夜明けの丿怪物

カミーユ R-35

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第3話『予感』

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「一体なんなんだろ?」独り言のように呟いてみるものの当然返事は返ってこなかった。
その後、服を着てリビングに向かいテレビを点ける。画面にはニュースキャスターが映っており、最近度々話題に上がっている連続通り魔事件が報道されていた。

「通り魔、ねぇ…」確かに最近ここら辺で事件が続いているのは事実だが、それでも別段珍しいと言うことはない。だが、もしもこの事件が近所で起こってしまったら?そう考え出すと少しだけ怖くなった。その後もテレビから流れるニュースを何と無しに眺めていた。ふと…時計を見ると6時過ぎだった。そろそろ学校の準備を始めないと、そう考えながらもしばらくの間ニュースを眺め続ける。そして数分後、テレビは次のニュースへと切り替わっていた。

「次のニュースです。○○○で通り魔事件が起こりました」テレビの画面が切り替わり地図が映し出された。そこに赤いピンが打ち込まれるとキャスターは淡々と話し始める。

「今年に入ってこれで3件目となる今回の事件ですが未だ犯人の特定には至らず、警察も捜査を急いでいるようです」(物騒だなぁ…)テレビを眺めながらそんなことを思ったが、既に支度を始めなければ学校に遅刻してしまう時間になってしまっていることに気づいたため、急いで準備に取り掛からなければならない。そして数分後には鞄を持って玄関を潜るとそのまま学校へと歩き出して行くのだった。



「おい、聞いたか?」昼休みになり何時ものように昼食を取っている最中、一人の男子生徒が話しかけてきた。ちなみに彼は同じクラスメイトで名前を北村卓地と言う。特別親しい間柄では無いが、高校に入り席が近かったことから話すようになったのだが、何故か妙に話掛けてくる。今も、僕は彼から突然言われた言葉の意味を理解しようと聞き返した。
「一体何を?」すると僕に対して彼はこう答えた。
「最近、通り魔事件が多いだろ?だから俺達も気をつけないとな」
「……それで?」
「だからさ、お前に何かあったら心配だし。その……一緒に帰ってもいいか?」
「別に構わないけど」(断る理由も無いし)
「本当か!?」北村は嬉しそうに言う。何をそこまで喜んでいるのか理解できなかったが、一応了承した。そして午後の授業が終わり放課後になると、約束通り彼と帰る事になったのだが……その帰り道の途中で彼がこんな事を言ってきた。

「なあ、せっかくだしカラオケにでも行かないか?」突然の申し出に困惑する。(カラオケ…行った事がない。けど、楽しいのだろうか?)そんな事を考えていると、北村の方に目を向ける。

「ほら、行こうぜ!」そう言って僕の手を強引に掴むとそのまま歩き出した。どうやら拒否権は無いらしい。結局その後、断るタイミングを逃してしまいカラオケに行く羽目になってしまったのだった。(正直可能であれば、行きたくない。こんな事よりアベルと一緒にお喋りしてる方がマシだ)そう思いながらも仕方なく店に向かうことにした。店に向う最中、北村は終始楽しそうにしていたがソラ自身はあまり乗り気になれなかった。正直歌う事にも興味が無いし、何よりも他人と関わることを極力避けていたかったからだ。カラオケボックスに入ると店員に案内され部屋に入った。すると、北村は早速曲を入れる準備を始めた。ソラはそんな様子をただ黙って見ているだけだったのだが、ふとある疑問が浮かんだ為彼に尋ねてみる事にした。
「ねぇ…」「ん?なんだ?」
「どうして僕なんかと一緒に帰ろうと思ったんだ?」
「それは……まあ、あれだよ」彼は少し照れ臭そうにしながら答える。
「お前と一緒にいたかったからだよ」その答えを聞いた時、ソラは厭さを感じた。(それは純粋に?)
「よし、準備できたぞ!何か歌いたい曲とかあるか?」
「いや……別に無いけど」
「そうか?じゃあ俺が先に歌わせてもらうな!」そう言うと彼は曲を入れ始めた。そしてしばらくすると曲が流れ始める。テンポの早いリズムにも関わらず、彼はマイクを持つと歌い始めた。2~3分の楽曲を歌い終えると、彼はこちらに向かって話しかけてきた。

