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半年後、私と夏向は再び倉永の家に訪れた。
すでに季節は冬になり、庭はうっすらと白く雪に覆われていた。
以前、案内された座敷には昔懐かしい灯油のストーブが置かれ、おばあさんは着物の上に毛糸で編まれたショールを羽織っていた。
おばあさん、叔父さん夫婦がすでに待ち構えていた。
「約束の半年だよ」
ゆっくりと私達を吟味するようにおばあさんは顔を見比べて言った。
「どちらからでもかまわないよ」
「それではお義母様、私の方から」
叔父さんは頷いた。
「私達はお義母様のお着物を仕立てさせて頂きました。手描き友禅のもので作家のお品です。訪問着にお使いください」
出された着物は黄色の生地に扇の絵が描いてある正絹の立派なものだった。
けれど、それを見たおばあさんは苦笑した。
「ちょっと派手だね。それに訪問着ならこれより立派な物を何着も持っているからねぇ。そんなにでかける機会も減ってしまったし」
ふう、とおばあさんはため息を吐いた。
「そんなこと言わないで母さん、着たらいい。着物が好きだろう?」
「嫌いじゃないけれど、押しつけがましいのは嫌いだね」
気分を害したのか、叔父さんを睨みつけていた。
「それで、そっちは何を持ってきたんだい」
「はっ、はい!炊飯器です!」
「炊飯器?」
叔父さんはぷっと吹き出した。
「ご飯でも炊くのか?まあ、母さんはご飯派だけどな」
段ボールをあけて、漆っぽく仕上げた黒の外装と木目の蓋の炊飯器を出した。
「この炊飯器は私が入社した時からとっていたデータと夏向のプログラムで動くようになっています。今、あるお米の全品種に対応した炊飯器でジャストの炊き上がりに設定されています」
「まあ……二人が」
おばあさんは驚いていた。
なんの仕事をしているかも知らなかったのかもしれない。
食いついてくれたことが嬉しくて、つい私は熱く炊飯器を語ってしまった。
「米の固さも選べます。年配の方にも好まれるような柔らかさを三コース、お粥ももっちりとあっさりの二コースの選択ができます。水の調整は炊飯器が自動でしてくれ、不要だと思われる水はこの水受けに排出されるようになってます」
「そうねぇ、固いご飯を食べるのは最近、辛くてね」
「これは大奥様、便利ですね」
厳しい顔をしていたお手伝いさんも表情を和らげ、炊飯器を興味深そうに眺めてくれた。
「ぜひ!使ってみてください。お粥も水っぽいのがお好きならあっさりでどっしりとしたお粥がお好きなら、もっちりのコースを試されて頂くといいかと」
「朝はお粥なのよ。嬉しいわ」
おばあさんは喜んでくれたみたいだった。
感無量。
「……テレビショッピングかな」
「ちょっと黙ってて」
笑顔で夏向の口に手をあてた。
まったく、余計なことしか言わないんだから。
「そう……ちゃんと仕事しているのね」
おばあさんは嬉しそうに言った。
「夏向はすごいんですよ!時任グループで副社長だし、今、人工知能を使ったマンションの建設も進めていて、次世代型住居にも携わってるんです。たまたま、私と夏向が一緒に炊飯器を開発していたので炊飯器を持ってきましたけど、夏向のやってることのほうが大きい仕事なんです」
「あら、そんなことないわ。こうして普段使えるものが嬉しいわ。ありがとう」
炊飯器好きに悪い人はいない―――おばあさん、いい人だなぁ。
「それはいいから、土地」
「夏向」
再び、手で夏向の口を塞いだ。
もがもが言っているけど、手を外す気はない。
せっかくのいい流れがっ!
