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一章
2
しおりを挟むその後もやつの嫌がらせは続いた。
備品を隠したり、集合場所を急に変更したりと子供より質の悪い嫌がらせをしてきた。
「何なんだよ! せっかくまとまっていたのに、やつのせいで皆、動揺してる」
「昨日は晴れているのに、訓練所の地面に水を撒いてドロドロにしてたぜ? 意味わからん!」
バン! と食堂のテーブルを叩いてイライラする騎士が増えた。そんなことをして何が楽しいのだろう?
「おれ、他の上官に話をしてきます!」
イライラの限界が来たのか、新人騎士はガタン! と椅子から立ち上がって訴えに行く勢いだった。
「まて」
俺は新人騎士の肩を掴んでとめた。
「えっ? ケーンさんに一番ひどく嫌がらせをしてくるじゃないですか! なぜとめる!?」
俺は顔を左右に振った。
「ああいうやつは他の上官に言ったら、よけい逆上するタイプだ。それに他の上官は見て見ぬふりをするかもしれない。もう少し我慢して、やつの真意を知ってからそれなりの礼をしたい」
ああいうやつには、服従しない・逆らわないのがいい。そして弱い所を探し出していく。
新人騎士はポカンと口を開けたまま、俺を見た。周りの騎士達も動きが止まっていた。
「そうだな、ケーン。もう少し我慢して、盛大な礼をしてやろうじゃないか」
先輩騎士さん達は、悪い顔をして俺に話しかけてきた。皆も一斉にニヤリと悪い顔を浮かべた。
「賛成。どんなお礼をしてやろうか、楽しみだな」
「盛大に、礼をしてやろうぜ? なあ?」
次々と皆がいい悪い顔になった。団結力を増した気がする。
食堂全体が活気に溢れた。食堂のおばさ、……お姉さま達も拍手をし応援してくれている。いつもより皆へ大盛りにしてくれた。
この食堂は俺達しか利用してないので言いたい放題だ。この間は無理やり結界を外して、ここへ来たらしい。なので、勝手に入らないように俺が結界を内側に張りなおしてやった。ついでに声が漏れないようにもした。
「俺、やつの事を探るわ」
気配を断つのを得意な先輩騎士が名乗り出た。頼もしい。
「んじゃ俺は、他の上官に探りを入れてみる」
俺も俺も……と、それぞれ得意な分野のある騎士達が動き出した。
「ありがとう御座います。危険のないようにお願いします!」
俺は皆にお願いをした。
まず。なぜ侯爵家の者がここへ来たのか……? その辺から探ってみてもいいな。
俺はそんなことを考えて、肉団子が入ったスープを平らげた。
ピィィーッ! ピィィーッ!
「!」
魔物の襲撃を知らせる笛がなった。食堂に緊張が走った。
「皆、準備をしろ!」
ガルシアの代わりに隊をまとめることになった、レガシーという先輩騎士が皆に呼びかけた。
バタバタと食堂から、走って慌ただしく動いた。俺も皆に続いて行った。
「小物だといいけどな」
できれば数が少ないほどいい。断末魔は聞いて気分のいいものじゃない。
走って城の高い見張りの塔に登ると、魔物が見えた。
「なんて、でかい魔物だ……!?」
森の大きな木より数倍も大きな魔物がこちらに向かって来ている。やばい。あんなのがここまで来たら、街など壊滅する。
あれは……、トロルか!? でも大きい。
望遠鏡でそいつを見ると様子がおかしい。フーフーと息を荒くして、目の前の者をなぎ倒しながら進んでいる。いったい何があった?
「クロスボウ隊! 討て!」
下を見るとクロスボウ隊の騎士達が、トロルに届く距離まで進んで弓矢を撃っていた。撃っては下がり、次々撃ちこむ。
だが、体中矢で撃たれても歩みを止めなかった。
「なぜだっ!?」
以前にもこのトロルよりは小さいものが現れたことはあったが、クロスボウの攻撃で足止めをできた。このトロルは歩みを止めるばかりか、よけい興奮し、手当り次第周りの者を薙ぎ払っていた。
なぜだ。俺はトロルの頭から足元までを望遠鏡で観察した。
「あれは?」
トロルのかかと部分に、斧が刺さっていた。かなり深く刺さっており、いくら鈍いトロルだって激痛だろう。もしかすると、何か薬でも塗られているような興奮状態だ。
「なんのために? 誰が?」
故意にだとしたら、誰が?
俺はまとめ役のレガシーの元へ走った。
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