「どうだ?俺の歌上手いだろ?」
「うん、凄く上手だったよ」
「本当か!?そう言ってくれると嬉しいぜ!」そう言うと北村は満面の笑みを見せる。その後しばらく会話を楽しんでいたのだが、不意に部屋の扉が開き一人の男性が入ってきた。その人は長い前髪で見える面積は少ないが。その隙間から覗く顔立ちは、とても綺麗な顔立ちをしておりスタイルも良いもので、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせている人だった。(コレが大人の魅力ってやつ?)

「いらっしゃいませ。ご注文されたコーラで御座います」そう言って、男性はグラスをテーブルの上に置くと部屋から出て行った。
「カラオケって飲み物を持って来てくれるんだね」そう尋ねると北村は不思議そうな顔をして首を傾げる。(どうしたんだろ…?)
すると北村はゆっくりとした動作でコチラを向き「いや…俺。まだ、飲み物頼んで無いけど…」と呟くや否。みるみるうちに顔が青ざめ出す北村を見て、どこか様子がおかしい事に気付き慌てて声をかける。
「どうしたの!?」すると彼は俯いたまま言った。
「あ、あぁいや……俺の勘違いだったみたいだ!気にしないでくれ」
「そう?それなら良いけど……」しかしそう言った北村の様子は明らかにおかしくて、どこか落ち着かない様子だった。心配になり顔を覗き込むと、彼は驚いたようにビクッとなったかと思うとこちらを見ながら言った。
「ソラ……もう帰ろう。俺、この後用事がある事スッカリ忘れてたわ」
「え?そうなの!?分かった」そう答えると、彼はホッとしたような表情を見せた後、すぐに荷物をまとめ始めた。そんな彼の様子を見て不安になったものの、とりあえず家に帰る事にしたのだった。


次の日学校に行くと北村の姿が無かった。不思議に思っていると、後ろから声をかけられ振り向く。するとそこに居たのは委員長だった。彼女は相変わらず無表情でこちらを見つめている。不思議に思っていると、後ろから声をかけられ振り向く。するとそこに居たのは委員長だった。彼女は相変わらず無表情でこちらを見つめている。不思議に思い、首を傾げていると彼女の方から口を開いてきた。

「おはようございます。昨日は楽しかったですか?」突然そんな事を訊かれたので戸惑ってしまったが、一応答える事にした。
「うん!楽しかったと思う」そう答えると彼女は少し微笑んでくれたような気がしたが、気のせいかもしれない。すると今度は彼女が質問をしてくる番だった。
「そうですか。ところで今日は北村さんが来ていませんが、ご存知ですか?」そう訊かれたので正直に答えた。
「知らないよ?何かあったのかな」そう答えると彼女は少し考えるような仕草を見せた後、口を開いた。

「いえ、特に何もなければ良いのですが……」と言う彼女の言葉を聞き終える前にチャイムが鳴り響いてしまった為、それ以上話す事はできなかったのだが、やはり心配になるものだ。一体どうしたのだろうかと考えているうちに授業が始まってしまい、結局聞けず仕舞いになってしまったのだった。
昼休みになり食堂へと向かおうとしたその時、突然後ろから声をかけられたので振り向くとそこにはアベルが立っていた。彼はいつも通りの笑顔で挨拶してくれた後、一緒に昼食を食べようと誘ってくれたので喜んで承諾したのだが、その途中でふとある疑問が浮かんできてつい口に出してしまった。

「そういえばさ、昨日は何してたの?」無意識のうちに出てしまった言葉に、自分でも驚いた。(理由なら知ってる。昨日彼は、家の事情で早退したんだ)しかし彼は嫌な顔1つせずに、少し驚いたような表情を見せた後、照れくさそうな様子を見せた後にこう答えたのだった。
「別に特別な事は"何も"してない。ただちょっと急用で呼ばれただけだからさ」と。そんな返答を聞けば、それ以上詮索する事も出来ず、大人しく引き下がるしかない。

