ネトゲ女子は社長の求愛を拒む

椿蛍

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番外編

甘い?新婚生活

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一緒に暮らし始めて驚いたのは多々あるけれど、自分がまさかこんな高級マンションで暮らすことになるとは思わなかった。
なにせ、生まれは小さな酒屋だからね。
酒場の娘がいきなり、王様の城で暮らすようなものだよ…。
一階のエントランスホールにはコンシェルジュや警備員がいて、映画の予約から、旅行の予約までやってくれる。
デリバリーも頼めるけど、私が頼みたいのは近所の中華屋のラーメンとか餃子なんだよね…。
この間、直真さんがいきなり、出張シェフサービスを頼み、コース料理を自宅で食べた時はなんとも言えない気持ちになった。
「美味しいけど、この経済格差が悲しいですよ、先輩」
「わかるわよ。有里ゆりさん」
うんうんと先輩は力強く頷いた。
「私もね、ここに来た時は冷蔵庫に水しか入ってなくてね…。どうしていいか、わからなかったわ」
「それはひどい」
今日は宮ノ入社長と直真なおさださんが沖重グループの本社に行って、新しい社長に仕事の引継ぎをするので、二人とも不在だった。
なので、宮ノ入の社長宅で先輩と女子会をしていた。
お隣なので、気軽に行き来ができて、楽しい。
「先輩、ローストビーフ美味しいですね。わさびソースもさっぱりしていて、好きですね」
「簡単にできるのよ。後から作り方教えるわね」
「ありがとうございます」
一応、主婦業もしているよ!
私もね、ずっとゲームばっかりしているんわけじゃないんですよ?
ちゃんと尽くすとこ尽くしてるんです。バージョンアップの日以外は。
女子会を終えて、帰宅した。
直真さんの部屋にはバーがある。
バーテンダーをしていたこともあり、カクテルを作れるらしい。
これはモテただろうなあ。
圭吾兄ちゃんも直真さんにはこうスタイルがよくて、色気がある女の人をよく連れていたっていうし。
「ふーん……」
なんとなく面白くない気分で眺めていた。
「ただいま。なに玄関先で突っ立ってるんだ」
「うわっ!おかえりなさい」
「なにを驚いているんだ?」
気配がなかったからね?
「思ったより早いなと思って」
「今から、ゲームするつもりだったろうが、一日二時間。今日はもうだめだからな」
親より厳しい。なんで、今日はもう二時間分終わったってわかるんだろう。
鬼か。この人は。
「なんか食べてきたんですか?」
「ああ、寿司」
「回らないやつですか」
「当り前だろ!?」
はぁー…贅沢ですねえ。
「なんだ。寿司のお土産欲しかったのか?」
「違いますー」
ソファーに寝転がり、クッションを抱きしめた。
クッションを取り上げられた。
「抱きしめるもの、違うだろ」
直真さんがどさりと倒れこんできた。
高そうな香水の香りがする。
すっきりとした―――なんの香りだろう。
その体を抱きしめたけれど、なんとなく気になって聞いてみた。
「直真さん。この部屋に女の人、連れ込んだことあるんですか」
「ない」
即答だった。
「弟に付き合っている女を見られたくない」
でたよ、弟至上主義。
「じゃあ、なんでバーがあるんですか」
「ただの趣味だ」
「私のゲーム機みたいなものですね」
無言。
なかなか直真さんから言葉が返ってこなかった。
「いや、ちがうだろ!?」
起き上がり、直真さんは強く否定した。
「もしかして、バーがあるから、女を連れ込んで口説いていたとでも思っていたのか?玄関先で!?」
「普通思いますよ」
「連れ込んでいない。だいたい、遊ぶ時は女の部屋でって、なんだその顔」
「いえ、目を逸らさない時は嘘ついている時だって教えてもらったので」
「いらないことだけ、覚えるな。お前は」
「任せて下さい。ボスの攻撃パターンを覚えるの得意なんです」
ドヤ顔で言うと、直真さんは額に手をあてた。
「そうだな。なにか作ってやろうか?」
シャツを腕まくりして、立ち上がった。
「なにがいい?」
「じゃあ、コーラで」
「お前、コーラ大好きすぎるだろ!」
そう言いながら、冷蔵庫からコーラとレモンを出してきた。
手慣れた様子で氷をいれて、お酒をいれ、コーラをそそぎ、スライスしたレモンを沈めた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
なんとなく、かしこまった気分で頂いた。
「おいしいです、甘くて。レモンがいいですね」
「お前はテレビのグルメコメンテーターか」
直真さんは笑っていたけど、褒められて嬉しそうだった。
「明日の休みはどこか行きたいとこあるか?」
「実家近くの中華料理屋に行きたいです」
「なんだそれ?」
「ラーメンと餃子が食べたい……」
「お前、本当に金持ち生活ができないな」
うるさいわっ。
庶民生活最高だよ!
けれど、コーラのカクテルはシュワシュワしていて甘くて、こういうのも悪くない―――
「カクテルの味見します?」
ぐいっとネクタイを掴んで、口づけた。
「お前、俺を襲うとか、とんでもない女だな」
「いいじゃないですか。たまには」
「言っておくが、こういうことを許しているのはお前だけだからな」
「知っています」
直真さんの顔を両手で包みこんだ。
そう、私は知っている―――きっと今までの女の人で直真さんを困らせることができるのも振り回すことができるのも。
私だけだってこと。
悪い顔をして笑うと、カクテルが空になるまで、コーラ味のキスを存分に味わったのだった。
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