私達は結婚したのでもう手遅れです!

椿蛍

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番外編

必要な重し【仙崎】

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「仙崎さんってどんな生活をしているか、さっぱり見当もつかないな」

そう言ったのは竜江。
冬悟さんの護衛で温泉に来たが、過保護すぎたかもしれないと今となっては反省している。
竜江まで来たとなるとただのお邪魔虫になってしまった。

「規則正しい生活だ」

竜江はビール飲みながら、ふーんとさして興味もなさそうな声。
窓を開けて川の音を聴きながら、酒を飲む男二人。
残念だが、冬悟さん達と違って、ただのむさくるしいだけの空間だ。

「まだ仕事中かなぁ~」

竜江はちぇっとスマホの画面を眺めて投げ捨てた。

「お前がそんな一途な男だったとは知らなかった」

「俺、めちゃめちゃ一途よ?」

竜江はサキイカを口に放り込み、新しいビールの缶を開けた。
冬悟さんがいないと竜江は気ままな猫のようになる。
性分は猫だ。
それも野良猫のような懐かない猫だった。
昔は。
竜江はもともと嶋倉組に自分から入ったわけじゃなかた。
冬悟さんがゴミ捨て場で血まみれになっているのを拾ってきた。
それこそ、気軽に猫を拾うような感覚で。
調べるように言われ、調べたが、竜江の家は地元では名士と呼ばれるような家柄だということが判明した。
反発するかのように家を飛び出していたらしいが、とうとう家からも見放され、本当に野良猫のような生活を送るようになったところを冬悟さんが見つけた。
嶋倉でも反発していたが、冬悟さんのあの性格だ……

『従わない奴は叩き潰す』

カリスマ的(?)な統率力を誇る冬悟さんはさすがだった。
あっというまに竜江を躾けてしまったのだからな。
野良猫も冬悟さんにかかれば、ただの子猫。
本当に恐ろしい人だ。

「今頃、二人はラブラブか。俺は仙崎さんと酒を飲むしかないってのに」

「お前も女と旅行すればよかっただろう」

「できたらそうしてたっつーの!」

どうやら、断られたらしい。
しかし、珍しいこともあるものだ。
なにに対しても執着しない男だったはずが。
竜江は女遊びも博打もケンカも、なにをやらせても平均以上にできる。
器用な男で頭の回転も速い。
だが、とらえどころのないふわふわとしたクラゲみたいな男だ。
いや、もうそれも過去の話だ。
そんなクラゲは今では―――

「スマホが鳴った!」

缶ビールを置いて、さっき投げ捨てたスマホの場所まで走っていくと畳の上をズサッと滑り込んでキャッチした。

「ぐあっ!ただの勧誘メールかよ!許さねぇ!これ送った奴、潰す!」

むしろ、今では犬。
そして、勧誘メールに八つ当たりをするな。
冬悟さんは竜江が誰と付き合っているかまだ気づいていない。
というより、そこまで興味がないのだろう(竜江には悪いが、そういうことだ)

「仙崎さんはいいっすよね。どっしり構えていて、俺みたいに女に遊ばれないんだ……」

「いや。いつも翻弄されている」

「嘘だろ!?」

はぁっと竜江はスマホを抱きしめて畳の上に転がっている。
そんな竜江の姿を見る日がこようとは。
まるで父親の気持ちでその竜江の姿を眺めた。

「竜江。お前には重しがいると思っていた」

「え?重し?漬け物石みたいなやつ?」

「ふわふわしていて、どこに行くかわからない奴だったが、今は違う」

「……まあ、そうですね」

いつか嶋倉の家を出ていくだろうと俺も冬悟さんも思っていた。
止める気はなかった。
そういう男だろうと思っていたからだ。
きっと竜江自身も長くとどまるつもりはなかっただろう。

「でも、あいつは守る奴だから、俺もそれを助けたいと思ってるんですよね」

「……そうか」

竜江が付き合っているのは長い歴史を持つ和菓子屋『柳屋』の娘、柳屋百花。
羽花さんと違ってきつめの美人で、年が若いというのに今時珍しい堅実でしっかりした女性だった。
そんな彼女の夢は歴史ある『柳屋』を守っていくということらしく、それを竜江は助けたいと思っているようだった。

「いいことだ」

悔しそうな顔をしていたが、何も言い返さない。
自分でもわかっているようだった。
まっとうに生きるためには重しが必要なことくらいは。
彼女の働く姿を見て学んだのだろう。
成長した―――

「仙崎さんは何もかもお見通しってわけですか。敵わないな」

冬悟さんの左右に並ぶ俺と竜江。

「敵わないこともない。冬悟さんは竜江といる時は楽しそうだ」

冷酒を口にした。
ヤクザだと言われ、友達がいなかった冬悟さんにとって竜江は年の近い友人のようなものだ。

「それぞれ役目がありますか」

「お前が俺にはなれないようにな。俺もお前にはなれない」

竜江はですねぇと笑ってみせた。

「ほら、飲め」

「仙崎さんはザルですからね。同じペースで飲んだら、俺、死にますよ」

「健康には気を付けている。あいつを残して死ぬわけにはいかないからな」

「へぇー。そんないい人が仙崎さんにもいるんだな」

スマホを手に竜江は椅子に座りなおした。

「興味あるか」

「え?教えてくれるんっすか?」

隠しているわけではない。
俺はお前と違ってオープンにしたい。
むしろ、独占したい。
そう思っている。
スマホをスッと差し出して、待ち受け画面を見せようとした瞬間、竜江のスマホが鳴った。

「うわ!きたー。百花、何してたんだよー!」

嬉々として竜江は恋人に電話をかける。
向こうはメッセージなのに電話をかけるあたりが竜江(犬)だ。

「おい、竜江……」

「うんうん。今さぁ、温泉で!お土産なにがいい?次は絶対に一緒に行こうな?」

俺のいい人の話はすっかり忘れてしまったようで、見向きもしない。
やれやれとため息をつきながら、自分のスマホを片付けた。
俺が俺の『いい人』を自慢できるのはいつになることだろう。
まあ、誰も興味はないか……
ほんの少しだけ落胆したことはいうまでもない―――
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