私達は結婚したのでもう手遅れです!

椿蛍

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番外編

流行り?【冬悟】

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最近よく同じ雑誌を目にすることが多い。
昼休み、竜江が真剣に読んでいる雑誌。
羽花がそっと机に隠し持っている雑誌。
『柳屋』のレジ横に置いてある雑誌。
全部同じ雑誌に見えるんだが。
あれはなんだ?
流行か?

「仙崎。調べろ」

「構いませんが。ただの雑誌では?」

「羽花に悪影響なものだったらどうする」

「冬悟さんがそれを言うんですか」

「なにか言ったか?」

「いいえ」

一冊、参考までに仙崎が購入し、俺に渡した。
普通の週刊誌だな。
芸能人や政治家のゴシップネタ。
内容としてはありがちだが。

「これは興味深いな」

「気になる記事でも?」

「矢郷組と繋がりのある政治家のスキャンダルだ。矢郷組と敵対しているどこかの組が週刊誌にネタを売ったか」

「しばらくは矢郷も動けませんね」

「いいことだ」

だが、あの食えない矢郷のジジイのことだ。
キッチリやり返すだろうということはわかっている。

「きな臭いな」

「そうですね。もしかすると、他の組ではなく、飼い犬では?」

「矢郷の分家か」

「組長の孫の失態を耳にしているでしょうからね」

仙崎が言う通り、特に礼華が勝手に組員に指示し、誘拐した件が矢郷組の中で問題になっているはずだ。
矢郷と不仲の嶋倉が殴り込みにきて、やられたまま、黙っていていいのか―――まあ、そんなところか。
次の組長が誰になるかでモメていることは容易に想像できた。

「跡目争いか」

せいぜい頑張れよとしか言えないが、近いうちにたまたま奇遇にも矢郷の家の近くを通りかかるかもしれないな。
それで、あの玄馬バカに会ったとしてもただの偶然にすぎない。

「竜江はこの記事を気にして購入していたのかもしれませんね」

仙崎はなるほどとうなずいたが俺はそう思わない。
毎号、見かけているのだから、なにか興味をひくものがあるはずだ。
雑誌のページをめくった。    

「料理ページか」

よくみるとこの間、羽花が作ってくれた夏野菜の揚げ浸しが載っていた。
もしかして、羽花は料理ページに興味が?

『食欲のない人におすすめの料理』
『疲れていてもさっぱりと食べれる!』

そんな煽り文句だった。

「なあ。仙崎」

「なんでしょう」

「俺が疲れているように見えるか?」

「いえ、元気が有り余っているようにみえます」

「有り余ってはいねえよ」

「失礼しました」

どうせ作るなら、こっちだろ!

『愛する人へのメッセージ』
『ハートがかわいいお弁当のおかず特集』

これは問題だ。
夫婦仲に亀裂がはいるほどに、だ。
俺はまだハート型の卵焼きや型抜きしたハムを目にしていない!

「どういうことだ」

「矢郷のことですか」

「矢郷はどうでもいい」

矢郷より問題はハート型のおかずについてだ。

「はあ」

仙崎は首をかしげていた。
首をかしげたいのはこっちのほうだ。
料理ページはついでということだろう。
きっと他に興味があるコーナーがあるに違いない。

「ん?相談コーナー?」

相談者A.Tさん『彼女のことが好きで、つい高級ホテルや高い贈り物をしてしまいます。けれど、その気持ちが重いと言われました。俺は彼女に尽くしているつもりなのですが、どうすれば俺の気持ちは伝わりますか?』

これは興味深い。
食い入るようにみてしまった。

武士もののふの母『確かに女性は贈り物を喜ぶ傾向があります。それは悪いことではありません。ですが、高価なプレゼントを申し訳ないと思う女性がいるのも事実。彼女の負担にならないような好意の示し方をしてみてはどうでしょうか』

負担―――思い当たることが多すぎた。
だから羽花はハート型をいれてこないのかもしれない。
愛情表現がこれ以上、重くならないようにと羽花が思っていたら?
しかし、好意を示すとは……?
負担にならないさりげない好意の示し方ってなんだ。
そんな中途半端な好意があるものなのか?
思い浮かばなかった。

「相談コーナーなんか読むか。もう雑誌の件はどうでもいい」

結論―――ただの普通の週刊誌だった。

「そうですか」

仙崎は俺が放り投げた雑誌をキャッチした。
ようするに俺は俺のやりたいようにやれってことだな。
雑誌をぱらぱらと仙崎が真面目に読んでいた。
俺が調べろと言ったせいなんだが、時間を無駄にしたような気がしてならない。

「冬悟さん。すみません。お待たせしてしまって。会議資料をいただいてきましたっ!」

会議資料を手にした羽花が社長室に入ってきた。
羽花は手際よく会議資料を俺と仙崎に渡した。

「新しいリゾートホテルの計画、素敵でした。完成が楽しみですね」

企画書を見たらしく、羽花はうきうきとした口調で言った。

「羽花は南の島が好きだな」

羽花が新婚旅行に選んだのも南の島だった。
夏にまとまった休みがとれる。
その夏の休暇時にチャペルでの結婚式と新婚旅行をまとめてやるつもりだった。

「このリゾートホテルが完成したら、一緒に泊まりに行こう」

「こんな立派なホテルに!?あ、あの、おねだりのつもりで言ったんじゃないんです」

武士の母の言葉が頭によみがえる。
『高価なプレゼントを申し訳ないと思う女性がいるのも事実。彼女の気持ちの負担にならないような好意の示し方をしてみては―――』
うるせえよ。
頭の中の言葉を打ち消した。

「羽花は俺と旅行は嫌か?」

「嫌じゃないです」

「じゃあ、決まりだな」

「はい」

照れたように羽花はうつむいた。
羽花は今日も可愛い。
俺に武士の母の答えはいらない。
ふっと笑って、髪に口づけると羽花がよけいに顔を赤くした。

「冬悟さん、お弁当食べましょうか!」

「ああ」

いや、ひとつだけ悩みがあったな。
ハート型がないということ。
弁当箱を見て思い出してしまった。

「今日はちょっと頑張ったんですよ」

羽花は嬉しそうな顔で弁当箱の蓋を開けた。
蓋開けたそこにはハート型の卵焼きがあった。

「ハート……」

『愛する人へのメッセージ』という言葉が思い浮かんだ。

「だ、だめでした?あの、たまにはこういうのいいかなって思って」

「いや。いい」

「そうですか。よかった」

「これは羽花が食べさせてくれるんだろう?」

かぁっーと羽花は茹でダコみたいに顔を赤くした。

「あーんってやるんですか?」

「だめか?」

「いえっ!僭越ながら、やらせていただきますっ!」

恭しく羽花は言った。
俺はスッと箸を差し出す。
もちろん断られるとは思っていなかった。
なにしろ、ハートは愛する人へのメッセージらしいからな。
これくらいは許されるはずだ。
ハート型の卵焼きを見て笑みを浮かべたのだった。
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