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39 喜ぶもの?

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倉永のおばあさんはなかなか愉快な人だった。
それが私の感想なんだけど、夏向は違っていたみたいで、リビングでイモムシ状態になり、夏用のタオルケットにくるまって『めんどくさい』とか『家を継ぎたくない』とか言いながらコロコロと転がっていた。
「もうっ!夏向!そんなこと言ってないで、ポジティブにおばあさんが喜ぶものを考えるわよ!」
ほら、と焼き菓子の店で買ったブラウニーとマドレーヌを紅茶と一緒にローテーブルに置いた。
「そんなの簡単だよ」
「なに?」
「ひ孫」
はあ、とため息をついた。
言うと思った。
私がわかるくらいだから、倉永のおばあさんもわかるはず。
「夏向。おばあさんはそういう短絡的なことを望むようなタイプじゃないわよ」
「そうかなー」
「そうよ!」
半年後に『ひ孫でしょ?』みたいな態度で行ったら、おばあさんの軽蔑しきった顔が目に浮かぶ。
もぐもぐと夏向はブラウニーを食べ、紅茶に砂糖を五杯も入れた。
私は砂糖はいれない。太るから。
「桜帆はなんだと思う?」
「わからないけど、先生達が喜ぶ時って、成長した子供が元気でやってる時なのよ。だから、夏向がおばあさんにちゃんとやってますよってなにか見せるのはどう?」
「目の前でハッキング?」
「それはやっちゃだめ」
「わかった」
夏向のちゃんとやってますって、それ!?
どういう基準なのよ。
だいたい得意技の披露大会じゃないんだから。
おやつを食べ終わってもいい案はうかばなかった。
「困ったわね」
「なんなら、もっと手っ取り早い方法を考えようか?」
「待って!もう少し考えるから!」
面倒になった夏向が物騒なことを言い出し始め、焦って止めた。
下手にGOサインを出すとなにをしでかすか、わからない。
とりあえず、夕飯のお米を研ごうとたちあがり、炊飯器からお釜を取り出した。
「うん?」
「どうかした?桜帆」
「夏向!これよ!私と夏向が開発した炊飯器が完成したら、それをプレゼントするのよ」
「いいと思うけど」
「けど?」
「ひ孫の方がよかったなーーーって冗談だよ」
私の冷ややかな視線に気づいた夏向は慌てて、否定したけれど、冗談を言っているようには聞こえなかった。
「がんばろうね!夏向!」
「炊飯器になると、やる気だすね」
「なによ、悪い?」
「別にいいけど」
ちょっと不満そうな夏向はこの際無視よ!
完成に向けて頑張るわよ!
カモメの家のためにも!
気合いを入れてぐっと拳をにぎりしめたのだった。


◇    ◇     ◇    ◇    ◇


「木目調がいい」
夏向は出来上がってきたサンプルを見て言った。
「デザインはともかく、夏向のほうはプログラミング終わったの?」
「いやあ、倉永くらなが君は流石だね!」
社長が上機嫌で現れた。
「我が社の家電プログラムのチームも誉めていたよ。勉強になったと言ってたけど、時任ときとうに行かなくていいのかい?」
「これが終わらないと桜帆が構ってくれないから」
「ほー!そりゃ、大変だね」
社長の相づちに気を良くした夏向はボールペンをカチカチしながら言った。
「結婚式も落ち着かないうちはしないって言い出して」
「まじめだねぇ」
「楽しみにしてたのに」
「倉永君。夫婦円満の秘訣ひけつはなんだと思う?」
「なんですか?」
真面目な顔で夏向は社長に聞いた。
「嫁さんをたてることだよ」
「なるほど」
なにをあの二人は真剣に話しているんだろう。
社長と夏向は気が合うのか、意外と仲がいいのよね。
「デザインは決まったし、後は試作品ができたら、製品テストね」
炊飯器の完成が目前にまで迫っていたーーー
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