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一章
悪夢 3
しおりを挟む「上官の命令には絶対だ!」
時間になって訓練所に行くと、さっき威張っていたカイギス上官がいた。手あたり次第に近くに居た騎士へ怒鳴り散らしていた。
「おい、ガルシアはどこにいるんだ?」
隣で呆れた顔をしていた騎士に聞いた。
「それがさ……。ガルシアは突然命令が下って、朝早く遠征に行っちまったんだよ」
遠征に?
「まいったよな」
教えてくれた騎士も新しく来た上官に好感が持てないようだ。……だろうな。
ここは実力ある者が生き残れる所だ。やつはどうなのだろう? 上官が無能だと下に着く者が痛い目にあう。下手すれば全滅という、最悪の事態になった他の隊の話を聞いたことがある。それだけは避けたい。
「おい、そこの! ケーンとかいうやつ!」
二人で話していたのを見つかってしまった。俺が呼ばれてる。
「はい!」
とりあえず返事をしてカイギス上官の方を見た。目が合ったとたん、にたぁ……と嫌な笑い方をした。
「そこの二人、模擬戦をしろ」
カイギス上官はいきなり俺達に、たまたま話をしていた者同士に戦うように命令してきた。
「ええっ!? 俺とケーンさんでは、力が違いすぎます!」
隣にいた騎士はカイギス上官に言った。
「はっ? 何を言っている? 戦場では、相手が強かろうが弱かろうか戦わなければならない! 甘えるな!」
カイギス上官は鼻で笑いながら騎士に言った。
俺達は唖然とした。この騎士は、まだ騎士団に入ったばかりの新人だったはず。いきなり戦場に行かせないし、もっと訓練させてから徐々に体験させていく。そんなこともわからないのか?
「つべこべ言わず、さっさと始めろ!」
相手は公爵家の者。逆らえない。皆も言いたいことを我慢している。
「仕方が無い。やるぞ」
俺は新人騎士に言った。
「は、はい」
無理もない。震えている。まだ剣も手にしっくりとしてない時期なのに、本物で模擬戦をやれなんて。
「中央でやれ!」
見世物にする気か? ニヤニヤと笑っている。
「俺は本気でやらないから、適当に合わせてこい」
「はい」
ガチガチに緊張している新人騎士を皆、見守っていた。
中央に向かい合わせになって礼をする。剣を合わせるときの儀式だ。
「始めろ!」
キン! お互いの距離を縮めて、剣と剣が交わる。かなり手加減しているが、剣を離さないだけ良い。何度か戦っているように見せて、お互いに離れた。
新人騎士はそれだけで、ハアハアと息切れしていた。
「カイギス上官! もういいでしょう!」
これ以上は新人騎士の体が心配だ。俺はカイギス上官に大声で伝えた。
カイギス上官は、ちっ! と舌打ちをして俺達に言った。
「じゃあお前。最後にもう一度、やつに向かって行け」
新人騎士に、カイギス上官は言った。新人はホッとして、俺に向かってきた。軽く剣を交えて終わり……と思った。
「!?」
突然、顔に砂が降ってきた。避ける暇なく目に入ってしまった。
「うっ!」
「えっ!?」
新人騎士の戸惑った声が聞こえた。俺に向かってきた新人騎士の剣は、顔の側に振り落とされた。
砂が目の中に入り、目をつぶってしまった。
「あぶない!」
見ていた他の騎士の叫ぶ声が聞こえて、とっさに横へと避けた。顔の横をヒュン! と横切っていった。
「も、申し訳ありません!」
真っ青な顔をした新人騎士がすぐに謝ってきた。俺は目に砂が入っていて開けられなかった。
「目に砂が入った。目を洗いに行きたい」
「は、はいっ! お連れします!」
細かい砂がゴロゴロ入り、擦らない方が良いと思った。新人騎士に肩を借りて、水飲み場に連れて行ってもらった。
綺麗な水で目を洗い、何とかまぶたを開けられるようになった。
「ふ――っ。痛かった。何で急に砂が……」
ざぶざぶと顔も洗った。
「あの……。俺、見えました。カイギス上官が、ケーンさんに向かって砂をかけたところ」
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