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本編
13 決意
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仕事を終えてマンションに帰ってきた私と冬悟さんは不自然なまでに礼華さんのことについて触れなかった。
私から『婚約者がいらっしゃるんですよね?』と確認するべきなのはわかっている。
お弁当箱を片付けて戻ると冬悟さんがスーツの上着を脱いでいた。
それだけなのにドキドキしている自分。
きっと礼華さんならこれくらいなんでもないことなんだろうな。
自分を見ていることに気づいた冬悟さんが私を見て、にこりと微笑んだ。
「お弁当ごちそうさまでした。羽花さんは料理上手ですね」
「そうですか?よかった……また作りますね」
ほっとしている自分と『また』があるのかなと思う自分がいた。
「着替えてきますね」
クローゼットルームに行って、自分がここにきた時と同じ着物を手にして着替えた。
一度、家に帰ろう。
そして、冷静になってから付き合うかどうか考え直そう。
そう思って、着替えてくると冬悟さんは驚いた顔をしていた。
「守っていただき、ありがとうございました。私、家に帰ろうと思うんです」
「理由は?」
頭に響く低い声。
冬悟さんの目をまっすぐに見れずにうつむいた。
「冬悟さんに礼華さんという婚約者がいたことや大きな会社の社長だってことも知らずに私一人が浮かれていて、きちんと考えていなかったなって反省しました」
借金のこと、店のこと、父と妹のことをすっかり忘れてお姫様気分だったことへの反省。
どうして自分はこうなんだろう。
守ってくれると言われて、図々しくそれに甘えた。
そこにあったのは自分とはまったく住む世界が違う現実だった。
「戻ったら、ヤクザの方が来るかもしれません。けど、私からきちんとお話ししてお断りします。それから、借りた三千万円は時間がかかるかもしれませんが、お返しさせていただきます」
深々と頭を下げた。
これでいい。
憧れの人だった冬悟さんだけど、私には雲の上のような人だってわかった。
「俺と別れるということか?」
いつもの雰囲気と違うことに気づいて顔をあげた。
冬悟さんはメガネをはずし、テーブルの上に置く。
目が鋭く威圧感があり、有無を言わせない強さがあった。
「羽花の俺への気持ちはその程度ってことか」
皮肉な笑み。
こんな顔をするんだと驚いて目を大きく見開いていると冬悟さんがすっと白い紙切れを取り出した。
「三千万円は払ってもらう。これは誓約書がわりだ」
「は、はい。分割払いでしょうか」
「そうだな。支払いやすいようにしておいた」
サインと判子がいるらしく、うなずいてサインと判を押した。
「こちらの誓約書にも」
「はい」
同意しますかという文字が見え、サインと判を押した。
「これで契約成立だな」
「それじゃあ―――」
「よろしく。奥さん」
にこっと笑った冬悟さんの顔はとてつもなく悪い顔をしていた。
「えっ!?お、奥さん?」
とんとんっと指でテーブルを叩かれて、その二枚の紙に視線をおとした。
「婚姻届っ!?えっ?」
近くで見ようと手を伸ばした瞬間、それをさっと奪われてしまった。
そして、冬悟さんはすかさず自分の胸ポケットに差し込む。
残り一枚は誓約書だった。
『私、柳屋羽花は三千万円の支払いの代償として嶋倉冬悟と結婚します。以上に同意しますか』
『同意します。柳屋羽花』
そして、判をバッチリ押してあった。
「これで逃げられないな。逃がすつもりはなかったが」
冬悟さんはネクタイとシャツのボタンをはずす。
「正直、かたっくるしいのは好きじゃない」
「私を騙したんですかっ?」
「騙した?人聞きが悪い。三千万円の借金がある女を妻にして、店を救った上にいい暮らしをさせてやる。これのどこが悪いことだ?」
「そ、それは」
「俺にメリットはあるか?」
ありません―――と言いかけて口をつぐんだ。
あまりに自分が情けなさ過ぎて言えなかった。
目の前にいるのは嶋倉建設社長で胸が大きい(こだわる)婚約者がいて、高級マンションで暮らすなに不自由ない男。
それに比べ、私は三千万円の借金を抱え、ヤクザの男につきまとわれている上に幼児体型で貧乳の女。
圧倒的な差がそこにはあった。
「で、でも、これって詐欺ですよね?」
「なぜ?誓約書を包み隠さず、提示していたはずだ。読んでいたくせに言いがかりか?」
冬悟さんを信用していたから、しっかり読んでなかった。
それに婚姻届をだしてくるなんて誰も思わない。
「その着物を脱げ。気分が悪い」
「は?」
「着物。着替えてこい。『柳屋』には帰さない。お前は俺のものだ」
神様、仏様―――確かに私は冬悟さんと距離が近くなりたいと思っていました。
本当のあなたをしりたいなんて乙女なことももちろん考えてました。
でも、あまりにもあの王子様みたいな顔と違いすぎて言葉もなかった。
「従わないなら脱がす」
「それだけはやめてくださいっ!」
あの紳士な冬悟さんはどこへ行っちゃったのっ!?
「どんな俺でも好きだって言わなかったか?」
「いいましたけど」
ふっと冬悟さんは冷たい目で私を見て声音を変えた。
「こちらのほうが好みだというなら、演じてあげてもいいですよ?羽花さん?」
全然違う。
でも、どれも冬悟さんってことは―――私はピンときた!
「わかりました!」
「わかったってなにが?」
「もしかして冬悟さんって二重人格者なんですか?」
「誰が二重人格者だ」
あ、あれー!?
違うの?
