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本編
6 一瞬の違和感
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あのまま、キスをされて流されてしまうかと思っていたけど、冬悟さんに限って、そんなことはなかった。
やっぱり大人だなぁ……
うっとりしながら、メガネをかけなおした冬悟さんを見つめた。
落ち着いてるし、そっと抱き起してくれるとこなんて繰り返し脳内再生してしまう。
そんな私をよそに冬悟さんは私に部屋のライトのスイッチがどこにあるのかを教えてくれた。
「食事はデリバリーメニューがここに置いてありますから、好きな物を頼んでください」
「えっ!?毎日ですか?」
「そうですよ?一階にカフェがありますから、そこで朝食をとってますね」
「は、はあ」
「今日は蕎麦を頼みましょうか」
冬悟さんは蕎麦屋のメニューを手にしていた。
そして、夕飯は引っ越しそばの出前を頼んでくれて、私がここにきたお祝いに甘い柚子のお酒を用意してくれた。
小さなガラスの青いワイングラスにその柚子酒をそそぎ、乾杯する。
出前はすごく豪華で天ぷらの盛り合わせ、鴨肉のハム、茶わん蒸し、巻きずしといなりずしとデザートは黄粉たっぷりのわらび餅。
和食のフルコースのような出前が届いて驚いたことは言うまでもない。
もうこれはそば屋の出前じゃなくて料亭だよー!
それに加えて、ダイニングのテーブルはつややかな黒のテーブルと同色のチェア、席にはシンプルな黒のクッション。
ホテルの和食レストラン並みにおしゃれだった。
はー……これが、お金持ちのセンスですか。
もぐっと一口食べた茶わん蒸しはかつおと昆布の出汁が口の中に広がり、ただものじゃない出汁の味がした。
これはもうプロの味。
定食屋レベルの腕じゃない。
「冬悟さん。お蕎麦、おいしいですね」
「そうですか?いつでも注文できますよ。また頼みましょうか」
「は、はいっ!あ、でも、時々でいいです」
「そうですか?」
「そのっ!こんな素敵なお食事には足元にも及びませんけど、私の作った料理を冬悟さんに食べてもらいたいなって思って」
「それは楽しみですね」
冬悟さんは微笑んだ。
なんだか恋人同士みたいって―――恋人同士だった。
「冬悟さんは王子様みたいですね」
「王子様……」
驚いた顔をしていたけど、褒めてるからいいよね?
気を悪くするようなことじゃないし。
そう思って、にこにこと微笑んでいると冬悟さんは指をメガネに触れさせて、柔らかく微笑んだ。
「羽花さんが私を好きになってくれるのであれば、王子にだってなりますよ」
「たっ、たとえですっ!どんな冬悟さんでも素敵です」
「どんな私でも?」
「はいっ!」
力いっぱい返事をした。
「それはよかった」
幻滅されるのは私のほうって、私に理想もないよね……
自分と冬悟さんの差を考えて遠い目をした。
「冬悟さん。私のどこがよかったのか、さっぱりわからなくて。その……聞いてもいいですか?」
冬悟さんは別人のような優しい表情を浮かべた。
それは今まで見せてきた顔とは少し違っていて、緊張感がないというか、穏やかな目をしていた。
そのせいか、私の心臓はいつものドーンッとくるような衝撃じゃなくて、胸が苦しくなるようなせつない気持ちがわいてきて冬悟さんを抱きしめたくなってしまった。
「優しいところです」
柔らかい表情をして笑みを浮かべていた。
「あ、ありがとうございます」
「羽花さんはどうかそのままでいてください」
「はい……」
私はこれ以上、なにも取り繕えないからそのままでいるけど、冬悟さんは?
本当の冬悟さんはどんな姿をしているのだろう。
冬悟さんが隠そうと思えば、簡単に本当の姿を隠してしまえそうな気がする。
「羽花さんにお願いがあります」
「なんでしょうか!」
お任せくださいっとばかりに身を乗り出した。
「結婚を前提に付き合ってもらえませんか?」
「けっ、けっ、結婚……」
それって教会で鐘がなっちゃうアレですよね?
冬悟さんはすごく真面目な人なのかもしれない。
付き合うイコール結婚。
そんな考えをお持ちだったとは……!
手を出したからには責任をとるタイプなのかも。
まだ出されてもないけど。
「でも、一緒に暮らしているうちに私にがっかりするかもしれません」
「そんなことはないですよ。ずっと心待ちにしていましたから」
「ずっと……」
そこまで私のことを好きでいてくれる人なんて、この先現れるだろうか。
付き合った男性は今までゼロな私。
冬悟さんに素敵な人が現れるほうが確率は高いのに結婚を前提にお付き合いしてもらえるなんて……
やっぱり冬悟さんは王子様だよっー!
ぐるぐるとそばの麺つゆを箸でかき混ぜながら、心の中は輪になって踊っていた。
つまり、浮かれてどうしようもない状態。
「も、もちろん。私はいいに決まってます!」
どんとこいですよ!
むしろ、ウェルカム!
「そうですか。安心しました」
安心するのはこっちですっー!
