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番外編

ネトゲ女子だって奥様するんです

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直真なおさださんは出張かー!」
へへっ。
私は待ってたよ!この日を!
ルンルンしながら、コンビニに寄ってポテチ、コーラ、ハーゲンダッツを買った。
鬼が居ぬ間にとはこのことよ!
「宴だ!宴!」
帰宅して、パソコンを立ち上げ、宅配ピザを注文した。
「フライドチキンも頼もう。贅沢最高!」
高級マンションに住んでいて、なにを言うって思うかもだけど。
やっぱり、この堕落しきった生活を象徴するのは高級料理じゃないの。
このピザ、ポテチ、コーラ、ハーゲンダッツ!四天王達よ。
シャワーを浴びて、部屋着に着替えると、人間をだめにするクッションを置いたら、コントローラーを握った。
「ここが天国か」
ピザを食べながら、操作をしていると、スマホが点滅していた。
なんだよー。いいとこで!
「もしもしー?」
『おい』
「あ、直真さん?どうしました?」
声が上ずらないように気を付けた。
有里ゆり。俺がいないからって、不健康な生活はやめろよ。ゲームは二時間にしろ。肌荒れるぞ』
ぐっ!きたよ。正論攻撃。
けど、そんなことでこの私が動じるとでも?
数々の難敵を葬ってきたこのゲーマーたる血がこの大ボスに立ち向かえと言っている。
「わかってますよ!」
『わかってない』
「なっ!」
なぜ、わかる!?きょろきょろと部屋を見回した。
『ピザ食って、ゲームしてるだろ』
「監視カメラ!?」
直真さんならやりかねない。
っていうか、やってそう。
『必要ない。俺が出張行くって言った後、ゲームしながら、宅配ピザのサイトをにやにやしながら、見ていたからな』
なんだよ、探偵かよ。
「もー。いいじゃないですか。浮気するわけじゃなし」
「なに開き直ってんだ!」
バンッと玄関のドアが開いた。
「嘘つきー!」
「出張が中止になっただけだ。出張行く前に面倒事が起きたせいでな!」
冷ややかな目でこっちを見ていた。
整っている顔のせいで、怒った時の顔は迫力あって、怖いんだよね。
「お前、俺がいなくても平気そうだな」
お、怒ってるし。
「機嫌直してくださいよー。ほら、ピザ食べましょうよ」
「まったく。お前はのんきでいいな」
「なにかあったんですか?」
はい、とコーラをコップに注いであげた。
コーラかよ、という顔をしていたが、そこは無視した。
コーラ早く飲まないと炭酸抜けるんだもん。
「沖重グループの社長を任せた従弟がしばらく休みたいと言ってきた」
「いじめがあったんですか?」
「あるわけないだろ!!女がらみだ」
「えー!なになに?面白いじゃないですか」
「面白くねぇ!宮ノ入みやのいりの常務を知ってるだろ?」
「ああ、あの強烈な奥様がいる……」
向こうは私のこと苦手っぽいけど。
「息子の結婚を反対していたのは知っていたが、宮ノ入の力を使って相手の女に嫌がらせして追い詰めやがった」
「ドラマみたーい」
「なにがドラマみたーい、だ!こっちの苦労を考えろ!行方をくらませるつもりだったんだろうが、運転手に行先を吐かせて、迎えに行ってきた」
「私も行きたかった。それって駆け落ちじゃないですか!」
ロマンチック。
思わず、両手を胸の前で合わせてしまう。
「なあ、有里。俺が誰かに理不尽に怒られていたら、どうする?」
まじまじと直真さんを見た。
ふむ。怒られるところか。
「たまに怒られた方がいいんじゃないですか?」
直真さんはひきつった笑いを浮かべていた。
「お前、俺の事、本当に好きなのか!?」
「何言ってるんですか、怒られて弱った所を慰めてあげますよ?むしろ、泣く姿なんか、ご褒美ですね」
「絶対にお前にはそんなところ、見せるか!なにが、ご褒美だ!」
「えー、見せて下さいよ」
なんでだよ。
弱った直真さんはけっこう萌えるのに。
わかってないなー。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