ちょこんとソファーの上に正座した。
説明を待ちましょう。
そう思っていた。
けど、冬悟さんから言われた言葉は説明じゃなくて―――
「せっかく結婚したんだ。夫婦らしいことしておくか?」
そんなとんでもない提案だった。
私から『婚約者がいらっしゃるんですよね?』と確認するべきなのはわかっている。
お弁当箱を片付けて戻ると冬悟さんがスーツの上着を脱いでいた。
それだけなのにドキドキしている自分。
きっと礼華さんならこれくらいなんでもないことなんだろうな。
自分を見ていることに気づいた冬悟さんが私を見て、にこりと微笑んだ。
「お弁当ごちそうさまでした。羽花さんは料理上手ですね」
「そうですか?よかった……また作りますね」
ほっとしている自分と『また』があるのかなと思う自分がいた。
「着替えてきますね」
クローゼットルームに行って、自分がここにきた時と同じ着物を手にして着替えた。
一度、家に帰ろう。
そして、冷静になってから付き合うかどうか考え直そう。
そう思って、着替えてくると冬悟さんは驚いた顔をしていた。
「守っていただき、ありがとうございました。私、家に帰ろうと思うんです」
「理由は?」
頭に響く低い声。
冬悟さんの目をまっすぐに見れずにうつむいた。
「冬悟さんに礼華さんという婚約者がいたことや大きな会社の社長だってことも知らずに私一人が浮かれていて、きちんと考えていなかったなって反省しました」
借金のこと、店のこと、父と妹のことをすっかり忘れてお姫様気分だったことへの反省。
どうして自分はこうなんだろう。
守ってくれると言われて、図々しくそれに甘えた。
そこにあったのは自分とはまったく住む世界が違う現実だった。
「戻ったら、ヤクザの方が来るかもしれません。けど、私からきちんとお話ししてお断りします。それから、借りた三千万円は時間がかかるかもしれませんが、お返しさせていただきます」
深々と頭を下げた。
これでいい。
憧れの人だった冬悟さんだけど、私には雲の上のような人だってわかった。
「俺と別れるということか?」
いつもの雰囲気と違うことに気づいて顔をあげた。
冬悟さんはメガネをはずし、テーブルの上に置く。
目が鋭く威圧感があり、有無を言わせない強さがあった。
「羽花の俺への気持ちはその程度ってことか」
皮肉な笑み。
こんな顔をするんだと驚いて目を大きく見開いていると冬悟さんがすっと白い紙切れを取り出した。
「三千万円は払ってもらう。これは誓約書がわりだ」
「は、はい。分割払いでしょうか」
「そうだな。支払いやすいようにしておいた」
サインと判子がいるらしく、うなずいてサインと判を押した。
「こちらの誓約書にも」
「はい」
同意しますかという文字が見え、サインと判を押した。
「これで契約成立だな」
「それじゃあ―――」
「よろしく。奥さん」
にこっと笑った冬悟さんの顔はとてつもなく悪い顔をしていた。
「えっ!?お、奥さん?」
とんとんっと指でテーブルを叩かれて、その二枚の紙に視線をおとした。
「婚姻届っ!?えっ?」
近くで見ようと手を伸ばした瞬間、それをさっと奪われてしまった。
そして、冬悟さんはすかさず自分の胸ポケットに差し込む。
残り一枚は誓約書だった。
『私、柳屋羽花は三千万円の支払いの代償として嶋倉冬悟と結婚します。以上に同意しますか』
『同意します。柳屋羽花』
そして、判をバッチリ押してあった。
「これで逃げられないな。逃がすつもりはなかったが」
冬悟さんはネクタイとシャツのボタンをはずす。
「正直、かたっくるしいのは好きじゃない」
「私を騙したんですかっ?」
「騙した?人聞きが悪い。三千万円の借金がある女を妻にして、店を救った上にいい暮らしをさせてやる。これのどこが悪いことだ?」
「そ、それは」
「俺にメリットはあるか?」
ありません―――と言いかけて口をつぐんだ。
あまりに自分が情けなさ過ぎて言えなかった。
目の前にいるのは嶋倉建設社長で胸が大きい(こだわる)婚約者がいて、高級マンションで暮らすなに不自由ない男。
それに比べ、私は三千万円の借金を抱え、ヤクザの男につきまとわれている上に幼児体型で貧乳の女。
圧倒的な差がそこにはあった。
「で、でも、これって詐欺ですよね?」
「なぜ?誓約書を包み隠さず、提示していたはずだ。読んでいたくせに言いがかりか?」
冬悟さんを信用していたから、しっかり読んでなかった。
それに婚姻届をだしてくるなんて誰も思わない。
「その着物を脱げ。気分が悪い」
「は?」
「着物。着替えてこい。『柳屋』には帰さない。お前は俺のものだ」
神様、仏様―――確かに私は冬悟さんと距離が近くなりたいと思っていました。
本当のあなたをしりたいなんて乙女なことももちろん考えてました。
でも、あまりにもあの王子様みたいな顔と違いすぎて言葉もなかった。
「従わないなら脱がす」
「それだけはやめてくださいっ!」
あの紳士な冬悟さんはどこへ行っちゃったのっ!?
「どんな俺でも好きだって言わなかったか?」
「いいましたけど」
ふっと冬悟さんは冷たい目で私を見て声音を変えた。
「こちらのほうが好みだというなら、演じてあげてもいいですよ?羽花さん?」
全然違う。
でも、どれも冬悟さんってことは―――私はピンときた!
「わかりました!」
「わかったってなにが?」
「もしかして冬悟さんって二重人格者なんですか?」
「誰が二重人格者だ」
あ、あれー!?
違うの?
ちょこんとソファーの上に正座した。
説明を待ちましょう。
そう思っていた。
けど、冬悟さんから言われた言葉は説明じゃなくて―――
「せっかく結婚したんだ。夫婦らしいことしておくか?」
そんなとんでもない提案だった。
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