので慌てて目を瞑ったが、予想に反して男は僕の耳元に顔を寄せると、低い声で囁いた。

「期待したのか?」その一言を聞いた瞬間、僕は全身が沸騰したかのように熱くなるのを感じた。
「ちっ違う!!」慌てて否定の言葉を口にするが男はそれを無視してゆっくりと首筋へと手を這わせていく。その手つきはとても優しく労わるようでいて、どこか淫靡な雰囲気を纏っており、それだけで背筋がぞわりと粟立つのを感じた。

「やっやめっ」身を捩って逃れようとするが両手を拘束されている為上手くいかない。そうしている間にも男の手はどんどん下の方へと下がっていき遂には胸元まで到達してしまった。そのままシャツの隙間から手が侵入してくると直接肌に触れられる感覚にびくりと身体が震えてしまう。

「ひっ!」思わず声が出てしまい慌てて口をつぐむが男は気にせず行為を続ける。胸元まで侵入してきた手は脇腹や臍周りなど敏感な部分を撫で回していく。その度にビクビクと反応してしまい、恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた時だった。突如何者かによって男の手が止まった。

「任堂様、オイタが過ぎるんじゃないですか?」突然の声に驚いてソラは顔を上げるとそこには、いつの間にかもう一人の男が僕らを見下ろす形で立っていた。
「なんだ、もう来たのか」つまらなそうな顔をする任堂という男に対し、もう一人の男はやれやれと言った様子で肩を竦める。
「このまま此処で、おっぱじめるのは構いませんが、これ以上予定の時間を過ぎるとまた三嶋さんに小言を言われますよ?」飄々とした態度で話しかけてきた。

「ふんっ知ったことか」そう吐き捨てると僕のシャツの中から手を引き抜いて立ち上がった。解放されたことに安堵する。そんな僕を知ってか知らずか男はニヤリと笑うとそのまま部屋を出て行った。残された僕は呆然としたままその場に座り込んでいると、先程の男がこちらに近付いてくる。
「大丈夫ですか?」手を差し伸べてくれたので素直にその手を取った。そのまま立ち上がるのを手伝ってくれる。
「あ、ありがとうございます」お礼を言うと男はニコリと笑った。
「いえいえ、コチラも仕事なので。では行きましょうか」と言う言葉に対し、『何処へ?』と返すのは野暮だろうか。(この人なら見逃してくれるかも…)そんな淡い期待を捨てて、飄々とした態度で歩き出す男に黙って着いていくことにした。部屋を出ると通路に出る。そのまま進んでいくとエレベーターが見えてきたので二人で乗り込んだ。扉が閉まると同時に男が口を開く。
「さて、自己紹介がまだでしたね」そう言うと男は懐から何やら名刺を取り出した。

「私の名前は菅本 惠といいます。一応この任堂様の秘書をさせて頂いております」丁寧な口調で話しかけてくるが、その目はどこか冷たい印象を受けるものだった。
「あ、えっと僕はソラです」とりあえず自分も名乗るべきだと思い素直に名前を答えた。
「えぇ…存じております」菅本と名乗った男はニコリと微笑んだ。エレベーターが目的の階に着くまでの間、沈黙が続いたが特に気まずい雰囲気ではなかった為助かったと思う反面、これから何をされるのか不安で仕方がなかった。やがて目的の階に着き扉が開くと同時に菅本さんが口を開いた。
「では行きましょうか」そう言うと再び歩き出すので黙って着いていくことにした。

そう言うと再び歩き出すので黙って着いていくことにした。しばらく歩くとビルの外にある非常階段の前に辿り着いた。
「こちらです」そう言って菅本さんが扉を開けると、そこには一台の車が停まっていた。

「乗ってください」言われるままに助手席に乗り込むと続いて菅本さんも隣に座った。シートベルトを締めるとゆっくりと発進する車に揺られながら、これからのことを想像するが不安しかない。とりあえず今は大人しくしておくべきだろうと思い、黙って座っていることにするが、隙があれば逃げたい気持もあった。