常務の息子駆け落ち事件(勝手に命名)から、初めての週末のことだった。
「常務が来る」
険しい顔で直真さんが言い、スマホを置いた。
「な、な、なんだってー!」
慌ててゲーム機器類とパソコンを片付けた。
「……最初にやることそれかよ」
「当たり前でしょ!?直真さんのイメージにそぐわない!」
「見つかったら、お前のだって言うから大丈夫だ」
「素敵な奥様のイメージ台無しじゃないですか」
「安心しろ、誰もそんなこと思ってないからな」
言われなくても、わかってるよっ!
服を着替えて、メイクをした。
無駄だとわかっていても素敵な奥様を装うしかないこの悲しさよ。
朝早くからに常務夫妻が来た。
「おはようございます」
直真さんが社長秘書の仮面をかぶり、夫妻を迎え入れた。
まったく、どうやったら、あんな180度違う態度に切り替えられるのか。
社長秘書やめて、俳優にでもなればいいのにって思うわ。
顔もいいし。
「直真さん、今日、どうして来たのかわかるかしら?」
常務の奥様、聖子せいこさんが上から目線で直真さんに言った。
直真さんのこと、見下しているんだよね。この人。
瑞生たまきさんから昨日、海外支店へ異動しろと言われたのだが。どういうことかね」
二人は勧めてもいないのにソファーに座った。
「それはご自身が一番、ご理解されているのではないでしょうか。宮ノ入の名前を出して不動産屋や契約先に圧力をかけたそうじゃないですか」
「息子の危機だったからな。しかたない」
「宮ノ入グループがそんな汚い真似をする会社と思われるのは心外なんですよ。しかも、常務の息子の結婚相手を痛めつけるためにやることではない」
「まあ!私の息子が変な女に引っかかってもいいってことかしら!?」
「公私の区別はつけていただきたい、ということです」
直真さんは表情を変えてないけど、腹の中では『面倒な奴らだな』と思っているのは間違いない。
私も何か力になってあげたいけど。
無力だからなー。
「はい!お茶、どうぞー」
どんっと、コップになみなみと入った氷入りのコーラを置いた。
三人は沈黙した。
お茶じゃねえ!と直真さんが目で訴えかけていた。
「素敵な奥様をお持ちね。直真さん」
「ええ。まあ」
「酒屋の娘さんだとか」
直真さんの目が一瞬、険しくなったけれど、私はにっこりほほ笑み返した。
私は売られたケンカは買うわよ!
昔の血が騒ぐわ。
「その酒屋の親に育てられましたけど、親に今、感謝しましたね」
「酒屋なのに?」
くすっと聖子さんが笑う。
「そうですよー。こんなふうに監視されるなんてまっぴらごめんですよ。よかったー。うち、貧乏で」
「監視!?」
「えっ?違うんですか?付き合ってる相手まで調べられたあげくにその相手の働き口に圧力かけるとか、どんだけ汚いんですか。私のような庶民からしたら、ドン引きですよ」
「ドン引き……!?」
聖子さんは顔をひきつらせていた。
「いい年した、息子の結婚なんて好きにさせてあげればいいじゃないですか」
「何も知らないあなたが何を言っているの!?」
「知らないですけど。あ、コーラにレモンいれると美味しいんですよ。どうぞ」
輪切りのレモンを鼻っ面に押し付けると、私の気迫に負けて聖子さんは黙った。
口にレモンをいれられなかっただけ、ありがたいと思ってよ?
直真さんを見ると、額に手をあてていた。
「とにかく!海外支店の件を白紙に戻してほしいのだが」
「瑞生様と話し合い決定したことです。なんの処罰もなく、本社に置いておくわけにはいきません」
「直真君。正直、君が私の処遇を決めるのは不満だ。どうせ、直真君が今回のことを瑞生さんに進言したのだろう?」
「そうよ。瑞生さんがおっしゃられたことなら、よろしいけれど。直真さんが決めるなんてねえ?」
なんか、もー。めんどくさいなー。
スマホを手にして言った。
「もー、おじいちゃんに電話します?会長なら、息子と孫の仲裁をしてくれますよ」
「「やめろ!!!」」
常務も直真さんも同時に止めた。
「有里。お前、ジジイに連絡してるのか!?」
「たまに。気が向いたら、写メ送ってますよ」
ほら、と会長から送られてきた鯉の画像を見せた。
「この鯉が今、一番お気に入りだそうですよ」
三人は静かに鯉の画像を眺めていた。
「海外支店に行くか、今、ここで会長に電話されるか。選んでください」
「直真君!君の嫁はなんなんだ!私を脅す気か!」
「どうしますか?」
ずいっとスマホを前に出した。
「……海外支店に行かせて頂きます」
これ、印籠いんろうかなにか?
あまりの効果の絶大さに鯉の画像を何度も見直してしまった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「俺は今日ほど、お前を怖いと思ったことはない」
真剣な顔で言われた。
「えー!?」
「ジジイの番号を消せ!今すぐに!」
「嫌ですよ。直真さんが浮気した時のためにとっておきます」
「しないから消せ!」
「どうだか」
じろーと横目で見た。
この顔である。
何人言い寄っていることやら。
がしがしと頭をかきながら、直真さんは諦めたのか、テーブルにパソコンを出し、仕事をするようだった。
「仕事ですか?」
「お前のプレイしているゲームにハッキングしてゲームキャラを消してやる」
「やめてください!!!どこまで悪どいんですか!離婚案件ですよ!!!」
「ふざけんな!離婚案件まで行くのかよ!?じゃあ、素直に消せ」
くっ!この悪魔め!
私の分身ともいえるキャラを消そうなんて、よくもまあ、そこまで外道なことを考えられるものよ!
「どうして、そこまで会長の事嫌うんですか」
「出会ったなり、金目当てかと言われ、汚い野良犬、チンピラ風情がと罵られて宮ノ入を名乗らない限りは孫と認めんと言われたあげく、会うたびに自分の護衛を差し向けられて暴力を振るわれたら、嫌わない方が不思議だが」
「なかなか激しいおじいちゃんですね」
「まだあるが、言っていたら、キリがない。わかっただろ」
「わかりました」
電話番号を消したのを確認すると、直真さんはほっとしていた。
まあ、スマホはもう一台持っているんですけどね。ゲーム用と仕事用。
気づかれないうちにどうにかしなくては!
「直真さん」
「なんだ?」
「その、最近忙しいじゃないですか。たまにはどこか、一緒に遊びに行きたいなって」
「珍しいな。誘ってもゲームしているくせに」
悪い気はしないらしく、にこりと笑った。
笑うと可愛いんだよねー。よかった。
「たまに私も寂しいって思うこともあるんですよ?」
「へぇ」
直真さんは綺麗な顔を近づけて口づけた。
本当に顔だけはいいんだから。
目を細め、何度か唇を味わうと、直真さんは言った。
「もう一台のもちゃんと消しておけよ」
ちゃんと覚えていたのだった――――



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