踊るだけじゃなくて、トランペットやアコーディオンを演奏し始めるレベルのどんちゃん騒ぎ。
カーニバルですよっ、カーニバル。
「ありがとうございます」
お礼まで言ってしまうレベル。
恋人になれただけでも嬉しいのに結婚まで考えてくれているなんて思ってもみなかった。
私が感じた冬悟さんへのほんの少しの違和感。
それは今の私に考える余裕なんて少しもなかったのだった。
やっぱり大人だなぁ……
うっとりしながら、メガネをかけなおした冬悟さんを見つめた。
落ち着いてるし、そっと抱き起してくれるとこなんて繰り返し脳内再生してしまう。
そんな私をよそに冬悟さんは私に部屋のライトのスイッチがどこにあるのかを教えてくれた。
「食事はデリバリーメニューがここに置いてありますから、好きな物を頼んでください」
「えっ!?毎日ですか?」
「そうですよ?一階にカフェがありますから、そこで朝食をとってますね」
「は、はあ」
「今日は蕎麦を頼みましょうか」
冬悟さんは蕎麦屋のメニューを手にしていた。
そして、夕飯は引っ越しそばの出前を頼んでくれて、私がここにきたお祝いに甘い柚子のお酒を用意してくれた。
小さなガラスの青いワイングラスにその柚子酒をそそぎ、乾杯する。
出前はすごく豪華で天ぷらの盛り合わせ、鴨肉のハム、茶わん蒸し、巻きずしといなりずしとデザートは黄粉たっぷりのわらび餅。
和食のフルコースのような出前が届いて驚いたことは言うまでもない。
もうこれはそば屋の出前じゃなくて料亭だよー!
それに加えて、ダイニングのテーブルはつややかな黒のテーブルと同色のチェア、席にはシンプルな黒のクッション。
ホテルの和食レストラン並みにおしゃれだった。
はー……これが、お金持ちのセンスですか。
もぐっと一口食べた茶わん蒸しはかつおと昆布の出汁が口の中に広がり、ただものじゃない出汁の味がした。
これはもうプロの味。
定食屋レベルの腕じゃない。
「冬悟さん。お蕎麦、おいしいですね」
「そうですか?いつでも注文できますよ。また頼みましょうか」
「は、はいっ!あ、でも、時々でいいです」
「そうですか?」
「そのっ!こんな素敵なお食事には足元にも及びませんけど、私の作った料理を冬悟さんに食べてもらいたいなって思って」
「それは楽しみですね」
冬悟さんは微笑んだ。
なんだか恋人同士みたいって―――恋人同士だった。
「冬悟さんは王子様みたいですね」
「王子様……」
驚いた顔をしていたけど、褒めてるからいいよね?
気を悪くするようなことじゃないし。
そう思って、にこにこと微笑んでいると冬悟さんは指をメガネに触れさせて、柔らかく微笑んだ。
「羽花さんが私を好きになってくれるのであれば、王子にだってなりますよ」
「たっ、たとえですっ!どんな冬悟さんでも素敵です」
「どんな私でも?」
「はいっ!」
力いっぱい返事をした。
「それはよかった」
幻滅されるのは私のほうって、私に理想もないよね……
自分と冬悟さんの差を考えて遠い目をした。
「冬悟さん。私のどこがよかったのか、さっぱりわからなくて。その……聞いてもいいですか?」
冬悟さんは別人のような優しい表情を浮かべた。
それは今まで見せてきた顔とは少し違っていて、緊張感がないというか、穏やかな目をしていた。
そのせいか、私の心臓はいつものドーンッとくるような衝撃じゃなくて、胸が苦しくなるようなせつない気持ちがわいてきて冬悟さんを抱きしめたくなってしまった。
「優しいところです」
柔らかい表情をして笑みを浮かべていた。
「あ、ありがとうございます」
「羽花さんはどうかそのままでいてください」
「はい……」
私はこれ以上、なにも取り繕えないからそのままでいるけど、冬悟さんは?
本当の冬悟さんはどんな姿をしているのだろう。
冬悟さんが隠そうと思えば、簡単に本当の姿を隠してしまえそうな気がする。
「羽花さんにお願いがあります」
「なんでしょうか!」
お任せくださいっとばかりに身を乗り出した。
「結婚を前提に付き合ってもらえませんか?」
「けっ、けっ、結婚……」
それって教会で鐘がなっちゃうアレですよね?
冬悟さんはすごく真面目な人なのかもしれない。
付き合うイコール結婚。
そんな考えをお持ちだったとは……!
手を出したからには責任をとるタイプなのかも。
まだ出されてもないけど。
「でも、一緒に暮らしているうちに私にがっかりするかもしれません」
「そんなことはないですよ。ずっと心待ちにしていましたから」
「ずっと……」
そこまで私のことを好きでいてくれる人なんて、この先現れるだろうか。
付き合った男性は今までゼロな私。
冬悟さんに素敵な人が現れるほうが確率は高いのに結婚を前提にお付き合いしてもらえるなんて……
やっぱり冬悟さんは王子様だよっー!
ぐるぐるとそばの麺つゆを箸でかき混ぜながら、心の中は輪になって踊っていた。
つまり、浮かれてどうしようもない状態。
「も、もちろん。私はいいに決まってます!」
どんとこいですよ!
むしろ、ウェルカム!
「そうですか。安心しました」
安心するのはこっちですっー!
踊るだけじゃなくて、トランペットやアコーディオンを演奏し始めるレベルのどんちゃん騒ぎ。
カーニバルですよっ、カーニバル。
「ありがとうございます」
お礼まで言ってしまうレベル。
恋人になれただけでも嬉しいのに結婚まで考えてくれているなんて思ってもみなかった。
私が感じた冬悟さんへのほんの少しの違和感。
それは今の私に考える余裕なんて少しもなかったのだった。
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