暫くすると目的地に到着したのか車は停車した。降りて辺りを見渡すと見覚えのない景色が広がっていることに驚いた。どうやらここは繁華街の裏通りらしいのだが、人通りが少ないせいか薄暗く不気味な印象を受ける場所だった。(ここ、何処だろ…)窓から見える景色から想定しても大きな茶色い建物としか、今のソラには分からなかった。すると再び車が動き出したと思うと、地下駐車場へと入っていく。奥の方にあるスペースに停車すると、菅本さんが車を降りるよう促してきた。
「降りてください」言われるままに降りると、菅本さんの後ろに着いて歩くよう促された。

「それでは行きましょうか」そう言って歩き出したので慌てて後を追いかけることにしたが、一体どこに行くつもりなんだろうか?疑問を抱きつつも黙って着いていくしかないようだ。エレベーターに乗り込んで最上階まで上がると、そこからさらに階段を上っていくことになったのだが、結構しんどい。そんなことを思っているうちに目的の場所に着いたらしい。目の前には大きな扉があり雨宮さんはカードキーを翳すとロックが解除されたような音がした。そのまま中へと入っていくので、恐る恐る後へ続く。(カードキーで入るってって事は、まさかここって、会員制のお店とかなのかな?)などと想像を巡らせつつ部屋の中に入ると、そこはかなり広い空間になっていた。店内に入ると受付らしき場所に立っている男性の姿が目に入り、年齢は三十代くらいで髪をオールバックにしているのが特徴だと思われた。その男性が近づいてくると「久しぶりです」と言いながら菅本さんに向かって手を挙げた。

「ええ」とだけ答えると雨宮さんはそのまま奥へと進んでいく。慌ててその後を追いかけるようについていくと、一番奥の席に案内される事になった。席に着くとすぐにメニューが運ばれてきたが、菅本さんはそれを受け取らず「オーナーを」と短く答えた。
「かしこまりました」と返事をする男性を横目に、改めて店内を見渡す。落ち着いた雰囲気の店内には高級そうな絵画や花瓶などが飾られており、テーブルの上に置かれたメニュー表には値段が書かれていなかったことから察するに、かなり高額なものを注文しているのかもしれないと思ったソラだったが、それ以上考えるのを止めた。しかし此処がどんな所が気になったソラは、好奇心から改めて菅本さんに質問を投げかけてみた。
「ここって一体何なんですか?」恐る恐る尋ねると菅本さんは答えてくれた。

「ここは会員制のクラブでしてね、主にVIPの方々が利用する場所なんですよ」そう言って微笑んだ菅本さんだったが、目が笑っていないように見えたのは決して気のせいではないはずだ。しかし何故そんな場所に連れてこられたのか、その理由が全く分からないソラが困惑していると、それを察したかのように菅本さんが口を開いた。

「貴方には此処で借金の返済する為に、ここで働いてもらう事になります」淡々とした口調で話す雨宮さんだったが、あまりにも唐突すぎる内容に頭がついていかないソラは混乱していた。(僕が、此処で⁉)

「あの…お金なら必ず返します。なんなら、学校も辞めて、働きますからッ」だから…!!懇願するように訴えるが、菅本さんは首を横に振るだけだった。
「そう言う問題ではありません」と言い返されてしまい何も言えなくなってしまう。そんなソラに対し菅本さんはさらに追い打ちをかけるかのように言葉を続けた。
「事情は存じております。貴方の叔父様が多額の借金をされたんですよね?お二人共高年齢で返済できる当てもない上に、頼みの綱であった貴方のお父様お母様も亡くなられてしまった。しかも将来貴方の為よと思って貯めていた通帳の遺産も叔父達が全部使い果たし、挙げ句、今度は貴方を売って自分達は助かろと言う魂胆。そうなると貴方が一人で返さなくてはならなくなるのでは?ご家族もいないようですし…」痛いところを突かれてしまったソラは、何も言い返せずに黙っていると雨宮さんは続けた。

「それに、貴方のような未成年だけでは難しいでしょうから私達もお手伝いさせて頂こうと思いましてね」そう言って微笑む菅本さん。しかし拒否権はないと言わんばかりの空気に、もう諦めるしかないと思ったソラは素直に従う事にした。
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