「か、母さん、まさか倉永の家を孫に継がせる気じゃ」
「私は最初からそのつもりでしたよ」
「お義母様!!!」
「財産を食いつぶす息子夫婦より、遠くにいる孫夫婦のほうが可愛く感じるのは当たり前でしょう?」
「そ、そんな」
「ねえ、桜帆さん。迷惑でなければ、この倉永の家を守っていただきたいの。お願いできないかしら」
「わっ…私!?」
「どうして桜帆?」
「どう考えても桜帆さんのほうがしっかりしているからねぇ…」
遠い目でおばあさんは言った。
「私が元気な間は構わないけど、ここが荒れるのはしのびないの。どうか、この通り」
す、とおばあさんは頭を下げた。
「やっ…やめてください。そんな!夏向からもなにか言ってよ!」
「桜帆がいいなら、俺もいいけど」
どうなのよ、それは。
「私はその……家を守るとか、よくわかりませんけど。荒れないようになら、な、なんとか」
「そう、それでいいわ」
にこりとおばあさんは笑った。
「母さん!」
「お義母様!」
「まだいたのかい?そうそう貸した金は倉永の家の弁護士がちゃんと付けてくれてあるからね。きっちり返すんだよ」
叔父さん達は呆然として、口をあんぐりあけていた。
「炊飯器のお礼に土地はタダであげよう。結婚祝いもまだだったしね」
おばあさんはそう言って、私にカモメの家の土地をプレゼントしてくれたのだった。
すでに季節は冬になり、庭はうっすらと白く雪に覆われていた。
以前、案内された座敷には昔懐かしい灯油のストーブが置かれ、おばあさんは着物の上に毛糸で編まれたショールを羽織っていた。
おばあさん、叔父さん夫婦がすでに待ち構えていた。
「約束の半年だよ」
ゆっくりと私達を吟味するようにおばあさんは顔を見比べて言った。
「どちらからでもかまわないよ」
「それではお義母様、私の方から」
叔父さんは頷いた。
「私達はお義母様のお着物を仕立てさせて頂きました。手描き友禅のもので作家のお品です。訪問着にお使いください」
出された着物は黄色の生地に扇の絵が描いてある正絹の立派なものだった。
けれど、それを見たおばあさんは苦笑した。
「ちょっと派手だね。それに訪問着ならこれより立派な物を何着も持っているからねぇ。そんなにでかける機会も減ってしまったし」
ふう、とおばあさんはため息を吐いた。
「そんなこと言わないで母さん、着たらいい。着物が好きだろう?」
「嫌いじゃないけれど、押しつけがましいのは嫌いだね」
気分を害したのか、叔父さんを睨みつけていた。
「それで、そっちは何を持ってきたんだい」
「はっ、はい!炊飯器です!」
「炊飯器?」
叔父さんはぷっと吹き出した。
「ご飯でも炊くのか?まあ、母さんはご飯派だけどな」
段ボールをあけて、漆っぽく仕上げた黒の外装と木目の蓋の炊飯器を出した。
「この炊飯器は私が入社した時からとっていたデータと夏向のプログラムで動くようになっています。今、あるお米の全品種に対応した炊飯器でジャストの炊き上がりに設定されています」
「まあ……二人が」
おばあさんは驚いていた。
なんの仕事をしているかも知らなかったのかもしれない。
食いついてくれたことが嬉しくて、つい私は熱く炊飯器を語ってしまった。
「米の固さも選べます。年配の方にも好まれるような柔らかさを三コース、お粥ももっちりとあっさりの二コースの選択ができます。水の調整は炊飯器が自動でしてくれ、不要だと思われる水はこの水受けに排出されるようになってます」
「そうねぇ、固いご飯を食べるのは最近、辛くてね」
「これは大奥様、便利ですね」
厳しい顔をしていたお手伝いさんも表情を和らげ、炊飯器を興味深そうに眺めてくれた。
「ぜひ!使ってみてください。お粥も水っぽいのがお好きならあっさりでどっしりとしたお粥がお好きなら、もっちりのコースを試されて頂くといいかと」
「朝はお粥なのよ。嬉しいわ」
おばあさんは喜んでくれたみたいだった。
感無量。
「……テレビショッピングかな」
「ちょっと黙ってて」
笑顔で夏向の口に手をあてた。
まったく、余計なことしか言わないんだから。
「そう……ちゃんと仕事しているのね」
おばあさんは嬉しそうに言った。
「夏向はすごいんですよ!時任グループで副社長だし、今、人工知能を使ったマンションの建設も進めていて、次世代型住居にも携わってるんです。たまたま、私と夏向が一緒に炊飯器を開発していたので炊飯器を持ってきましたけど、夏向のやってることのほうが大きい仕事なんです」
「あら、そんなことないわ。こうして普段使えるものが嬉しいわ。ありがとう」
炊飯器好きに悪い人はいない―――おばあさん、いい人だなぁ。
「それはいいから、土地」
「夏向」
再び、手で夏向の口を塞いだ。
もがもが言っているけど、手を外す気はない。
せっかくのいい流れがっ!
「か、母さん、まさか倉永の家を孫に継がせる気じゃ」
「私は最初からそのつもりでしたよ」
「お義母様!!!」
「財産を食いつぶす息子夫婦より、遠くにいる孫夫婦のほうが可愛く感じるのは当たり前でしょう?」
「そ、そんな」
「ねえ、桜帆さん。迷惑でなければ、この倉永の家を守っていただきたいの。お願いできないかしら」
「わっ…私!?」
「どうして桜帆?」
「どう考えても桜帆さんのほうがしっかりしているからねぇ…」
遠い目でおばあさんは言った。
「私が元気な間は構わないけど、ここが荒れるのはしのびないの。どうか、この通り」
す、とおばあさんは頭を下げた。
「やっ…やめてください。そんな!夏向からもなにか言ってよ!」
「桜帆がいいなら、俺もいいけど」
どうなのよ、それは。
「私はその……家を守るとか、よくわかりませんけど。荒れないようになら、な、なんとか」
「そう、それでいいわ」
にこりとおばあさんは笑った。
「母さん!」
「お義母様!」
「まだいたのかい?そうそう貸した金は倉永の家の弁護士がちゃんと付けてくれてあるからね。きっちり返すんだよ」
叔父さん達は呆然として、口をあんぐりあけていた。
「炊飯器のお礼に土地はタダであげよう。結婚祝いもまだだったしね」
おばあさんはそう言って、私にカモメの家の土地をプレゼントしてくれたのだった。
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