その後何事も無く二人は食事を終え、別れた。放課後になり、帰る準備をしていると突然スマホが鳴り出した。画面を見ると「叔母さん」という文字が表示されているのが見えたため、すぐに電話に出た。すると予想通り…さんからの連絡だったようで、今家に居るから早く帰ってきてほしいと言われたので急いで下校する事にした。

帰宅中、何故叔母さんから突然連絡がきたのか疑問に思ったが、それ以上考える事はなく、急いでるうちに家に到着したのだった。家に着き玄関のドアを開けるとそこには叔母さんがいた。しかし叔母さんの目は虚ろであり、まるで何かに取り憑かれているかのような雰囲気を醸し出していた。そして叔母さんはゆっくりと近づいて来て僕を抱きしめてきたのだが……その身体には生気を感じられず冷たくなっていたのだから驚きを隠せなかった。何故こんな事になってしまったのか考えていると突然後ろから声を掛けらさんれたので振り返るとそこには叔父さんの姿もあり、叔父は僕を見るなり「ソラ…ソラ」と言って安堵の表情を浮かべた後にこう続けた。

「でも、もう手遅れだよ」と……その言葉を聞いた瞬間その意味が理解できずに困惑した表情をしていると、今度は叔母さんの声が響いた。
「ソラ……貴方はもう逃げられないのよ」と言ってきたので驚いたと同時に恐怖を感じてしまった。(何に?)
「夫が、借金をしたの………。それで」と叔母さんは泣きながら話してくれた。
「だから、私や叔父さんは借金を返すために働いているんだ」と叔父さんが続けて言った。
「ごめんなさい、ソラ。でも、こうするしかなかったの」と言ってまた泣き出してしまった。そんな姿を見て僕は何も言えずにただ立ち尽くす事しかできなかった。(借金?叔父さんが…?何故?)そんな疑問が飛び交う中、ソラは1つの疑問が頭に浮かぶ。何故二人はそれをわざわざ僕に伝えたのか…?と同時に嫌な予感もした。

「実はなソラ、お前には申し訳ないが俺達はもう限界なんだ」と叔父さんが言う。(限界?何が?)
「だからね、最後に貴方と会えて本当に良かったと思っているの」叔母さんも続けて言った。(そんな事など、今まで一度も言ってくれなかった癖に…)
そして二人は少し後ろに下がり手を合わせた後こう言ったのだ。
「ようなら"ソラ"私達の変わりに払ってね」と言った二人の言葉が脳内に残る…。(払う?誰が?僕が…?そう思った瞬間、彼等の行動が全て繋がったような気がした。(まさか……最初からそのつもりで?)
「でも安心してくれ、きっとお前なら返せる」と叔父さんが言う。そんな二人に対して僕はただ唖然としているだけだった。(そんな馬鹿な、何故こんな目に遭わなければならないのか)と自問自答していると次第に怒りが込み上げてきたのか拳を強く握りしめていると二人は何かを思い出したかのようにこちらを向いて話しかけてきたのだ。

「ああそうだ最後にこれだけは言っておくわ」と言った後でこう続けたのだ。
「もう直ぐ迎えもくる筈だから…」その言葉を聞いた瞬間、身体が震えてきた。
「どういうこと?」怒りが混み上がり震える声で言ったのだが、二人は無視して続けて話し始める。僕が一番恐れていた事。(まさか……)と思っていた矢先に突然玄関のチャイムが鳴り出したので僕は思わず身構えてしまった。しかし、叔母さんと叔父さんは平然としており叔母さんが玄関の扉を開く。するとそこには見るからに柄の悪そうな男が数人立っていたのである。

「ああ、やっと来ましたか」と言う二人に対して、男達は無言のまま家の中に入るなりこちらに近寄ってきた。そして僕を取り囲んでいくのである。(怖い)と思っていると一人の男が僕の腕を掴むとそのまま強引に引っ張っていった。僕は抵抗したが無駄であった。そのまま外に連れ出された時、叔父さん達が手を振っている姿が見えたが僕はそれどころではなかったのだ。
「やだ、離してッ!」と叫ぶが誰も聞いていないようだ。ソラは絶望した。(こんな事って…⁉)
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